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春休み
経緯
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よー! 九条大作だぜ!
……ん? なんで、幽霊を見るような目で、俺を見てんだ?
「それじゃ大ちゃん、家まで送ろう」
後藤千弘さんが、爽やかにウインクする。
「いやー、大丈夫だぜー?」
っていうか、俺を家まで送るには、5時間以上かかっちまうからなー?
「がははは! 〝大丈夫〟か。豪気なヤツだな! 気に入ったぞ」
〝たぶんイエロー〟の、土田端和久さんが、ニ杯目のカレーを食べながら豪快に笑う。
「ちょっと! 笑い事じゃないわよ、ワッ君! ……あのね大ちゃん? 最近この町では、悪者たちが大勢の人を誘拐しているの。とても危険だわ」
慈許音隆代さんが、和久さんに苦笑した後、俺に優しく言った。
「ああ。とくに大ちゃんは、さっき山の中で、アイツらに見られてるし、狙われる可能性が高いんだ。送っていくよ。それで……出来れば、二、三日は家で大人しくしてて欲しいな。その間に、俺たちが悪者をやっつけるからさ!」
あー、当然そうなるよな。
仕方がない。適当なマンションか、九条って名前の家まで、送ってもらうかなー。
「それじゃ、お願いするぜ。ありがとなー! ……えっと、マスター。オムライス、美味しかったぜー!」
「ははは。それは良かった。またいつでも、遊びにおいで」
カランコロンカランという、心地よい音と共に〝喫茶ガブロ〟を後にした。
さて、俺の頭の中にある、一番近い九条さんは……
「おいおい、遠いなー」
……って、んー? まだちょっと、不思議そうにしてるなー?
時間? もしかして〝時間軸〟がおかしいか?
あー! そうか! 話をちょっと巻き戻って始めるパターンかよ。わりーなー、気付かなかったぜ!
……要はアレだろ? 〝物語は少し前にさかのぼる〟ってやつだろー?
そんじゃ、その体で、念のため説明しておくからな?
だいたい、今の流れで分かったかもしれないけど、いま俺は〝喫茶ガブロ〟でオムライスをご馳走になったあと、ニセの自宅へと向かっているところだ。
「大ちゃん、こっちで良いのか?」
「おー! 線路と川を超えて、もっと向こうだぜ」
「マジかよ! 随分と遠くから来たんだな!」
出来れば〝九条〟という表札の掛かった家がベストなんだが、小学生の行動範囲として違和感がないぐらいの距離には〝九条さん〟は住んでいない。いや、厳密に言うと、少なくとも、俺がさっき〝喫茶ガブロ〟で見た電話帳に載ってたのは、ニ駅隣の九条さんだぜ。遠いだろ?
……だから目指すは、入り口がオートロックになっていない、三階建て以上のマンションだ。入り口でサヨナラすれば、中までは入って来ないだろー。
あ、説明しとかなきゃかな?
まあ、知ってると思うけど、俺は〝瞬間記憶〟を持っているから、一度見た物は忘れないんだ。
電話帳でも辞書でも、パラパラとめくっただけで、全部覚えられるんだぜ?
「ああ、そうそう。大ちゃん。念の為だけど、今日の事は、誰にも言っちゃ駄目だよ? お父さんやお母さんにも言わない方がいい」
そうだろう。下手に騒いでアイツらに気付かれれば、何をされるか分かったもんじゃないからなー!
「わかったぜー!」
「よし、いい子だな! それじゃあ急ごうか。早くしないと日が暮れちまうからね……っと、おいおい、何だ?」
俺と後藤さんの目の前に、大きなトラックが猛スピードで突っ込んで来た。
「おっと、危ねえ!」
道を塞ぐように、大きなトラックが停まった。幌のついた荷台から、黒いスーツの男たちが飛び出してくる。
ウワサをすればって……そんなに大きく話題にしてもいないんだけどな?
「クソっ! アイツらか!」
俺を庇うように、一歩前に出る後藤さん。
ちょっと数が多いぜ。今度こそ俺も変身し……
>>>
……あ痛たたた。後頭部に痛みが走る。
この音と振動は、さっきのトラックだな。背後から不意打ちを食らったのか? やられたぜー!
「もがッ! もがもがッ!」
これは……口を塞がれてる?
