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5年生 3学期 2月

合言葉

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力尽ちからずくで外へ連れ出してから、魔法で記憶をイジって、帰ってもらおう』

『そうだねタツヤ。子どもがこの先に進むのは、危険すぎる』

 ……そう。それがベストの筈だった。
 ハンナの言葉を聞くまでは。

『……おばあちゃんがね〝絶対に誰にも言っちゃいけない〟って』

 ハンナのおばあちゃんは、昔、この病院で働いていたらしい。

 〝合言葉あいことばが無ければ、最後の部屋には入れない〟

 その〝合言葉〟を聞いてしまったのは〝立派な勲章〟を胸に付けた軍人さんたちの会話から。
 彼らは度々たびたび、軍人には用の無いであろう、地下に出入りしていたという。

『きっと、1番奥の部屋に入るには、合言葉が要るんだよ!』

 ダニロが目をキラキラさせながら言う。

『ハンナ、その合言葉、わかるのか?』

『うん。でも、絶対誰にも言っちゃダメって、おばあちゃんに言われたから……』

 うつむくハンナ。

『おいおい、そりゃ無いぜ! 教えてくれよ!』

 ライナルトに詰め寄られて、泣きそうになるハンナ。

『ちょっと、ライナルト! 無理に聞こうとしないで』

『そうだよ、ハンナが可愛そうだよ』

 と言いつつ、自分も、ちょっと残念そうなダニロ。

『じゃあさ、最後の部屋の前で、私たちは耳を塞ぐから、合言葉はハンナがこっそり言ってよ!』

 ラウラの言葉に、ハンナは、にっこりうなずいた。
 どうやら話がまとまったようだが……

「……ルナ、合言葉ってわかるか?」

『ごめん、わかんない。驚きの新事実だね』

 さらに、ルナの持つ〝精神感応〟は、栗っちのとは違い〝ルナを見る事が出来る者〟にしか使えないらしい。
 ハンナの心を読むことは出来ないな。

『彩歌さん、記憶操作で、合言葉を聞き出すって、出来る?』

「ハンナさんも、あれだけかたくなに拒否してるし、ちょっと難しいわ。〝自白系〟の魔法を使えれば簡単だけど、私、持ってない……」

「しょうがない。最後の扉は、必殺〝アース・インパクト〟で……」

『ダメだよ! ここの仕掛けは色々と連動しているんだ。もし下手に衝撃を与えたら、何が起こるか、ちょっと想像がつかないよ』

 実力行使ただのパンチは、ルナに止められた。

「うーん。それじゃ、4人には、一緒に行ってもらうしか無いか……」

 4人を危険から守りつつ進み、ハンナの合言葉で最後の扉を開けてもらう。
 そこから先は、その時の状況で決めよう。
 ……悪魔が居そうなら、一旦引き返すのもやむなしか。

『ねえ、タツヤ。あなた、日本のドコに住んでるの?』

 ……不意に、ラウラに声を掛けられた。

『神奈川って言う所だよ』

『へぇ。聞いた事ないけど、トーキョーの近く?』

『うん。東京は、すぐ隣さ。むしろもう、神奈川は東京と言っても過言じゃないね』

『……タツヤ。それは過言だ』

 そうだな。ツッコまれると思ったよ、ブルー。

『兄弟は居るの?』

『ああ。この前、同級生になったばかりの妹が1人……』

『なにそれ! タツヤって面白いわね!』

 って、あ、あれ?
 ラウラからの色々な質問に回答して談笑などをしていると、ライナルトと彩歌のご機嫌が、どんどん斜めになって行ってる気がする。
 駄目だ。このままだと何らかのアレの均衡が崩壊して大変な事になる!

『ラ、ライナルトたちは、このあたりに住んでるの?』

『おう。ここから自転車で30分ってトコかな』

 ……結構遠いな。

『4人は、幼馴染おさななじみなの?』

 彩歌の質問に、顔を見合わせる4人。

『家が近くだし、同じ学校だし……』

 不思議そうな表情をするライナルト。

『昔っから一緒によく遊んでるよな』

 ダニロも、ごく当たり前の事を、思い出したように答える。

幼馴染おさななじみって言い方、大人のヒトが使うよね』

 ラウラがクスリと笑う。

『うん。アヤカは、大人のヒトって感じよね』

 静かに呟くハンナ。
 鋭い! 正解だ。彩歌は元・大人の女だからな。おっといけない。口にしたら解体バラされる。
 ……しかし、そうか。子供の頃って、〝友達〟っていうくくりはあったけど、〝幼馴染〟っていうのは、大人になって初めて気付くのかもしれないな。26歳視点の僕から見れば、大ちゃんや栗っちは〝幼馴染〟だけど、彼らには、僕は〝友達〟なんだろう。

