森の中で赤ん坊を拾いました

琴葉

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日常

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1、日常

「さあて、今日も頑張りますか!」
ぽかぽか陽気の中、大きく伸びをして深呼吸をすれば、清々しいいつもの朝の空気が肺に入り込んできた。
辺り一面を真っ白に染め上げていた雪がようやく消えて、暖かい日差しに草花や動物達が動き出す。
当然、人間の俺も。
冬の間休ませていた畑に種苗を植えるべく、最近は農作業メインだ。
それが終わったら、春の山菜を採りに行くのが本日の予定。
あ、冬の間に消費した肉類の調達と、消耗品の買い出しもあるか。
我が家は森の奥にあって、ここから一番近い村まで荷車を引きながら馬で1時間半、月に一回ほどお邪魔している。薬草や山菜、その他諸々を販売して消耗品などを購入してくるだけだが。道中はなだらかな下り坂。つまり我が家は山裾に広がる森の中にあるので、村より少しだけ標高が高い。もっと奥まで行くと急に険しい登り坂になる。
森の奥は幾重にも連なる山脈が北から西へと繋がっている。東側には平野が広がり海に面しているらしいが、俺は行ったことがない。というか森からほとんど出ないので、森の外の平野にある村とその先にある街ぐらいにしか行ったことがなく、知識としてもっているのみだ。
しかも街には年に1~2回しか行かないしな。
「よしよし今日もみんな元気だな」
母屋の脇にある家畜小屋の戸を大きく開けると、待ちくたびれたようにそれぞれがそわそわし始める。冬の間は思うように出してやれなかったからなあ。それぞれを隔てている柵を開けてやると、すぐに外へと出ていった。
鶏5羽と山羊、羊が2匹ずつ、それと運搬用の馬が一頭。
以前は牛も居たんだが、種付けやら面倒なので老衰したのを最後に飼ってない。
ミルクなら山羊からも取れるし。
うちは放牧のみ。しかも柵とかもない。
でも畑を荒らすことはないし、どこかへいってしまうこともなく、夕方になると勝手に小屋に戻ってくる。
うん、いい子達ばかりだ。
馬なんかはもっと走り回らせてやりたいんだが、いかんせんこんな森の中じゃな。
まあ、結構な年寄りなのでのんびりできていいか。
家畜小屋の寝藁などを敷き変えて、餌と水を補充、卵を回収して母屋の台所へ持って行く。
畑を手入れしたら、ちょうどお昼ぐらいになる。
畑の脇には小川があり、家畜小屋の裏手へと続いている。
家畜の水飲み場でもあるし、農業用でもある。
畑の近くに水場があるので楽チンだ。
半分に切ったパンに野菜とスライスした加工肉、それにお気に入りのドレシングをかけて残りのパンで挟み、あとは朝食の残りのスープでさっと済ませる。
食後のお茶を飲みがらちょっと休憩。
ちなみに食材は全てうちの畑と森の中で採れたもの。
畑では自分が食べる分だけにちょっとだけプラスした感じ、でしか育ててないが。
山菜や果物なんかも採りすぎない程度に取ってくる。
まったり休憩したあとは倉庫に行って、山菜取りの準備だ。
「よっこいしょ」
なんて掛け声をかけてみたが、背負いカゴは空っぽだし、腰のベルトに収穫に必要な道具がぶら下がっているけども、重くはない。
準備ができたらてくてくと畑の奥にある森を目指す。
敷地の奥には樹齢不明の大きな常緑樹がある。
直径5mはある大木で、当然広く枝を広げている。
その枝の下は短い下葉しか育たないので、上から見ると森の中にぽっかりと穴が空いた感じだろう。我がご先祖様はその枝の下から少し離れた場所に畑と母屋などを作ったわけだ。
大木の下から仰ぎ見ると枝葉の隙間から、程よい日差しが零れ落ちてくる。
この根元での昼寝が最高に心地いいんだよな。
でも今日は森へ行かねば。
我が家の敷地、というか土地は森全部とその周辺。山も入るんだっけ?……うん、忘れた。
