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5年生 3学期 2月

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「お兄ちゃん、説明して! ここは何? これはどういう事?!」



 妹は、止まった時間の中を、平然と地下室まで降りてきてしまった。

彩歌あやかさん! 大変だ! るりを眠らせ……」

 ああっ、そうか! 彩歌は止まってるんだった!

「ねえ、聞いてるの?! ユーリちゃん! 彩歌ちゃん! 大ちゃん! なんなの? みんなして!」

 仕方がない……
 とにかく時間を動かして、それから彩歌の魔法で記憶を……

『駄目だタツヤ。ルリはもう、時神クロノスの休日を、自由に行動できてしまう。今後、時間が止まる度に、危険と隣り合わせの状態になるぞ』

 そうか……もし先日のように、学校で時間が止まったら、異星人との戦闘に巻き込まれるだろう。
 止まった時の中〝自由に動けてしまう者〟は、次に時間が動き始めた時に、巻き戻されない。

『救世主であるカズヤは不滅だ。その随行者であるルリも、カズヤと同じ不死性を持っている。しかし、相手が地球外の生命体〝外来種〟の特性を持っている以上、救世主や随行者のルールを曲げられてしまう可能性も無いとは言い切れない』

 なんで栗っちの遂行者が妹なんだ?
 まあ、気のせい……

「……なんてな。もういいか」

 もちろん、妹が、栗っちと〝永遠の愛〟を誓いあった者同士〝随行者の右手〟と〝随行者の左手〟だという事は気付いていた。

「ブルー。悪いけど、椅子をもうひとつ、用意してくれないか」

 僕は、妹の方を向いて、静かに言った。

「……るり、もう一度ここまで降りて来い」

「降りて来るって……? ワケが分からない! どういう事か説明して……」

「分かるように、説明するから! ユーリ、時間を進めてくれ」





 >>>





 ユーリがガジェットを操作すると、時間の流れが戻った。
 妹は練習場から自宅に巻き戻され、代わりに彩歌が動き始めた。

「……ええっ?! るりさんがここに?」

 彩歌が驚くのも無理はない。
 ……しかし、どうやってこの場所に迷い込んだんだろう?

『以前、ダイサクが、止まった時の中で私を認識したのと同じ原理だ。自宅の物置にある入り口を、認識できてしまったのだろう』

「じゃあさっき僕〝降りて来い〟って言ったけど、時間が止まっていなければ、ここには来れないかもしれないのか?」

『いや、ルリはカズヤの随行者だ。彼女がこの場所を一度でも認識すれば、まず間違いなく……』

「……ねえ! みんな居る? なんで私、今〝ワープ〟したの?!」

 外から、騒がしい声が聞こえてきた。やれやれ。無駄に会議の時間が伸びそうだ。




 >>>





 説明を始めて、1時間弱。
 驚き疲れた様子でため息をつく妹。

「ごめんね、るりちゃん。秘密にしちゃってて……るりちゃんを巻き込みたくなかったんだ」

 栗っちが、申し訳なさそうに言う。

「和也さんは悪くないわ。お兄ちゃんが死んで詫びればいいのよ」

 お前、今の話を聞いてたか?
 僕は死なないって言っただろう。

「それにしても、驚きを通り越して呆れたわ。私んちの地下に、地球を守るための秘密基地ができてるなんて」

「こっちだって、色々驚かされたんだ。勝手に僕と同い年になるし。双子って何だよ。お前、正月までは9歳だったんだぞ?」

 それどころか、その前は24歳 (家事手伝い)だったんだけどな。

『しかし、私の声まで認識してしまうとは。面白いな!』

「なんとなく最近、お兄ちゃんが誰かと話してる気がしてたのよね。まさか〝右手〟が相手とは思わなかったけど」

 そりゃそうだ。
 しかし……やっぱ、救世主のちからって凄いな。
 今日、時間が止まらなくても、遅かれ早かれ、妹にはバレてしまっていたに違いない。

『いや、むしろ今日こうして、ゆっくり説明出来て良かった。異星人との戦いの場では、説明のしようがない』

「やー! るりちゃん。そういうわけだから、もし時間が止まっても、私に近付いたりしないで?」

 ユーリが心配そうに言う。

「〝動いている〟ってだけで、敵と見なされるかも知れないからなー!」

 大ちゃんの言う通り、それは怖いな。それに、6人目が戦場ボードに居た時点で〝ルール違反〟だ。地球は多くの星々から、ルール無用のペナルティを食らう事になる。

「うん。わかったわ…………でも、まさか大ちゃんとユーリちゃんも、地球を守る戦士だったなんて、ビックリよ」

「ふふん。僕も地球の破壊を防ぐ、英雄だぜ?」

「はいはい、スゴいスゴい。無駄口叩いてないで、会議の続き、どうぞ?」

「無駄って言うなよ……」

 妹には、ほぼ全ての情報を伝えた上で、この場所の管理と、僕たちのサポート役をして貰う事になった。
 タンスぐらい大きなコンピューターから出て来る、パンチ穴の空いたレシートみたいなのを読んで、

「司令! 東京湾に怪獣が!」

 って言う役だ。

『タツヤ、そんな役どころは、必要ない』

 うん。知ってる。
 ……あの〝パンチ穴〟が何を意味しているのかは知らないけど。

「それじゃ、会議を続けるか」

 妹も書記として同席するらしい。今も、勝手に用意した大学ノートに、何やら書き込んでいる。まだ何も喋ってないぞ?

