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5年生 3学期 2月
ロスト
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終業のチャイムが鳴り響く。
あーあ。
結局、今日は何も起きなかったな。
『タツヤ〝今日〟はまだ終わっていない。気を抜くには早いぞ?』
わかってるけど、周りに守るべき対象が居なければ、僕が負けるはず無いからな……分岐点の、あの〝敵〟以外は。
「やー! たっちゃんも一緒に帰る?」
大ちゃんの腕を引っ張りながら、ユーリが現れた。
ちなみにユーリは、家族公認で、地下室から出入りして、僕たちと一緒に登下校している。
「おいおい、そんなに引っ張ったら痛いって。おれはただの、幼気な小学生だぜー? 優しく扱ってくれよなー」
「大ちゃん、ごめん! 痛かった? チューしてあげようか?」
意味が分からん。
あんまり、人前でイチャイチャするなよ?
「ていうか、余裕だなユーリ。今日はお前、ずっと周囲を警戒しっぱなしだったろ?」
「やー。なんだか、監視はされてるけど、攻撃してくるつもりは無いみたいだし、そんなに強い相手でも無さそうなのが、わかったからさー」
まあ、お前より強い奴が、そんなに居られると困るけどな。
『タツヤ。2つのチームに分けて帰宅しよう。誰が監視されているのかを絞れる』
なるほど。いい手だな。
……まあ、全員が対象の可能性もあるけど。
幸い、ブルーとユーリは、微かにではあるが、この正体不明の監視者を、感知することが出来る。
今日の下校は〝Aチーム〟が、僕と彩歌、妹の3人。〝Bチーム〟は、大ちゃんとユーリ、そして栗っちの3人に分かれて、20分ほど間隔を開け、下校することにした。
「万が一があるかも知れないからなー。全員、たっちゃんちの玄関から入って、地下室を通って帰ろうぜ」
確かに、ウチまで帰った時点で、その先は栗っちと大ちゃんだけになる。相手の正体がわからない以上、注意は必要だ。さらに、物置きの入り口は監視者の目に触れるとマズいので、使わない方がいい。
「じゃあ、一旦、ウチ集合で! 3人とも気をつけて」
僕と彩歌、そして妹は、先に出発した。
「和也さん、大丈夫かな」
「栗っちは大丈夫だ。強いし、もし何かあったら、すぐに連絡が来るよ」
「九条くんと、友里さんも、スゴいのよ。心配要らないわ」
「でも、なんで私と和也さん、別のチームなの?」
「メンバーを決めたのは、大ちゃんだ。もし、僕たちの方に〝監視者〟が付いて来るなら、栗っち、大ちゃん、ユーリは、比較的安全という事だから、自宅へ戻っても大丈夫と判断できる」
「逆に、Bチームに監視者が付いて行ったら、今日は3人とも自宅に帰らず、地下室に居たほうが安全ね」
とはいえ、それだけで、安全かどうかを判断するのも、どうかと思うけどな。
頭の良いやつなら、それを逆手に取る事も考え付くだろう。
「ただいまー!」
自宅に到着した。妹の声に、母さんが台所の方から出てくる。
「お帰りなさい。あら、彩歌さんもいらっしゃい。今日も、お家の方、遅いの?」
「はい、いつもお邪魔してすみません」
ペコリと頭を下げる彩歌。
「いいのよ、いつでも来てくれて。達也、冷蔵庫にプリンがあるわ。お願いね」
「うん。ありがと! あと、栗っち、大ちゃん、ユーリも来るんだけど」
「あらあら、最近あなた達、仲が良いわねえ。でも何で、友里ちゃんまで、いつも一緒に帰ってくるの?」
「ああ。なんか、こっちの方に用事があるんだって」
もちろん嘘だ。ユーリは単に、大ちゃんと登下校したいだけだからな。
今まで一緒に行動していた、町田鏡華、橋月日奈美は、最近、ユーリと大ちゃんが〝ラブラブ〟な事に気づき、なんとなく別行動のようだ。というか、ユーリがあの調子じゃ、気づかない方がおかしい。
「で、ブルー? 〝監視者〟はどうだ?」
『我々は、監視の対象外だったようだね。Bチームの3人が標的の可能性が高い』
