上 下
76 / 264
5年生 3学期 2月

その力は愛のために

しおりを挟む
 ガロウズ星人の〝ヴォルフ〟は、大ちゃんの頭を片手でつかみ、持ち上げている。
 ……気持ちの悪い含み笑いを漏らしながら。

「ククク。苦しいか? 頭が砕けそうだな」

 バリバリという音が響き、とうとうヘルメットに大きな亀裂が入る。

『大ちゃん!』

『タツヤ。ダイサクは大丈夫だ。まだ生きている』

 ヴォルフの右手にヘルメットを残し、大ちゃんは仰向あおむけに倒れた。

「おっと、落としてしまったな。死んだか? 子ザル」

 今まで隠れていた、大ちゃんの素顔があらわになる。

「たっちゃ……え?! だ、大ちゃん?! 大ちゃんにゃ?!」

「ユ……ユーリ、逃げ……て……くれ……」

「大ちゃん! にゃんで? にゃんで大ちゃんが?!」

「ほう。まだ息があったか。ではそこで、このむすめの死にゆく様を見ているがいい」

 ヴォルフは、くるりとユーリの方を向いた。
 放り投げたレッドのヘルメットが、大ちゃんの前に転がる。

「くっ! ……や、やめろ」

「はあぁ? やめるワケないだろう。クックック!」

 ヴォルフは背中から斧のような武器を取り出して、ユーリに近付いていく。

「いやにゃ! やめて! いやにゃあぁぁ!!」

「やめろ! やめろおおお!!」

 必死で叫ぶ大ちゃんの前には、半壊したヘルメットと、ブルーの欠片かけらが転がっている。

『そうだ。タツヤ、あるぞ。ダイサクとユーリを助ける方法が』

 突然、ブルーが思いついたように声を上げた。

『本当かブルー?! どうすればいい?』

『タツヤ、覚えているだろうか? 私の欠片かけらには、膨大ぼうだいなエネルギーがたくわえられていて……』

『……! そうだ! どんな複雑なチカラも制御する事が出来る!』

 僕は慌てて土人形を操作し、グラウンドに飛び出す。

「大ちゃん! ヘルメットをかぶれ! ブルーの声を聞いてくれ!」
 
 ヴォルフが。ユーリが。そして大ちゃんが。一斉にこちらを見る。

「たっちゃん……!」

 大ちゃんは、必死で手を伸ばし、目の前にあるボロボロのヘルメットを被った。
 ……無事でいてくれよ〝すごメガネ機能〟!

『ダイサク、聞こえるか?』

 大ちゃんの目の前に落ちている青い欠片かけらから、ブルーの声が響く。

『……あー。今日もいい声だなブルー。オランダはいい所だろー?』

 よし、聞こえてる! 頼んだぞブルー!

『ダイサク、よく聞いて欲しい。今から形を合わせるから、私の欠片かけらを、ベルトにセットするんだ』

 パキパキと音を立てて欠片かけらは変形していく。
 彩歌あやかの心臓に変化したように〝ベルトの制御基板〟の形に。

『……! なるほど、そうか……わかった!』

 ベルト前面の〝複雑なシャッター構造〟のふたが開き、中の基盤が取り出される。
 そして、青く光るブルーの欠片かけらが、ベルトの中に納められた。

『ベルトを通して、私の欠片かけらのエネルギーが、直接ダイサクの体に供給される』

 大ちゃんを青い光が包み込み、周囲の空間が陽炎かげろうのように揺らいでいるのがわかる。

『凄い! どうなってるんだブルー? スーツまで直っていくぞ!』

 ベルトは普段の赤い光と、ブルー欠片かけらの青い光が混ざり、紫の光を放つ。
 みるみる内に、スーツの破れた部分は塞がった。
 驚いたことに、破損した胸、腹、頭の装甲も、元に戻っていく。

『これは……ダイサクが新たな力を……! 凄いぞタツヤ。 今、ステータスを表示するよ』



 ***********************************************
 九条 大作 Kujoh Daisaku

 AGE 11
 H P 32 + 2048
 M P 0
 攻撃力 24 + 512
 守備力 1001 + 2048
 体 力 24 + 1024
 素早さ 20 + 512
 賢 さ 5882

<特記事項>
 機械仕掛けの神デウスエクスマキナ ← NEW!
 超回復 ← NEW!
 不老 ← NEW!
 高耐久 ← NEW!
 瞬間記憶
 思考加速
 過集中
 バベルの司書
 星の守護
 ***********************************************



機械仕掛けの神デウスエクスマキナ……?! ブルー、これって……』

『ダイサクは、新しい能力を手に入れたんだ』

 大ちゃんは……いや、レッドは静かに立ち上がった。
 呆然と見ていたヴォルフは、レッドに向き直り、驚きの声を上げる。

「な……何が起きた? お前、な、何をした?!」

「そのを守るため、星の力を借りたのだ」

 レッドは、ピタリとヴォルフを指差した。

「……お前は絶対に許さない」

「にゃあ……大ちゃん……」

 レッドを見つめるユーリの瞳が、心なしかうるんでいる。

「ほざけ辺境のサルめ! もう一度ズタズタにしてやる!」

 恐ろしいスピードで接近するヴォルフを、レッドは微動だにせず待ち構えていた。
 ヴォルフは斧を振り下ろす。しかし、もうそこには誰も居ない。

「何?! どこだ!」

 ヴォルフは、完全にレッドを見失っているようだ。
 後退あとずさりして、キョロキョロと周囲を見回す……レッドは、その数センチ後ろにピタリとついていく。

「さっきのローボとかいう奴は、ここを、こうイジっていたはずだ」

 レッドが背後から、ヴォルフの腰にある装置を操作する。

「何?! そ、そんな……何を?! ぐあああああああっ!?」

 ヴォルフの体は、ボコボコと肥大化した後、しぼむ。そして体の周りに光の膜が現れた。

「全力を出してもらわないとな。後で〝本気じゃなかった〟などと言われるのは困る」

「フゥー! フゥー! ヨくも……ヨクもやってクれたナ! コウなっタらもウ、おワリナんだゾ?!」

「〝終わり〟なのは知っている。お前の言っているのとは、違う意味でだが」

「グおオォォおあぁァ!! 死ネしねシネ死ネェェエェえェ!!」

 ヴォルフは、さらにスピードを増している。土人形の目では、追うことが難しいレベルだ。
 ……だが、レッドはその攻撃の全てを、左手で軽く払い除けてから、こうつぶやいた。

「メルキオール・マリオネット、発動」

Readyレディー

 フォン! という無機質な音と、目に見えるはずのない〝威圧感〟が辺りを包んだ。
 一瞬、怯んだように見えたヴォルフだが、不意に芽生えた己の恐怖心を認めたくない一心で叫ぶ。

「ころス……! コロシてやル!!」

 やれやれ。そういう仕草の後、レッドは腕から飛び出した銀の筒を持ち、構えた。

「パープルブレード」

 レッドブレード本来の赤い光が、ブルーのエネルギーと混ざって、紫に輝く。 

「ふむ。違うな。お前が言うセリフは〝殺してやる〟ではなく……」





 >>>





 ……数分後。
 圧倒的な力の差で勝利したレッドは、〝殺してくれ〟と懇願するヴォルフに、ゆっくりと止めを刺した。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...