まあ、とんでもなく広い…らしい。
いわゆる地主とか領主ってヤツだろうけど、敷地内に住んでるのは俺と村ぐらい。
本来なら村からの税収なんかがあるんだろうけど、貰ってない。その代わりに街までのお使いや仕入れや販売の代行なんかをしてもらってる。
国への税金も収めてないんだな、これが。
こんだけ無駄に広い土地を持ってるのに、徴税されたことは俺が知る限りない。
まずうちの家系っていうのがこの国が出来る前から続くらしく、国が出来る時にそういうことになったらしい。森ばっかりだし、住んでるのほぼ家族のみだし。価値がないって判断されたんじゃないかな、と俺は密かに思っている。とはいえ多少は発生していると思うが、その辺は村の方で対応してくれているとか。
あとはこの森、実は魔物が出る。
俺は会ったことがないが冒険者なる者達が居て、それを取り仕切るギルドなる組織があり、その素材やドロップアイテムなんかの売買で生計を立て運営しているらしく、本来ならその収入の一部がうちに入ってくるはずなのだが、それを受け取らない代わりに税金が発生しない、と父から教わった。
なので俺の収入は純粋に自分が採取し、加工したものの販売のみ。
だがほぼ自給自足で事足りているので、お金はほとんど使わない。
何か購入しなければならなくなった時にその分だけ販売すればいいのだが、山菜やその加工品、薬草やその調合品などの評判が良すぎて、注文が入ってくるのだ。
その仲介に入ってくれているのが村で、街におろしたり、村で販売したりしているらしい。
俺はその卸値を貰うだけなので、いくらで販売しているのかは知らないが、粗利だけで村は結構潤っているらしい。使わないのに収入がある、貯まる分が多いので現在お金には困っていない。
我が家から村に続く道は秘匿されているが、村と大きな街とを繋ぐ道筋に森へ入る入り口があり、冒険者達はそこから森へと入って行くらしいので、宿場町としても繁盛しているとか。その割にあまり大きく発展しないのは森が近すぎるせいか。
大木の影響下から外れると、徐々に森は鬱蒼としてくる。
木の根元や草むらに紛れてる山菜や薬草を採取して、背負ったカゴに放り込んでいく。
山菜や薬草の種類はもちろんその採取方法まで、幼いうちから叩き込まれたので無意識で出来るが、薬草なんかは採取方法を間違ったりすると素材をダメにしたり、下手をすると毒に当たる。
普通は慎重に丁寧に扱うんだろうな。
甘い香りを放つ果実ももちろん収穫して行く。すでに熟れて、食べ頃なものを厳選。
うちはこれが収入に繋がるので、その為の道具は揃ってる。高いところにあるものも棒の先端に鋏と網がついたもので難なく収穫。
ぽいぽいとカゴに放り込んでいるが、カゴは決して重くならないし、満杯にもならない。
マジックアイテムとかいうらしいが、よく知らないしわからない。
我が家にはこの手の不思議アイテムが多いのだ。
勉強のためと一度街の宿屋に入ったことがあって、物凄く不便を感じた。
我が家にあって街の宿屋にないものが多すぎて。
ベッドの寝心地は悪いし、なんか、全体的に汚い…。
飲食店にも入って、こっそり台所を覗いてみたら愕然としたのを覚えている。
火を起こし竈門(名前がわからなかったので本で調べた)で料理をしていたからだ。
全体的に薄暗いな、と思ったらランタン(これも調べた)という火を使う灯りだった。
図書館に駆け込んで色々調べてみれば、我が家で使っている灯りは魔石を使った灯りらしいとわかった。定期的に魔石の交換が必要らしいのだが、我が家にある不思議アイテムに魔石を入れ替えた覚えは全くないので、微妙に別物だろう。
魔石とは魔物の体から極稀に発見されるもので、魔力の塊らしい。色々種類もあってその種類によって使える魔力の属性があるとか。強い魔物からは高確率で発見されるらしいが、基本高価なものらしい。
魔石の代わりにライトという魔法もあるとか。
魔力?魔法?魔石?
