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春休み

変わり果てた姿

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 俺の前に、黒いスーツの男が迫る。
 手に持っているのは、何かの道具か?
 ……どうせ、ろくなもんじゃないんだろうなー。
 ヤツはゆっくりゆっくり、いやらしい表情で近付いてくるぜ?

「くッ! 大ちゃん……! やめろ、この悪党め!」

 そう、俺は九条大作くじょうだいさく。大ちゃんって呼んでくれてるみたいで嬉しいぜー。
 いま俺は、絶体絶命の大ピンチだ。これはさすがにマズいだろ。

「さて。この子どもは、何回で死ぬかな?」

 〝何回〟と〝死ぬ〟という言葉、そして見たこともない〝道具〟から考えて、俺に何かしらの方法でダメージを与えて、見せしめにするパターンか? とにかく、アレが何なのか、どんな威力なのかは、一撃食らってみないと分からないなー。
 〝道具〟から、アンテナのような物が伸びて、俺の右首筋くびすじに当てられる。
 あー、食らわなくても、何なのかは分かったぜ。
 電気だろ?

「ぐあぁぁぁあああああああっ?!」

「やめろおおおおッ!!」

 いででで……! ほらな! やっぱ電気だ。コゲたようなニオイが立ちこめて、体がまだ痺れているし、何より首筋が焼けるように熱い。
 ……これはマズいな。ガチなヤツだ。今ので心臓が止まらなかったのがラッキーなぐらいだぜ?

「ほほう。死ななかったな? どうかな、この〝電撃マシーン〟の味は」
 
 黒服はニヤリと笑うと、後藤ごとうさんの方を向いて〝電撃マシーン〟のアンテナをくゆらせる。
 どうかなって……あえて言うなら、ダサい名前だな、それ。

「良かったな。もう一度、子どもを救うチャンスができたぞ。さあ、お前は何者だ? どこから来て、どういう組織に所属している?」

 効果的なやり方だぜ。
 たっちゃんたちは……まだだな。間に合わねー!
 これはもう、さすがに俺、死ぬかもしれないぜ。

「さあ、二回目、いってみようか」

 今度は、左の首にアンテナが当てられた……
 これ、回数っていうか、運だもんな。心臓が止まるかどうかは、電流の流れ具合だけだろー。

「ああ……大ちゃん! どうしたらいいんだ! 俺は、俺はッ!」

 まあそうだよな。〝秘密組織〟の一員が、そう簡単にペラペラしゃべるわけにいかないだろ。
 
「ぎゃあああああああぁぁぁぁ!」

 こ、こりゃキツイな! 痛いってもんじゃないぜ。

「ちくしょおおぉぉぉおおお!!」

 ガタガタと椅子を揺らして暴れる後藤さん。もちろん、その程度で身動きが取れるような拘束のされ方ではない。
 鉄が焼けたようなニオイが漂い、鈍い痺れは体のあちこちを痙攣させる。

「おほッ! まだ死なないか? 有能な人質だな!」

 黒服は、嬉しそうに、最高に気持ちの悪い笑顔でアンテナを振り回す。

「や……めろ……」

「あーん? 何だって?」

「やめてくれ……頼む……!」

 食いしばった口元から血を滲ませる後藤さん。仲間と俺と、どちらを取るかで、苦悶の表情を浮かべている。

「話す気になったか? それ以外に、コイツの助かる道はないぞ? ん?」

 嘘だなー。しゃべったら、まず俺が殺されて、次に〝自白剤〟だ。洗いざらい喋ることになる。
 ……つまりは、まあ万が一にも無いけど、薬が効き過ぎたり、合わなくて死んでしまった時のための保険みたいなもんだ。
 あとは、お遊びだろ? ……ひと手間、余分に苦しめるんだから趣味が悪いよなー。

「……喋る」

「何だって?」

「喋るから……その子を助けてやってくれ」

 ……本当にいい人だなー、後藤さん。
 さて、と。もうすぐ詰みだぜ。あとはもう、たっちゃんたちが俺の予想より早く来てくれる以外、助かる可能性は無いか。時間を稼ぐにも、二、三分が限界だろうしなー。

「俺は後藤千弘ごとうちひろ。〝特殊武装とくしゅぶそう戦隊せんたいマンデガン〟の一員だ」

「……よし、お前らの本部と、バックボーンについて話せ。コイツのためにも、嘘は言うんじゃないぞ」

 その二つを喋った時点で、俺は死ぬなー。
 ……黒焦げかもだぜ?

「俺たちの拠点は……〝喫茶ガブロ〟だ。そして……くッ!」

 後藤さんが言いよどむ。余程の秘密事項なのだろう。

「ふふん。言えないか? では……」

 鼻で笑ったあと、アンテナを俺の胸に当てる黒服。マズいぜ、この位置は即死だ。

「待て! 言うから待ってくれ! 香川県警かがわけんけいだ! 俺たちの所属は、香川県警特殊科分室とくしゅかぶんしつだ!」

 おいおいおい! マジかよ?!
 魔界の件もそうだけど、日本政府って、意外と色々やってるんだなー!

