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5年生 3学期 3月

せんとうきろく:にし門

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「ママー! 人がいっぱいいるよ! ねー!」

 今日は、あさからパパもママも、すっごくいそがしそう。

「あなた、気をつけて」

「ああ。大丈夫。そう簡単に、あの門は破られはしないよ」

 パパが、おしごとのローブのかっこうで出ていった。

「あれ……ママー? パパ、今日はおやすみじゃなかったの?」

「ええ。急に、お仕事になっちゃったの」

 ママがちょっとだけ、しんぱいそうにわらった。
 ……やっぱり、町を守るってたいへんなんだ!

「今日のおしごと、パパはどこに行くのかなー」

「ふふ。今日はね、すぐ近くなの」

 そう言ってママは、まどのそとを指さした。あ、そっか! お家のすぐ前にある門!

「いつも、とおくに行っちゃうけど、今日はちかいからうれしいね!」

「そうね。もしかしたら、えっちゃんにも、見えるかもしれないわね」

 お家のすぐそばに、大きな大きな門がある。〝にし門〟って言うんだって。

「パパがいつも行くのは〝しがし門〟だよね!」

 パパは〝ゆうしゅう〟だから〝しがし〟なんだぞ! っていつも言ってるもん。

「そうね。でもえっちゃん。〝しがし〟じゃなくて、〝東〟門よ?」

「あ、そっか、ひがし門だ!」

 また間違えちゃった。でもなんで今日は、にし門なのかな?
 ……まあいいか。
 あーあ。どうせなら、ずっとお家の前の門の方がいいのにな。

「さあ、それじゃあママは、お掃除をしようかな!」

「うーん……えっちゃんは、パパをおうえんしてるー!」

「そう、いいわね。パパもきっと喜ぶわ! ……じゃあ、ママ、少しだけ地下室にいるから」

 ママはそう言って、ちかのとびらを開けるスイッチをおした。

「はーい! がんばってね!」

「うん、えっちゃんも頑張って……あ、ネズミとか虫が出てきたらイヤだから扉は閉めるけど、何かあったら開けて言ってね?」

「わかったー!」

 ちかにいって、とびらをしめると、そとの音はなーんにも聞こえなくなっちゃうよね。
 えっちゃん、こわいからあんまり行きたくないんだ。

「よーし! パパのおうえん、がんばるぞー!」

 それにしても、すごくたくさん、人がいるのね。
 ……あ! そうだ!

「たしかここに……あったー!」

 これ、かってにつかったら、おこられちゃうけど、今日は〝じゅうよう〟な〝にんむ〟だから、大じょうぶだよね。

「じゅうようなー! にっんっむー!」

 へへー! そうがんきょう! これがあれば、とおくのものも、すっごくちかくに見えるんだよ! よーし!

「かんしをはじめます!」

「ごくろう! ほうこくは、みつにおこなうこと!」

「りょうかいしました!」

 なんちゃって……うふふ。えっちゃん〝しゅびたいいん〟みたいね。
 えーっと、パパはー……

「きゃあ! まぶしい!」

 なんか光った! え? なに? ドーンっておおきな音!
 えっちゃん、びっくりしちゃった!

「ママー! なんか光って、門がなくなっちゃった!」

 ……あそっか。ママ、ちかにいるから、きこえないんだ。
 じゃあ、まあいいか。
 もどって来たらおしえてあげようっと。

「うわあ! なんか、へんなのがいっぱい出てきた! すごおい!」

 門から、見たこともないような、へんな生きものがどんどん出てくる。
 うわあ……あの生きもの、門の前にいた人たちをおそってるの?

「もしかして、あれ、おばけ?」

 おばけ、はじめて見た……!

「えっちゃーん?」

「ひゃああ?! もうー! ママったら、おどかさないでよ!」

 しんぞうがドキドキいってるよ……

「ふふふ。えっちゃん、パパは居たの?」

「ううん。いないー」

 おくのおへやからの、ママのこえに、へんじをした。でもね、それどころじゃないの、みんなたべられちゃうかも。

「ママー! パパがいたら、門からおばけが出てきても、やっつけてくれるよね!」

 だいじょうぶだよね? パパは〝ゆうしゅう〟だもん。

「急にどうしたの? ……そうね、パパはどんなお化けでも、魔法でチョイチョイって、やっつけてくれるわよ!」

「よかった! じゃあ、あんしんだね!」

 にんげんを食べる、わるーいおばけは、パパがやっつけてくれる。
 でも、門の前……なんだか、にんげんよりもっともっと、おばけのほうが、いっぱいいっぱいになってきたよ?

「ママー! おばけって、ここまでくるかな?」

「えー? なにか言った?」

「……ううん。なんでもないー!」

 おばけはパパがやっつけてくれるから、ここまではこない。ママがしんぱいしちゃうといけないから、しずかにおうえんしていよう。
 うわぁ……どんどんおばけがふえていく。

「みんな、にげてる……パパは……いない。どこ? パパ……」

 とうとう、こっちまでおばけが来たよ……

「ママー」

「なあにー?」

「おとなりのおばちゃんが」

 ……食べられちゃった。

「えっちゃん? どうしたのー?」

 ママは、おそうじをがんばってる。
 えっちゃんも、がんばって〝おうえん〟すれば、きっとパパが、おばけをやっつけてくれる。
 だいじょうぶ……だいじょうぶ……
 ……あ。

「ママ……おばけが」

 おばけ、こわいおばけ! おっきなお口をひらいて、えっちゃんを見てるの。
 こわい! だめ! おばけこわい! ママ!! おばけが……!!

「おばけが来た……ひぃぃ! おばけが、まどのそとまで……!!」

 いやだ! 食べられちゃう! こわい! こわいよう!

「ママ! たすけ……え?」

 いつのまにか、しらないおねえちゃんが、まどのそとに立ってたの。

「……おねえちゃん、だれ?」

「なにー? ママ、今、水を使ってるから聞こえないー! っきな声で言って!」

「ねこのお耳がついてるー!」

「猫ー? 猫がどうしたのー?」

「ねこのお耳がついた、ローブのおねえちゃんがー!」

 おばけを、バーンってやっつけてくれたよ!
 それから、えっちゃんにウインクして、門のほうに、はしって行っちゃった……
 おねえちゃん、はしるの、すっごくはやい!

「あー、猫耳ローブ? あったわね昔! あなたが生まれるずっと前に流行はやったのよ」

「ふーん。そうなんだー! かわいいね、ねこみみ!」

「そうねー。でも最近はもう、猫耳のついたローブなんて見ないわね……」

 そういいながら、ママがこっちに来る。
 ……ちがうよママ。ローブにお耳がついてたんじゃないの。
 きいろいローブの、に、ねこさんのお耳がついてたんだよ?

「……あら! この子ったら、また双眼鏡を勝手に出してきて! パパのお仕事用だから、触っちゃダメってあれほど……イヤアアアアアアアッ?!」

 ママは、おっきなこえを出したあと、ねちゃった。まどのそとを見てビックリしたみたい。
 ……えっちゃんも、こわかったんだよ。でも、もうだいじょうぶ。さっきのおねえちゃんが、おばけをぜーんぶやっつけてくれたから。
 パパのすがたは見れなかったけど、きっと見えないところで、おしごとがんばってたんだよね! 

「うふふ。えんのしたのちからもちっていうのよね」
 
 ……あ、ママが目をさますまえに、そうがんきょうを、もどしとこっと。

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