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5年生 3学期 3月
恐るべき少年
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俺はラゴウ。
地下都市シェオールのラゴウ。
……俺が育った世界は、広大で危険な迷宮の中。
15歳で真実を伝承されるまで、この世界の上にもっと広い世界がある事など知らなかった。
『ケンサク・シュウリョウ・〝データベース〟・カラ・ジョウホウ・ヲ・ヒョウジ・シマスカ』
「見せてくれ」
『ガゾウ・ナンバー・000・000・001・ファイルネーム・〝アガルタ〟・マカイ・ト・〝ゲート〟デ・セツゾクサレタ・〝トオイ〟・セカイ・カンレンジョウホウ・ハ・3343FILES・アリマス・スベテ・サンショウ・シマスカ………』
「これが〝アガルタ〟……!」
……そして、その世界のさらに向こうに、もっともっと広く、美しく、安全な世界がある事を知った。
今から3年前の事だ。
>>>
その日。俺は、シェオールの最下層と思われていたフロアで、魔物の大群に襲われる。
腕には自信があった。そんじょそこらの魔物相手に、遅れをとることはないと思っていた。過信というヤツだ。
「何だ、コイツら! 何匹わいて来るのだ?」
最下層の探索は20年以上続けられていたが、その広さと難解な構造、さらには、そこにだけ出現する〝奇妙な魔物〟が恐ろしく強いという事もあり、まだまだ全貌は解明されていなかった。
最下層は色々な発見があって面白い。命知らずの力自慢たちは、こぞって未知の領域に踏み込んでいった。俺もそのひとりだ。
……そんな俺の今日の戦利品といえば、見たこともない材質の腕輪がひとつ。
この隠し通路に入ってすぐの所で見つけた、白骨化した死体が身に着けていた。
これを奪ったせいで、バチでも当たったのだろう。
……その代償は、身体中に負った、いくつもの致命的な傷。
「ぐぅ……血がとまらぬ……」
俺が見つけた隠し通路の奥の小部屋。ここに近づけば近づくほど、魔物は増え、未知の個体が増えた。明らかにこの場所を守っているようだったのだが……
「……バカな……命懸けでたどり着いたのに……ハズレだと?」
逃げ込んだはいいが、この小部屋には何もない。行き止まりのようだ。道中、目印はつけてきたが、はたして俺が生きているうちに、ここまで来る者がいるだろうか。
「これまでか…………ケイタロウ、あとは……任せ……た……」
俺は地に伏した。傷口からは血が吹き出し、激痛が走る。うつ伏せでは呼吸がままならず、ゴロリと仰向けになるが……あまり変わらぬな。
どちらにせよ、この出血では助からぬ。魔力も、とうの昔に尽き果てていた。
「無念だ……」
>>>
目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。
妙だぞ……ここは、さっきまでの部屋ではない。
思ったように体は動かせぬが、痛みはほとんど無くなっている。もしや、ここはあの世か?
『カクセイ・ヲ・カクニン・〝ゲンゴ〟・センタク・コノ・〝ゲンゴ〟・デ・アッテイマスカ?』
「ぬう?! 何者だ!」
『オウトウ・カクニン・シマシタ・コンニチハ・ゴキゲン・ハ・イカガデスカ』
頭の中に直接響く声。何なのだ、これは?
『アナタ・ノ・ウデ・ノ・〝マスターキー〟ヲ・カクニン・シマシタ・オカエリナサイ・マスター』
マスターキー? 腕……この腕輪の事か!
『ケガ・ノ・シュウフク・ト・インタフェース・ノ・インプラント・ヲ・ジッコウ・シマシタ・ショウサイ・ヲ・ヒョウジ・シマス』
頭の中に映像が浮かぶ。白い台に寝かされた満身創痍の男。
……これは俺だ。
銀色の細長い腕が、俺の怪我を治していく。何だこれは? どういう仕組みなのだ?
