本能と理性の狭間で

琴葉

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今こうして自分を求めているのは比良木の意思ではない。
Ωがαを求めているだけ。
そして自分もαとして、このΩに応えようとしている。
目の前のこの美しくかわいそうな生き物は、比良木であって、比良木ではない。
比良木でなくなった時に、自分も大杉ではなくなる。
それが悲しくて。
ふと大杉をよじ登るように体を起こした比良木が、大杉のきつく閉じた瞳に口付けてきた。
驚いて目を開けると、やはり虚ろな目をした比良木がふわりと微笑んでいた。
それを見てまた悲しそうに目を閉じた大杉を、再び比良木が口付けてくる。
「大丈夫、ちゃんと覚えてるから」
その言葉に昨日との微かな違和感を感じた。
昨日は本当に会話が成り立たなかった。
けれど今は…。
表情や香りは昨日と変わらない。
むしろ今日の方が香りはきつい。
覚えている、確かにそういった。
大杉の思考もだんだんと薄れてくる。
香りに煽られ、たまらなく欲情してくる。
これは、αの本能だけではないと信じたい。
比良木に微かでもいい、自我があると信じたい。
そう願いを込めて、比良木に口付けた。
「ふぅ、ん、んん」
比良木が漏らす吐息は堪らなく甘い。
比良木から香ってくる匂いと同じくらい、大杉の下半身を直撃する。
深く重ね、激しく舌を絡めていると、比良木の口端から2人分の唾液が溢れて顎を伝って落ちた。
すぐに崩れ落ちていく比良木の体を追いかけて被されば、重なった体温に比良木が喘いだ。
「はあ、ん」
ふるふると震える体を掻き抱けば、微かに仰け反り快感に喘ぐ。
服の中に忍び込ませた手に、しっとりと馴染む素肌。
丁寧に服を脱がせ始めると、比良木の手が大杉の服に伸びてくる。
震える指先で一つずつボタンを外す姿に、愛おしさが込み上げた。
お互いの素肌が現れると、大杉はそれを密着させた。
「あ、ああ」
体温の触れる感触にも比良木は敏感に反応する。
小さな可愛らしい突起に唇で触れると、びくんと跳ねた。
それからおずおずと見下ろしてくる。
朱の差した頬とキスで濡れた唇が強烈な色香を放っている。
堪らず突起に吸い付いた。
「ひあ、ん」
大きく跳ねて、腰がうねり出す。
突起を舌先で弄びながら、ズボンに手をかけて引き下ろした。
現れた性器はしとどに濡れ、微かに震えている。
触れようとすると、手を掴まれ、首を振る。
「どうして?昨日はあんなにせがんでたのに」
そう言うと、ますます首を振る。
微かに残る理性がそうさせるのか。
恥ずかしそうに腕で顔を隠す仕草をした。
比良木の自我を垣間見た気がして、引き止められた手ではなく、唇を落とした。
「ひ、やあ、あ」
先端に口付けただけで、トロッと蜜が溢れ始めた。
それを舐め取るように窪みに舌を這わせるとガクガクと震える。
茎を舐めるようにしながら、そっと指を忍ばせた秘部はもうしっとりと濡れている。
これもΩである証の一つ。
本来濡れる器官ではないが、内部の奥深くに子宮が備わっているため、交尾の際にその結合を潤滑にする体液が分泌される。
つくづく生殖に特化した体だ。
指を押すように差し入れると、するりと飲み込まれた。
「ああっ」
比良木が体を震わせ、快感に身を捩る。
内部を押し広げるように指を動かすと、女性器のように濡れた音を立てた。
「ひゃ、ん、やあ」
大杉の幻聴か、錯覚か、昨日とは喘ぎ声も違う気がした。
その微かな違和感にこのまま縋ってしまおう。
そう、思った。
音を立てながら比良木の性器を吸い上げれば、びくんと跳ね、口中にじわりと苦味が広がった。
「や、はな、して」
そう頭を掴んでくる。
構わずに口に大きく含んで、上下に扱いているとぎゅっと髪が掴まれ、口の中で比良木が弾けた。
「ああああ、っ」
大きく反り返った体がぱたっと床に落ちた。
口元を拭いながら比良木を覗き込むと、余韻に打ち震えながら固く閉じた瞼の端から一筋の涙を流した。
「はあ、あ、は、なして、ていったの、に」
そう言いながら真っ赤になる。
ぞくぞくと背を何かが這い上がってくる感覚に、大杉は身震いして、比良木の孔穴にもう一本指をつきたてた。
「あああ、んん、ああ」
指を動かすたび、比良木の腰が揺らめき、大杉を誘う。