全くわからなかったので、本屋でそれ関係の本を買ってきた。
まあ、読んでもほぼわからなかったんだが…。
その本の中にマジックアイテムなるものの存在が載っていて、どうやら我が家にある仕組みのわからない数々はそれらしいと知った。ただ世に出回っている物よりもかなり高機能なんだが。
父母や祖父母、曽祖母からも聞いたことがないので、多分知らなかったんじゃないかな。
ちなみに曽祖母は俺が幼い時に、祖父母はそのあと数年後に、母はその数年後、そして父は一昨年、老衰、病気、事故と死因は様々だが亡くなった。
我が家は代々15になると独り立ちするので、俺の兄弟、兄2人姉1人はそれぞれ別の街にいる。
多分、近くにはいない。
詳しくは知らないんだ。
音信不通というわけでもないんだが…、知ってても会いに行ったりしないと思うし…、3人ともこんな森の中へ里帰りなんかしないし…。
まあ、ともかく現在俺は1人暮らし。
多少寂しく思う時もあるが、のんびり、まったり、毎日を過ごしている。
ふと山菜を採る手元に影が落ちてきたので、見上げると空が暗くなり始めていた。
春とはいえまだまだ日が落ちるのが早い。
「さて、帰りますかね」
独り言が多いのは、一人暮らしの弊害だろうか。
家畜や、畑の苗にまで話しかけている時がある。
「早く嫁さんを見つけた方がいいのかな?父さんと母さんは街で出会った、って言ってたっけ」
ぶつぶつ独り言を言いながら、家路へ。
大木の下でつい見上げてしまうのは、もはや幼い頃からの癖だ。
意味なんかない。
そのまま玄関の階段下に籠を下ろして、家畜小屋へ。
「みんな帰ってるな」
全部の家畜が揃っていることを確認して戸を閉める。
「おやすみ、また明日」
収穫してきた籠を母屋の台所へと持ち込んで、中身を選別する。
「結構取れたなぁ」
加工分と食用とに分け、食用は台所の脇にある縦長の箱の中へ。
扉を開けるとひんやりとした空気が溢れてくる。
我が家の不思議アイテムのひとつ、冷蔵庫と父から教わった。
中はひんやりと涼しいので、食料の痛みが遅くなる。
上の方には別の扉が付いていて、そちらは冷凍庫という。
文字通り中に入れたものを凍らせてしまう。
冷蔵庫の中に在庫がなかったので卵を数個残して残りの加工分と一緒に、台所の裏口から出た先にある食物庫へ。
この建物も不思議なもので、中に入れた物は決して腐らない。
入れたままの状態でずっと保持される。
おかげでいつでも新鮮な食材を手に入れることが出来る。
「さて、晩飯にするか」
台所に戻ってくると、再び冷蔵庫を開ける。
食物庫があれば冷蔵庫は必要ないのかもしれないが、わざわざ取りに行くのも面倒で、すぐ使う分ぐらいはこちらに移してある。
まずは明日の朝食用のパンを準備。
パン種は作り置きして冷蔵庫に入れてあったので、常温に戻し成形しておく。
その間にスープ作りだ。今日はかぼちゃのポタージュにしよう。季節感のない食材なのは食物庫のおかげだな。
我が家には竈門がない。
代わりにあるのは横長の黒い石みたいな物。コンロ、と呼んでいる。
この上に鍋やらフライパンやらを置くと、それぞれに熱が通る不思議アイテム。
もちろんそれぞれの火加減も自在に出来る。
仕組みは全くわからないけども。
昔は大家族だったので、大鍋やらでっかいフライパンなんかを使っていて、せいぜい3つが限界だったが、今は纏めて作ることが多いので普通サイズの鍋やフライパンを使って、5つほど乗るかな。
