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5年生 3学期 2月

GO WEST!

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 目の前には、月面のような光景が広がっている。
 ……原因は僕だ。

『タツヤ、スゴいね。逆方向に放っていたら、城塞都市ごと更地になっていたぞ?』

 いやいや、そんな事しないから! ……どこの大魔王だよ。

「達也くん、逃げるぞ!」

 背後から、肩を叩かれた。
 え、エーコ?

「急いで!」

 彩歌あやかも……!

「……達也さん、ちょっと目立ち過ぎよ。やぐらから見てた隊員が、騒ぎはじめてるわ」

 クスリと笑う彩歌。
 うーん。さすがにちょっと派手ハデにやり過ぎたか。

「ごめんごめん。ちょっとまだ加減がわからなくって……」

 門が閉まり始めた。変わり果てた地形を、ただ呆然と見ている探検者たち。
 彼らが来る前に、急いで離れよう。

「おいボウズ! オマエ何者なんだよ!」

「スゲーし! あれ、何の魔法?」

 やっぱ、バカップルも一緒か。

「いやー、助かりました! 思った通り、スゴいですね」

 あ、織田さん!

「いえいえ、織田さんこそ、見事な風魔法でしたね。無事で良かったです……あれ? そちらは?」

 エーコの後ろを、中学生ぐらいの、細身ほそみの女の子がついてくる。

「ああ。彼女は鈴木すずき紗和さわさん。私のお客様だ」

 そっか、エーコは今回〝護衛のアルバイト〟だったっけ。

「は、はじめまして! 鈴木です!」

 必死で走りながら、お辞儀じぎをする鈴木さん。

「彼女は、こう見えて〝第二階級魔道士トリッカー〟なんだぞ」

「へぇ! 若いのにすごいわね!」

 ほほう! トリッカー!
 ……って何?

「達也さん、魔道士には、ゼロ階級から、最大十六階級まであるのよ。トリッカーは〝第二階級〟よ」

 そろばんとか武道の〝段位〟みたいな物かな。

「でも……〝第二階級〟って、そんなにスゴいの?」

 小声で、彩歌あやかに尋ねる。
 十六階級まであって、二階級って聞くと、大したこと無い気もするんだけど……?

「ふふ。達也さん。魔道士の昇級試験はとてもキビシイのよ? 〝第一階級魔道士アプレンティス〟になるだけでも、何年も血のにじむような努力が必要なの。〝階級無し魔道士ノービス〟で一生を終える人も多いのよ」

「なんだ、階級の事も知らないのか。達也くんは本当に〝魔界初心者〟なんだな……おっと。ここまで来ればもう大丈夫だ」

 門からは、ずいぶん離れたし、わざわざ追いかけて来るヤツもいないだろう。
 少しひらけた場所で、全員が自己紹介を始めた。

「私は大川英子おおかわえいこ。エーコって呼んでくれ。ちなみに私も〝第二階級魔道士トリッカー〟だ」

「俺は遠藤えんどうかける……これは言う流れなのかよ? 〝階級無し魔道士ノービス。以上!」

辻村つじむら富美ふみ。〝階級無し魔道士ノービス〟。よろ~!」

織田啓太郎おだけいたろうと言います。階級は〝第五階級魔道士マジシャン〟です。よろしくお願いします」

「まっ!? 第五階級魔道士マジシャンって! ホントかよ!」

「マジぇ?! はじめてみた! 織田っち、実はすごい人?!」

「いえいえ。ただの新人探検者ですよ……それより、彼女です」

 そう言って、チラリと彩歌に視線を向ける織田さん。ありゃ、知ってたの?

「ふふ。そうだね。この子はちょっとすごいぞ? ね、アヤ?」

 エーコが、いたずらっ子のように彩歌を肘で突付く。

「もー、エーコ! 別にひけらかす物でもないでしょ?」

 ちょっと困った顔の彩歌。
 この二人、見た目は大人と子どもだけど、やっぱり同級生なんだな。

「まあまあ。ほら、自己紹介自己紹介!」
 
「まったく……えっと、藤島彩歌です、階級は……」

 と言い掛けた彩歌の顔を見て、鈴木さんが叫ぶ。

「う……〝第十一階級魔道士ウォーロック〟! 〝雷神フルゴラ〟の彩歌さま?!」

 目をパチクリしている鈴木さん。

「やっぱり、若い人はそっち? 〝炎の女帝スタタ・マテル〟の方が、有名だと思うんだけど」

「マジかよ! 聞いたことあるぞ! 〝炎の女帝スタタ・マテル〟って、超有名人じゃねえか!」

「ちょ?! 〝第十一階級魔道士ウォーロック〟?! ウソでしょ?!」

 ふふん。城塞都市のアイドルの存在にやっと気付いたか!
 ……あ、そうか、あの色紙には彩歌のサインをもらって帰ればいいんだな、大ちゃん?