さっきまで掛けていたはずの〝凄メガネ〟も無い。取られたのか落としたのか……
足は固定されていないけど、手は背中に回されたまま、なぜか身動きが取れない。
ほとんど動けないな。どうなってるんだ、これ。
「もがッ」
ダメだ。全く声にならない……おっと、分かりやすい見本が、近くに居たぜー。
……後藤さんが、転がされている。
猿ぐつわをされた上に、後ろ手にロープで縛られて、それを、荷台の床にある金具に結び付けられているんだな。俺もだいたい同じ感じだろ。動けないワケだぜー!
後藤さん、呼吸をしているっぽいから生きてはいるんだろうけど……ひどい怪我だ。
あと、俺と後藤さん以外には、黒服も乗っていないし、積み荷も無いみたいだぜ。
さて、どうしたもんかなー。
ベルトはまだ腰にある。バックルのボタンさえ押す事ができれば、変身できるんだけど……
「もがもが……!」
後藤さんに声を掛けようにも、口を塞がれてるし、もし後藤さんが目を覚ましたとしても、位置的に、俺のベルトまで届かない。
手のロープも解けそうにないな。頑丈に結ばれてるぜ。これって、うっ血しちまわないか?
「もが?」
……手も心配だけど、いま、振動と走行音が、微妙に変化したぜ。
幌の隙間から見える風景に、緑が多くなったし、若干、傾斜も感じる。どうやら、山道に入ったみたいだ。
つまり、建設しているという〝基地〟まで、俺たちを連れて行くつもりだな?
……となれば、このベルトは逆にマズいぜ。
今はまだバレてないみたいだけど、顔を見て、俺が〝九条大作〟だって事に気付くヤツが絶対に居るだろー。
ちょっとでもベルトを解析されてしまえば、オヤジと俺の……いや、つまりは〝バベルの図書館〟の知識によって作られた〝超兵器〟の情報が、悪事に利用されてしまうからな。
俺は、縛られた手を必死で伸ばす。よし、ベルトの取り外しボタンに、なんとか届いたぜ!
「パシュー!」
外れたな。後はこれを外へ捨てて……うおっ! 足が痙った!
>>>
トラックが停まり、しばらくして、荷台に黒服たちが乗り込んできた。
俺は気絶したフリをしている。
こういう時に意識があると、薬を嗅がされたり、当て身を食らわされたり、ロクな事がないからなー。
「もたもたするな。連れて行け! 子どもの方は、意識が戻って抵抗するようなら痛めつけて構わん」
あーあー。抵抗しないようにしなきゃな。
……やっぱ、手は縛られたままだ。ベルト捨てといて正解だったぜー。
後藤さんと俺は、黒服に抱えられて建設中の基地へと連れ込まれた。
まだまだ色々な所が工事中のようだけど、意外といい感じに仕上がって来ているじゃないか。
「隊長、なんで子どもを連れて来たんですか?」
それが分からないなら、お前は一生〝ヒラ戦闘員〟だぜ?
後藤さんから情報を引き出すために決まってるだろー。
「そっちの男な、得体の知れない姿になって、犬ゲジコンビと戦ったらしい。情報を引き出す時のダシに使うんだ」
ほらなー! 〝この子がどうなってもいいのか?〟とかやっちゃうんだろ? 悪党の考えそうな事は、だいたい分かるぜー!
……っていうかさ〝得体の知れない姿〟ってお前らが言うなよなー? あと〝犬ゲジコンビ〟って何だよ! 思わず笑いそうになったじゃねーかよー!
「よし、そっちの部屋だ。椅子と拷問具は用意してあるんだろうな」
おっと! 拷問は、さすがにヤバいなー。
たっちゃんたちが来るまで、まだ1時間は掛かるか? それまで、なんとか持ちこたえないとな……
>>>
「くそっ! ここは……!?」
「ふふふ。気が付いたようだな」
後藤さんの意識が戻った。手は椅子に縛り付けられ、さるぐつわは外されている。
……そりゃそうか。あんなの着けられたまま〝さあ吐くんだ!〟とか始められたら、さすがの俺でも爆笑してしまうぜ。
「お前ら、一体何なんだ! 畜生ッ! これを解け!」
〝これを解け〟って、解くわけ無いだろー? ……本当に言う人、居るんだなー。
「それは出来ない相談だ。これからお前には、色々と吐いてもらわなくてはならんからな!」
黒服はそう言うと、俺の方へ近づく。
「おい、待て! その子は関係ないだろ! やめろ!」
……まだ何もされてないぜ? いま騒いだら〝関係ない俺〟が、何かされちゃうだろー!
