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6年生 1学期 4月

墓守

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「あの人は、話を聞かないからなぁ」

 美土里みどりは、顔をクシャクシャにして、困り顔だ。

「いやいや、それは美土里みどりさんもだよー!」

 あー、確かに。
 美土里ミドリは、興味が無い話は全く聞かない。

「まあ、なったら、里久雄りくお梃子てこでも動かないよ。困ったもんだね」

 やれやれといった感じで、帰里江きりえさんも腕を組んで、ため息をついている。
 長老からの通達を帰里江きりえさんから聞いた里久雄りくおさんは怒り狂い、自分のレプリカ・ガジェットを片手に飛び出したらしい。
 ……で、三日三晩、墓の前に座り込んでいるようだ。

里久雄りくおさんっていうのは〝戦士候補〟だった人だろー? 長老の命令を聞かないってどういう事なんだ?」

「昔からなのよ。里久雄りくおは〝蘇毬そまり〟の祖となった戦士の事となると、周りが見えなくなって……アイツ、墓の守護者にでもなった気でいるんだよね」

 再三に渡る帰里江きりえさんの説得にも、聞く耳を持たないらしい。
 なるほど。気持ちは分からなくもないが、面倒だなー。

「私も、小さい頃はよく〝蘇毬そまりの戦士〟の伝説を聞かされたよ。あの人、本当に嬉しそうに話すんだ」

 美土里みどりは、どことなく懐かしそうな顔で語る。
 その戦士の墓を掘り起こそうなんて言ったら、そりゃまあ、怒るよな。

「やー! とにかく、お墓に行ってみようよー!」

「そうだな。ガジェット姿のまま、放って置くのも問題だぜー」





 >>>





 蘇毬そまりの菩提寺は、上り坂を歩いて5分と、想像より近い場所にあった。
 ……まあ問題は、その先だったんだけどな?

「戦士の墓は、この上です」

 どうしてこう、寺社仏閣っていうのは〝長い階段〟が好きなんだろうな。ひぃふぅ。 

「師匠!」

「大ちゃん!」

「いや、おんぶも抱っこも要らないからなー?」

 俺の前でしゃがむ美土里みどりと、俺の後ろで両手を差し出すユーリ。

「さ、さすがです師匠!」

「やー、まだ何も言ってないのに」

 俺は大丈夫だから。
 まったく……ウォルナミス人は、どうして俺を甘やかそうとするんだ?
 確かに、この石段は俺が今まで登った中でもトップクラスの長さだが、所詮は一般人向け。さすがに、この程度で、しかも女の子に助けて貰ったりしたら男がすたるってヤツだ。

「ひぃふぅ。や、やっと着いたのかー?」

 な? 諦めず、地道に頑張れば、いつかはゴールに……

「次は、あの階段よ」

「ひぃ……?!」

 帰里江きりえさんが指差した先には、更に上へと続く階段が……!

「師匠、もしかしてギブアップ……」

「やー! 大ちゃん……」

「いやいやいや! 大丈夫だ! 近寄るな!」

 くッ! こ、こうなったら、意地でも自力で登りきってやるからな! ひぃふぅ……





 >>>





 墓が並んでいる。
 その中でも、ひときわ立派な墓の前に、里久雄りくおさんらしき影が、胡座あぐらをかいて座っていた。 

「なんで、誰も警察を呼ばないんだー?」 

「まあ地元では、見慣れている人が多いからね」

 帰里江きりえさんが、ニッコリ微笑んで答える。
 って、おいー! ほども、あんな格好してちゃ駄目だろ! 完全に埴輪だぜ?!

「アレはアレで、何だかホッとするんだけど……」

 美土里みどりが、ボソリとつぶやく。
 大波神社の〝レプリカ・ガジェット〟は、俺がスペシャルな改造を施して、全部、スタイリッシュなフォルムに生まれ変わったからな。
 おっと。埴輪……じゃなかった。里久雄りくおさんが、こちらに気付いたようだ。ゆっくりと立ち上がって、野太い声で叫ぶ。

「お前が戦士ユーリか?」

 ガジェットのせいで、表情や視線は分からないが、たぶんユーリを睨み付けているんだろう。
 普通の人間である俺でさえ、里久雄りくおさんからユーリに向けて、ピリピリとした怒気が放たれているのが分かる。

「墓参りに来たというのなら歓迎するが……偉大なる〝蘇毬そまりの戦士〟の墓を暴こうなどという不届き者は、このワシが成敗してくれる!」

 里久雄りくおさんは、腕を組んだまま、大声で怒鳴り付けて来る。
 おいおい、取り付く島も無いって感じだなー!