「マジか。だとすると、あの3人を自宅に返すのは危険だな……」
『幸い、カズヤとダイサクは、身代わりを置く事が出来る。そしてユーリも、両親が全てを知っているので、説明して、地下に匿える』
栗っちは、土人形。大ちゃんは、ロボ。それぞれ、実物と寸分たがわぬデザイン。
これらを自宅に返しておけば、この事態が収束するまで、地下室で居続けても大丈夫だ。
「ユーリちゃんはどうするの?」
ああ。昨日の会議では、妹には説明していなかったか。
「友里さんのご両親は、ウォルナミス人の末裔で、元々、地球を秘密裏に守ってきた人たちよ……既に九条くんは、彼らの協力者だし、私達の事も知っているわ」
「そっか、ユーリちゃんが宇宙人って聞いた時はビックリしたけど、それなら、ユーリちゃんの、お父さん、お母さんが、宇宙人だって、おかしくないわね」
まあ、正確には、ユーリもその両親も、宇宙人の血を受け継いでいる、と言うだけで、純粋なウォルナミス人じゃないんだけどね。
「それじゃ、今日は全員、地下室で合宿だな!」
「いいなあ。楽しそう。私も、こっそり行っていい?」
妹が羨ましそうにしている。まあ、妹の人形を作って、寝た振りでもさせとけば大丈夫だろう。むしろその方が、安全かもしれないしな。
「いいぞ。僕が身代わりを用意してやるよ」
「やったー! ありがとうお兄ちゃん!」
妹はクルクル回って喜んでいる。
さてさて、そろそろBチームも、帰ってくる頃だな。
『たっちゃん! 聞こえる? 大変だよ!!』
「栗っち? どうした! 何かあったのか?!」
『ユーリが消えた! 俺たちの目の前で……!』
「大ちゃん? 消えたって、どういう事? 今どこにいるの?」
『酒屋さんを過ぎて、すぐの所だよ! 急いで来て!』
目と鼻の先だ。あの酒屋さんは、15年後には、コンビニに変わっている。
「待ってて! すぐに行くから! 彩歌さん、行こう!」
「うん! るりさんは、ここで待ってて」
消えたって、どういう事だ?
監視者……いや、もし攻撃されたなら〝敵〟だ。
何者か知らないが、少し甘く見すぎていたかも知れないな。
あーあ。
結局、今日は何も起きなかったな。
『タツヤ〝今日〟はまだ終わっていない。気を抜くには早いぞ?』
わかってるけど、周りに守るべき対象が居なければ、僕が負けるはず無いからな……分岐点の、あの〝敵〟以外は。
「やー! たっちゃんも一緒に帰る?」
大ちゃんの腕を引っ張りながら、ユーリが現れた。
ちなみにユーリは、家族公認で、地下室から出入りして、僕たちと一緒に登下校している。
「おいおい、そんなに引っ張ったら痛いって。おれはただの、幼気な小学生だぜー? 優しく扱ってくれよなー」
「大ちゃん、ごめん! 痛かった? チューしてあげようか?」
意味が分からん。
あんまり、人前でイチャイチャするなよ?
「ていうか、余裕だなユーリ。今日はお前、ずっと周囲を警戒しっぱなしだったろ?」
「やー。なんだか、監視はされてるけど、攻撃してくるつもりは無いみたいだし、そんなに強い相手でも無さそうなのが、わかったからさー」
まあ、お前より強い奴が、そんなに居られると困るけどな。
『タツヤ。2つのチームに分けて帰宅しよう。誰が監視されているのかを絞れる』
なるほど。いい手だな。
……まあ、全員が対象の可能性もあるけど。
幸い、ブルーとユーリは、微かにではあるが、この正体不明の監視者を、感知することが出来る。
今日の下校は〝Aチーム〟が、僕と彩歌、妹の3人。〝Bチーム〟は、大ちゃんとユーリ、そして栗っちの3人に分かれて、20分ほど間隔を開け、下校することにした。
「万が一があるかも知れないからなー。全員、たっちゃんちの玄関から入って、地下室を通って帰ろうぜ」
確かに、ウチまで帰った時点で、その先は栗っちと大ちゃんだけになる。相手の正体がわからない以上、注意は必要だ。さらに、物置きの入り口は監視者の目に触れるとマズいので、使わない方がいい。
「じゃあ、一旦、ウチ集合で! 3人とも気をつけて」