その黒い石の載った台の壁側に、冷蔵庫よりも横幅が大きくて少し低めの縦長の石造りの箱がある。窯と呼んでいる物で手前に引き倒す扉が3段付いていて、中は金属の細い横棒の棚で区切られている。棚の高さは変えられるが、今は作る物は限られているので上の2段しか使っていない。上は15cmぐらいの高さで3段、ロールパンなんかの小さい物を焼く。下は同じ高さになるように区切って2段、こちらは食パンや大きい塊のパンを焼く。
今日はバタロールを10個と食パン一本。
これも不思議アイテムで火なんか使わない。
箱の横に並んだスイッチを押すだけだ。
温度や時間なんかを設定できる操作板がそれぞれの段についているので、焼き時間も加減もお任せ、パン種さえ失敗しなければまず間違いはない。
1人分だし、作る物はそんなに変わらないので、段ごとに設定してそのままなんだけども。
お次は冷凍庫から移しておいた肉の塊を取り出して薄く切り、数種類のざくぎりした野菜と一緒に炒める。塩胡椒を振って出来上がり。
スープと野菜炒めと作り置きの少し硬めの塩パンで、いただきます。
料理は割と得意だ。
というのも大家族のおかげで、母が子供達に手伝わせていたからだ。主に手伝っていたのは姉だったが、俺はそれに混じって良く手伝った。
おかげで母直伝レシピは頭に入っているし、街で料理の本も買ってきた。
ただ好きなだけだな、うん。
「明日午前中は家畜小屋の掃除と畑を見回ったら、加工品作りだな」
パンをひとちぎりスープにつけた後で口に放り込む。
冬は雪のせいで納品が出来なかったからそろそろ催促が来そうだ。
こんな森の中でも一応連絡手段はある。
長細い木製の箱でどこからも開けられない不思議な物。
箱の手前に箱の幅より少し短くて紙が数枚差し込めるほどの穴が空いている。そこに手紙を差し込みつつ上部のボタンを押すと、手紙が中に吸い込まれ消える。吸い込まれた紙はボタンごとに設定された同じ箱から出てくるという物。
我が家にある箱に設定されているのは、村と俺の兄弟、あと父と仲が良かった叔父さんだけ。
ボタンは10個あるのであと5件登録できるのだが、その5件分の同じ箱(ボタンの数は5つしかない簡易版)が小屋の中にあるので、今の所増えない。
というか、この不思議な箱はいつのまにか5個に増えていた。
俺が幼い頃は小屋にこんな物はなかったんだが、ある日、突然現れた。慌てて父を呼びに行けば父は少し悲しそうに頭を撫でてくれた。どうやらこの5つは父の兄弟と母の実家にあった物らしい。そして仕組みは全くわからないが、所有者が決まっていて、その人が亡くなると勝手に戻ってくる物らしい。村の分は少し特殊で、所有者が村自体になっていて使用者が村長限定になっている。こちらの了承なしに売られても戻ってくるし、盗難に遭えば所有者(村の場合は使用者)が気付いた時点で所有者(使用者)の元へ戻ってくる。なんとも不思議な箱だ。
箱の裏に記号が入っていて、箱のボタンにも同じ記号が入っている。戻ってきてしまった箱に連動するボタンの記号は薄くなり、誰かに渡すとまたはっきりとするとのこと。
最初に戻ってきたのは父の一番上の兄のものらしかった。そのあとしばらくして村にその息子さんから訃報が届いた。
つまりこの使えるボタン引く1が俺の近親者の数、ということになる。
なんとも寂しい数だがこればっかりは仕方ない。
だが残った4人からは定期的に近況を知らせる連絡が来る。俺もそれにちゃんと答えることにしているので、少しはマシだ。
父の訃報もこれで伝えた。全員戻れなくて申し訳ないと返ってきた。あと俺の心配。
父、というか先祖様たちは大木の裏側に作られた墓地に全員眠っている。父も俺が埋葬した。寂しいお別れだったけれど、父はちゃんとわかってくれるだろう。
村からの注文はこの箱で届く。