昨日大杉を受け入れたそこは、柔らかく指を飲み込んでいく。
「や、あ、もう、も、う」
比良木の手が大杉の頬に伸びて、強請るように潤んだ瞳が見つめてくる。
とっくに張り詰めて、限界が近かった自身をあてがうと、比良木は期待に震えた。
「は、やくぅ、あ、挿れて、あっあ」
先の快感を期待しただけで、比良木は感じてしまうようだ。
あてがっただけの入口が大杉の先端に吸い付くようにヒクついた。
とろりと蜜を溢れさせる。
ぐっと押し込むと、背を反らせて震えた。
「ああああ」
快感に震えながら、大杉の背に腕を回ししがみついてくる。
「痛くない?」
大杉の問いかけにこくこくと頷く。
それから薄っすらと瞳を開け、上唇をちょっと舐める。
ずくっと下半身に衝撃のような血の集まりを感じた。
「ひゃ、おおきく、しない、で」
比良木が悲鳴のような声を上げて、体を丸ませしがみついた。
「じゃ、煽らないで」
「ああ、ん、そ、んな、ああ」
大杉が腰を動かすと、比良木がさらに高い声で鳴き始めた。
「ああ、あ、ああ、あ、あ、んい、い」
もう快感しか追ってないことはわかっていたが、それでも大杉は微かな望みを持って話しかけた。
「俺のこと呼んで」
「あ、あ、ああ、あんん」
首を振りながら、微かに腰を振る。
「ああん、い、いい、もっと、も、とぉ」
その姿に煽られながら、それでも悲しくて、大杉はぎゅっと目を閉じた。
「聡史、聡史」
呼び戻したくて、繰り返し繰り返し呼んだ。
返ってくるのは嬌声ばかりで。
虚しいのに、興奮する自分がいて。
「ああ、あ、ああ、い、く」
「聡史」
相変わらず呼びかけには応えず、限界が近いのだろう、何度もいく、と繰り返す。
比良木の中は大杉を追い上げるように躍動し、射精を促してくる。
「く、そ、俺も」
「ああ、あ、な、かに」
Ωの本能からか、中だしを要求してくる。
昨日と同じ。
大杉はぎゅっと目を閉じた。
αとして、それに応えよう。
一際激しく腰を動かすと、比良木の体が大きく反った。
「ひ、ああああああっ」
「くぅ、っさと、し」
大杉が中で弾けると、比良木がびくんと跳ねた。
「あ、ありょ、う」
二人の間で、比良木が弾ける。
大杉は余韻に数度体を震わせながら、ぐったりと弛緩する比良木を驚いたように見下ろした。
最後の瞬間、確かに比良木が自分を呼んだ。
聞き間違いではないはず。
大きく胸を喘がせ、余韻に震える体を見下ろして、そっと離れようとすると、ぎゅっと足が絡みついてきた。そして同時に悲鳴のような声も上がる。
「いやぁっ」
思わずびくっとして動きを止めると、濡れて揺らぐ瞳が見上げてきた。
「ちょ、っと待って。まだ、だめ」
「え、ああ」
大杉が戸惑いながら答えると、背に回された腕がキュッとしがみついてきた。
「ごめ、も、ちょっと」
小さく震える体をそっと抱きしめると、溜息のような喘ぎが聞こえた。
「ん、ふぅ、ん、ん」
訳も分からず抱きしめていると、腕の中でくすりと笑う声がした。
「比良木さん?」
「聡史でいいよ」
「え」
「さっき、そう、呼んでくれたじゃん」
「え、覚えてる、の」
思わず腕の中を覗き込むと、嫌がるように顔を押し付けられた。
「覚えてるって、言った」
微かに返ってきた言葉にぐっと熱いものが込み上げてきて、きつく抱きしめた。
「く、くるしいって」
抗議の声も嬉しくて愛おしくて、しばらくそのまま抱きしめた。

大人しく抱き締められてた比良木が少し身じろいだ。
それを合図に腕を緩めると、目だけが見上げてくる。
じっと観察するように大杉を見つめる。
「な、なに?」
そう尋ねると、また顔を胸にぐりぐりと擦り付けてくる。
その小動物のような仕草が堪らなく可愛いと大杉は思うのだが、きっと比良木は無自覚だろうとも思った。
「あ、の」
「ん?」
腕の中を見下ろしてみるが、頭は変わらず胸に押し付けられている。
大杉から見える耳が真っ赤になっていた。
何だろう?
そう思いながら、言葉を待つ。
「あ、明日も、きてくれませんか?」
「え」
「え、と、あの、いやじゃ、なかったら、期間中、毎日来て、欲しいです」
比良木からの思いもかけないお誘いだった。
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