99 / 264
5年生 3学期 2月
返却要請
しおりを挟む
〝デトレフ・バウムガルテン〟
軍隊は既に無くなってしまったが。
……それでも、彼は軍人である。
「同盟国の子どもたちを傷つけるのは、本意ではないが、君たちは私の計画に、大きく関わりそうなのでね……それも悪い方向に」
軍人だから許される。
というわけではない。断じて許されない。
しかし。
「君たちが何も言わないなら、即、消えてもらう事になるよ? ちゃんと私に話しなさい。その上で、生かすか殺すかを、決めてあげよう」
軍人だから仕方が無い。
と言ってしまえば、不思議と収まりがつくのだから、困った物だ。
『ブルー、あいつのステータス、表示できる?』
『駄目だタツヤ。あれは〝生物〟という枠組みから、逸脱してしまっている』
測定不能、か。
あとは、あいつの使う呪いが、どんな物か……だな。
『彩歌さん、あいつの呪いで、僕に効きそうなのって、あるかな?』
『〝魂〟と、具体的に指定されたりしていると、危ないかも。あとは、行動を操作される物とか、何かを制限される呪いは危険よ』
そうだった。僕は悪霊とかに、魂を直接傷つけられる可能性がある。そこだけは無防備なのだ。
『それに……』
彩歌は、デトレフに、少し視線を移して続ける。
『……あいつ、若すぎる』
『確かに。でも悪魔も魔道士も〝不老〟の方法を、まだ見つけていないんじゃ……』
『……可能かもしれない。魔法では再現できないような事が、呪いなら可能だから』
老いない呪い。さらに下手をすると、死なない呪い? 有り得るな。
あれ? でも……
『それなら、悪魔は呪いを使って不老不死を得られるんじゃない?』
……あ、あと、同胞の犠牲も要るな。
『悪魔は呪われないの。同族殺しをしないから、実際に見たことは無いけど』
なるほど。
じゃあ、ちょっと情報収集してみるかな。
「おじさん、ちょっと教えて欲しいんだけど」
と言った途端、呼吸が出来なくなった。これが呪い?!
僕は、咄嗟に首を両手で押さえ、苦しい表情を作った。
「か……かはっ!」
「質問に質問で返すな。わかったか?」
僕は苦しそうな表情のまま、無言で何度も頷いた。
どうだ、この演技力。
僕は〝呼吸不要〟だから、ぜんぜん苦しくないけど、効いているフリをすれば、また何か喋ってくれるだろう。
「よろしい。で、質問は何だね?」
呼吸できるようになった。
チョロい。まさか質問コーナーまで用意してくれるとは思わなかったな。
きっと自分の研究の成果を、誰かに話したくて仕方が無いんだろう。友達少なそうだし。
「お……おじさん、歳は? ちょっと若すぎない?」
「うん? なるほど。若いと言われると、なかなかに嬉しいものだな」
デトレフが、驚いたような表情で答えた。
「100歳とちょっとだ。しかし、それを聞くという事は、お前はやはり、知り過ぎているかもな。他に質問はあるかね?」
間違いなく、不老の呪いは持っているようだ。
「仲間は居るの?」
「……決定的だな。この期に及んで、私の背景が気になるとは!」
ありゃ、ちょっとマズかったかな?
「よく分かった。君たちは私の敵だね。だが私を止める事はできないよ。その意味も含めて教えてあげよう」
教えてくれるんだ。近所のおじさん並みに優しいな。
「私の同胞は、世界中に居る。その数、12!」
少なっ! それ、世界中に配置できないだろ?!
「さあ、そろそろ私の質問にも答えてくれないか」
ヤバいぞ。さっきは呼吸だったから止められても大丈夫だったけど、あんなに簡単に呪いを使われたら、いかに頑丈な僕でも、その内、弱点を突かれそうだ。
「……もうひとつだけ。いいかしら?」
『彩歌さん、危ないよ!』
『うん。でも、やってみる。ここは任せて』
僕と違って、彩歌は〝呼吸不要〟を持っていない。もちろん、息ができなければ死んでしまう。
デトレフの機嫌を損ねたら……!
「ん? 何かね、言ってごらん」
おいおいおい。さっきと対応が違うじゃないか。女の子には優しいな!
「魔界の門はここにしかないの?」
何を言っているんだ彩歌? 開いているゲートは、ここ以外にも……
「……いや。開いている門は、ここだけだ」
え?