「うははは! やはりな! コイツを殺されたくなかったら、お前が何者なのか、答えるんだ」
ほらー! 殺されちゃうじゃんよー!
たっちゃん達も、まだあと30分は掛かるだろうし……仕方がないぜ。奥の手を使うか。
「ちょっと待ってくれよー! 俺は九条大作っていうんだ」
俺の身元を明かす。これで随分と時間が稼げるだろー?
……と思った瞬間、左頬に痛みが走る。俺は椅子から弾き飛ばされて転がった。
「勝手にしゃべるな! 殺すぞ!」
あれー? コイツそういうタイプだったかー!
手は背中で縛られたままだから、起き上がることも出来やしない。
「やめろおおおおおッ!! 大ちゃん! 大丈夫か?!」
アンタがやめろ! 〝俺をいたぶるのが効果的〟ってバレちやうだろー? 重ねて言うぜ? アンタが大丈夫か?!
「ヒャハハハ! やめて欲しければ、大人しく喋るがいい。コイツの命だけは助けてやってもいい」
「くそぉッ! 卑怯な奴め!」
うーん。時間稼ぎになるかどうか分からないけど、もう1回、チャレンジしてみるかな?
「俺は九条だいさ……」
蹴り上げられた。すっ飛んで奥の壁にぶち当たってうずくまる。今のは効いたぜ。
……おかしいな。さっきわざわざ、さっき〝左頬を〟って強調しておいたのに、なんで右のほっぺじゃなくて〝蹴り〟なんだ? バカなのか?
「なんて事をするんだ! その子は無関係なんだ! 助けてやってくれッ、頼む!!」
あーもー! 本気で言ってるのか?
余計に助からなくなってるって分かんないかなー?
大体、こんな〝重要拠点〟に連れてきた時点で、生かして返す気なんかないだろー?
「ふん。喋らないならそれでいい。そろそろ殺してしまおう」
俺にゆっくりと近付いてくる黒服。
「クソぉ……やめろぉ! この悪党め!」
ゆっくりってトコが、まだ駆け引きっぽいから大丈夫……じゃない可能性もあるぜー。
こいつ気が短いみたいだから、俺、本当に殺されるかもな。
……ん? なんで、幽霊を見るような目で、俺を見てんだ?
「それじゃ大ちゃん、家まで送ろう」
後藤千弘さんが、爽やかにウインクする。
「いやー、大丈夫だぜー?」
っていうか、俺を家まで送るには、5時間以上かかっちまうからなー?
「がははは! 〝大丈夫〟か。豪気なヤツだな! 気に入ったぞ」
〝たぶんイエロー〟の、土田端和久さんが、ニ杯目のカレーを食べながら豪快に笑う。
「ちょっと! 笑い事じゃないわよ、ワッ君! ……あのね大ちゃん? 最近この町では、悪者たちが大勢の人を誘拐しているの。とても危険だわ」
慈許音隆代さんが、和久さんに苦笑した後、俺に優しく言った。
「ああ。とくに大ちゃんは、さっき山の中で、アイツらに見られてるし、狙われる可能性が高いんだ。送っていくよ。それで……出来れば、二、三日は家で大人しくしてて欲しいな。その間に、俺たちが悪者をやっつけるからさ!」
あー、当然そうなるよな。
仕方がない。適当なマンションか、九条って名前の家まで、送ってもらうかなー。
「それじゃ、お願いするぜ。ありがとなー! ……えっと、マスター。オムライス、美味しかったぜー!」
「ははは。それは良かった。またいつでも、遊びにおいで」
カランコロンカランという、心地よい音と共に〝喫茶ガブロ〟を後にした。
さて、俺の頭の中にある、一番近い九条さんは……
「おいおい、遠いなー」
……って、んー? まだちょっと、不思議そうにしてるなー?
時間? もしかして〝時間軸〟がおかしいか?
あー! そうか! 話をちょっと巻き戻って始めるパターンかよ。わりーなー、気付かなかったぜ!
……要はアレだろ? 〝物語は少し前にさかのぼる〟ってやつだろー?
そんじゃ、その体で、念のため説明しておくからな?
