高橋課長と佐藤君

琴葉

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佐藤君 1 恋人への昇格計画

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俺はホモじゃない。
むしろ女好きだ。
自分の容姿も把握してるし、女受けする性格も熟知している。
自慢じゃないが、女が喜ぶことは、普通にできる。
なのに。
今まで順風満帆でやってきた職場でまさか、こんな罠に落ちるとは思ってもいなかった。
存在はもちろん知っていた。
仕事もできるし、無自覚だろうけど、部下から慕われていることも知ってる。
そして、同期の渡辺課長と共に社内では有名人でもあった。
部署が違ううちは「ふうん」ですませていたものが、部署移動になり一緒に仕事を始めると一変した。
とにかく、色気が半端ない。
女にしか興味ないはずの俺が惑わされるんだ。
相当なもんだと思う。
きりっと決めたスーツ。
覗く襟元。
これが残業タイムに入ると、少し緩められたネクタイから色気が漏れ始める。
初めて目の当たりにした時は眩暈がしたほどだ。
同じ男とは思えない。
整った顔立ち。
でも目つきは悪い。
細い体。
そこまで小さい背丈ではないけれど、小さく見える。
切れ長の瞳が、鋭く射貫いてくる。
目の前に立って注意を受けると、背筋が凍る、同期が言っていた。
が。
俺は別のことに捕らわれてしまった。
書類を見下ろす課長の、項からシャツの隙間までのライン。
涎が出そうなほど、色っぽい。
俺の身長からしか見えないのか。
ほかの奴は気付いてないみたいだ。
俺は健全な方なので、欲情すれば普通に抜く。
ただ、それが男だったのは初めてだが。
自分でもびっくりするぐらい抜けた。
どんなよがり方をするとか、どんな声を上げるとか。
本人は気付きもしないだろうが。
職場で見せる一挙一動が俺のオカズになっていた。
思いがけず、酔っぱらう姿まで見せられた。
ましてや、無防備に色気ダダ漏れな寝姿を見せられたら。
抜かないわけにはいかない。
まさか課長が目を覚ましていて、さらに反応するとは思わなかったけど。
生の欲情してる姿は想像を超えていた。
そして。
課長はあっけなく俺の手に落ちた。

俺は落ちてきた獲物を逃がさないことに夢中で。
何とか俺のものにしておこうと、あの手この手、考え付く限りで捉えた。
相手が男だとか、俺も男だとか。
世間に知られてはいけない、とか。
一切考えていない。
とにかく、こんなに欲しいと思ったものはこの人が初めてだった。
快楽に弱いことはすぐにわかったから。
快感で引き止めようとした。
でも。
目を離すと、俺以外にまで色気を振りまく。
そこが何よりむかつく。

便座のフタを閉めてその上に座る俺の股間に、課長が顔を埋め熱心に俺の肉棒を舐めている。
最初は拙くて、でも懸命に自分の快感と照らし合わせて愛撫していた。
すっかり慣れてきたよな。
俺を時々見上げながら、味わうように舌を這わせて吸い上げて。
俺の先走りで口周りをべたべたにして。
恍惚とした表情で頬張る姿は妖艶淫靡。
本当はもっと、ちゃんとした関係を築いてからやってもらうはずだったのに。
思いがけず課長自ら始めてしまった。
俺のを咥えて、腰を揺らす。
咥えてるだけで感じているのがはっきりわかる。
それを見てるだけで俺も堪らない。
十分に勃起して、むしろそれ以上されたら出そうなとこまできたので、俺は課長にゴムの袋を差し出した。
課長は受け取ると慣れた調子で歯で封を切り、口に含んで俺のに被せる。
立たせた課長のやはりすでに勃起しているものにゴムをつけて、便器を跨がせ壁に手をつかせた。
肩越しに俺を振り返る目は、次を期待して潤んでいる。
スラックスと下着を下げた奥で俺を待ち受ける入口に、ジェルを注ぎ込む。
本来だったら、俺の部屋だったら、十分に指や舌で愛撫して、そこだけで何回かイかせるとこだけど、職場で週に一回だけは挿入目的なので、途中の手段を端折っている。
週一だと、せっかく慣らした身体に無理をさせてしまうから。
覚えて欲しいから。
俺を。
ゆっくりと、傷付けないように侵入して、課長が落ち着いた頃抽送を始める。
内部も覚えてきた。
お互いに。
俺は課長が悦ぶ場所しか攻めない。
悦んで、溺れて、逃げられなくする。
課長は口に手を当てて声を押し殺してる。
でも揺れる腰や、手の中でびくつく性器が快感を教えてくれる。
背後から揺らす項にかぶりつきたくなるのをいつも我慢してる。
まだダメだ。
まだ、課長の体の他の部分には触ってはいけない。
内部の絡みつくような刺激に、自分の計画を反芻して耐え凌ぎ、課長の絶頂を確認して俺も射精した。


