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後編
しおりを挟む船は特に行き先もなく、帆をたたみ、波間をゆらゆら漂っていた。
抜けるような空には霞のような雲が時折浮かんでいるだけ。
甲板の階段に座り込んで、ホワイルはそんな空を眺めていた。
驚くほどの穏やかな時間。
こんな時間が自分に再びやってくるとは、思ってもみなかった。
ここしばらく、日の光の下にも、出ていなかった。
こんなに広い空も格子越しの小さな窓からしか見えなかった。
全てが新鮮に思える。
空を飛ぶ鳥さえ。
「ん?」
見たことのない大きな鳥が、船に近付いていた。
思わず立ち上がる。
鳥はカラフルな羽をばさっと言わせ、甲板近くを一周すると、マストに止まった。
「呼び出しだ」
振り向くと、階段の上で鳥を見上げたアカザが舌打ちをしていた。
「…なんか、早くない?」
甲板の端で腕組みをしたミッシュが、やはり鳥を見上げていう。
ヤコブも鳥を見上げている。
「海軍島での騒動が耳に入ったのでしょう」
「厄介だ」
クロウも鳥を見上げ、船長を見る。
「仕方ない、行くぞ」
「了解」
アリスンは鳥を見上げながら、ホワイルの側にやってくる。
「憎ったらしい鳥。撃ち落としちゃおうか」
「やめときなさい。面倒が増えるだけよ」
ホワイルはもう一度鳥を見上げた。
「ホワイル、手伝って」
クロウに呼ばれ、帆を張る手伝いをする。
船が帆を張ると、鳥は飛び去って行った。
「…あの鳥、なんですか」
「呼び出しですよ、ある島からのね」
ヤコブが珍しく眉をひそめる。
ふと振り向いた階段上には、アカザの姿はもうなかった。
アカザの姿を探して、船長室に足を踏み入れると、アカザは窓のそばのソファーに座り、外を見ていた。
「あの鳥、なんなんですか」
ホワイルは近付いて、アカザの目の前に立つ。
「…アンタが気にすることじゃない…」
そうは言っても、明らかに船員たちは不機嫌だし、船長も何か考え込んでいる。
気にするなという方が難しい。
「僕を助けたことが、関係してるんじゃないんですか」
海軍島での騒動と言えば、ホワイルの件しかない。
ホワイルを助けたことで、アカザが何か面倒に巻き込まれるのは嫌だった。
「気にするなと言った」
「………」
「アンタはただここにいればいい」
それはあまりにもホワイルの人格を無視した発言だ。
自分だって、考えるし、心配をする。
ただ、アカザのセックスの相手をするだけじゃない。
「こい」
アカザに呼ばれても、ホワイルは動かなかった。
アカザは一瞬眉を寄せたが、構わずホワイルの頭を掴み口付けをする。
ホワイルのズボンに手をかけ、引き下ろすと、まだ柔らかいソレに口付けをして、先端の窪みに合わせて舌を這わせる。
「ん、っっ」
ホワイルの反応を楽しむように時々見上げながら、裏筋を舐め上げ口に含む。
唇で根元から扱きあげるように動かすと、ホワイルの手が髪に巻きついてきた。
「ん、んぅ、ん」
口の中のホワイルの先端を舌先で刺激しながら、繰り返し吸い上げる。
荒い息をしながら、ホワイルが快感に眉を寄せた。
糸を引きながら口を離すと、アカザは体重をかけ、ホワイルを引き倒した。
ソファの上で重なるように倒れこむと、足を開いて、ホワイルを自らの秘所に当てがう。
そして腰を押し付けて、自分に侵入させた。
「はあ、ああ」
「っ、く」
ホワイルが快感に吐息を漏らす。
「動け」
アカザがほの頭を引き寄せ、耳元で囁くとホワイルは目をぎゅっと閉じ、それからゆっくりと動き始めた。
「ああ、あ、ああ、んあ、い、いい」
動きに合わせて、アカザが喘ぐ。
最初は抵抗するように頑なだったホワイルも、もう止まらない。
「あああ、あ、あ、ん、あ」