……あ、そうか。デトレフが知るわけないんだ。
僕たちだって、ルナのおかげで、ここの事がわかったんだもんな。
「私、門を閉じちゃったけど、いいの?」
デトレフは、少し眉間にしわを寄せた。
彩歌は続ける。
「〝復活の祭壇〟は、魔界にしかないわ。本当にあるのならね」
『彩歌さん、復活の祭壇って?』
『死者を生き返らせる事が出来るという、伝説上の場所よ。御伽噺だと思っていたけど〝総統の復活〟って聞いて、もしかしたら、それを当てにしているんじゃないかと思って』
「はっはっは。愚かな子どもだ。私は〝鍵〟を持っているんだよ?」
「私の持っている物より、下位のね。その鍵は、もう役に立たないわ!」
デトレフは、ハッとして、ゲートに目を向けた。
ガッチリと掛けられた、頑丈そうな白い錠前を見て、もともと青白かった顔が、さらに青ざめていく。
「ま……まさか……?」
彩歌は、不敵な笑みを浮かべた。
「知っているのね?」
「ま……魔界の軸石?!」
冷や汗って、あんなに出るんだ! という感じのデトレフ。
「あなたの呪いと、無駄に伸ばした寿命……魔界由来の物は、全て返してもらうわ。覚悟しなさい」
……もちろん、ハッタリだ。ルナのレベルはまだ最低ランクだから、魔界の軸石の能力は、ほとんど使えない。
「や……やめてくれ! お願いだ!」
だが、デトレフには効果アリだったみたいだ。
「ご自慢の呪いで、止めてみれば良いでしょう。さあ、やってごらんなさい」
右手を差し出して、デトレフに一歩近付く彩歌。
と、頭の上で、同じポーズをとり、こっちを向いて変顔をしている、魔界の軸石こと、ルナ。お前なにやってんだ。
「ひぃ……! ま、待ってくれ!」
際限なく後ずさる、デトレフ。壁際に追い詰められる。
『ルナ、あそこでいいのね?』
『うん。33ある内のひとつが、あの場所だよ』
え? 何があるの?
「ふ……ふはははは! 残念だったな、魔界を統べる者よ! この力は返すわけにはいかない。さらばだ!」
突然、壁が回転して、デトレフはその中に吸い込まれていった。忍者屋敷にあるヤツだ。
ダニロが見たら、喜ぶだろうな、ニンジャだ! って。
「待ちなさい! 逃がさないわよ!!」
壁際に駆け寄って、壁をドンドンと叩きながら叫ぶ彩歌。スゴい演技力だ。
『ふう。これだけ脅しておけば、戻っては来ないでしょうね』
『ナイスだったよ彩歌さん!』
『達也さん! 怖かった……!』
抱きつかれた。
うわうわ。不意打ちだ!
……震えている彩歌。相当怖かったんだろうな。
彩歌の頭の上で、自分の脇腹を抱きしめて悶えているウサギモドキは気になるが、彩歌が落ち着くまでは、しばらくこのままで居よう。
軍隊は既に無くなってしまったが。
……それでも、彼は軍人である。
「同盟国の子どもたちを傷つけるのは、本意ではないが、君たちは私の計画に、大きく関わりそうなのでね……それも悪い方向に」
軍人だから許される。
というわけではない。断じて許されない。
しかし。
「君たちが何も言わないなら、即、消えてもらう事になるよ? ちゃんと私に話しなさい。その上で、生かすか殺すかを、決めてあげよう」
軍人だから仕方が無い。
と言ってしまえば、不思議と収まりがつくのだから、困った物だ。
『ブルー、あいつのステータス、表示できる?』
『駄目だタツヤ。あれは〝生物〟という枠組みから、逸脱してしまっている』
測定不能、か。
あとは、あいつの使う呪いが、どんな物か……だな。
『彩歌さん、あいつの呪いで、僕に効きそうなのって、あるかな?』
『〝魂〟と、具体的に指定されたりしていると、危ないかも。あとは、行動を操作される物とか、何かを制限される呪いは危険よ』
そうだった。僕は悪霊とかに、魂を直接傷つけられる可能性がある。そこだけは無防備なのだ。
『それに……』
彩歌は、デトレフに、少し視線を移して続ける。
『……あいつ、若すぎる』
『確かに。でも悪魔も魔道士も〝不老〟の方法を、まだ見つけていないんじゃ……』
『……可能かもしれない。魔法では再現できないような事が、呪いなら可能だから』
老いない呪い。さらに下手をすると、死なない呪い? 有り得るな。
あれ? でも……
『それなら、悪魔は呪いを使って不老不死を得られるんじゃない?』
……あ、あと、同胞の犠牲も要るな。
『悪魔は呪われないの。同族殺しをしないから、実際に見たことは無いけど』
なるほど。
じゃあ、ちょっと情報収集してみるかな。
「おじさん、ちょっと教えて欲しいんだけど」
と言った途端、呼吸が出来なくなった。これが呪い?!
