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それからは毎日のように生徒会室に足を運び、大杉の背中にくっついた。
それが許される。
それが嬉しくて。
大好きな美術室よりも、もっとくっついていたい場所。
不思議といつも眠くなってしまって、最後は大杉に起こされてバス停まで一緒に帰るを繰り返した。
その内、昼休みに比良木が生徒会室で時々昼寝をしているという話になって、大杉もやってくるようになった。
連絡先のやり取りもして、メールでどこで寝る?とか聞いてくる。
言葉だけ見たら淫靡だけれど。
全然そんな感じではなくて。
大杉がどういうつもりで、自分の昼寝に付き合ってくれているのかもわからず。
それでも大杉の隣は心地よく眠れる一番のお気に入りの場所で。
必ずといっていいほど見る夢は、比良木がひたすら話しかけ、大杉の笑顔が帰ってくるという夢。
二人で話し込む時もあったが比良木が大杉を枕に寝てしまうと、大杉は読書をする。
それを一ヶ月ほど繰り返したある日の放課後。
比良木は猛烈な眠気を堪え、生徒会室にやってきた。
途端に宮坂が笑う。
「聡史くん、いつもにも増して眠そうだね」
「ん~、昨夜、絵を書き出したら止まらなくなって、徹夜した~」
宮坂の隣の席に移動しながら答えた。
夢の中で見た大杉の笑顔とか。
一緒に眺める昼休みの生徒会室とか。
描きたいものがどんどん溜まっていくから。
今は必死にそれを発散させてる。
そうでないと眠れない。
頭の中が大杉でいっぱいになるから。
「昼休みも寝てたんじゃないの?」
「うん、寝てた」
宮坂が身をそらして笑う。
「帰って寝たら?」
以前は絵を描き出したら止まらなくて、夜更かしの挙句の昼寝だったけれど。
今は逆。
最近は夜眠れなくて、ずっと絵を描いてるから、昼休みに大杉の隣で寝るのが習慣になってる感じだ。
このまま家に帰っても、どうせ眠れない。
眠いけど眠れない。
どうせ寝るなら、大杉の近くがいい。
心地よい眠りと夢が得られるから。
「ん~オーギーはぁ?」
「まだだけど」
ぽす、っと落ちるように椅子に座る。
「…最近、オーギーに新しいあだ名がついたの知ってる?…」
「はあ?またついたの?」
「眠り姫の王子」
眠くて働かない比良木の頭でも、姫が変わったことがわかった。
今度はだれだよっ。
苛立ちを覚えながら、しょぼつく目で睨みつける。
「眠り姫、って誰だよ」
途端に宮坂が笑い出した。
「自覚なし?聡史くんのことに決まってるじゃん」
「ん~?俺ぇ?」
なんで俺?
姫、って何?
その時ちょうど大杉が現れた。
「こんにちは」
そう生徒会室にたむろする面々に挨拶しながら入ってくる。
「おっせえよ、オーギー」
比良木はすぐに大杉を追いかけていつもの席へ。
「うわ、まだ眠そう」
比良木を見ると、呆れたような声を出す。
「うん、眠い」
「帰ったほうが良くないですか」
「ん、ちょっと寝たら帰る。起こして?」
「はいはい」
座った大杉が背を向ける前に、比良木は肩に頭を落として、そのまま寝息を立て始めた。
「早っ」
呆れた大杉の声も、もう比良木には聞こえていない。
その日見た夢はちょっといつもと様子が違っていた。
大杉に寄りかかってすかすか幸せそうに眠る自分を、上から見下ろしているような夢。
離れたところで宮坂が笑っていた。
「オーギー、甘やかし過ぎ」
「え?俺のせいですか?比良木さん、もともと寝つき早いでしょ」
「そうだけど、さすが眠り姫の王子だ」
「…また、王子ですか。今度は比良木さん?」
「そう!」
「………」
複雑な顔で大杉は比良木を見下ろした。
「…比良木さんの迷惑になるんじゃ…」
「大丈夫。聡史くん、そういうの気にしないから。もともとこっそり自分が眠り姫って呼ばれてることも気づいてないし」
「…俺は、知ってましたけど…」
「うん、そうだろうね」
意味深な宮坂の言葉に大杉は少し眉を寄せ、それから本を取り出し器用に広げて読み始めた。
俺が姫ぇ?