こちらからは主に仕入れておいて欲しい物や、街へ行くための馬車の手配などの頼み事。
うちの馬に遠出は難しい。
「あー、肉はこれで最後だった」
加工肉はまだまだある。ないのは生肉だ。
さて、台所を片付けて、焼き上がったパンを出し粗熱を取るためにしばらく放置、その間に風呂に入ろう。
うちは風呂も不思議仕様だ。
というか水道が。
湯船の横の壁、湯船より少し高い位置に、金属の筒が小さな金属の箱から出ていて、箱には取っ手があり、その取っ手を右に回すと金属の筒の先から水が、左へ回すとお湯が出てくる。取っ手を回す角度などで温度や水量を調節できる優れもの。家の中の水道は全部これだ。
着替えを取りに行く前にお湯を出しておけば、戻ってきた時にはいい感じにお湯が溜まっている、というわけだ。火を起こしたり薪を調達する必要がないので非常に便利で、気軽に風呂へ入れる。
髪や身体を洗って湯船に浸かる。
うちの湯船は浅く長い。
曽祖父が拘って、寝転がるように風呂に入りたいと自分で作ったらしい。
おかげで農作業で疲れを癒すのも、冬場に冷えた身体を温めるのにも重宝している。
色々不思議な物が溢れている我が家だが、誰かが作って代々使用しているものも多い。
というのも家の中にあるものとか、小屋や倉庫にある道具類は劣化しないのだ。
おかげで新しく買う必要はないのだが、いつのものなのかわからない道具が倉庫や小屋に溢れている。なので本当に必要がなくなった物は壊して焼却しないと物が増えるばかりだ。
じっくりとお湯で解れて行く筋肉を感じながら目を閉じる。
気持ち良すぎて寝そう…………。
いかんいかん、こんなとこで寝たら風邪を引く。
目を開けると柔らかい灯りが目に止まる。
直視出来る程度の明るさの丸い球が、天井に張り付いている。
これも不思議アイテムだ。
一定の暗さになり、さらに人が近付くと勝手に点く。
離れてしばらくすると勝手に消える。
家の中の灯りは全部そうだ。
母屋だけでなく小屋や家畜小屋、食物庫に至るまで全部。
ほんと、不思議アイテムばかりだが、生まれた時からこの環境なので街の宿屋に泊まるまで全く気付かなかったぐらい、俺には当たり前。独り立ちして出ていった兄弟たちはさぞかし不便を感じていることだろう。
かといって物理的に外すことも出来ないので、分け与えたり出来ないんだが。
「どうせ加工品はすぐには出来ないし、ざっと下準備だけしてあとは狩りに行こう」
湯船から身体を起こし呟く。
身体を拭いたタオルを脱衣所の端のカゴに入れて、一度台所へと寄る。
粗熱が取れた2種類のパンを食器棚と並ぶ戸棚の中に入れる。この戸棚は食物庫の小型版で、食料を入れておくには奥行きが浅いので調味料や加工品、作り置きのパンなどが入っている。家族は保存棚と呼んでいた。
それが終わると2階へと上がる。
我が家の寝室は全部2階にある。
一階には広めの台所と台で区切られた食堂がある。
昔は大家族だったので、備えてあるダイニングテーブルはかなりでかい。当然部屋もそれに合わせて広い。
食堂から出た廊下の向かい側に風呂場と洗い場が併設されている。中で繋がっているので、洗濯物の移動が楽だ。
食堂と風呂場の前の廊下は玄関ホールへと続いていて、玄関の正面に2階へ上がる階段がある。
玄関から見て左手には居間への扉がある。
扉から入った正面にでっかい暖炉があって、その前に大きいコーヒーテーブル、その両脇に3人掛けのソファー、入口の扉に背を向けるように2人掛けのソファーがある。窓際にはカウチが窓とセットになっておいてある。