そして最後に銀色の手は、俺の頭に、なにか細長い物をねじ込んだ。
おい……何て事をするんだ! 俺は頭をさすってみた……が、傷ひとつ無い。
『インタフェース・ノ・セイジョウ・ドウサ・カクニン』
勝手に俺の頭に埋め込まれた〝インタフェース〟は、この部屋と俺を直接つなぐための物だった。
この部屋の持つ膨大な〝データベース〟から、やがて俺は様々な事を知る。それは真実……魔界の創生から現在に至るまでの記録。
すべてを知った俺は、怒りに打ち震えた。
「俺は、地上を……いや、地球を許さぬ!」
>>>
準備は整った。
3年掛けて準備した俺の計画を、何者も邪魔する事は出来ぬだろう。
「ケイタロウ。いま話したことが全てだ。それでもまだ理解できぬか?」
「……兄さん。その話が本当だとしても、地上の人達を傷つけて良い理由にはなりません」
青い顔でうつむいているケイタロウ……優しい弟。だが、その優しさだけではシェオールの民を導くことは出来ぬ。
「俺がやらなければならぬ。地下都市シェオールに住まう民のために!」
あれから3年。まず間違いなく〝伝承〟は弟にも伝えられたはずだ。ならば弟には全てを知って欲しい。知った上で、俺と共にシェオールの民を導いて欲しい。
……そう願ったのだが。
「きっと……分かり合えるはずです! 全ての人々が手を取り合えます!」
「愚か者め! 俺はこの部屋で見たのだ。魔界の、そして地球の民が、戦に明け暮れ、奪い合い、殺し合う様を!」
「それは……!」
「敵は地上、そして地球に住まう悪しき民。地底に閉じ込められた我々が目指すべきは、平和で広大な遠い大地の奪還!」
「いえ……地上にはきっと、良い人もたくさんいる! 優しい人もいっぱいいるはずです!」
地上に出た事もない癖に、何を馬鹿な事を。
「……これだけ言っても分からぬか。ならば俺ひとりでやろう。お前は、シェオールの蓋を俺が開けるまで、じっとしていろ」
俺は強制転移装置を起動する。
何か言いたそうな表情のケイタロウを最上層まで飛ばしてから〝鬼門〟のバルブを開放する作業に入った。まだまだ時間はかかるが、順調に行けば数カ月後には城塞都市のみならず、地上の者どもは全滅し、やがてその影響は地球にも達するだろう。
……おっと。念のために、ここに来るまでの通路を塞いでおくとするか。
>>>
……そして数ヶ月後。弟は俺の前に現れた。
俺を止めるために、恐るべき力を秘めた少年を連れて。
地上にはああいった者が多く存在しているのだろう。俺が用意していた計画は、ヤツを含む、見た事もない力を使う少年少女に次々と邪魔をされた。だが……
「これで終わりだ、ケイタロウ」
そう。〝恐るべき少年〟は、強制転移装置で飛ばした。どれだけ急いでも、ここへ来るまでには2日は掛かるだろう。そして目の前にいるケイタロウでは私を止めることは出来ない。
……が、念のためだ。この優しく強い弟も、もう一度飛ばしておくか。
「また会おう。次は、浄化された地上でな!」
俺はケイタロウに向けて手を差し向けた。
「ただいま!」
……という声が響く。
その直後、ドドドドン! という音と共に、強制転送装置が、4基とも突然爆発した。
ば、馬鹿な!
「お前……どうやって……?!」
部屋の入口には、先ほど飛ばしたはずの〝恐るべき少年〟が立っている。
「お兄さん強引だね! そんなだと女の子に嫌われちゃうよ?」
地下都市シェオールのラゴウ。
……俺が育った世界は、広大で危険な迷宮の中。
15歳で真実を伝承されるまで、この世界の上にもっと広い世界がある事など知らなかった。
『ケンサク・シュウリョウ・〝データベース〟・カラ・ジョウホウ・ヲ・ヒョウジ・シマスカ』
「見せてくれ」
『ガゾウ・ナンバー・000・000・001・ファイルネーム・〝アガルタ〟・マカイ・ト・〝ゲート〟デ・セツゾクサレタ・〝トオイ〟・セカイ・カンレンジョウホウ・ハ・3343FILES・アリマス・スベテ・サンショウ・シマスカ………』
「これが〝アガルタ〟……!」
……そして、その世界のさらに向こうに、もっともっと広く、美しく、安全な世界がある事を知った。
今から3年前の事だ。
>>>
その日。俺は、シェオールの最下層と思われていたフロアで、魔物の大群に襲われる。
腕には自信があった。そんじょそこらの魔物相手に、遅れをとることはないと思っていた。過信というヤツだ。
「何だ、コイツら! 何匹わいて来るのだ?」
最下層の探索は20年以上続けられていたが、その広さと難解な構造、さらには、そこにだけ出現する〝奇妙な魔物〟が恐ろしく強いという事もあり、まだまだ全貌は解明されていなかった。
最下層は色々な発見があって面白い。命知らずの力自慢たちは、こぞって未知の領域に踏み込んでいった。俺もそのひとりだ。
……そんな俺の今日の戦利品といえば、見たこともない材質の腕輪がひとつ。
この隠し通路に入ってすぐの所で見つけた、白骨化した死体が身に着けていた。
これを奪ったせいで、バチでも当たったのだろう。
……その代償は、身体中に負った、いくつもの致命的な傷。
「ぐぅ……血がとまらぬ……」
俺が見つけた隠し通路の奥の小部屋。ここに近づけば近づくほど、魔物は増え、未知の個体が増えた。明らかにこの場所を守っているようだったのだが……
「……バカな……命懸けでたどり着いたのに……ハズレだと?」
逃げ込んだはいいが、この小部屋には何もない。行き止まりのようだ。道中、目印はつけてきたが、はたして俺が生きているうちに、ここまで来る者がいるだろうか。
「これまでか…………ケイタロウ、あとは……任せ……た……」
俺は地に伏した。傷口からは血が吹き出し、激痛が走る。うつ伏せでは呼吸がままならず、ゴロリと仰向けになるが……あまり変わらぬな。
どちらにせよ、この出血では助からぬ。魔力も、とうの昔に尽き果てていた。
「無念だ……」
>>>
目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。
妙だぞ……ここは、さっきまでの部屋ではない。
思ったように体は動かせぬが、痛みはほとんど無くなっている。もしや、ここはあの世か?