俺が他部署への用事から戻ってきたとき課長の席が空いていた。
「あれ?課長は?」
隣の席の近藤に尋ねる。
「あ、休憩行ってくるっていってました」
「へえ、そう」
課長は止めていたはずのタバコを最近また吸い始めた。
と言っても、俺の前では吸わないし、会社でちょっと休憩がてら吸うぐらいで。
でも、俺との関係が始まったあたりから再び吸い始めたってことは、原因は俺にあるんだろう。俺の計画が、課長にストレスを与えていることは明らか。
「俺も、ちょっと休憩」
「はーい」
近藤は深くとらえず明るく返事をくれた。
課長がいるだろう喫煙所は、俺たちの部署からは離れている。
というか、かなり外れにある。
廊下からかなり入り込んだところにあるので、わざわざ足を運ばなければそこには行けない。
俺はまっすぐにそこを目指した。
喫煙所の手前の曲がり角でそっと盗み見ると、課長がいた。
そして、思った通り、同席者がいた。
営業の渡辺課長だ。
スレンダーな長身の美女。
竹を割ったような性格で、独特の雰囲気を持つ。
自分のペースに人を巻き込むのが得意で、商談なんか最初不利でもいつの間にか自分のペースに事を運んでしまうらしい。
営業の同期が、困ったときほど頼りになる上司だと言っていた。
彼女と話しているとなんだかすべて見透かされた気分になるので、苦手としている人間は多い。悪い人じゃないんだが。
そんな彼女と対等以上に接するのが、高橋課長だけ。
俺も高橋課長の存在を知ってすぐに聞かされた噂が、渡辺課長との噂だ。
付き合っているらしい。
新人としてこの噂を聞いた後で、二人の様子を見ると変に納得してしまう。
俺もその可能性を捨てきれずにいたが、今はたぶん、課長は誰かと付き合っている様子はない。
俺以外。
と、言いたいところだけど。
俺は付き合ってるわけじゃないからな。
快楽で絡めとって、体と言う接点を持っているだけの相手。
もちろん、最終的には恋人と呼べる存在になりたいのだが、今はまだその段階じゃない。
俺と快感とを結びつかせて、逃げられなくなってから恋人へとのし上がるつもりだ。
それに俺はまだ対等な立場にさえいない。
年下で、部下で。
頼りない。
二人で話してる姿は、対等以上。
お互いに気を許しているのがわかる。
俺は…。

それ以上、二人を見ていることができなくて。
俺は自分の席に戻った。
頭に浮かぶ二人の様子に俺は少なからず捕らわれて。
もっと仕事ができて、頼られる存在にならなくては。
とても課長の恋人になんかなれない。
「おい、佐藤」
声をかけられてはっと顔を上げて声を振り向く。
呆れ顔の課長が俺を見下ろしていた。
「課長、なんですか?」
さらに課長の顔が呆れたようになり、溜息までつかれた。
その様子にショックを受ける。
呆れられてしまったっ!
「なんですか、ってお前、もう就業時間終わってるぞ」
「え?」
俺は驚いて時計を見る。
17時半過ぎ…。
嘘だろ…。
「…これから飲みに行くぞ、付き合え」
「え」
驚いて課長を見上げると、じっと見降ろされた。
俺は返事をしようとして、ふと気づいて自分の机を見る。
広げたままの書類。
あれからほとんど進んでない。
「すいません、俺、これを終わらせないと」
すると課長が俺の机の書類の上に音を立てながら手を付いた。
「お前に仕事を割り当ててるのは俺だ。お前は現在、今日明日に仕上げなければいけないような仕事は持っていない。今すぐ帰り支度をしろ」
それは、そうなんだけど。
「でも…」
こんな仕事も片付けられないようじゃ…。
「命令だ」
きっ、と睨みつけられる。
同期曰く射竦められる眼力で。
もともと課長は「命令」なんて言葉は使わない。
命令口調だったりするが、こんな風に強く言ったりしない。
自分の視線が威圧的なことを知っているから、過度に部下にプレッシャーを与えないようにしているのがわかる。
その課長が、命令として強く言う。
「はい」
俺はしぶしぶ机を片付け始めた。
俺は、どれだけ課長を失望させたんだ。
……。
俺が片付けるのを待って、課長は先にドアの前に立った。
何人か残っている部下を見渡す。
「お前たちも早く帰れよ」
「はい、お疲れさまでした」
「…お先…」
「おう、お疲れ!」
俺を振り返りつつ先を行く課長の背中を追いかける。
小さいけれど、頼りがいのある背中。
口調はそっけないが、部下思いでさりげなく優しくしてくれる。
俺だけじゃなくみんな知ってる。
課長の背中を追いかけて、電車に乗る。
入口に鞄を持ったまま腕を組んで、柱に凭れ掛かるように立つ課長の隣に立つ。
綺麗な横顔を見つめ。
俺はいつまでこの人の背中を追いかけていたらいいんだろう。
年齢はいつまでたっても追いつかない。
それを補えるだけの器を備えなければ、並ぶことさえできない。
小柄ではあるけれど、男らしい課長に俺はいつになれば追いつける?
「佐藤」
「はい」
ふいに呼ばれて俺は即座に返事をした。
ちらりと俺を見上げる。
「そんなに見るな」
そういうと顔を赤くして、さらに手で隠すようにして少し背を向けた。
「す、すいません」
俺、そんなに見てた?
視線を逸らして。
でもしばらくするとやっぱり見つめていた。
課長がいくつか先の駅で降りると、俺も後を追った。

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