「えへへー! じゃあ、次は僕だね。クロ、おいで!」

 栗っちに呼ばれて、さっきの黒ネコが練習場の扉を開け、駆け寄ってくる。妹に抱き上げられて、喉を鳴らしている。可愛いな。
 ……あれ? 扉を開けてって、ちょっと待った。その扉、かなり重量感があったような気が。

「この子はね、ダーク・ソサイエティの支部に居た〝実験体〟なんだ」

「そいつが実験体? どう見ても、ただのネコじゃん!」

 確かに、一見、ただのネコだ。でも、ただのネコは、ここに入って来れない。あと、栗っちは不要な嘘はつかない。

「そうだよね。僕も驚いたんだけど……クロ、ちょっと、あっちの広い所に行って、元の姿に戻って? ……大丈夫。みんな友達だよ」

 ネコは、会議室の奥まで駆けて行った。
 次の瞬間、ムクムクと何倍にも体が膨れ上がる。
 瞬く間に、元の姿からは想像も出来ないような、巨大な虎に姿を変えた。

「大きい!」

 全員が、息を呑み、目を丸くする。
 クロがこちらに一歩踏み出すと、結構な振動と共に、床が少し沈む。

「いや、質量保存の法則とか、完全に無視かよ!」

 大ちゃんがあきれている。そういえばそうだ。ネコの姿の時に、妹が軽々と抱っこしていたもんな。

「それがね、ネコの姿になると、重さもネコになっちゃうんだ。不思議だよね」

「えー? 小さくなったら、軽くなるんじゃないのん?」

 ユーリの質問に、大ちゃんが詳しく説明しようとしたが、結局〝不思議現象〟という事で落ち着いた。なんだよ、僕とユーリって、似た感じにアレなのか?

「でね、クロも一緒に戦いたいって。それを言った途端、クロは地下室に入れるようになったんだよ」

『カズヤ。君は救世主として〝守護獣しゅごじゅう〟を従えることが出来る。クロは、キミとルリを守るための神聖なるけものに指定されたんだ』

 カッコイイな、それ! 僕も欲しい!

『タツヤ、キミを守れるほどのけものは、この世に存在しない。キミが獣を守ることになるぞ?』

 ああ。それは本末転倒だ。

「クロ、もういいよ、戻っておいで」

 虎は、身震いひとつすると、一瞬で小さいネコの姿になった。ピョンと妹の膝に乗る。

「えっと、ダーク・ソサイエティの支部は、この近くのドラム缶工場跡地だったんだ」

「マジで?! あそこって、確か昔、僕と栗っちと大ちゃんで忍び込んだよな?」

「うん。でね、つまみ出されたよね、黒いスーツの人に。あれ、ダーク・ソサイエティの機械人形だよ。怖いよね」

「おいおいおい! 危ないなあ! だからあの時、やめようって言ったんだぜー?」

「たっちゃん、言い出したら聞かないんだもん~!」

 2人に責められる。

「あ……えっと、アレって僕だっけ?」

 記憶があやふやだ。作戦会議の末、満場一致で突撃した気がするんだけど。

「やっぱり、子どもの頃から無鉄砲なのね、達也さん」

 クスクスと彩歌が笑う。

「やー! たっちゃん、なんで私も誘ってくれないのさー!」

 本気で悔しそうなユーリ。いやいや、危なかったんだって! お前も人の話、聞いてないだろ?

「あれあれ? お兄ちゃんたちが工場に行く時、確か〝私も行きたい〟って言ったような……」

 妹が首をひねる。そうだっけ? 全く記憶にないな。

「そうだぜー。で、ユーリが"一緒に遊ぼう"って言って、止めてくれたんだ。やっぱ、その時は、るりは同級生じゃなかったなー」

 おお! 大ちゃんの"瞬間記憶"が、"救世主"の歴史改竄かいざんに気付いた! 
 ……何だ? この異種格闘技戦。

「そうだっけ? それって私、超お姉さんっぽいじゃんかー!」

 よくわからないけど、妙に嬉しそうなユーリと、自分の記憶が、あやふやになり過ぎて、首を捻り続けている妹。

「るり、不思議現象だから、考えても仕方がないぞ。次に行こう」

 僕は足元に置いてあったヨーロッパ土産と、豪華な装飾の剣を、テーブルの真ん中に置いた。
 ……さあ、最後の報告は、僕と彩歌だ。

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