だいたい、今の流れで分かったかもしれないけど、いま俺は〝喫茶ガブロ〟でオムライスをご馳走になったあと、ニセの自宅へと向かっているところだ。
「大ちゃん、こっちで良いのか?」
「おー! 線路と川を超えて、もっと向こうだぜ」
「マジかよ! 随分と遠くから来たんだな!」
出来れば〝九条〟という表札の掛かった家がベストなんだが、小学生の行動範囲として違和感がないぐらいの距離には〝九条さん〟は住んでいない。いや、厳密に言うと、少なくとも、俺がさっき〝喫茶ガブロ〟で見た電話帳に載ってたのは、ニ駅隣の九条さんだぜ。遠いだろ?
……だから目指すは、入り口がオートロックになっていない、三階建て以上のマンションだ。入り口でサヨナラすれば、中までは入って来ないだろー。
あ、説明しとかなきゃかな?
まあ、知ってると思うけど、俺は〝瞬間記憶〟を持っているから、一度見た物は忘れないんだ。
電話帳でも辞書でも、パラパラとめくっただけで、全部覚えられるんだぜ?
「ああ、そうそう。大ちゃん。念の為だけど、今日の事は、誰にも言っちゃ駄目だよ? お父さんやお母さんにも言わない方がいい」
そうだろう。下手に騒いでアイツらに気付かれれば、何をされるか分かったもんじゃないからなー!
「わかったぜー!」
「よし、いい子だな! それじゃあ急ごうか。早くしないと日が暮れちまうからね……っと、おいおい、何だ?」
俺と後藤さんの目の前に、大きなトラックが猛スピードで突っ込んで来た。
「おっと、危ねえ!」
道を塞ぐように、大きなトラックが停まった。幌のついた荷台から、黒いスーツの男たちが飛び出してくる。
ウワサをすればって……そんなに大きく話題にしてもいないんだけどな?
「クソっ! アイツらか!」
俺を庇うように、一歩前に出る後藤さん。
ちょっと数が多いぜ。今度こそ俺も変身し……
>>>
……あ痛たたた。後頭部に痛みが走る。
この音と振動は、さっきのトラックだな。背後から不意打ちを食らったのか? やられたぜー!
「もがッ! もがもがッ!」
これは……口を塞がれてる?
さっきまで掛けていたはずの〝凄メガネ〟も無い。取られたのか落としたのか……
足は固定されていないけど、手は背中に回されたまま、なぜか身動きが取れない。
ほとんど動けないな。どうなってるんだ、これ。
「もがッ」
ダメだ。全く声にならない……おっと、分かりやすい見本が、近くに居たぜー。
……後藤さんが、転がされている。
猿ぐつわをされた上に、後ろ手にロープで縛られて、それを、荷台の床にある金具に結び付けられているんだな。俺もだいたい同じ感じだろ。動けないワケだぜー!
後藤さん、呼吸をしているっぽいから生きてはいるんだろうけど……ひどい怪我だ。
あと、俺と後藤さん以外には、黒服も乗っていないし、積み荷も無いみたいだぜ。
さて、どうしたもんかなー。
ベルトはまだ腰にある。バックルのボタンさえ押す事ができれば、変身できるんだけど……
「もがもが……!」
後藤さんに声を掛けようにも、口を塞がれてるし、もし後藤さんが目を覚ましたとしても、位置的に、俺のベルトまで届かない。
手のロープも解けそうにないな。頑丈に結ばれてるぜ。これって、うっ血しちまわないか?
「もが?」
……手も心配だけど、いま、振動と走行音が、微妙に変化したぜ。
幌の隙間から見える風景に、緑が多くなったし、若干、傾斜も感じる。どうやら、山道に入ったみたいだ。
つまり、建設しているという〝基地〟まで、俺たちを連れて行くつもりだな?
……となれば、このベルトは逆にマズいぜ。
今はまだバレてないみたいだけど、顔を見て、俺が〝九条大作〟だって事に気付くヤツが絶対に居るだろー。
ちょっとでもベルトを解析されてしまえば、オヤジと俺の……いや、つまりは〝バベルの図書館〟の知識によって作られた〝超兵器〟の情報が、悪事に利用されてしまうからな。
俺は、縛られた手を必死で伸ばす。よし、ベルトの取り外しボタンに、なんとか届いたぜ!
「パシュー!」
外れたな。後はこれを外へ捨てて……うおっ! 足が痙った!