不意にドアが鳴らされる。
思わずびくっとドアを振り返ったホワイルの下で、アカザが少し身じろいだ。
「船長、もうすぐ港につくわよ」
抱き合ったまま、アカザはドアを振り向いた。
「そのまま船をつけろ。終わったら行く」
「りょーかい」
ミッシュの軽い返事がした。
「仕方ない、イかせろ」
アカザがホワイルに抱きつくと、ホワイルはしばらく動かない。
「どうした。早くしろ」
ホワイルはぎゅっと眉を寄せると、強く腰を打ち付けた。
「ん、はあ、あ」
再びやってきた快感に、アカザが身悶える。
ホワイルは黙々と腰を動かした。
「は、あ、い、い、でる」
アカザはぎゅっとホワイルに抱きつくとそのまま背中をしならせ、達した。
ホワイルはぎゅっと目を閉じて耐え、アカザが落ち着くと体内から出て行く。
「………?……」
荒い息をしながら、余韻でとろんとした目のままアカザはホワイルを見上げた。
「どうした」
「………」
ホワイルは答えず、ソファーから降りようとする。
それをアカザは引き寄せた。
「どうした、イくまで続けろ」
「…イッたじゃないですか…」
「俺じゃない。アンタだ」
「……」
「…なんだ…」
ホワイルは苦笑いした。
「すいません、萎えちゃいました」
「……………」
アカザが離すと、ホワイルはソファーから降り、服を整え始めた。
その様子を不審そうに眺めていたアカザだったが、やがて自分もベッドを降り、服を整えた。
到着した島はいかにもなガラの悪い島だった。
港にたむろしている男達もやさぐれ、下着姿で徘徊している女達も。
街中に入ると、さらにその廃退さが顕著に現れる。
アルコールの匂いに混じった異臭や、あちこちに散らばり落ちる空き瓶や空き缶。
空気すら淀み、重く、不快を伴って絡みつく。
時折聞こえてくる喧嘩の声や、怒鳴り声。
物が壊れる音も聞こえる。
そしてその中を闊歩していく面々を、皆一様に振り向いた。
誰もが知っているような顔だった。
こんな少人数の海賊なのに。
畏怖、妬み、そんな目を向けられた。
「よう、アカザ」
中には声をかけてくるものもいたが、アカザたちはちょっと見ただけだった。
「おい、こいつ海軍将校じゃねぇか」
ホワイルを見かけた1人が言い出すと、途端に集まってくる。
「そういや海軍の船で見たことあるぞ、こいつ」
そう言われても、ホワイルには覚えがない。
反応に困っていると、すっとアカザがホワイルの前に入ってきた。
「こいつは俺の男だ。手を出すな」
気付くと、両脇にヤコブとクロウも立っていて、後ろではアリスンとミッシュが周囲を睨みつけていた。
アカザの言葉に怯んだ男達に背を向け、アカザはホワイルの腕を掴んだ。
「こい」
そして再び闊歩する。
「離れるな。クロウ、見張れ」
アカザの言葉にクロウは頷くと、周囲を警戒するように見渡す。
ホワイルは腕を引かれるままついていくしかない。
ざわつきが纏わり付いてきたが、ホワイル以外誰も気にした様子はなかった。
港に隣接した街の最奥の屋敷の入口で、アカザは立ち止まった。
腕を解放され、見ると少し緊張した様子のアカザがいた。
「アンタは何も喋るな。俺の側にいろ」
ホワイルが小さく頷くと、中へ入っていった。
屋敷の中でたむろしていた男達が一斉に振り向いて、道を開ける。
その中を進んで、最奥の部屋に入った。
部屋の大きな机に座った男がアカザを見るなり微笑んだ。
「遅かったですね、待ってましたよ」
周囲の雰囲気と不似合いなほど柔らかい声に、ホワイルは思わずゾッとした。
正体不明な貫禄に気後れする。
その柔らかい眼差しを向けられると、背筋が凍った。
「彼が、君が海軍から奪った人物ですね。報告が来てますよ。随分と無茶をしたようですね。…それほど価値のある男には見えませんが…」
「俺の男にしました。貴方には関係ありません」