「うわああ! すっごい! 私、大ファンなんです! 彩歌様はどちらまで探検に行かれるのですか?」

 彩歌にキラキラした熱い視線を送りつつ、はしゃいでいる鈴木さん。

「駄目よ、そんな大きな声出しちゃ。ここはもう、安全な城塞都市じゃないんだから」

 軽く微笑みながら、人差し指を口に当てる彩歌。
 ハッとした表情の後に、ペロッと舌を出して肩をすくめる鈴木さん。

「僕たちは、西の大砦おおとりでの向こう〝落日らくじつ轟雷ごうらいの塔〟まで行くんだ」

「ええっ? 砦を超えるんですか?! あ、えっと……?」

 驚いた顔で僕を見つめている鈴木さん。
 ……あ、そうか。自己紹介がまだだったな。

「僕は内海達也うつみたつや。階級というのは、よく分かりません。よろしくお願いします」

「あ、はい! ご丁寧にどうも」

 笑顔がかわいい子だな。
 ひいッ!? あ、あと、彩歌のちょっと引きつった作り笑顔もステキだな、あ、あは、あはは……

「そうだ、お前さっきの魔法、何だ、ありゃあ!?」

 むむ? 覚えていたか遠藤えんどうかける
 彩歌の〝有名人登場〟的な衝撃ショック誤魔化ごまかせると思ったのに。

「遠藤くん、地下牢って入った事あるかい? ……この魔界には、知らない方がいい事が、沢山有るんだ。未来ある若者がひどい目に遭うのを、私は見たくないなあ」

 エーコが凄みのきいた口調でニヤリと笑う。

「げぇッ?! ちょ! ちょっと待った! 俺は何も聞かねえ! み、見てもいないし興味もない!」

「そうだな遠藤くん。君は何も見ていない……辻村さんも、見てないよな?」

「見てないし知らないし! 魔法? なにそれオイシイの?!」

「……だそうだ。達也くん」

 ニシシと笑うエーコ。さすがだな。
 あ、もちろん、僕の秘密を言いふらしたところで、地下牢に入れられはしないぞ?

「……彩歌様、お願いがあります!」

 突然、彩歌の手をとり、真剣な顔で鈴木さんが言った。今にも泣き出しそうな表情だ。

「私を……西の大砦おおとりでまで、連れて行ってくれませんか?」

「え? だってあなた、エーコと半周コースじゃ……?」

 驚いた様子の彩歌と、ヤレヤレといった感じでため息をつくエーコ。

「アヤ、この子の親父さん、西の大砦の守備隊員しゅびたいいんなんだそうだ」

「えっ? そんな……」

 あからさまに暗い表情になる彩歌。そういえば、西の大砦は、ひどい状況だって言ってたけど……

「もう、5年前から連絡が途絶えたままなんです。聞こえて来るのは良くない噂ばかり……」

「お袋さんが去年の暮れに亡くなって〝探検者〟を目指すことにしたらしい」

「私、強くなって西に行くために、魔法をいっぱい練習したんです!」

 すごいな、この子! お父さんに会いたいという一心で、エーコと同じ階級になってしまうほど、自分を鍛えたのか。

「西の大砦へ行ってくれる護衛なんか絶対居ないし、私だって、初心者のこの子を連れて無事に大砦まで行き着けるか、分からないからな」

「だから、今日は訓練のために、東門を目指す予定だったのね?」

「……お願いです! 彩歌様! 私を西へ連れて行ってください!」

「ちょっと、紗和さわちゃん。いくらアヤが強くっても、初心者を連れて西の大砦に行くなんて危険過ぎる! ……それに、達也くんは300匹近い悪魔を倒したんだ。〝呪い除けの儀式 〟をするために、一旦戻らないと……」

「HuLex UmThel eAtcRs iL」

 〝呪病変換〟の呪文を唱えると、いかにも病気になりそうな、不気味な魔法陣が頭上に浮かぶ。
 僕の体から、黒や灰色や茶色のモヤが、次々とその魔法陣に吸い込まれ、やがて粉々に砕け散った。

「ブルー。状態異常は?」

『問題ないよタツヤ。287あった〝呪詛〟は、全て消えた。もとより、どの呪詛もキミの脅威になりそうな物ではなかったが……』

 やめてくれよ。どこかの軍人さんじゃあるまいし。
 僕は呪いを持ったままウロウロする趣味はないんだ。

「ちょ、達也くん? それは一体?!」

 初めて見る異様な魔法と、僕の呪詛が一瞬で消えた事に驚くエーコ。
 そうか、精霊グアレティンと契約したから、ブルーの声が聞こえるんだった。

「達也さん、もしかして?」

 少し嬉しそうな表情で僕を見る彩歌。

「うん。行こうか、鈴木さんのお父さんのいる、西の大砦に!」

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