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5年生 冬休み

ユーリって

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「大ちゃん、作文なんだけど、後で見てくれない? 不自然な事とかあったらマズイし」

 冬休みの宿題だ。
 400字詰め原稿用紙に3枚以上。

「ああ、そう言えば、昨日の事を書くって言ってたなー」

 昨日の事と言っても〝怪人とヒーローが戦った〟とかは、もちろん書けない。
 大ちゃんと買い物に行った事を、それらしく書いたのだが、ほぼ創作だ。辻褄つじつまが合うように、念のため、大ちゃんにも見てもらっておこう。

「まあ、大丈夫だと思うけど。大晦日の事、書いたしなー、俺」

「大晦日の事って、まさか事故の?!」

「ちがうぜー。さすがにアレは、書いちゃマズイだろうし。ほら、ユーリと偶然会って、ウサギ当番、付き合わされただろ?」

「ええ?! そんな事あったっけ……? そういえばユーリ、正月にコンビニで言ってたような……」

「んー? 今の言い回しだと、正月より前の事は、たっちゃんには〝15年前の記憶〟なんだな?」

 さすが大ちゃん。正月以前の記憶に、26歳までの記憶が挟まっていることを、一瞬で見破った。

「うん。実はあんまり覚えてないんだよ。僕にとっては今の状況って〝懐かしの思い出〟なんだ」

「えへへー。そういえばたっちゃん、ユーリちゃんとコンビニで出会ったって言ってたよね。ミカンをあげたんだっけ」



「あー、あいつ、ミカン好きだよな」

 僕は、ナイショ話をするべく、わざわざ目の前に居る栗っちを思い浮かべて、右手に力を込めた。

『栗っち! ユーリが、僕のことを好きかもしれないっていう話、大ちゃんには、しないで!』

『あ、そうだよね。大ちゃん、ユーリちゃんの事、好きだから』

『……なんだ、やっぱり気付いてたのか。心配して損した』

『えへへ。ついでに、たっちゃんが僕に〝口止めしなきゃ〟って考えた事も、分かってるよ』

 〝精神感応〟だ。栗っちにしてみれば、相手の思考も会話の一部なんだろう。

『栗っちにはかなわないなー! じゃ、そういう事で』

 良かった。ユーリは、大ちゃんと仲良くなってほしい。大ちゃんは僕よりスゴい奴なんだ。
 ……えっと、何の話だったっけ。あ、ミカンか。

「そうなんだよ、あいつ、袋いっぱい持って帰ったぞ」

 ふと、少し首をかしげる大ちゃん。

「……今、ちょっと不自然な〝間〟があった気がするんだが。俺ぬきで、なんか話したか?」

 ヤバッ! 感付かれた?!