そうアカザが答えると、男は肩を竦める。
「…いつから男遊びをするようになったんですか…」
「こいつだけです。…クロウ、ヤコブ」
アカザが呼ぶと二人は持っていたカバンを、男の机に置いた。
そして二人に合図をして踵を返した。
「きたばかりなのにもう帰るんですか。一晩、休んで行きなさい。君の部屋はそのままにしてありますよ」
アカザは肩越しに振り返った。
「…うちには女がいるので、この島は危険すぎます…」
「確かに、そうですが。君のクルーに手を出すほど馬鹿はいませんよ」
「…さあ、それはわかりません」
そして呆然とするホワイルの背を押して、部屋を、屋敷を出た。
出てくる直前に見た、男の目はぞっとするほど冷たかった。
「あれは…誰ですか」
「俺のボス、ザザビーだ。…育ての親でもある」
「そう、なんですか」
屋敷を出ると、途端にリラックスしたようにそれぞれが伸びをしたり、話し始める。
「僕、欲しいものがあるんだぁ」
アリスンが言うと、アカザはヤコブを顎で指す。
「ヤコブに聞け」
「…食料の買い出しが終わったら、いいですよ」
「やったっ」
「ねえ、お風呂に入りたいわ。いつもの島に行くんでしょう」
「ああ」
「良かった。少しゆっくりしましょう?」
「ああ」
マーケットにそのままやってくると、活気のある空気の中で何だかワクワクするような高揚感に包まれた。
食品の露店を見るヤコブとクロウ、アリスンはチョロチョロと色んな店を覗き込む。ミッシュは服屋を覗き込んでいた。
ホワイルもミッシュの後ろから眺めた。
それに気付いたミッシュは苦笑する。
「あんまりいいのないでしょ?この島は娼婦向けしか置いてないんだから」
店主にも聞こえそうに言うと、ホワイルの方がハラハラしてしまう。
「アンタも買うか」
後ろからアカザが話しかけてきた。
「え、僕は…」
「俺やクロウの服じゃ小さいんだろう」
何も荷物を持っていないホワイルはずっとアカザやクロウの服を借りていた。二人より手足が長いホワイルには袖や裾の丈が短く、いつも折り返してごまかしてきていた。
アカザがその事に気付いていたのにも驚いたが、買い与えようとしていることにも驚いた。
「ヤコブ」
アカザはホワイルの返事も聞かず、ヤコブと相談始めた。
ふとアリスンを見ると、不審な男達に気付いた。
ゆっくりと近付いてくる。
クロウ達は買い物で気付いていないようだ。
ホワイルはとっさにアリスンに駆け寄り、腕を引いて自分の後ろに隠した。
キラっと切っ先が男達の喉元で光る。
「ひぃ」
「何かご用ですか」
ホワイルの様子に気付いたアカザが近付くと、男達がさらに息を飲む。
「ア、アカザ⁈」
「どうした」
「いえ、この方達がアリスンさんに用があるようでしたのでお聞きしてました」
切っ先をさらに喉元に近づけると、男達は慌てて逃げ出した。
ふうっと息を吐きながら剣を収めると、アリスンが感心したように言った。
「へえ。優男かと思ってたのに、結構やるじゃん」
「アリスン、気をつけろと言っておいたはずだ。チョロチョロするな。クロウかホワイルといろ」
「はーい」
アカザに叱られてペロッと舌を出す。
「ナイトが増えたわね、アリスンちゃん」
ミッシュに言われると、嬉しそうに笑った。
「へへ」
アリスンはわざとらしくホワイルの腕を掴んで、あっちに行きたいだのこっちに行きたいだの振り回し始めた。
「ちょ、アリスンさん、あんまり離れちゃダメですよ」
「大丈夫!だってもと海軍将校がついてるもん」
「…クロウさん程強くないんですから。さっきみたいな雑魚ならいいですけど」
「ここには雑魚しかいないよ」
「…もう…」
「ホワイル!」
アカザ達からだいぶ離れてしまうと、アカザの呼ぶ声がした。
「ほら」
「ちえー」
