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5年生 3学期 2月

報告会

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 ……ネコだ。
 最近新しく作られたユーリの部屋。
 その扉の前に、見た事のないネコが、眠そうに座っている。
 このネコ、まさかとは思うが……

「……ユーリ?」

「やー! 違うよ、たっちゃん。そんなわけ無いじゃんかー!」

 ケラケラと笑いながら、背後から現れるユーリ。
 気配に全く気付かなかった。

「おかえり、たっちゃん! しっかし、何でネコと私を間違えるかなー!」

「あ、ただいま……いやいやユーリ。お前、ネコ耳娘だし、異星人の末裔まつえいだから、もしかしたら〝究極形態〟に?! とか思ってさ」

 完全なネコに変身! とか、そういうキャラかと。

「まっさかー! それにさ、毛色が違うじゃん」

 確かに、このネコは黒い。
 ユーリは、黒より茶色に近い髪色をしている。
 しかし、そういう問題か?

「……じゃあ、このネコは一体、何なんだ?」

 ここは、特別なメンバーだけが入れる地下室だ。
 普通のネコが入って来られる場所じゃないんだけどな……

「あ、こんな所に居た! クロ、おいで!」

 呼ばれたネコが、走って行った先に居たのは栗っち。
 なんだ。栗っちのネコか。
 ……って、それでも、ここに入って来られる理由には、ならないんだけど。

「あ! たっちゃん、おかえりなさい!」

「ただいま、栗っち」

 栗っちは、ネコを抱えてニコニコしている。
 そのネコは?
 と尋ねようとした所へ、大ちゃんもやって来た。

「おー? 帰ってきてるなー! お帰り!」

「ただいま!」

「あ、大ちゃん! 愛してるよ!」

 挨拶がおかしいだろユーリ。相変わらずだな。

「よー! 俺もだぜユーリ」

 ラブラブかよ!
 大ちゃんが、そう返すなら、もう誰も止められないじゃないか。
 ……まさかと思うけど、ずっとこの調子でいくのかな?

「なんてなー。それあんまり、人前で言っちゃダメだぞ、ユーリ」

 よかった。大ちゃんは極めて正常だった。

「やー! ごめんよ、ダーリン!」

「わかってくれれば良いんだぜー!」

 ちょっと待てーい! 全然わかってないぞ?!

「あれ? アヤちゃんは?」

「ああ、彩歌あやかさんは、分身の記憶をもらうって、自分の部屋に行ったよ。すぐに来ると思う」

「じゃあ、僕も、クロのエサを用意してくるね」

「あ、栗っち、そのネコは一体……」

 と、言いかけたけど、栗っちは駆け足で自分の部屋の方に、ネコを抱えたまま走って行ってしまった。まあ、いいか。後で聞こう。

「それじゃ、練習場へ集合だな。会議を始めようか!」

 僕と彩歌は、オランダでの分岐点と、ドイツの魔界の門の件。
 大ちゃんとユーリは、異星人との戦いと、大波神社での事。
 栗っちは、あのネコの事なのかな?
 これから始まるのは、それぞれの活動報告と、今後の事を話し合うための会議だ。

「あ、ごめん。お土産があったんだった。先に行ってて」

 ヨーロッパ土産の、絵葉書とかチョコレートを、リュックに入れっぱなしだった。
 ブルーの奥歯(?)に引っかかっていた剣も見せておきたい。
 僕は自分の部屋へと向かう。

「……友里ゆうりさん?」

 栗っちの部屋の前で、キャットフードを食べているネコに、彩歌が話し掛けている。

「いや、彩歌さん……それ、ユーリじゃないんだ」





 >>>





 ……10分後。
 練習場の真ん中に、丸いテーブルが現れ、周囲に5つの椅子が用意された。
 準備は万端だ。

「じゃあ、まず、俺達から報告するぜー!」

 大ちゃんとユーリが立ち上がり、異星人との戦いの一部始終を説明する。
 その辺りは、僕も土人形で見ていたから知っているんだけどね。

「俺の親父さ〝バベルの司書〟だったんだよなー」

 それも、もちろん衝撃だったけど、問題はその後だ。

「それでさ、既に死んじゃってたんだ。驚いたぜー!」

「ちょ、え?! どういう事?」

 驚く僕に、大ちゃんが説明する。
 どうやら、大ちゃんの親父さんは〝アルレッキーノ〟に殺されたらしい。
 死ぬ直前に、精神だけは、バベルの図書館に逃げ込んで、今も、館内に居るそうだ。