嘘だろ、あり得ねぇ。
でも。
王子が大杉なら、姫になれるものならなりたいかも。
その後、王子が姫のあまりの見窄らしさに、逃げていく。
そんな夢にうなされた。
「比良木さん、起きて?」
「………」
「比良木さん」
体を軽く揺さぶられて、比良木は肩口に頭を擦り付けた。
「ん~…、なに?」
「ごめん、俺、ちょっと動くから。比良木さんももう帰ったほうが良くない?」
比良木が頭を起こすと、大杉が席を立つ。
その気配に比良木は顔を上げた。
「…どこ行くの?…」
「ヒロが、こないんです」
大杉は菅野をそう呼ぶ。
菅野も大杉をりー、と呼ぶ。
どちらも他に呼んでる人を見たことがないので、二人だけの呼び名。
一方、自分は、近付きたいけれど近付けなくて、呼び方だけでも変えて親しさを手に入れたい、その他大勢と同じ呼び方。
差を見せつけられた感じがして、ずん、ときた。
「?最近ずっときてないじゃん…」
「いや、今日は来るって。俺がここに来る途中で今教室出たってメールしてきたのに。まだこないんです。もうすぐ、1時間ぐらいになる」
腕時計を見下ろした大杉の額にうっすら汗が浮かぶ。
探しに行く、という大杉を引き止めたくて。
「…でも、気が変わった、とか…」
比良木がいうと、苦笑いが返ってくる。
「それならそれで、メールが来るはず…。ちょっと探しに行きます。比良木さん、気をつけて帰って?寝過ごさないでくださいね」
そう言って足早に出て行ってしまう。
呆然とそれを見送って、視線を落として溜息を吐く。
菅野を優先された、そうわけもなく感じて。
荷物を取りに宮坂のそばへ戻ると、宮坂から同情の目を向けられた。
「残念だったね、聡史くん」
「な、何が?」
「ん~?せっかく爆睡してたのに」
「あ、うん。でも少しスッキリしたからオーギーが言うように帰るよ」
「聡史くん、あのさ」
「なに?」
宮坂は逡巡するように、視線を彷徨わせる。
「なあに?」
比良木が首を傾げると、宮坂は首を振った。
「いや、なんでもない」
「そ?じゃあね」
「バイバイ」
荷物を抱えて大欠伸をしながら生徒会室を出る。
それが許される。
それが嬉しくて。
大好きな美術室よりも、もっとくっついていたい場所。
不思議といつも眠くなってしまって、最後は大杉に起こされてバス停まで一緒に帰るを繰り返した。
その内、昼休みに比良木が生徒会室で時々昼寝をしているという話になって、大杉もやってくるようになった。
連絡先のやり取りもして、メールでどこで寝る?とか聞いてくる。
言葉だけ見たら淫靡だけれど。
全然そんな感じではなくて。
大杉がどういうつもりで、自分の昼寝に付き合ってくれているのかもわからず。
それでも大杉の隣は心地よく眠れる一番のお気に入りの場所で。
必ずといっていいほど見る夢は、比良木がひたすら話しかけ、大杉の笑顔が帰ってくるという夢。
二人で話し込む時もあったが比良木が大杉を枕に寝てしまうと、大杉は読書をする。
それを一ヶ月ほど繰り返したある日の放課後。
比良木は猛烈な眠気を堪え、生徒会室にやってきた。
途端に宮坂が笑う。
「聡史くん、いつもにも増して眠そうだね」
「ん~、昨夜、絵を書き出したら止まらなくなって、徹夜した~」
宮坂の隣の席に移動しながら答えた。
夢の中で見た大杉の笑顔とか。
一緒に眺める昼休みの生徒会室とか。
描きたいものがどんどん溜まっていくから。
今は必死にそれを発散させてる。
そうでないと眠れない。
頭の中が大杉でいっぱいになるから。
「昼休みも寝てたんじゃないの?」
「うん、寝てた」
宮坂が身をそらして笑う。
「帰って寝たら?」
以前は絵を描き出したら止まらなくて、夜更かしの挙句の昼寝だったけれど。
今は逆。
最近は夜眠れなくて、ずっと絵を描いてるから、昼休みに大杉の隣で寝るのが習慣になってる感じだ。
このまま家に帰っても、どうせ眠れない。
眠いけど眠れない。
どうせ寝るなら、大杉の近くがいい。
心地よい眠りと夢が得られるから。
「ん~オーギーはぁ?」
「まだだけど」
ぽす、っと落ちるように椅子に座る。
「…最近、オーギーに新しいあだ名がついたの知ってる?…」
「はあ?またついたの?」
「眠り姫の王子」
眠くて働かない比良木の頭でも、姫が変わったことがわかった。
今度はだれだよっ。
苛立ちを覚えながら、しょぼつく目で睨みつける。
「眠り姫、って誰だよ」
途端に宮坂が笑い出した。
「自覚なし?聡史くんのことに決まってるじゃん」
「ん~?俺ぇ?」
なんで俺?