アリスンを引きずるようにして戻ると、アカザがアリスンのホワイルに絡みつかせた腕を解いた。
「勝手に連れて行くな」
「えー、だって一緒にいろって言ったじゃないですかぁ」
「………」
アリスンがぶうっと頬を膨らませると、アカザの眉がピクッと動いた。それを見たミッシュが吹き出すように笑う。そしてまたアカザの眉が動く。
「な、何かようですか」
見かねたホワイルがアカザに言うと、ヤコブを示される。
「服を買ってもらえ」
「ホワイル、こっちですよ」
ヤコブが呼んだ。
呼ばれた方に行きながら近付いて、気になって振り向くと、腕組みをしたアカザがアリスンを見下ろし、アリスンはべっと舌を出していた。
「困った船長ですね、年端の行かない女の子と同レベルで争うんですから」
ヤコブが苦笑いした。
そしてホワイルに服をあてがう。
「サイズがなかなかないですね」
「…僕はいいですよ…」
「そうは行きませんよ、船長命令ですから」
「…………」
服をなんとか三着買うと、食料品と共に船に乗せ出港した。
「どこに向かってるんですか」
甲板で誰ともなく尋ねると、近くにいたミッシュが答えた。
「あの島よ」
指差されたのは小さな島。
「僕らの隠れ家だよ」
いつの間にか現れたアリスンが言う。
「隠れ家?」
「そうこの辺に来たら、いつもあの島に泊まるの。無人島だけど、こっそり私たちの家を建てたのよ」
「みんなで作ったんだ」
船は小島の奥へと入り込んでいった。
小さいけれど緑に溢れ、でも山ばかり。人が住む環境ではなさそうだ。
川を登れるだけ登った先で、船は停められた。
荷物を下ろすのを手伝うと、そこからさらに奥へと入っていく。
ホワイルは途中で海の方を振り返った。
ここからは見えないが。
「こんな所に隠れてたんですね、見つからないはずだ」
海軍だった頃、当然この近辺も探したはずなのに。
ホワイルの呟きに、ヤコブが苦笑いした。
「我々も静かに過ごしたいんですよ、たまにはね」
「ホワイルー、見えてきたよ」
アリスンに呼ばれて駆け寄ると、ひっそりと山と木々に囲まれていくつかの小屋が立ち並んでいるのが見えた。
「すごい…」
近付いて見ると、結構大規模だった。
小屋に見えるのはそれぞれの部屋のようだった。
それを繋げるように屋根付きのフロアがあり、椅子やテーブルも置かれている。
「クロウくん、お風呂に入りたいわ」
ミッシュが言うと、クロウは頷いた。
「ホワイル、手伝って」
「ええ」
「アリスンちゃん、水を汲みに行きましょう」
「うん」
近くには泉があり、そこから汲んできた水を風呂脇の釜で沸かし、風呂の中に流し入れる仕組みになっていた。
湯が沸く間に食事をして、女性陣、アカザ、ホワイルの順に風呂を使った。
風呂から出てきたホワイルがフロアに行くと、アカザが一人でいた。
ヤコブ達は風呂を使いに行ったようだ。
木製の柵に腰を乗せたアカザは酒瓶片手に、夜空を見上げていた。
時折、髪を攫っていく風は程よく冷たくて心地いい。
ホワイルが静かに近づくと、ちらりと一瞥し、また視線を戻した。
「僕は貴方の性奴隷ですか」
ホワイルの言葉に一瞬驚いたように振り向いたが、少し眉を寄せた。
「…なぜそう思う」
「………」
ホワイルは答えない。
「…それがさっきイけなかった理由か…」
「………」
「性奴隷にした覚えはない」
「…………」
納得できないように、ホワイルは口を閉ざす。
アカザは溜息を吐き、また空を見上げた。
「…初めて会った時を覚えているか…」
「覚えています」
「ザザビーの傘下の海賊の応援で一つの島を襲った。そこに居合わせたのがアンタだった」
「…覚えています…」
ホワイルがそう答えると、アカザは苦笑した。
「突然現れた真新しい将校服に身を包んだ若造が、真っ直ぐ俺に剣を突き付けた」