「なるほどな。工作員からの報告の中に、何やら隠蔽いんぺいされたような形跡があったのは、お前らの情報だったのか」

 さすがは悪の秘密組織〝ダーク・ソサイエティ〟だな。お約束通り、警察にも入り込んでるか。

「な……何だと? まさかお前ら、警察にスパイを?!」

「あーはっはっは! そうだ。我々はありとあらゆる場所に構成員を送り込んでいる」

 こういう所は、逆に見習わないとダメだぜ。ある程度驚いたフリをすれば、相手を無駄に怒らせないで済むからなー。
 ……まさか、本当に驚いてないよな、後藤さん?

「よし、大体の情報は頂いた。残りは特製の自白剤で、じっくり聞き出してやる」

 黒服はアンテナを俺の胸に当てた。
 ほらな、言ったとおりだ。

「なっ?! 待て! 約束が違うぞ!」

「そんな約束、俺が守ると思ったのか? とんだ平和ボケ野郎だな!」

 ……同感だ。でも、俺は好きだぜ、後藤さん。

「出力を最大に上げて、と。さあ、黒コゲになれ!」

「やめろおおおおおぉぉぉぉッ!」

 黒服は〝電撃マシーン〟を操作して出力調整をしたあと、スイッチに手を伸ばす。
 だめかー。
 悪ぃな、ユーリ……たっちゃん、栗っち、藤島さん。俺はここまでだぜ。

「待たせたわね!」

 黒服の手に、真紅の薔薇バラが突き刺さり、持っていた〝電撃マシーン〟が足元に転がる。

「くそっ! 誰だ?!」

 薔薇バラが刺さったままの手を押さえながら、辺りを見回す黒服。この声は……!

「あなたたちの悪事もここまでよ!」

 慈許音じもとね隆代たかよさんだ! 助かったぜー!

幼気いたいけなガキンチョに何て事するんじゃい! 許さんぞ!」

 土田端どたばた和久わくさんも一緒かー! やっぱりアンタも仲間だったんだなー!
 
「すまない二人とも! 助かったぜ!」

 後藤さんが、安堵あんどの表情を見せる。

「ええい! 出てこい戦闘員! 敵襲だ!」

 声を聞きつけて、四方の扉からドヤドヤと現れる黒服たち。すげぇ数だなー!
 隆代さんと和久さんは、変身せずに戦っている。おおー、分かってるな! やっぱヒーローは、ある程度、素手で戦闘員と戦っとかなきゃだよな!

「……大ちゃん、大丈夫かい?」

 不意に、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。この声は〝喫茶ガブロ〟のマスターだぜ。

「振り向かずに聞いてくれ。返事もいらない。私は〝半透明マント〟で姿を隠しているが、千弘くんの所までは、さすがに行けない」

 そりゃそうだ。見つかっちまうぜ? 半透明なんだからなー。

「今からキミのロープを切る。すきをみて、千弘くんを助けてやってくれ。これを使ってね」

 そう言って、マスターは俺の手にゴツめのブレスレット取り付けた。
 ちょっと待った! これってもしかして……?

「いいかい? キーワードは…………だ。そして、武器は……」

 マジでかー? 
 ……仕方がない。やってみるか!

「ええい! 何をしているんだ! たかが人間二人に手こずってどうする!」

 俺と後藤さんから、注意がれていく。もう一息だぜー!

「もういい! 私が直接、そいつらを始末してやる!」

 いいぞ、これだけ離れれば……!

「そろそろね! ワッ君、やるわよ?」

「おう! どんと来いじゃ!」

 やっぱりなー。わざわざ変身せずに戦ってたのは、俺たちから注意を逸らすためだぜ。いきなり変身して強さを知られたら、すぐに人質を盾にするからな。
 ……だから、チャンスは一度だけだ。やるぜー!

「いくわよ! 〝オゴッキャゲル・チェンジ!〟」

「おうよ! 〝オゴッキャゲル・チェンジ!〟」

 二人を、赤と黄色の光が何重にも包んでいく。

「〝マンデガン・レッド〟推参!」

「〝マンデガン・イエロー〟登場!」

「なんだと! 変身した?! ……イヌとゲジが見たっていうのは、お前らか!」

 変身した二人を見て、俺と後藤さんを盾にしようと振り返った黒服。今だぜ!
 俺はマスターに教わった合言葉を叫ぶ。

「〝オゴッキャゲル・チェンジ!〟」

 周りに現れた光の輪が、俺を何重にも包む。

「〝マンデガン・ベージュ〟降臨!」

 全身を包む乳白色のスーツに、所々、巻き付くような数本の白いラインが入っており、頭部、胸部、腰回り、腕周り、ひざに、白くて小さめのプロテクターがついている。
 よし、このまま後藤さんを助けて……

「ってか、もっと何かあるだろ色! なんでベージュだよ?!」

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