僕と彩歌、そして妹は、先に出発した。
「和也さん、大丈夫かな」
「栗っちは大丈夫だ。強いし、もし何かあったら、すぐに連絡が来るよ」
「九条くんと、友里さんも、スゴいのよ。心配要らないわ」
「でも、なんで私と和也さん、別のチームなの?」
「メンバーを決めたのは、大ちゃんだ。もし、僕たちの方に〝監視者〟が付いて来るなら、栗っち、大ちゃん、ユーリは、比較的安全という事だから、自宅へ戻っても大丈夫と判断できる」
「逆に、Bチームに監視者が付いて行ったら、今日は3人とも自宅に帰らず、地下室に居たほうが安全ね」
とはいえ、それだけで、安全かどうかを判断するのも、どうかと思うけどな。
頭の良いやつなら、それを逆手に取る事も考え付くだろう。
「ただいまー!」
自宅に到着した。妹の声に、母さんが台所の方から出てくる。
「お帰りなさい。あら、彩歌さんもいらっしゃい。今日も、お家の方、遅いの?」
「はい、いつもお邪魔してすみません」
ペコリと頭を下げる彩歌。
「いいのよ、いつでも来てくれて。達也、冷蔵庫にプリンがあるわ。お願いね」
「うん。ありがと! あと、栗っち、大ちゃん、ユーリも来るんだけど」
「あらあら、最近あなた達、仲が良いわねえ。でも何で、友里ちゃんまで、いつも一緒に帰ってくるの?」
「ああ。なんか、こっちの方に用事があるんだって」
もちろん嘘だ。ユーリは単に、大ちゃんと登下校したいだけだからな。
今まで一緒に行動していた、町田鏡華、橋月日奈美は、最近、ユーリと大ちゃんが〝ラブラブ〟な事に気づき、なんとなく別行動のようだ。というか、ユーリがあの調子じゃ、気づかない方がおかしい。
「で、ブルー? 〝監視者〟はどうだ?」
『我々は、監視の対象外だったようだね。Bチームの3人が標的の可能性が高い』
「マジか。だとすると、あの3人を自宅に返すのは危険だな……」
『幸い、カズヤとダイサクは、身代わりを置く事が出来る。そしてユーリも、両親が全てを知っているので、説明して、地下に匿える』
栗っちは、土人形。大ちゃんは、ロボ。それぞれ、実物と寸分たがわぬデザイン。
これらを自宅に返しておけば、この事態が収束するまで、地下室で居続けても大丈夫だ。
「ユーリちゃんはどうするの?」
ああ。昨日の会議では、妹には説明していなかったか。
「友里さんのご両親は、ウォルナミス人の末裔で、元々、地球を秘密裏に守ってきた人たちよ……既に九条くんは、彼らの協力者だし、私達の事も知っているわ」
「そっか、ユーリちゃんが宇宙人って聞いた時はビックリしたけど、それなら、ユーリちゃんの、お父さん、お母さんが、宇宙人だって、おかしくないわね」
まあ、正確には、ユーリもその両親も、宇宙人の血を受け継いでいる、と言うだけで、純粋なウォルナミス人じゃないんだけどね。
「それじゃ、今日は全員、地下室で合宿だな!」
「いいなあ。楽しそう。私も、こっそり行っていい?」
妹が羨ましそうにしている。まあ、妹の人形を作って、寝た振りでもさせとけば大丈夫だろう。むしろその方が、安全かもしれないしな。
「いいぞ。僕が身代わりを用意してやるよ」
「やったー! ありがとうお兄ちゃん!」
妹はクルクル回って喜んでいる。
さてさて、そろそろBチームも、帰ってくる頃だな。
『たっちゃん! 聞こえる? 大変だよ!!』
「栗っち? どうした! 何かあったのか?!」
『ユーリが消えた! 俺たちの目の前で……!』
「大ちゃん? 消えたって、どういう事? 今どこにいるの?」
『酒屋さんを過ぎて、すぐの所だよ! 急いで来て!』
目と鼻の先だ。あの酒屋さんは、15年後には、コンビニに変わっている。
「待ってて! すぐに行くから! 彩歌さん、行こう!」
「うん! るりさんは、ここで待ってて」
消えたって、どういう事だ?
監視者……いや、もし攻撃されたなら〝敵〟だ。
何者か知らないが、少し甘く見すぎていたかも知れないな。
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