「…昇進したばかりで、仲間があの島で祝ってくれてました。騒ぎを聞きつけて、仲間が止めるのも聞かず飛び出しました…」
「真っ直ぐな瞳に、己の信じる正義を浮かべていた。そして、俺に説教をしたな」
アカザは楽しそうに笑う。
「…………」
「俺の正義はあの瞳に打ち砕かれた」
「え」
「あの日、あの瞬間まで、俺の正義は略奪だった。そう、教わり育った」
「……それは」
「間違っている、そうだな」
「ええ。……じゃあなぜ、続けているんですか、こんなこと。貴方ほど聡明な人がなぜ」
「…他に生き抜く術がない。海賊として育ち、生きてきた以上、それ以外に生きるべき道を知らない。誰ももう、それ以外を許さないだろう」
「…僕が許しても、ですか…」
ホワイルが言うと、アカザは困ったように苦笑する。
「今のアンタも、俺と大差ない」
ホワイルは俯き、唇を噛む。
「そうですね、僕はもう、処刑された人間ですから。でも…」
「分かっている。アンタの瞳は今も変わらない。…アンタはこんなところにいるべき人間じゃない。だが、戻してもやれない。…また、処刑されるだけだ…」
「……………」
「その瞳に惹かれた」
「え」
アカザは自嘲気味に笑う。
「洞窟で間近に見て、ますます引き込まれた。いつも説教してる声か、叫んでる声しか聞いたことがなかったからな、あんなに優しい声だとも知らなかった。アンタが女を抱く時はきっと優しく、甘く囁くんだろう、そう思った。だから俺を抱かせた」
「………」
「俺をどんな風に抱くのか知りたかった」
アカザは酒を一口口に含み、ゆっくりと飲み込んだ。
「……アンタは奴隷じゃない。自分の意思で決めていい。俺の部屋はこの上だが、向こうでヤコブたちと一緒に寝てもいい。好きにしろ」
そう言いながら、ホワイルの脇を通り過ぎ、石段を登っていった。
残されたホワイルは、立ち尽くした。
ホワイルが部屋の扉を開けて中に入ると、窓に添えられたベンチにアカザが座りこちらを見ていた。ホワイルを見て微笑む。
「…貴方はずるい…」
「そうかもな」
「僕が来ると、分かっててあんな言い方をしたんですね」
「分かっていたわけじゃない。ちゃんと選ばせたかっただけだ。奴隷だと誤解しているようだからな。アンタの意思を尊重できることを証明しただけだ」
酒瓶はベッド脇のテーブルに置かれていた。
ホワイルはそれを手にとって、一口飲んだ。
強い酒に勇気づけられたように話し出す。
「ひとつ教えて欲しいことがあるんです」
「なんだ」
「僕はずっと…。貴方に惹かれてた。最初に会った時、すり抜けるように逃げられてからずっと。この手に捕まえたくて、必死に追いかけてきた。けれど、捕まえて牢獄に入れたかったわけでも、処刑したかったわけでもない。ただ捕まえたかったんです。…洞窟で、褒美をやる、と言われた時僕の邪な心が貴方に見透かされたと思いました。あなたをこの腕に抱いて、忘れられず檻の中では何度も思い出していたんです。処刑台で貴方を見た時、もう、死んで夢でも見てるのかと思いました。…なぜ助けに来てくれたんですか」
「…俺のモノにするためだ…」
「…………」
「アンタの処刑を聞きつけたのはミッシュだった。瞬時にアンタを手に入れるチャンスだと思った。アンタが海軍でいる以上、手が出せなかったからな。アンタは根っからの海軍将校だ。俺もその方がアンタらしいと思う。だが俺のところに落ちてくるのならば逃がさない。そう思った」
ホワイルは苦笑いした。
「…そんな言葉ではなくて、もっと普通に言ってください」
「…………」
ホワイルはアカザに歩み寄った。
「僕は貴方が好きです。愛してます」
アカザは困ったように頭を掻いた。
「…貴方はどうですか。…僕を愛してくれますか」
目の前に立ったホワイルを少し見上げてそれからまた頭を掻く。
