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5年生 3学期 3月

西の大砦

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 キリが無いな! 何匹居るんだ?

「ボウズ! そっちに1匹行ったぞ!」

 突然の雨と、巨大なカエルの襲来しゅうらい
 たぶん、コイツの名前は……

「達也さん、この魔物は〝かえる〟って呼ばれてるわ」

 良かった、そのまんまで覚えやすい。
 ……さっきのワニみたいなやつとか、名前が〝緑〟だったからな。他にもいっぱい居るだろ、緑の魔物。

「実際、この〝蛙〟も緑色だぞ。ええい! ピョンピョンと鬱陶うっとうしい!」

 コイツ、皮膚や体液に、強めの毒があるらしい。
 必然的に、僕と彩歌が前衛役だ。

「すまない達也くん。グアレティンが雨のせいでパワーダウンしていて、あまり遠くまで攻撃が届かないんだ」

「いや大丈夫。いざとなれば、地形が変わるぐらいに……」

『タツヤ、あまり大きな音を立てると、他の魔物も寄って来るぞ?』

 おっと。それはそれで面倒だ……そっと倒すか。

「彩歌さん、そろそろ〝接触弱体〟が切れる。ロッドを貸して?」

「ありがとう、達也さん」

 僕は、自分の杖を縮めて、彩歌のロッドと一緒に抱きかかえ、呪文を唱えた。

「HuLex UmThel TchwEKnd iL」

 これで、世界〝最硬さいこう〟武器の完成だ。

「しかし、殴っても殴ってもいてくるな、こいつら……!」

「〝蛙〟は、ビックリするぐらい卵を生むからな。増え方が尋常じゃないんだ。水辺か雨の日にしか出ないのが、せめてもの救いだ」

 エーコが斬撃を飛ばしながら苦笑いする。

「知ってますか? こいつらこう見えて、ちょっと毒抜きをすれば、食べれるんですよ。鶏肉のような味です」

 織田さん、さすがにそれはちょっと。
 僕は普通に鶏肉を食べたいです。

「達也さん、ウチの実家で夕食に出たの〝蛙〟よ?」

「……んえ?」

 えっと……何?
 変な声出ちゃったけど。今なんて言ったの?

「だから、この前の夕食〝蛙〟だったんだけど……」

「ちょ……え……っと……」

 すみません、なんかちょっと言ってる意味が分かんないんですけども。

「あれは、ササミの塩焼きだったよね?」

 彩歌は首を横に振った。
 無言で指さした先に居る〝蛙〟と目が合う。
 って、ええええええっ!?





 >>>





 遠くに、大きな壁が見える。端がかすんで見えないほどだ。

「達也さん、あれが〝西の大砦〟よ」

 死後線を超えて4日目。途中、何度も何度も魔物に襲われたが、無事、僕たちは大砦にたどり着いた。

「でっかいな!! あれ、城塞都市なみに大きくない?」

 出発した時は、バタバタしてたのであんまり記憶に無いけど、遠近感が狂いそうなほどに高い、城塞都市の壁だけは覚えている。

「達也くん。東西南北の大砦は、全て、城塞都市と同じ形、同じ大きさなんだ。内部の作りは、全然違うけどね」

 大砦って、そんなに大きかったんだ!

「はるか昔……英雄的な魔道士が多くいた時代の名残りね。いま、あの中がどうなっているかは、残念ながら分からないわ」

「お父さん……」

 暗い表情の彩歌と、その言葉を聞いて、不安そうに大砦の方を見つめる鈴木さん。

「よーし! 親父さん、ちゃちゃと助けに行こうぜ!」

「そんな暗い顔、お父さんに見せられないっしょ! 大丈夫! お姉ちゃんに任せろし!」

 遠藤翔えんどうかけると、辻村富美つじむらふみが、鈴木さんの左右の肩に手を置いて、励ます。お前ら、優しいな!

「行こう。きっとあの中に、親父さんは居るよ」

「……うん!」

 エーコの微笑みに、同じように笑顔で返す鈴木さん。よし! 探索開始だ!





 >>>





 西の大砦、東門。本来なら、入り口専用の門だ。
 城塞都市と同じように2重構造になっており、内門、外門が、同時に開くことはない。

「……普通はね。でも、この門が閉じられることは、もうないわ」

 ここに有ったはずの門は、破壊しつくされた上に、風雨にさらされ、跡形もない。

「ひどいな……」

 エーコが眉をひそめる。
 内門と外門の間。生と死の堺。そこには、おびただしい数の白骨が転がっていた。

「守備隊員や、住人たちの遺骨でしょう。悪魔どもめ、わざわざこの場所に遺体を集めたのか!」

 歯ぎしりをしている織田さん。
 そうか。城塞都市からここに到着した人間に見せつけるために、ここを死体置場にしたんだな。

「あう……うう……」

 青ざめていく鈴木さんにエーコが肩を貸す。
 ちくしょう! 悪魔め、許せない!

『ブルー、遺骨を、そっと埋めてくれ。それから、首に掛かってる〝探検者票〟は一箇所に集められるか?』

『了解した……やるのか? タツヤ』

『ああ。この砦、僕が取り戻してやる!』

 もう〝ウソ呪文〟は要らない。僕は手をかざして巨大な土壁を作り、東門にフタをした。

「達也さん?!」

「おいおい! 何だ? 何が起こった?!」

「骨が! 骨が埋まっていくし! なにこれ、マジ?!」

 ここは閉鎖だ。他の門も、空いていればまずふさぐ。

『ブルー、探検者票と、頭蓋骨の数は?』

『ほぼ同じだ。探検者票は233。そのうち〝鈴木〟とめいの入った物は11。女性を除けば5だ。名前を言うよ?』

 ブルーの挙げる言葉を、僕はそのまま復唱する。

英治えいじ啓蔵けいぞう龍臣たつおみ裕二ゆうじ義夫よしお……っていう名前に、聞き覚え無い? 鈴木さん」

「え? ううん、無いです」

 首を横に振る鈴木さん。

「良かった。たぶんここに放置されていた遺骨の中に、鈴木さんのお父さんは居ないよ」

「本当ですか?! でも何でわかるの?」

 という質問に、僕は微笑んで、自分の足元に視線を移す。すると、地中からジャラジャラと音を立てて、大量の探検者票が吐き出された。ギョッとする面々。

「この中にあった男性名前の鈴木さんは、さっき言った5人だけだよ……お父さんはきっと無事だ。助けに行こう!」

「内海さん、あなたは一体……?」

 アヤカとエーコ以外、驚いた顔で僕を見つめている。そこへ、ブルーの声が響く。

『タツヤ、さっそくお出迎えのようだ。何かが5体、近付いてくるよ?』

 よし! 大砦の大掃除、スタートだ!

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