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6年生 1学期 4月

6年生!

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 新学期が始まり、僕たちは6年生になった。

「校長先生がわったんで、話が短くなったよね!」

「今年の1年生は、誰も倒れないかもな」

 なんていう会話が、チラホラと聞こえてくる。
 実は、去年までの入学式では〝校長先生の長いトーク〟のせいで貧血を起こし、、新入生が何人か倒れていたのだ。

「でも、ちょっとこわそうだよね、今度の校長先生……」

「そう? 僕は面白おもしろくて好きだけどなあ」

 だが、新しく赴任ふにんして来た校長先生は、今日の始業式で、簡潔かんけつで分かりやすく、クスリと笑わせてくれる〝ユーモア〟まで織り交ぜた、絶妙なトークを披露してくれた。
 明日の入学式は、平和に新入生を迎えることが出来そうだ。
 そして、実はもう一人、新しい先生がやって来た。しかも、僕たちのクラスの担任らしい。
 ……おっと。ちなみに〝救星戦隊〟のメンバーは、全員同じクラスになったのでご安心を。

『ふふ。栗栖くんが居るから大丈夫。だったわよね?』

『そっか。〝確率操作かくりつそうさ〟があるんだった』

 むしろ栗っちとクラスが別れるようなら、きらわれている可能性すら疑わねばなるまい。

『えへへー。僕は、誰も嫌ったりしないよ?』

 ニコニコと笑っている栗っち。
 しれっと〝精神感応せいしんかんのう〟で、僕の声を聞いていたようだ。

『アニキ。今の発言は看過かんかできないな。即刻、地べたにいつくばって、心を込めて5ヶ国語以上で和也さんに謝って。そして〝愚かな私をどうか1年生からやり直させてほしい〟と、新校長に懇願こんがんするがいいわ』

 妹の口調くちょうや話す内容が〝妙に大人びた〟のは、異世界に長期滞在したせいだろう。

『お前は僕を罵倒ばとうするための〝語彙力〟を鍛えに、異世界に行ってきたのか?』

『いやタツヤ。こんな風に、私を経由けいゆしての会話が可能になったのは、ルリが〝勇者のちから〟を手に入れたからだよ』

 なるほど、確かにそうだな。

『私に内緒で、こんな面白い会話をしてたなんて、ズルいぞアニキ! これからはビシビシ突っ込むからな!』

『……って、やっぱ罵倒ばとうするためじゃないか!』

 で、何の話だっけ。
 そうそう。担任の先生が変わったんだ。それと……

「おい、聞いたか? 転校生が来るらしいぞ!」

 さて皆さま、覚えておいでだろうか。
 彼は今井暁雄いまいあきお。クラスのムードメーカー的な存在で、情報も恐ろしく早い事情通だ。
 ただ、その情報のほとんどが〝興味本位の噂話ゴシップ〟で、信用するに値しない。
 ……で? その転校生は、 女子なのか男子なのか、どっちなんだ?

『アレだなタツヤ。キミは本当に』

 僕にさえぎられるのを防ぐために〝アレだな〟を先に言うのはやめてくれブルー。

『えへへ。男の子でも女の子でも、新しい友だちが来るのはうれしいよ?』

『いやいやいや! そこはやっぱり女子だろう栗っち! 滅多に無い〝転校生イベント〟だぞ?! テンションの上がり方が変わってくるじゃないか!』
 
『ふぅん? 達也さんは、女子が転校して来るとテンションが上がるのね?』

 ぎゃああああ! しまったあああっ! 彩歌あやかに聞かれてた?!

『な、なんの事でしょうか彩歌さん……? ぼ、僕は何も、事は……』

「ふっふっふ! しかもだ! 聞いて驚くな?」

 僕の声をさえぎるかのごとく、今井暁雄いまいあきおが大声で叫ぶ。
 あーもー! うるさいって!
 まだやってたのかよ。これだから〝小学生男子〟は……

「なんとその転校生、女子だってよ! しかもめっちゃ可愛いらしいぜ!」

 ふぉおおおおおお! キターーーーッ! イエスッ!

『達也さん。そのガッツポーズは何かしら?』

 どああああ?! やっちまったあああっ! 体が勝手に動いてたっ?!

『タツヤ、もしかしてキミは、ワザとやっているのか?』

『たっちゃんはいつも面白いよね!』

 いやいやいや! こんな恐ろしい状況を、自分からわざわざ作らないって!
 ひぃぃぃ! 彩歌がにらんでるっ! たっ、たすけっ……

「はーい、注目! 今日から皆さんのクラスの担任になりました〝能勢のせ〟と言います。この春から、この学校へ来ました。どうぞヨロシク!」

 いつの間にか、教卓の前には、若い男の先生が立っていた。
 ザワついていた教室は、一斉に静かになる。
 ……ふう、助かった。

『タツヤ〝若い男の先生だった〟のが、そんなに残念か。君は本当に……』

『九死に一生を得たのに、何て事を言い出すんだブルー?!』

『ふふ。〝九死に一生〟……? 死ぬはず無いわよ。不死身の達也さんが。ねぇ?』

 ひゃああぁぁぁっ?! 殺される! 何らかの方法で殺されるっ!
 ゆ、許して下さいっ! じょ、冗談ですからっ!