「…そういう言葉は、…言いにくい」
ホワイルは吹き出すように笑った。
「言ってください」
アカザはホワイルから顔を背けて、小さく言う。
「………好きだ。愛して、いる」
途端、ホワイルに顎を掴まれ口付けをされた。
深く口付けてから離れたホワイルが、微笑んだ。
アカザは少し頰が高揚している。
酒のせいか、先程のセリフのせいか、はたまた今の口付けのせいかわからなかったが。
「貴方を愛させてください」
ホワイルはアカザの手を引いた。
引かれるままアカザは素直についてくる。
それからベッドに座ったホワイルの前に立たされた。
ホワイルを見下ろしたアカザがふっと笑った。
「積極的なアンタは、いいな」
「そうですか」
ホワイルはアカザの服の下に手を滑り込ませた。
「最初の、洞窟以来だろう」
「…あれも、微妙に貴方に流されただけのようでしたけど…」
「…そう、だな。違うのか」
「自分で試してください」
「わかった」
そしてホワイルに口付けをしてくる。
そのアカザの体を受け止めて、ベッドに横になる。
口付けをしながら態勢を入れ替えると、ホワイルはさっき来たばかりのシャツを脱いだ。
アカザはその露わになった肌に触れてくる。
ホワイルはアカザのシャツのボタンを外しながら、少しずつ露わになる肌に口付けをしていく。すべてのボタンが外れると、撫でるようにしてシャツをはだけさせた。
胸にキスを落としながら、ズボンに手をかけ脱がせると、露わになったアカザの性器はすでに立ち上がり、しっとり濡れていた。
それを優しく手で包み込むと、アカザは少し身じろいだ。
「ん、ん」
胸の突起を啄むように弄んで、吸い上げると腰を押し付けてくる。
「も、いい。早くしろ」
待ち切れないようにねだってくる。
「待って」
そのアカザを抱きあげるようにして、枕の上に移動させて、ベッド脇に置いたままの酒瓶を取り、一口含む。
アカザの足を大きく持ち上げて、奥の入口に手を添え広げ、そしてその中に口に含んだ酒を流し込んだ。
「ふあぁ、ん」
ピリピリとしみるような感覚に、アカザの背がしなった。
ホワイルは指で内壁に塗りつける。
「んん、あ、つ」
染みるような感覚が熱に変わる。
「ふぁ、あん、は、やく」
昼間ホワイルを受け入れていたそこは簡単に緩み、ホワイルの指に絡みついてくる。
ホワイルがそこから口を離し、屹立したものを当てがると、快感の期待にアカザのそこが思わずヒクついた。
ゆっくり侵入すると、それに合わせてアカザの背が反っていった。
「はああああ、ん、あ」
始めはゆっくり入口付近で出し入れを繰り返した。
「ああ、あ、あ、も、っと、おく、だ」
アカザが焦れて、ホワイルを見上げてくる。
快感に揺れる瞳に、ホワイルも煽られる。
「あああああ、ん、ん」
焦れて身をよじるアカザを押さえつけるように、浅く抽送する。
「焦らすな、ん、あ」
思わず笑いを漏らしたホワイルの頬が抓られた。
「いたっ」
「わら、うな」
「すいません、あまりにも思った通りの反応なので、つい」
まだ何か言おうとしたアカザに、音がするほど激しく深く押し込むと悲鳴のような声が上がった。
「ひ、ぃああああ」
強く肌の当たる音を響かせて、打ち付ける。
「あああああああ、んい、い」
アカザが枕にしがみついた。
「アカザ、さん」
ホワイルが呼ぶと、びくんと震える。
「ああ、あ、中で、イけ、んああ」
「うん」
「あああ、い、で、る、あ、あ」
「ん、僕も」
「ああああっ」
達したアカザの中がホワイルを搾り取る。
「はあ、ん、んあ、ん」
中で射精される感覚と、達した余韻にアカザがびくびくと震える。
「はあ、はあ…」
荒く息を吐きながらそんなアカザを見下ろしているホワイルを、余韻に震えながら瞬きをするようにアカザも見上げた。