窓は大きく、床上1mぐらいから天井近くまであり、それが間隔を開けて2枚ある。どちらも外開きで玄関から続く広いテラスへ続いている。窓枠を乗り越えて外へ出ることも出来るので、幼い頃は兄弟とよくやったが母にめちゃくちゃ叱られた。流石に今はやらないけどな。
窓の反対側の壁にはほぼ全面に腰の高さの戸棚が並んでいる。中身は様々で、これまでの住人がこの部屋で過ごすために持ち込んだ物や、眺めたい物がぎっしり並んでいた。俺が使いたい物を入れる場所を作るために古すぎる物などは片付けて倉庫に入れたが、まだ半分以上埋まってる。
入口の左角にはサイドテーブルがあってその上に40cm✖️30cmほどの扉付きの箱とティーセットが乗っている。サイドテーブルにも両開きの扉があって、ティーセットやポット、小さめの皿やカゴが入っている。これも昔の名残で今はサイドテーブルの上の急須とカップぐらいしか使っていない。ちなみに小さな箱は保温庫というか、中に入れた物が温かければ暖かいまま、冷たければ冷たいまましばらくおいて置ける。あと食物庫ほどではないが腐りにくい。大量保存には向かない、少量保存向きだ。
この居間も昔の大家族仕様なので無駄に広い。
冬場は暖炉に火を入れて、隣の書斎から持ち込んだ本を窓辺のカウチに寝転び読んで過ごした。
暖炉脇の扉、もしくは玄関ホールから続く廊下の扉から入ると書斎だ。扉以外の壁は全て本棚でここもこれまでの住人が集めた本がずらりと並ぶ。それこそいつのものかわからない年代物の本があって文字すら読めないものもいくつかある。といっても本という形になっているものしかなくて、素材がわからない丸めただけの物などはまとめて箱に詰め倉庫で眠っている。その箱を開けたことはないが、石に掘られた物なんかもあるらしく、そういう研究をしている人なんかは喜びそうだが、本に限らず倉庫や小屋に眠っている年代物を、敷地外に持ち出すとその場で風化するらしい。
昔やらかしたご先祖様がいたらしく、敷地外、というかこの家からある程度離れると起こるというので、内容が気になってもどうしようもないということだ。
書斎の廊下を挟んだ向かい側には客間、という名の物置がある。衣類などの布製品が主に集められている。布製品にもこの家の不思議が適用されるらしく、家の中で使う物はこうして繰り返し使われている。大人用は村に降りたり狩りや採取に出かけるので、普通に劣化するが、ほぼ家の中や敷地内で過ごす子供服などは買い足したりしない。そもそも成長に伴って使用期間が短いので、古すぎるデザインの物以外はいわゆるお下がりですませている。とはいっても、上質な布製品が出回ればその都度入れ替えてきたようなので、そこまで多くはない。1~2代前ぐらい、かな。
2階の寝室は全部で8部屋あるが、今使っているのは階段の右前、居間の上あたりにある部屋のみ。
元々は両親が使っていた部屋だが、俺の部屋が階段から遠かったので冬に移動した。ベッドもこっちの方が大きいし、部屋も広めだし。
階段の前、玄関ホールの上は屋根付きのテラスになっていて、布団を干したり、雨の日に洗濯物を干したりしている。以前はティーテーブルなんかがあったんだけど、片付けた。
寝室の灯りは他の部屋と違って、中の人間がしばらく動かないと消える。
ベッド脇のサイドテーブルにはテーブルライトが置いてあって、こちらは土台にボタンが付いている。
俺はテーブルライトをつけて、サイドテーブルの上に置いておいた本を手に取った。
今読んでいるのは魔石についての本だ。
なんとなく理解できたつもりだが、やっぱりよくわからない。
読んでるとすぐに眠くなってしまう。
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