『クスクス。本当に達也さんはアレなんだから。ほら、お待ちかねの転校生よ?』

 彩歌が楽しそうに笑う。
 ふぅ。冗談なのか本気なのか、分からない所が恐いんだよなあ。
 あれ? ……よく考えたら、最後の〝男の先生が残念〟は僕が言ったんじゃないぞ?

「それじゃ先に、転校して来た、お友達を紹介しよう。さあ入って」

 能勢のせ先生に呼ばれて、ガラガラと扉が開く。
 登場したのは、今井暁雄いまいあきおの情報通りの美少女。
 お? アイツの情報、最近なかなか精度が高いじゃ……あ、あれ?

「自己紹介してもらおうか」

 先生にうながされ、転校生がペコリとお辞儀をした。
 僕の方を見て、ニッと笑ってから、自己紹介を始める。

「初めまして。河西千夏かわにしちなつと言います」

 先生によって、チョークで黒板に大きく書かれた名前も、やはり〝河西千夏かわにしちなつ〟だ。

『ちょっと待った! ななな……! なんで?!』

『そんな! どうして彼女が?!』

 彩歌も驚いている。
 間違いない。彼女はつい先日、ルーマニア〝シギショアラ〟で助けた〝河西千夏かわにしちなつ〟だ。
 これは一体、どういう事だ?

『えへへ。やっぱりたっちゃんも彩歌さんも、気付いてなかったんだね!』

 気付いていなかった?

『栗っち、それはどういう意味……』

「はいはい、静かにしてくれ。河西千夏かわにしちなつさんは、隣のクラスにいる。河西千佳子かわにしちかこさんの、双子ふたごのお姉さんだ。

 河西かわにし……千佳子ちかこ……?
 ああっ! そういえば、チョー似てる!

「事情があって今まで外国にいたが、今年から、みんなと一緒に勉強することになった。仲良くしてあげてほしい」 

 今まで、全く思い出せなかった。
 ……そうか。そういえば、河西千夏かわにしちなつは〝妹が居る〟って言っていたな。
 河西千佳子かわにしちかこの事だったのか!
 いやー! 世界って、広いようで狭いなあ。

『達也さん、河西千佳子かわにしちかこさんって?』

『ああ。ウチの近所に住んでいてね……』

 さて皆さま、またまた、覚えておいでだろうか。
 河西千佳子かわにしちかこは、自分の事を〝チカコ〟と呼ぶ〝一人称が名前〟で〝ポニーテール〟が印象的な女子。アサギグループの会長宅が火事の時、フード付きのジャンパーと長めのキュロットスカートに、履き古した大き過ぎるサンダルという出立いでたちで、野次馬に来ていた。
 ……詳しくは、第57話〝ランディング開始と言いたかった〟をご参照下さいッ!

『そんな偶然があるのね……!』

 まったくだ。やっぱり、海外だろうと魔界だろうと宇宙の果てだろうと、絶対に気を抜いちゃダメだな。すぐにしてしまう。
 ……しかし、さすが栗っち。気付いてたのか。

『えへへ。〝さすが〟だなんて照れちゃうよ!』

 そう、これこれ。僕はひと言も〝さすが〟なんて、口に出して無いぞ?
 栗っちは、この〝精神感応せいしんかんのう〟で、相手の考えている事はお見通しだ。
 もしかしたら、初見しょけんでいきなり、河西千夏かわにしちなつ河西千佳子かわにしちかこの姉だと見破っていたのかも知れない。

『ううん、さすがに気付いたのは、千夏さんを助け出した後だよ』

『いやいや栗っち。それでも充分スゴいから!』

 きっと大ちゃんも、気付いてたんだろうなあ。

『えへへ。たぶんね! ……それより、ビックリしたよ! たっちゃんと、るりちゃんと同じ〝双子設定〟だよ?』 

『そこなんだ。僕とるりが〝双子設定〟になったのは〝随行者ずいこうしゃの右手〟と〝随行者ずいこうしゃの左手〟のちからだけど〝としの離れた姉妹〟だった河西千夏かわにしちなつを、双子として転校させるなんて、出来ないだろ、普通』

 よく考えたら前回……僕が〝巻き戻る前〟の6年の時の担任は、5年の時と同じ、谷口先生だったぞ?

「よし、それじゃあ、今から出席をとります。先生、初めてだから、名前を呼び間違えたら教えてくれよー?」

 ……校長も代わる事は無かった。だって、入学式で5人も倒れて、大問題になったんだから。

『何かこう、大きなちからが働いてるっぽい気がする』

 新任の先生が俺たちのクラスの担任になって、校長まで代わるなんて、きっと何か裏があるんだろうな。

『そうね。いくら何でもタイミングが良すぎるわ』 

 もしかしたら、放課後に俺たちだけ、校長室に呼ばれたりしてな。

「おっと、忘れる所だった。校長先生から、伝言があります。内海! 九条! 栗栖! 藤島! 大波! 〝放課後、校長室へ来るように〟だそうだ。忘れないように行ってくれ!」 

 ……ほらね。
 これはまたしても、波乱の予感がするぞ。

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