『カクセイ・ヲ・カクニン・〝ゲンゴ〟・センタク・コノ・〝ゲンゴ〟・デ・アッテイマスカ?』
「ぬう?! 何者だ!」
『オウトウ・カクニン・シマシタ・コンニチハ・ゴキゲン・ハ・イカガデスカ』
頭の中に直接響く声。何なのだ、これは?
『アナタ・ノ・ウデ・ノ・〝マスターキー〟ヲ・カクニン・シマシタ・オカエリナサイ・マスター』
マスターキー? 腕……この腕輪の事か!
『ケガ・ノ・シュウフク・ト・インタフェース・ノ・インプラント・ヲ・ジッコウ・シマシタ・ショウサイ・ヲ・ヒョウジ・シマス』
頭の中に映像が浮かぶ。白い台に寝かされた満身創痍の男。
……これは俺だ。
銀色の細長い腕が、俺の怪我を治していく。何だこれは? どういう仕組みなのだ?
そして最後に銀色の手は、俺の頭に、なにか細長い物をねじ込んだ。
おい……何て事をするんだ! 俺は頭をさすってみた……が、傷ひとつ無い。
『インタフェース・ノ・セイジョウ・ドウサ・カクニン』
勝手に俺の頭に埋め込まれた〝インタフェース〟は、この部屋と俺を直接つなぐための物だった。
この部屋の持つ膨大な〝データベース〟から、やがて俺は様々な事を知る。それは真実……魔界の創生から現在に至るまでの記録。
すべてを知った俺は、怒りに打ち震えた。
「俺は、地上を……いや、地球を許さぬ!」
>>>
準備は整った。
3年掛けて準備した俺の計画を、何者も邪魔する事は出来ぬだろう。
「ケイタロウ。いま話したことが全てだ。それでもまだ理解できぬか?」
「……兄さん。その話が本当だとしても、地上の人達を傷つけて良い理由にはなりません」
青い顔でうつむいているケイタロウ……優しい弟。だが、その優しさだけではシェオールの民を導くことは出来ぬ。
「俺がやらなければならぬ。地下都市シェオールに住まう民のために!」
あれから3年。まず間違いなく〝伝承〟は弟にも伝えられたはずだ。ならば弟には全てを知って欲しい。知った上で、俺と共にシェオールの民を導いて欲しい。
……そう願ったのだが。
「きっと……分かり合えるはずです! 全ての人々が手を取り合えます!」
「愚か者め! 俺はこの部屋で見たのだ。魔界の、そして地球の民が、戦に明け暮れ、奪い合い、殺し合う様を!」
「それは……!」
「敵は地上、そして地球に住まう悪しき民。地底に閉じ込められた我々が目指すべきは、平和で広大な遠い大地の奪還!」
「いえ……地上にはきっと、良い人もたくさんいる! 優しい人もいっぱいいるはずです!」
地上に出た事もない癖に、何を馬鹿な事を。
「……これだけ言っても分からぬか。ならば俺ひとりでやろう。お前は、シェオールの蓋を俺が開けるまで、じっとしていろ」
俺は強制転移装置を起動する。
何か言いたそうな表情のケイタロウを最上層まで飛ばしてから〝鬼門〟のバルブを開放する作業に入った。まだまだ時間はかかるが、順調に行けば数カ月後には城塞都市のみならず、地上の者どもは全滅し、やがてその影響は地球にも達するだろう。
……おっと。念のために、ここに来るまでの通路を塞いでおくとするか。
>>>
……そして数ヶ月後。弟は俺の前に現れた。
俺を止めるために、恐るべき力を秘めた少年を連れて。
地上にはああいった者が多く存在しているのだろう。俺が用意していた計画は、ヤツを含む、見た事もない力を使う少年少女に次々と邪魔をされた。だが……
「これで終わりだ、ケイタロウ」
そう。〝恐るべき少年〟は、強制転移装置で飛ばした。どれだけ急いでも、ここへ来るまでには2日は掛かるだろう。そして目の前にいるケイタロウでは私を止めることは出来ない。
……が、念のためだ。この優しく強い弟も、もう一度飛ばしておくか。
「また会おう。次は、浄化された地上でな!」
俺はケイタロウに向けて手を差し向けた。
「ただいま!」
……という声が響く。
その直後、ドドドドン! という音と共に、強制転送装置が、4基とも突然爆発した。
ば、馬鹿な!
「お前……どうやって……?!」
部屋の入口には、先ほど飛ばしたはずの〝恐るべき少年〟が立っている。
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