>>>
トラックが停まり、しばらくして、荷台に黒服たちが乗り込んできた。
俺は気絶したフリをしている。
こういう時に意識があると、薬を嗅がされたり、当て身を食らわされたり、ロクな事がないからなー。
「もたもたするな。連れて行け! 子どもの方は、意識が戻って抵抗するようなら痛めつけて構わん」
あーあー。抵抗しないようにしなきゃな。
……やっぱ、手は縛られたままだ。ベルト捨てといて正解だったぜー。
後藤さんと俺は、黒服に抱えられて建設中の基地へと連れ込まれた。
まだまだ色々な所が工事中のようだけど、意外といい感じに仕上がって来ているじゃないか。
「隊長、なんで子どもを連れて来たんですか?」
それが分からないなら、お前は一生〝ヒラ戦闘員〟だぜ?
後藤さんから情報を引き出すために決まってるだろー。
「そっちの男な、得体の知れない姿になって、犬ゲジコンビと戦ったらしい。情報を引き出す時のダシに使うんだ」
ほらなー! 〝この子がどうなってもいいのか?〟とかやっちゃうんだろ? 悪党の考えそうな事は、だいたい分かるぜー!
……っていうかさ〝得体の知れない姿〟ってお前らが言うなよなー? あと〝犬ゲジコンビ〟って何だよ! 思わず笑いそうになったじゃねーかよー!
「よし、そっちの部屋だ。椅子と拷問具は用意してあるんだろうな」
おっと! 拷問は、さすがにヤバいなー。
たっちゃんたちが来るまで、まだ1時間は掛かるか? それまで、なんとか持ちこたえないとな……
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「くそっ! ここは……!?」
「ふふふ。気が付いたようだな」
後藤さんの意識が戻った。手は椅子に縛り付けられ、さるぐつわは外されている。
……そりゃそうか。あんなの着けられたまま〝さあ吐くんだ!〟とか始められたら、さすがの俺でも爆笑してしまうぜ。
「お前ら、一体何なんだ! 畜生ッ! これを解け!」
〝これを解け〟って、解くわけ無いだろー? ……本当に言う人、居るんだなー。
「それは出来ない相談だ。これからお前には、色々と吐いてもらわなくてはならんからな!」
黒服はそう言うと、俺の方へ近づく。
「おい、待て! その子は関係ないだろ! やめろ!」
……まだ何もされてないぜ? いま騒いだら〝関係ない俺〟が、何かされちゃうだろー!
「うははは! やはりな! コイツを殺されたくなかったら、お前が何者なのか、答えるんだ」
ほらー! 殺されちゃうじゃんよー!
たっちゃん達も、まだあと30分は掛かるだろうし……仕方がないぜ。奥の手を使うか。
「ちょっと待ってくれよー! 俺は九条大作っていうんだ」
俺の身元を明かす。これで随分と時間が稼げるだろー?
……と思った瞬間、左頬に痛みが走る。俺は椅子から弾き飛ばされて転がった。
「勝手にしゃべるな! 殺すぞ!」
あれー? コイツそういうタイプだったかー!
手は背中で縛られたままだから、起き上がることも出来やしない。
「やめろおおおおおッ!! 大ちゃん! 大丈夫か?!」
アンタがやめろ! 〝俺をいたぶるのが効果的〟ってバレちやうだろー? 重ねて言うぜ? アンタが大丈夫か?!
「ヒャハハハ! やめて欲しければ、大人しく喋るがいい。コイツの命だけは助けてやってもいい」
「くそぉッ! 卑怯な奴め!」
うーん。時間稼ぎになるかどうか分からないけど、もう1回、チャレンジしてみるかな?
「俺は九条だいさ……」
蹴り上げられた。すっ飛んで奥の壁にぶち当たってうずくまる。今のは効いたぜ。
……おかしいな。さっきわざわざ、さっき〝左頬を〟って強調しておいたのに、なんで右のほっぺじゃなくて〝蹴り〟なんだ? バカなのか?
「なんて事をするんだ! その子は無関係なんだ! 助けてやってくれッ、頼む!!」
あーもー! 本気で言ってるのか?
余計に助からなくなってるって分かんないかなー?
大体、こんな〝重要拠点〟に連れてきた時点で、生かして返す気なんかないだろー?
「ふん。喋らないならそれでいい。そろそろ殺してしまおう」
俺にゆっくりと近付いてくる黒服。
「クソぉ……やめろぉ! この悪党め!」
ゆっくりってトコが、まだ駆け引きっぽいから大丈夫……じゃない可能性もあるぜー。
こいつ気が短いみたいだから、俺、本当に殺されるかもな。
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