そのまま見つめ合う。
「……なんだ……」
「…その、前から思ってたんですが、僕が初めてじゃないですよね、アカザさん」
「……………」
アカザは眉を寄せ、汗で張り付いた髪をかきあげる。
「…………」
返事がないのは肯定、と取れる。
少なからずショックを受けていると、アカザはそんなホワイルをちらりと見た。
「…侮蔑するか…」
「いえ、そういうわけでは…」
アカザはホワイルを見ない。
「使い古しは嫌か」
「違います!」
ホワイルはアカザの顔を挟んで自分を向かせる。
「ただ、ただ、…嫉妬しただけです…」
アカザはゆっくりと目をホワイルに向け、それから伏せた。
「…嫉妬する必要はない。俺の意志ではないからな」
「え、どういう…」
「ザザビーだ」
「………」
「あいつのいわゆる稚児だった」
「………」
「囲われていたともいうか…」
「…育ての親って、言ってませんでした?…」
「育てる、保護する、その代償だ」
「…ひどい…」
ホワイルの顔が怒りや嫌悪で歪む。
「…ずっと、ではない。あいつの興味を引く数年だけだ」
「……何年…」
「15の歳から3年程か」
「………」
「あと2年、あったかもしれないが、逃げ出した」
「え」
「海賊になる、と海に出た」
ホワイルは思わずアカザを抱きしめた。
強く、強く。
「2年の間、取り戻そうとするあいつから逃げ回って、やっと、興味を引く歳を過ぎた。それ以降は、アンタ以外いない。自分の意思で寝た男はアンタだけだ」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくるホワイルに、アカザが苦笑いする。
「どうした」
「すいませんでした」
「なぜ謝る」
「そんな、話をさせて、すいませんでした」
アカザはホワイルの頭をぽんぽんと叩いた。
「…大昔のことだ。アンタが気にしなければ、いい」
「……気にはします…」
「…………」
「そんなひどいことをするザザビーを許せません」
「…あいつには構うな。あいつは恐ろしい。どこと繋がっているか、俺すら把握していない」
「………許せない…」
アカザはホワイルの顔を掴んで、自分を向かせる。
「忘れろ。…もう一回だ」
「……」
「なんだ、もう抱けないのか」
「そんなことはありません」
ホワイルが答えると、アカザはニヤリと笑う。
「証明しろ。今のは良かった。ただし焦らすな、いいな」
ホワイルは苦笑いした。
「…それは、約束できませんね…」
ホワイルは再びアカザに被さった。
翌朝。
眼が覚めると、腕の中にアカザがいなかった。
飛び起きるようにして、服を着てフロアに降りていく。
「おはようございます」
山吹が声をかけてきた。
「ア、アカザさんは」
「ああ、泉に行かれましたよ」
「え、泉?」
ホワイルがきょとんとすると、アリスンがからかうように言う。
「昨夜の情事の汚れを落としに行ったに決まってるじゃん」
ホワイルがかあっと赤くなると、さらにからかい始める。
「ねえ、盛り上がったんでしょ?」
「アリスンちゃん」
ミッシュが咎めるように言うと、アリスンが少し拗ねたように頰を膨らませた。
「だってぇ、ミッシュさんも見たでしょ?明らかに船長の顔付きが違ってたよ」
「…はいはい、確かにね」
「どういう…」
ホワイルが聞くと、ミッシュは肩を竦める。
「まあ、一言で言えば幸せそう?」
「色気何割増?」
「3割はいったでしょうね」
ヤコブが答える。
「やばい~」
アリスンが楽しそうに笑い転げる。
「………」
「海に出るのが憂鬱」
ミッシュがため息とともに言うと、ヤコブも頷く。
「全くですね」
「………あの…、どういう…」
ホワイルがきょとんとして尋ねると、ヤコブが苦笑いした。
「船長目当ての賊が増えるんですよ」
