上 下
68 / 264
5年生 冬休み明け

雨上がり

しおりを挟む
 彩歌は、魔法で河川敷にいる人たち〝全員の記憶〟を操作した。
 目を覚ましたら、雨が降った事さえ覚えていないだろう。
 しかし……結構な人数だけど、大丈夫なのかな?

「ふふ。簡単よ。〝消したい記憶〟は少しだけだし、みんな寝ちゃってるから」

 〝記憶操作の魔法〟は、相手の意識がない状態で行う必要があるらしい。
 そういえば病院の時は、両親も先生も看護師さんも、魔法で眠っていたな。
 
「魔法で大勢を眠らせる方が大変よ。でも……」

「でも?」

「全員、ちゃんと眠っていたのかしら? 万が一、ちょっとでも意識の残っている人が居たとしたら、あとで大騒ぎになるわね」

「意識がある人……か」

 居てもおかしくない。栗っちとか、大ちゃんだって、もしかしたら動けないだけで、意識はあったかも知れないんだ。

「もしそんなヤツが居て、騒がれたりしたら、こっそり眠らせて忘れてもらおう」

 と言った瞬間、近くに倒れていたユーリがビクッとしたような気がするが……気のせいかな?

「案外、るりが覚えていたりして、騒ぎ出すかもな」

 まあ、アイツは魔法なんか使わなくても、チーかま数本で大人しくなるから良いか。
 ……とか考えている内に雨は止み、全員が一斉に目を覚ます。
 そしてマラソン大会は、少しの遅れが出たものの、違和感もなく無事に行われた。





 >>>





 マラソン大会は、上位者の表彰式で幕を閉じた。
 一般の生徒たちが帰っていく中、栗っち、大ちゃん、彩歌と一緒に、テントの片付けや備品の回収等をしている。運営委員であるユーリの手伝いだ。

「マジか! いやいや、俺は全く気づかなかったぜー!」

 大ちゃんは、ダーク・ソサイエティが現れたことさえ知らなかった。完全に眠っていたようだ。

「えっとね、雨が降ってきて、凄く眠くなって、そこから覚えてないよ。起きた時はみんな寝ちゃってるし、ビックリしたけど」

「栗栖くん、雨の事は覚えているの?! ……そこまで消したはずなのに!」

 栗っちも寝てたみたいだけど、彩歌の魔法の方は効いていないっぽい。
 ……やっぱりスゴいな救世主。

『タツヤ。そんなに堂々と会話しても大丈夫なのか?』

『心配ないだろ。皆、忘れちゃってるんだし』

 それに、関係者以外は、ここには居ない……あ、ユーリが居たか!
 そういえば、さっきからユーリは、何か言いたそうにチラチラと僕を見て来る。何だろう。いつもなら何でもかんでも話し掛けてくるくせに。

「どうした? ユーリ、たっちゃんに何か用か?」

 大ちゃんも気付いたようだ。

「やー?! な、何でもないよ!」

「そうか? 作業なら俺がやるぜー?」

「ありがと! 助かっちゃうよー!」

 うーん。明らかに何かあるが、まあ、いいか。
 もし今日の事を見られていても、ユーリにだって秘密があるし……なんとなくだけど、他人に吹聴などはしない気がする。

「ちょっと何これ?! ひどい!」

 片付けを手伝っている妹が、河川敷の入り口で騒いでいる。
 
「何事だ? もしかしてアイツ、やっぱり記憶が消せてなかったのか?」

 ……とりあえず眠らせて記憶を抜くか? 生まれてからの記憶を全部抜いてもいいぞ。その方が世の中、平和になる。

『やだ! いけない。達也さん、忘れてたわ』

『え…… 何を?』

『バリケード!』

『あっちゃー! そうだった……!』

 河川敷の入口付近には、ダーク・ソサイエティが登場の時に破壊した、ロードコーンとトラがらの棒が散乱していた。

『黙秘しよう。犯人は土の下だし』

『……うん』

『タツヤ。地中に沈めたワゴン車から、今日の雨に含まれていた薬品と同じ成分が入ったタンクを見つけた。サンプルを、ダイサクの部屋の毒劇薬庫に残しておくよ?』

『了解。あとで大ちゃんに伝えるよ』

 なるほど。雨を降らせていたのはワゴン車だったのか。きっと〝高性能アメフラシ機〟とか使ったんだろうな。

『タツヤ、それらしき装置も発見した。キミの部屋に移動させておこうか?』

 いやいや。そんなのが僕の部屋から発見されたら、いよいよ雨男あめおとこ容疑が固まっちゃうだろ。

『まあ、何かの役に立つかもしれないし、大ちゃんの部屋に置いといてくれる?』

『了解だ。あと、蜘蛛女くもおんなと黒スーツの残骸だが……』

『あいつら体内に、毒ガスとか爆弾とか入ってるかもしれないし、地下室に置くのは怖いぞ』

 加えて〝蜘蛛女〟は、人間部分が犬猫サイズとは言え〝死体〟だし、正直気持ち悪い……

「大ちゃん、ちょっといい?」

「あー、メガネなー」

 相変わらずスゴいな。なんで分かるんだろう……
 大ちゃんは、僕がうなずく前に〝凄メガネ〟を取り出した。

『今日の雨の成分サンプルと、雨を降らせる装置を大ちゃんの部屋に移動させてもらうから』

『あー、了解。後で調べてみるぜ』

『あと、さっき倒した、蜘蛛女と黒服の機械人間、地中に沈めてあるんだけど、要る?』

『おお! マジか、たっちゃん! それは絶対欲しいぜー!』

 やっぱり聞いてよかった。でも、危ないんじゃ……

『機械人間は、色々と危ないから、一番損傷の少ないやつを一体だけ、俺の部屋に届けて欲しいなー』

 言うまでもなく、とっくに考慮済みだ。

『了解したダイサク。いつ爆発してもおかしくないので、キミが部屋に戻って、変身した後で届けよう』

『助かるぜ、ブルー! あとさ、冷凍とかが出来ると便利だけど、なんとかなるかなー』

『蜘蛛女の生体部分の保管だな。そう来ると思って、冷凍室と冷蔵室を作成中だよ。あと2時間で完成する』

『さすが! わかってるなー』

『ダイサクは本当に熱心だな。頭が下がるよ』

『いやいや、俺は好きでやってるんだぜー! 傍目はためには、ただの変わり者だろうけどなー』

 でも、そういう一握りの〝変わり者たち〟が、世界を動かしてるんだよな。純粋に凄いと思う。





 >>>





「やー! みんなありがとうー! 助かったよー!」

 後片付けが終了して、僕たちはそれぞれの帰路についた。
 別れ際まで、ユーリは僕の方を見ていた。やっぱり今日の戦いとか、見られていたのかもな……

『なあブルー、ユーリに話そうか』

『そうだね。悪意も敵意も無さそうだし。ただ、水曜日が終わるまでは、様子を見よう』

『分岐点、か』

『うん。彼女の方も、なにか〝予約〟が有るらしいが、キミの使命はこの星の寿命に関わる。申し訳ないが、後回しだ』

 そうだな。とにかくユーリには、オランダ、アメルスフォールトでの分岐を、無事に導いてからゆっくり事情を話そう。

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...