『ふふ。4人は仲良しなのね』

 子ども達は、彩歌の言葉に、また顔を見合わせる。そして4人とも、ほぼ同時に、それぞれの言い回しでJaうんと言った。





 >>>





「カンッ!」

 壁の隙間すきまから飛び出してきた矢を、ハンナに当たる直前に、自分の体を割り込ませる事で防ぐ。
 あっぶない! 間一髪だ。
 同じように、反対の壁からダニロに向かって飛んで来た矢は、彩歌が伸ばした腕に当たってポトリと落ちた。
 子ども達は音に反応したが、あまり何も考えずに、更に先へと進み始める。

『つまんないなー! 何も起きないじゃないか』

『そうだよね! ちょっとピンチになる位が面白いのに』

 ……次々と、罠に引っ掛る子ども達と、それをギリギリで防ぎ、無かった事にしていく、僕と彩歌あやか
 〝ちょっとピンチ〟どころか、お前ら、さっきから〝崖っぷち〟なんだぞ?
 正直、ルナが居なければ、大惨事になっていただろう。

「それにしても、なんでお前、ここの事をこんなに詳しく知ってるんだ?」

 彩歌の頭に、チョコンと座っている、ルナに聞いてみた。

『ううん。僕は、この場所に詳しいってわけじゃないんだ』

「どういう事だよ? 罠の位置とか仕組みとか、隠し扉の場所も開け方も、全部知ってるじゃないか」

『僕は、世界中の魔界の門への道案内を、スイスイっと出来るように〝門に辿り着くまでの情報〟を知る事が出来るんだよ』

 例外もあるらしい。今回、この場所で〝魔法が使えない〟という事を、ルナは知らなかった。そして、最後の部屋の扉の鍵となる、合言葉も。
 そのせいで、僕と彩歌は、子ども達のお供をしているわけなのだが……

『お前ら、おっそいぞ!』

 ライナルトが、苛立いらだった口調で叫ぶ。
 仕方ないじゃないか。お前の3歩ほど先にある、落とし穴の解除に、手間取ったんだから。

『ごめんね。面白そうな物がいっぱいでつい……』

 彩歌がウインクして謝る。

『し、仕方がないなあ。はぐれるなよ?』

 ちょっと照れた感じになる、ライナルト。
 あ、今度は、それを見たラウラが苛立ってるな。

『残りの隠し扉は5つ、罠は43だよ。その中で、引っかかる可能性があって、さらに致命的な物は、11。楽勝だね!』

「おいルナ。お前、さっきも〝楽勝だ〟とか言ってたけど、あの4人、全部の罠に引っかかりに行ってるぞ?」

『その苦情はあの子たちに言ってよ……なんでわざわざ、重箱の隅を突付くかなあ』

 ルナは、最初の隠し部屋を出る時、罠は300以上あるけど、引っかかりそうなのは100も無いから楽勝だ。とか言っていたが、子ども達は結局、200を超える罠を、狙ったかのように、見事に踏みに行っている。

「でも達也さん。あの子達、隠し扉も、ほぼ全部見つけてるわ」

 そうなのだ。開け方はルナから教わって、少し手助けしているけど、扉の場所は4人の内の誰かが見つけてしまう。子どもって凄いなぁ。

『ライナルト! この先に何があると思う?』

 ダニロが、テンション上げ上げで尋ねる。

『そりゃあ、お宝だろ! こんなに苦労したんだ。金銀財宝がザックザクだぜ、きっと!』

 一番苦労しているのは僕なんだけどな。
 上から降ってくるトゲトゲとかを、何回体を張って受け止めたか。
 っていうかさ……お前ら気付けよ。

『タツヤ、気付かれてはマズいのだろう?』

「そうだった。生死に関わるような罠があると知ったら、最後の部屋まで行ってくれないかもしれないもんな」

「少なくとも、女の子2人は、帰っちゃうと思うわ」

「そりゃマズい。気付かれないように頑張ろう。もう少しだもんな」

「達也さん。女の子が帰っちゃうのがそんなに嫌なの……?」

 何とも言えない表情の彩歌。こ……怖い!

「いやいやいや! じゃなくて、合言葉は、絶対に必要だもんな!」

「ふーん?」

 気をつけよう……罠のスイッチを踏むより、彩歌のスイッチを踏む方がよっぽど危険だ。





 >>>





『おい、これが〝最後の部屋〟の扉じゃないのか?』

 43の罠を全て体を張って無効化し、やっと辿り着いた場所。
 長い長い廊下の先に、今まで見た事もないぐらい、大きくて頑丈そうな扉があった。

「ルナ、ここが最後の部屋なの?」

『そうだよ彩歌。この中に、魔界の門がある』

 ……っていうか、こいつら結局、全部の罠に引っかかったぞ?!

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