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5年生 冬休み

地下室へ

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 物置ものおきが、轟音ごうおんとともにせり上がっていく。
 なんとも形容けいようがたいが、裏庭の物置は、僕の目線よりも高い位置まで持ち上げられている。

『ちなみに、これも一般人には認識される事は無い』

 この不可思議な状況は、ブルーとの会話と同じ様に〝自然現象〟と捉えられ、誰にも気付かれる事はない。

「良かった。かなり大きな音が響いてるから、誰か来るかと思ってヒヤヒヤしたよ」

 〝物置の下〟って、こういう事か。

「でも、なんでわざわざ、物置の下なんだ?」

『念のためだよ。ここなら掘り起こされたりしないからね』

 轟音が止むと、盛り上がった土の壁に、スゥっと扉が現れた。

『ちょっとカッコイイ扉をつけてみたよ。開けてみて?』

 変な所、凝るよなぁ。
 ……ゴウッと鈍い音を立てて扉が開くと、下へと続くレンガ造りの階段が現れた。

『地下室を作った。勿論もちろん、私を認識できない人間には入れない。この中に入れるのは、キミと、アヤカと……』

「もしかして、ユーリ?」

『うん、そうだね。あの娘は先程、私の声を認識していた可能性がある』

「〝重さを言い当てる特技〟とかじゃないか?」

『なるほど。それなら良いのだが』

 まあ、ユーリに、そんな特技があるなんて、聞いたことないが。

『あと、可能性としては、もうひとり……』

「え?」

『いや。それはまだ私の憶測おくそくに過ぎない。とにかく、中へ』

 僕は、ブルーにうながされ、旧札きゅうさつがギッシリ詰まったリュックサックを背負い、地下室への階段を降りていく。
 少し降りると、また轟音が響いた。

『閉じておくよ。物置があの位置だと、中の物が取れないからね』

 地下への入り口が開いていると、物置がせり上がっているから中の物が取れない。
 それでも一般人には、この部屋の扉は認識できないのだそうだ。全てが自然現象だと感じて、スルーしてしまうらしい。

『例えば、大雨で川が渡れなくても〝不便〟ではあるけど〝不思議〟ではないよね』

 なるほど。物置の物を取れなくても、不便だけど、不思議じゃない。ってことか。
 それ自体が、僕にとっては不思議なんだけど。

「それにしても、ここ、ちょっと暗すぎないか?」

 入り口が閉まり、周囲は暗闇に包まれた。ブルーの光で、少し先が見える程度だ。

『ああ。すまない。〝暗視〟は まだ使えなかったね』

 ブルーが光を強めてくれたので、かなり下の方まで見えるようになった。

『その内、明かりを用意するよ』

 階段を降りた先に、また扉がある。

『この扉は、さらにカッコ良くした』

 なぜだ?
 ……まあいいや。僕は扉を開ける。
 中は予想以上に広かった。無機質な、乳白色の床と壁。必要以上に高い天井には、光る球がいくつも埋まっていて、結構明るい。

「ブルー。ここはどれぐらいの広さなんだ?」

『キミの部屋が、20個は入るよ。仕切りも好きな様に作れるし、一応〝呼吸不要〟のキミ以外でも大丈夫なように、外気も循環させている。好きに使ってほしい』

「広すぎて落ち着かないよ。僕の部屋ぐらいの広さで、壁とドアを作ってくれない?」

 なぜだろう。ここにポツンとリュックサックだけ置いたら、言い知れない不安感があるな。

『了解した』

 さっきのような轟音が響く……かと思ったら、なんかスマートに、シュッ、シュッという感じで、壁が出来ていった。

『タツヤ……意外?』

 何で〝してやったり〟って感じなんだよ……なんか腹立つ。
 最後に、扉だけは、ゴゴゴゴウン! と轟音をあげてせり上がって来た。

『タツヤ……この音?』

 その音だよ! 好き勝手しやがって!

「入り口の扉は、スゥって現れたじゃないか! なんでここだけ、その音なんだよ!」

『効果音はサービスだ。以後、好きに選んで欲しい』

「はいはい。気を使ってくれてありがとう。炸裂音さくれつおん以外を、ランダムで頼む」

『あはは。さすがだタツヤ。次は〝中国のお祭り〟みたいな音にしようと思っていたんだ』

 うっわ! 危ない所だった。爆竹って不意に聞くとビックリするからな。っていうか、地球の意志って、こんな感じなのか?

『さてタツヤ。冗談はここまでだぞ?』

 うん。その冗談の発信源は、お前だよね、ブルー。

『古いタイプの紙幣を、どうやって使うかが、まずは一番の課題だね』

 新しく出来た小部屋に入り、シュッと出てきた椅子に腰掛けて、某コンビニの入店音とともに出てきたテーブルに、札束の入ったリュックを置く。
 ……冗談はここまでじゃなかったのか。なんで効果音リストに、その音が入ってるんだよ。

「他の埋蔵金を探すというのもアリじゃないか、ブルー?」

 僕は、何事も無かったように、話を進める。

『それなんだけどね。少し時間を置かないと、さすがに金銭系のジャンルで、これ以上、歴史を曲げるのは、キミの特異点としての許容を、超えそうなんだ』

「マジか。それって、超えるとどうなるんだ?」

『それ以上の大きな力で押さえつけられる』

 なるほど。アレか……

「……で、実際には、何が起きて、どうなるんだ?」

『わからない。何かが起きて、どうにかなってしまう』

 アバウトだな! 逆に、すごく怖い。

『タツヤ。古い紙幣を選んでしまって申し訳ないと思っている。今回はなんとか、これを使ってしのいで欲しい』

「わかったよ。なんとかしてみる」

 とは言ったものの。どうしよう。
 小学生が単独で、飛行機とか新幹線に乗るだけでも目立つのに、それを全部、旧札で支払ったりしたら更に怪しさが増してしまう。
 それに、現地のお金……ユーロへの両替も、違和感のない新札を使いたい。たしか年齢制限は無いはずだが、小学生は外貨に両替とかしないよな、あんまり。

「いっそ、怪しまれるのを覚悟で、思い切って使っちゃうか。旧札」

『ダメだ、タツヤ。〝土人形つちにんぎょう〟の取得時期と、その練習、移動時間も考えると、トラブルひとつで間に合わなくなる恐れがある。今回の分岐点は、わりと重要なんだ』

「そうか。万が一、家に連絡されたり補導されたりしたら、時間をかなりロスするな」

『さらに、確率は低いが〝敵〟が存在していて、察知されたりしたら厄介なことになる』

「やっぱりダメだな。リスクが大きすぎる」

 僕は、リュックから札束を一つ取り出して、ペラペラと指で弾く。

「……これを、どうやったら怪しまれないように使える?」

 突然、お金を束ねている紙が破れて、バラバラになった紙幣が床に散らばる。

『タツヤ、その帯も、かなり劣化していたようだね』
 
「あちゃー。やっちゃったな」

 僕は紙幣を拾ってテーブルに置いていく。最後の一枚は、部屋の隅まで飛んでいた。
 それを拾って、天井の光る球に透かしてみると、透かしが入っている。

「間違い無く本物だ」

 〝今頃かよ〟と、お思いかも知れないが、たばのままだったので気にも止めなかった。

「……待てよ? 同じ場所でたくさん使おうとするから目立つんだよな」

 どうして思い付かなかったんだろう。

「少しずつ、違う所で使って〝お釣り〟を集めればいいんだ!」

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