「長老命令だぞ? 分かっているのか?」

「フン。何だ、美土里みどりか。久し振り過ぎて、誰だか分からなんだぞ」 

「アンタは相変わらずみたいだな」

 そう言い合ってから、里久雄りくおさんと美土里みどりは、同時に鼻を鳴らす。

「聞いたとは思うが、惑星ウォルナミスを救うには、そこに眠っているガジェットが必要だ。。ゴチャゴチャ言ってないで、そこを退け」 

 ちょ! 美土里みどり! いくら何でも言い方って物が…… 

「ガハハ! あいも変わらず生意気な! そういえばお前は、ガキの頃にも〝ガジェットを修理させろ〟とか言いおって、墓を堀り返そうとした事があったな!」 

「あー! やっぱり美土里みどりさん、ガジェットを掘り出そうとしてたんじゃんか!」

 予想通りだぜ。美土里みどりが〝お宝〟を放って置く訳無いもんなー。 

「そんな昔の事はどうでもいいんだ。私は暇じゃない。早くそこを退け! ……いやむしろ、墓を掘り起こすのを手伝え!」

 どうでもいい事では無いし、言い方って物があるだろー? 

「……あん時ゃ、ガキのやる事だと拳骨ゲンコツで済ませてやったが、今回はそうはいかんぞ」

 里久雄りくおさんは、太い腕を、右、左と、交互に振り回して、握り込んだ拳を打ち鳴らす。 

「やー! 里久雄りくおさん、お願い! 惑星ウォルナミスの人たちを助けるためには、ガジェットが必要なんだよー!」

 ユーリも、必死に頭を下げる。
 けど、里久雄りくおさんの怒気は、増す一方みたいだぜー。

「どんな理由があろうと、偉大なる戦士の墓をけがす事は、このワシが許さん! ……どうしてもと言うなら、このワシを殺して奪っていくがいい!」 

 そこまで〝戦士の墓〟が大事なのか。
 ……ある意味、この人も美土里みどりと同じ血筋なんだな。こだわりが強すぎだ。
 仕方がない。無駄だとは思うけど、俺も説得を試みるか。

「気持ちは分からないではない。けど、同じウォルナミス人を救うためなんだ。協力してもらえないかなー?」

「ん? お前は何なのだ、小僧」

 あー、自己紹介がまだだったか。

「俺は九条大作くじょうだいさく。大ちゃんって呼んでくれよなー?」

「ふむ。聞いた事がある名だ……ん? そうか、お前がガジェットを修復出来るという子どもか。ハン! 眉唾まゆつばだな」

 ウォルナミス人って、俺の事、絶対に信じないよな。
 まあ、ガジェットの修理って難易度高いから、仕方ないんだが。

「その下に埋まっているガジェットを渡せば、目の前で師匠の修理かみわざが見られるぞ?」

 美土里みどりがニヤニヤしながら里久雄りくおさんを説得……いやコレ、なんかもう〝挑発〟だな。良い方には全然響いてなさそうだ。

「くどいぞ美土里みどり。帰れ。死にたくなければな。それとも、ワシと勝負するのか?」

 里久雄りくおさんは〝戦士候補〟だったらしいけど、それはつまり、戦士に成れなかったという事だよな? まさか、ユーリの強さを知らないとか?

「長老から聞いていないのか? 里久雄りくおさん、アンタじゃユーリには勝てない……」

「黙れい! …………ガジェットの継承者を選ぶための戦い。あの時、ワシが戦った戦士たちは、皆、強かった」

 里久雄りくおさんは、ユーリに向けて指を差し、怒りに任せた声で続ける。

「その子娘こむすめが戦士だと? 片腹痛かたはらいたい! 何なら、今からでもワシが代わりに、この星を守ってやろうか?」 

 おっと、それはダメだ。言っちゃいけないヤツだぜ?
 決めた。俺が強制的に武装解除してやろう。

「変身……」

 ベルトのバックルに手を伸ばそうとしたその時、美土里みどりが俺の腕をそっと掴んでめた。
 美土里みどりは、少し呆れた顔で里久雄りくおを見て、首を横に振る。

里久雄りくおさん。アンタは確かに強い。が、それは〝私たちが理解できる次元〟での話だ」

 美土里みどりは、ユーリの肩をポンと叩いてから続ける。

「だがな。この戦士ユーリの強さは、私にも理解不能。はっきり言おう。この子は恐らく〝史上最強〟だ」

 それを聞いた里久雄りくおさんが、ガクガクと怒りに震える。
 そう、それはきっと……〝史上最強〟という言葉に対する怒りだぜ。

「聞き捨てならん! 聞き捨てならんぞおぉおおッ! 史上最強だと?! その小娘が、偉大なる〝蘇毬そまりの戦士〟よりも強いというのかあぁああッ!」

 里久雄りくおさんの怒りで、周囲の空気が振動しているのが分かる。
 ダメだぜ美土里みどり。これじゃ余計に怒らせただけだ。
 ……まあ、俺もこの分からず屋には、かなり怒ってるけどな。
 よし、変身してサクッと倒すか。俺は再び、ベルトのバックルに手を伸ばして……

「お待ち下さい師匠。お気持ちは分かりますが、ここは戦士ユーリに……」

 またしても、美土里みどりが俺を静止する。
 ああ。なるほど、そうか。さっき俺の変身を止めたのも、そういう事だったんだな。
 確かに、俺が戦ってもダメだ。ここは里久雄りくおさんが納得するためにも、戦士であるユーリと戦ったほうがいい。
 いやいやスマン。俺とした事が、ついカッとなっちまったぜー。

「ふふふ。新ガジェットの戦闘を生で見るチャンス……!」

 って、そういう事かよー!

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