「えっとね、ブルーさん……あ〝地球の意志〟さんの声、ユーリちゃんにも、聞こえてたかもしれないって。だよね、ブルーさん」

『カズヤ、神対応だな』

『ナイス栗っち!』

『エヘヘー!』

「マジかよ……! ユーリにも聞こえるのか! なんで俺には聞こえないんだろうなー……」

『いけない。ダイサクは、少し気にしたかもしれないな』

『そう来るか~!』

『やっちゃった? 僕やっちゃった?!』

「そういえば、ユーリの怪力は、ちょっと人間離れしてるからな。もしかしたら、アイツも〝特別な存在〟なのかもなー!」

「でもでも! 大ちゃんも、かしこいし、凄い特性もあるし、きっと近い内にブルーさんの声も聞こえるようになるよ!」

「そうそう。むしろ今現在、ブルーを認識できないのが不思議な位に、人間離れしてるよ」

「んー、褒められてるのかどうか、怪しい感じだけど、二人ともありがとなー」

 ふー。
 なんとか誤魔化ごまかせたかな。

「で、話を戻すけど、僕は地球の破壊を防ぐために、世界中を飛び回る事になるんだ」

「えー! この町で、何か起こるとかじゃないのか。大変だな、そりゃ!」

「そういえばテレビのヒーローって、日本だけで戦ってるね。襲われるの、東京ばっかりだし」

『カズヤ、戦う時は、採石場か、最近では海岸などが多いようだ』

 なんでお前がそんな事知ってるんだよ、ブルー。

「でね、もうすぐオランダに行くんだけど、鳥取までは、自腹で行かなきゃいけないんだ」

「うはは、何だよ、それ! おもしれぇなあ!!」

 ウケた。確かに突拍子もない話だよな。

「んー、じゃあ、この前の旧札が、その旅費だな? 新札にしないと使いにくい。だろ?」

 旧札、見られていたのか。そういえば、駐輪場でお金を出したときは、無防備だった。

「実は、埋蔵金を掘り起こしたんだけど、旧札だったんだ。頑張って、なんとか10万円ほど用意したんだけど」

「そっか、旧札で買い物して、お釣りを集めていたんだな。言ってくれれば、ベルトの部品を買わせてあげたのになー!」

 ワハハと笑う大ちゃん。そうか。最初からそうすれば良かった。

「あとは、ユーロに換えるのが大変そうでねー」

「ユーロならあるぜ。交換しようか」

「ホントに?! なんであるの? あ、そうか、ドイツ!」

「どれくらい交換する? 結構持ってるけど、オレあんま最近、ドイツについて行かないから、日本円のほうが良いんだよな」

「じゃ、300ほどで。お金は地下室にあるから、後で持ってくるよ」

「作文も忘れずになー! ああ、早くその地下室に行きたいぜ!」

「絶対、入れるようになるから! その時は、大ちゃんの部屋も作るからね!」

「うお! マジか! 期待してるぜー!」

 時計は、ちょうど7時を指している。そろそろ一旦帰らないと、母さんが起き出してしまうな。

「じゃ、一旦解散して、また集合する?」

「そうだ、俺、今日がウサギの当番なんだ。ちょっと行ってこなきゃ」

「大ちゃん、僕も行くよ。昨日の今日だし、何かあったら危ないからね」

 まあ、大ちゃんの事だから、ベルトはもう直ってるんだろうけど。

「おー。たっちゃんありがとう! 実際、ちょっと不安だったんだよ。ベルトは直したんだけど、弱点を改善し切れてないし、たぶん昨日ぐらい使ったら、またオーバーヒートするからなー」

 さすが! やっぱり、もう直してる!

「僕も行く! 僕も! 大ちゃんを護衛して、友情パワーで、ウサギにエサをやろう!!」

 エサやり自体に、そのパワーは要らないんじゃないか。
 エサを食べたウサギが、ムッキムキになりそうだ。

「とりあえず、8時に迎えに来るよ」

「じゃあじゃあ、大ちゃんち前、集合ね!」

「おー、よろしく頼むぜー!」





 >>>





 午前8時ちょうどだ。
 大ちゃんの家の前で、300ユーロを受け取り、僕が新札を渡そうとすると、

「あ、いやいや、旧札でいいんだぜ。どうせまた、パーツ買いに行く時に使うんだから」

 と言ってくれたので、ちょっと多めに旧札を手渡す。

「おいおい! これじゃ、多すぎるよ」

「いや、いいんだ。手間賃と思って。それに元々、掘り出したお金だしね」

「いいのかー! 有り難いぜ。最近、部品代がスッゲーかさんでさー! これはありがたく、世界の平和のために使うぜー」

 本当にそうなのだから、これはさすがにも当たるまい。

「あと、作文を……」

 大ちゃんは、僕が差し出した原稿用紙を、パラパラと見た。

「おっけー。大丈夫だ。問題なし!」

「もう良いの?! やっぱりスゴい!」

「いやいや、不老不死には敵わんぜー」

 とかやっている内に、栗っちも来てくれた。

「お待たせー! ごめんね」

「いやいや、悪いなー、付き合わせちゃって」

 僕と栗っちと大ちゃん、3人で学校に向かう。

「うわうわうわ。3人で学校行くの、久し振りだなぁ!」

「そっかー、たっちゃんは、15年後から来たんだもんね」

「俺や栗っちは、たっちゃんと学校に行くのなんか、数日振りぐらいなのにな」

「んー、色々と懐かしい事だらけでね。涙腺るいせんゆるみっぱなしだよ」

「たっちゃんは、もともと涙もろいよなー」

「そうだっけ? まあ、そんな気もするな」

「そうそう、僕もだけどね! えへへ」





 >>>






 つい先日、一度来ていたので甘く見ていたが、学校に着くと、懐かしい風景がまたしても目頭を熱くする。そうか、あの時は真っ暗だったんだ。不意を突かれた。

「ほらー、たっちゃん、また泣いてる」

 大ちゃんに茶化ちゃかされた。でもまあ、泣くよな。

「たっちゃん、わかるよ。良かったね、懐かしいよね」

 一緒に泣き出す栗っち。これもある意味〝精神感応〟なのかな。
 校門をくぐり、うさぎの小屋へ向かう。校庭では低学年の男の子と、その父親が凧揚げをしている。ザ・お正月だな。
 さて、エサエサ……と。

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