「ホワイルが乗船してきてから、特に色気振りまいてるからね、船長ってば」
「色気…って」
「もともと船長にはザザビーの愛人という噂が…。あ、ご存知ありませんよね」
ヤコブが失言したと青ざめた。
「いえ、聞きました」
ホワイルの返事にほっとしたような顔をした。それから苦笑いをする。
「まあ、そんな感じで、船長を狙う輩が多かったんですが、ホワイルと出会ってからは略奪をほとんど止め、そんな輩から奪うことで我々は凌いできたんですよ」
「え、そうだったんですか」
「そしてホワイルが助け出してくれて、戻ってきてからはなんだか色気が増したようで、狙われることが増えましてね。まあ、ホワイルは思い当たることがあるんでしょうが」
「………」
ホワイルは赤くなって俯く。
「そして島での、俺の男発言。さらに何があったか知りませんが、船長のあの様子。襲われる確率は増えましたね」
「ザザビーにも気をつけないと」
「ですね。面白くなかったでしょうね、自分の手から逃げ出した船長が男を作ったんですから」
「…僕は、渡しませんよ、ザザビーには」
ホワイルが眉を寄せると、アリスンがにっこり笑う。
「その調子で頑張ってよ。ホワイルの責任だからね。今までだってクロウさんが頑張って来たけど、ギリギリだったからね」
「頑張ります」
「ほんと、頼むわよ」
ミッシュにまで言われて、ホワイルは苦笑いした。
「…そんな、酷いんですか…」
「じき、わかるわよ」
「で?船長の所に行くの?」
アリスンがニヤニヤ笑った。
ホワイルは答えず、フロアから出た。
遠くで「やっぱり~」と笑う声がした。
泉にやってくると、アカザが岸に寄りかかるようにして居るのを見つけた。
足音にアカザが振り向く。ホワイルを見つけて、小さく微笑んだ。
「起きたのか」
「ええ、姿がないのでびっくりしました」
ホワイルが答えると、吹き出すように笑う。
「ここじゃ他に行くとこはない」
ホワイルが近づいてくると、振り返り岸に腕を乗せた。
「一緒に入るか」
「…入るだけじゃ済みそうにないので、やめておきます」
「なんだ、つまらん」
そしてまた背を向ける。
ホワイルはアカザの横に腰掛けて、足を泉に浸した。
「すいませんでした」
「なんだ、急に」
アカザはそのままの姿勢で、仰ぎ見るようにホワイルを見る。
「もう、略奪はしてないんですね」
「…ヤコブ辺りに聞いたのか…」
「はい」
アカザは溜息を吐いた。
「…やってることはあまり変わらん…」
「変わりますよ。…僕にも手伝わせてください…」
「…………アンタが?………」
「ええ。貴方を守りたいんです」
「…アンタの手を、汚させる訳には…」
「汚れるとは思いませんよ。守りたいものを守るだけですから」
「…………」
アカザはしばらくホワイルを見上げていたが、起き上がってホワイルの前に立つ。
そして軽く口づけをしてきた。
それを黙って受け止めていると、急に引っ張られ、泉に落ちた。
「うわっ」
派手な水しぶきをあげて、ホワイルは水に沈み、それからずぶ濡れで顔を出した。
「もう!何するんですかぁ、服が、濡れちゃいましたよ」
文句を言うホワイルに、アカザの腕がするりと巻きついてきた。
アカザの顔は楽しそうに笑っている。
思わず見とれてしまうほど。
「やっぱりアンタも一緒に入れ」
そしてまた口付けをしてきた。
「うわ、何、ずぶ濡れじゃん」
「…アカザさんに、泉に落とされましたぁ…」
「ちょっとぉ、そのまま上がってこないでよ」
「えー、ひどい」
「ひどいはどっちですか。拭き掃除大変なんですよ」
「ホワイル、あっちで拭いてきて」
「…はあい…。……アカザさん、笑いすぎです」
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