姫、って何?
その時ちょうど大杉が現れた。
「こんにちは」
そう生徒会室にたむろする面々に挨拶しながら入ってくる。
「おっせえよ、オーギー」
比良木はすぐに大杉を追いかけていつもの席へ。
「うわ、まだ眠そう」
比良木を見ると、呆れたような声を出す。
「うん、眠い」
「帰ったほうが良くないですか」
「ん、ちょっと寝たら帰る。起こして?」
「はいはい」
座った大杉が背を向ける前に、比良木は肩に頭を落として、そのまま寝息を立て始めた。
「早っ」
呆れた大杉の声も、もう比良木には聞こえていない。
その日見た夢はちょっといつもと様子が違っていた。
大杉に寄りかかってすかすか幸せそうに眠る自分を、上から見下ろしているような夢。
離れたところで宮坂が笑っていた。
「オーギー、甘やかし過ぎ」
「え?俺のせいですか?比良木さん、もともと寝つき早いでしょ」
「そうだけど、さすが眠り姫の王子だ」
「…また、王子ですか。今度は比良木さん?」
「そう!」
「………」
複雑な顔で大杉は比良木を見下ろした。
「…比良木さんの迷惑になるんじゃ…」
「大丈夫。聡史くん、そういうの気にしないから。もともとこっそり自分が眠り姫って呼ばれてることも気づいてないし」
「…俺は、知ってましたけど…」
「うん、そうだろうね」
意味深な宮坂の言葉に大杉は少し眉を寄せ、それから本を取り出し器用に広げて読み始めた。
俺が姫ぇ?
嘘だろ、あり得ねぇ。
でも。
王子が大杉なら、姫になれるものならなりたいかも。
その後、王子が姫のあまりの見窄らしさに、逃げていく。
そんな夢にうなされた。
「比良木さん、起きて?」
「………」
「比良木さん」
体を軽く揺さぶられて、比良木は肩口に頭を擦り付けた。
「ん~…、なに?」
「ごめん、俺、ちょっと動くから。比良木さんももう帰ったほうが良くない?」
比良木が頭を起こすと、大杉が席を立つ。
その気配に比良木は顔を上げた。
「…どこ行くの?…」
「ヒロが、こないんです」
大杉は菅野をそう呼ぶ。
菅野も大杉をりー、と呼ぶ。
どちらも他に呼んでる人を見たことがないので、二人だけの呼び名。
一方、自分は、近付きたいけれど近付けなくて、呼び方だけでも変えて親しさを手に入れたい、その他大勢と同じ呼び方。
差を見せつけられた感じがして、ずん、ときた。
「?最近ずっときてないじゃん…」
「いや、今日は来るって。俺がここに来る途中で今教室出たってメールしてきたのに。まだこないんです。もうすぐ、1時間ぐらいになる」
腕時計を見下ろした大杉の額にうっすら汗が浮かぶ。
探しに行く、という大杉を引き止めたくて。
「…でも、気が変わった、とか…」
比良木がいうと、苦笑いが返ってくる。
「それならそれで、メールが来るはず…。ちょっと探しに行きます。比良木さん、気をつけて帰って?寝過ごさないでくださいね」
そう言って足早に出て行ってしまう。
呆然とそれを見送って、視線を落として溜息を吐く。
菅野を優先された、そうわけもなく感じて。
荷物を取りに宮坂のそばへ戻ると、宮坂から同情の目を向けられた。
「残念だったね、聡史くん」
「な、何が?」
「ん~?せっかく爆睡してたのに」
「あ、うん。でも少しスッキリしたからオーギーが言うように帰るよ」
「聡史くん、あのさ」
「なに?」
宮坂は逡巡するように、視線を彷徨わせる。
「なあに?」
比良木が首を傾げると、宮坂は首を振った。
「いや、なんでもない」
「そ?じゃあね」
「バイバイ」
荷物を抱えて大欠伸をしながら生徒会室を出る。
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