「あー。あと、アルレッキーノは〝ダーク・ソサイエティ〟を裏切っている可能性があるぜー」

 大ちゃんの乗った電車が襲われた時、親父さんは、既にアルレッキーノによって殺された後だったらしい。

「アイツの目的は何なんだろう。本当に不気味なヤツだ」      

「まあ、親父はバベルの図書館で、呑気に読書三昧みたいだし、親父の作った人形は、超高性能で仕事もこなしてるから、俺は今までの生活と、何も変わんないんだけどなー」

 それはさすがにドライ過ぎないか、大ちゃん? 
 ……と思ったが、よく見ると、隣に居るユーリが心配そうに大ちゃんの手を、そっと握っている。
 そうか。大ちゃんは、自分にそう言い聞かせようとしているんだな。父親が死んでいたと知って、平気なわけがない。

「で、俺とユーリは、大波神社おおなみじんじゃに行ってきたんだぜー!」

 大波神社は、ウォルナミス人の末裔たちの活動拠点だ。ユーリのお姉さん、愛里あいりの口添えで、ウォルナミスの長老に会って、地球を守る手伝いをすると宣言してきたらしい。

「やー! それでね。近い内に、一緒に戦ってくれる戦士を、あと3人、連れて来るって約束してきたんだよー」

「喜んでたぜー。何せ、もうずいぶん長い間、ウォルナミスの戦士はひとりで異星人と戦ってたんだからなー」

「了解だ。それじゃ近い内に、みんなで、もう一度行こう」

「達也さん。私と栗栖くんの時券チケットを何とかしないと……」

 そうだった。時神クロノスの休日を、止まらずに過ごせなければ、ユーリと一緒には戦えないぞ。

「えへへ。僕、もしかしたら、なんとかなっちゃったかも!」

 ニコニコしながら、嬉しそうに言う栗っち。

「え?! いつの間に?」

「ちょっと、色々あって、パワーアップしたんだよ。なんとなくだけど、今なら止まらない気がするんだ」

 救世主は理不尽なぐらいにご都合主義だ。パワーアップしたいと願えば、不思議とどうにかなる。

「マジかよ! ナチュラルヒーローには勝てないよなー!」

 大ちゃんがちょっと皮肉っぽく言う。

「ユーリ、ちょっとガジェットで時間止めてみてくれる?」

「ああ。待って待って、どこに入れたっけ……」

 ポケットというポケットを引っ張り出して裏返して、ようやく胸のポケットから、勾玉の形をしたガジェットを取り出す。

「おいおい、相変わらずガサツだなー」

 裏返ったユーリのポケットを、せっせと戻していく大ちゃん。夫婦漫才のようで微笑ましいな。

「よっし! いっくよー!」

 ユーリがガジェットを操作すると、時間の流れが止まった。
 ……とはいえ、この地下室には動いている物が皆無なので、イマイチ分かりづらいな。
 あ、でも隣に居る彩歌が、微動だにしなくなったので、確かに時間は止まっているのだろう。

「どう? 栗っち……」

 彩歌から栗っちの方に視線を移す。

「えへへー! やっぱり動けるようになってるよ!」

 と言って、照れたように笑っている2人の栗っち。
 ちょ?! いつの間にか、栗っちが2人並んで、同じようにニコニコしている。
 まさか分身の術?!

『素晴らしいな、カズヤ。見事な上達ぶりだ』

 ブルーの言葉で、やっと気がついた。
 栗っち、土人形も操作出来るようになったんだ!

「おおー! 色々と出来るようになってるじゃんかー!」

 大ちゃんも嬉しそうだ。

「すごいな、栗っち! でも、なんで急にパワーアップしたんだ?」

「えっとね、みんながいない時にね……」

 栗っちは単身で、ダーク・ソサイエティの秘密基地に乗り込んだらしい。無茶するなあ!

「えへへ。ごめんね。でも、僕がなんとかしないと、町が大変な事になると思って」

 さすが救世主だ。危険を顧みずに人間を守るのは当たり前なんだな。
 ……まあ、栗っちも不滅の存在だから、心配は要らないんだろうけど。

「……誰か ……すか?」

 ん? 今、練習場の外から、声が聞こえたような。

「今、何か聞こえなかった?」

「いやいや、時間が止まってるんだぜー? それ以前に、ここに来れる奴は居ないだろー?」

「やー! 待って! 誰か居るよ?」

 ユーリの〝生命感知〟だ。
 ……止まった時間の中を、この地下室まで誰かが入ってきた? 一体、何者だ?!

『タツヤ。随行者ずいこうしゃだ。彼女は救世主と同じ時を生きる事が出来る』

 止まった時間の中を動けるようになったのは、栗っちだけではなかった。
 練習場の重い扉がゆっくりと開く。

「お兄ちゃん? みんなも! ……ここは何なの?!」

 入って来たのは、内海るり……妹だ。

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