僕は、咄嗟に首を両手で押さえ、苦しい表情を作った。
「か……かはっ!」
「質問に質問で返すな。わかったか?」
僕は苦しそうな表情のまま、無言で何度も頷いた。
どうだ、この演技力。
僕は〝呼吸不要〟だから、ぜんぜん苦しくないけど、効いているフリをすれば、また何か喋ってくれるだろう。
「よろしい。で、質問は何だね?」
呼吸できるようになった。
チョロい。まさか質問コーナーまで用意してくれるとは思わなかったな。
きっと自分の研究の成果を、誰かに話したくて仕方が無いんだろう。友達少なそうだし。
「お……おじさん、歳は? ちょっと若すぎない?」
「うん? なるほど。若いと言われると、なかなかに嬉しいものだな」
デトレフが、驚いたような表情で答えた。
「100歳とちょっとだ。しかし、それを聞くという事は、お前はやはり、知り過ぎているかもな。他に質問はあるかね?」
間違いなく、不老の呪いは持っているようだ。
「仲間は居るの?」
「……決定的だな。この期に及んで、私の背景が気になるとは!」
ありゃ、ちょっとマズかったかな?
「よく分かった。君たちは私の敵だね。だが私を止める事はできないよ。その意味も含めて教えてあげよう」
教えてくれるんだ。近所のおじさん並みに優しいな。
「私の同胞は、世界中に居る。その数、12!」
少なっ! それ、世界中に配置できないだろ?!
「さあ、そろそろ私の質問にも答えてくれないか」
ヤバいぞ。さっきは呼吸だったから止められても大丈夫だったけど、あんなに簡単に呪いを使われたら、いかに頑丈な僕でも、その内、弱点を突かれそうだ。
「……もうひとつだけ。いいかしら?」
『彩歌さん、危ないよ!』
『うん。でも、やってみる。ここは任せて』
僕と違って、彩歌は〝呼吸不要〟を持っていない。もちろん、息ができなければ死んでしまう。
デトレフの機嫌を損ねたら……!
「ん? 何かね、言ってごらん」
おいおいおい。さっきと対応が違うじゃないか。女の子には優しいな!
「魔界の門はここにしかないの?」
何を言っているんだ彩歌? 開いているゲートは、ここ以外にも……
「……いや。開いている門は、ここだけだ」
え?
……あ、そうか。デトレフが知るわけないんだ。
僕たちだって、ルナのおかげで、ここの事がわかったんだもんな。
「私、門を閉じちゃったけど、いいの?」
デトレフは、少し眉間にしわを寄せた。
彩歌は続ける。
「〝復活の祭壇〟は、魔界にしかないわ。本当にあるのならね」
『彩歌さん、復活の祭壇って?』
『死者を生き返らせる事が出来るという、伝説上の場所よ。御伽噺だと思っていたけど〝総統の復活〟って聞いて、もしかしたら、それを当てにしているんじゃないかと思って』
「はっはっは。愚かな子どもだ。私は〝鍵〟を持っているんだよ?」
「私の持っている物より、下位のね。その鍵は、もう役に立たないわ!」
デトレフは、ハッとして、ゲートに目を向けた。
ガッチリと掛けられた、頑丈そうな白い錠前を見て、もともと青白かった顔が、さらに青ざめていく。
「ま……まさか……?」
彩歌は、不敵な笑みを浮かべた。
「知っているのね?」
「ま……魔界の軸石?!」
冷や汗って、あんなに出るんだ! という感じのデトレフ。
「あなたの呪いと、無駄に伸ばした寿命……魔界由来の物は、全て返してもらうわ。覚悟しなさい」
……もちろん、ハッタリだ。ルナのレベルはまだ最低ランクだから、魔界の軸石の能力は、ほとんど使えない。
「や……やめてくれ! お願いだ!」
だが、デトレフには効果アリだったみたいだ。
「ご自慢の呪いで、止めてみれば良いでしょう。さあ、やってごらんなさい」
右手を差し出して、デトレフに一歩近付く彩歌。
と、頭の上で、同じポーズをとり、こっちを向いて変顔をしている、魔界の軸石こと、ルナ。お前なにやってんだ。
「ひぃ……! ま、待ってくれ!」
際限なく後ずさる、デトレフ。壁際に追い詰められる。
『ルナ、あそこでいいのね?』
『うん。33ある内のひとつが、あの場所だよ』
え? 何があるの?
「ふ……ふはははは! 残念だったな、魔界を統べる者よ! この力は返すわけにはいかない。さらばだ!」
突然、壁が回転して、デトレフはその中に吸い込まれていった。忍者屋敷にあるヤツだ。
ダニロが見たら、喜ぶだろうな、ニンジャだ! って。
「待ちなさい! 逃がさないわよ!!」
壁際に駆け寄って、壁をドンドンと叩きながら叫ぶ彩歌。スゴい演技力だ。
『ふう。これだけ脅しておけば、戻っては来ないでしょうね』
『ナイスだったよ彩歌さん!』
『達也さん! 怖かった……!』
抱きつかれた。
うわうわ。不意打ちだ!
……震えている彩歌。相当怖かったんだろうな。
彩歌の頭の上で、自分の脇腹を抱きしめて悶えているウサギモドキは気になるが、彩歌が落ち着くまでは、しばらくこのままで居よう。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる