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第2話

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 私の名前は、阿寒鷹華あさむようか。もう何時間も、当て所なく荒野を歩いている。
 ここは見知らぬ異世界〝イシュタルドーズ〟……
 母さんに変なヨロイを無理やり着せられ、言われた通りに指輪を付けて、奇妙な合言葉を唱えると、いきなり目の前が真っ暗になって……気付いたら、こんな訳のわからない状況に陥ってしまっていた。

『あっ! 鷹華ようか、まだ説明が!』

 ……って、母さんが最後に言っていたから、きっと私、やらかしちゃったんだわ。
 私は、カバンから手帳を取り出して、ここに来てすぐに書きなぐった、あの文字を確認する。

「フォセッゼ・ノサ・デュエニラ!」

 ……はぁ。駄目だ。合言葉はメモっておいたけど、いくら唱えても元の世界に戻る事が出来ない。きっと別の合言葉があるんだ。
 本当におっちょこちょいだ! 私のバカバカ! あと、母さんもついでにバカ!
 こちらの世界について、少しだけ話は聞けていたんだけど、戻り方が分からなければどうしようもない。これって、私の人生、詰んじゃったかもね……

『会話は、指輪があれば問題ないわ。いわゆる自動翻訳機能ね』

 会話も何も、誰も居ないじゃない。せめて誰か人に出会えれば、何か手掛かりが掴めるかもしれないのに。
 母さんの話では、この世界の1年は724日、1日が28時間。不思議な事に、指輪を使って転移したあとは、どちらかでおよそ3年過ごせば、反対側で1時間ほど経っているらしい。

『つまり、あっちで2000日以上居ても、こっちではたったの1時間なのよ』

 でもそれだと、行ったり来たりしたら、自分だけ歳とっちゃうじゃない? 漫画とかで、時間を止めたりとかするけど、あれも止めてる間は自分の時間だけが進むよ。何度も繰り返せば、あっという間におばあちゃんになっちゃう。

『いいえ。その指輪で転移するとね、〝故郷〟……心から〝自分の居場所だ〟と思っている側でしか、歳をとらなくなるの』

 アウェイだと、歳をとらずに済む? 一体どういう仕組みなんだろう?
 ……あ、良いこと思い付いた! じゃあさ、ずっと、故郷と反対側の世界でいれば良いんじゃない? 不老長寿状態になれると思うんだけど。

『ふふ。ずっと居続ける場所こそが、その人の故郷よ。だから母さんはこんなに歳をとったの』

 父さんと結ばれ、兄さんや私が生まれ〝イシュタルドーズ〟はもう、母の故郷では無くなった。そういう事だ。
 あ! ストップ! 回想シーン、ストップ! それはもう置いとくでいいや。
 ……母さん? 私が食材を狩りに来るっていうのは、やっぱちょっと無理があったと思うんですけど。だって……

「グヴァアアア!」

 突然目の前に、見たことのない、巨大な獣が現れた。動物園で見た熊よりも大きいし、口の裂け方が明らかにおかしい。ほら、なんで頭が半分めくれ上がる感じになっちゃってんの? ……コイツ絶対、友好的なヤツじゃないでしょ?

「ガルルルル! グヴァアアァ!」

 ひいぃ! やっぱそうだ! 逃げても追いかけてくるよ!
 ……あれ? でも、ワンちゃんも逃げたら追いかけてくるし、ただ遊んで欲しいだけとか、悪意は無くて本能的に追いかけてしまうとかもあるわよね?
 もしかして、私が止まったら向こうも止まったりして。

「ガヴァアアア!!」

 駄目だ! 止まったら止まる! 立ち所に私の息の根が止まる! 助けてー!!
 必死で逃げる私……獣は、恐ろしいスピードで追いかけて来る。それでなくても私、短距離走とか超苦手なのに! ああ、私はこんな所で死ぬ運命だったのね。

「グオオォォ! グヴァアアアア!」

 ……?
 あ、あれ? 追いつかれない? アイツ、足おっそ! なんだか知らないけどラッキー! このまま逃げ切れるんじゃないかしら。……私、長距離走も苦手だけど。

「おい、キミ! 大丈夫か?」

 ……はい?

「そのまま真っ直ぐ走って! そのままだぞ!」

 人の声? どこから?
 ……と思った次の瞬間、火のついた矢が飛んで来て、私の後方に居る獣に刺さった。一瞬にして火は獣を包み込み、燃え上がる。

「グギャアアァァ!!」

 断末魔と共に動かなくなる獣。私、助かったの?
 燃えている獣を呆然と見ている私に、背後から、大きな弓を担いだ髪の長い女性が声を掛けてきた。

「怪我はないか? しかし驚くほど俊足だな! ベイアルが追いつけないなんて。凄い加護持ちなんだろうな、キミは!」

 ベイアル? 加護持ち? っていうか、この人、耳がとんがってる! ああ、情報が多すぎてクラクラする~! で、でも、お礼は言わなきゃ。
 助けて下さってありがとうございます。私は阿寒鷹華あさむようか。こっちの世界に来たばかりで、よく分かりません。ごめんなさい。

「こっちの世界? ああ、キミは外国からの旅行者か。よろしくな、アッサム・ヨーカ! 道に迷ったなら案内するぞ? ちょうど私もこの先の町に用があるのだ」

 やった! 町があるのね! 荒野で野垂れ死なずに済みそう!
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