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第1章
Ep5 女の涙と青い宝石
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国を挙げて行われた盛大な祭りは今日でフィナーレである。
この祭りはディオス王国第十四代目の王フランツが急逝し、それに伴って急遽十五代目の王になった息子・セシルの即位を盛大にお祝いするためのものだったのだ。
今日はその最後を飾るパレードが行われる。
ここしばらくの新聞は王室のニュースで持ち切りで、と言うのも、セシルの即位は陰謀に満ち満ちていたからである。
フランツが崩御したのは一ヶ月ほど前。公には病死ということになっているが、実際は暗殺であったという噂もちらほらと静かに囁かれているのだ。新聞にはまだ十三歳のセシルの似顔絵と、セシルに代わって政務を取り仕切るという四人の宰相の名前がある。
ギャラガーは新聞の新たな王の似顔絵をじっと見つめた。
少年王はブルーのマントをまとい、額には代々受け継がれている宝冠を戴いている。なんでも、マントは新しい王になるとその都度その王に合ったデザインで仕立て直すという。しかし王室の色であるブルーは変わらない。宝冠も同じで、王室色のブルーの大きな宝石がはめこまれていた。
おそらくその宝石こそが、ウエストレイクとグリーシュマが言っていた双子の石の片割れなのだろうと思われる。しかし確証はない。
一応パレードを見届けて、現物をこの目で実際に確認してみようとは思うが……見届けたところで、さてどうしたものか。
今まで何人もの研究者たちが王室に掛け合って宝冠の貸与を申し出たが、その都度断られ続けているのだ。どうせ真っ正面から話をしても無駄だろう。
いや、とりあえずは赤の宝石が手に入ったことをまず成果として持ち帰るべきではないだろうか?
ギャラガーはパレードを待ちわびる人混みの中、思案に暮れていた。
(うーんここは、やっぱルマテスに頼むしかないかな……でもちょっと頼りすぎかなぁ……)
彼女は何かとギャラガーに協力的である。しかし彼女はネルジュブレイの研究者ではないただの傭兵なのだ。これ以上の協力で傭兵組合に悪い噂がたつのも申し訳ない。
「うーん……」
悩んでいるうちにラッパの音がだんだんと近くなり、少年王が乗った馬車が多くの騎士や衛兵・女官などに囲まれてゆっくりとやってきた。
「お、来た!」
辺りの野次馬たちが途端にガヤガヤと騒ぎ出す。我も我もと新たな王を拝もうと一斉に背伸びをしたり頭を横にふらふらさせたりと落ち着きがない。ギャラガーも例に漏れず、なんとか宝冠をこの目に焼き付けようとつま先立ちを始めた。
そのとき、よたよたとアンバランスな状態で首を伸ばす彼の手首を、誰かがつかんだ。
すかさず自分の手首を見るギャラガー。
彼の手首には明らかに女性と分かる細い指が絡んでいる。そこから伸びるしなやかな腕の先に華奢な肩があり、白く長い首の上には冷たい眼差しの美人がこちらをじっと見つめていた。
「えっ……??」
「あなたがギャラガー?」
美女は彼の名前を知っている。名を呼ばれて更に混乱した。
「き、君誰?」
「間違いないようね。ちょっとこっちに来て!」
彼女はギャラガーを強引に野次馬の中から引っ張り出すと、軽く息を整えて言った。
「あたしのネックレスを持っているでしょう? 返してちょうだい!」
その言葉で、彼はすべてを理解した。
つまり、彼女の持ち物をドガが盗って、それをギャラガーが持っているから直々に取り返しに来た、と。
「……傭兵組合に立ち寄った?」
ギャラガーは落ち着き払って美女に向き直った。
「ええ。あたしは傭兵だもの」
その言葉で彼はハッとした。そうなのだ。美女ではあるが、その服装はハッキリ言って男装。
粗末なカットソーの上に革の胸当てを装着し、腰には長剣を下げ、腰回りを同じく革の鎧で保護し、薄手のパンツの上に細身の革のブーツを履いている。そして短めの紺色のマントをマフラーのように雑に巻いていた。
この姿は、まさしくグリーシュマの話や数々の目撃情報に出てきた噂の女に違いなかった。
(この女がそうだったのか……。しかし顔は綺麗だけど……粗野な女だな)
「ってことは、ルマテスのことも知ってるのか」
「彼女は10年来の傭兵仲間で友だちよ」
「そうか……」
「さ、あれはあたしの物なのよ。返して」
差し出される手。
自分の話を長々と聞かせても、理解してもらえにくいタイプだ。どうやって彼女を説得するべきか。
ギャラガーが頭を悩ませたちょうどそのとき、背後の野次馬たちが歓声を上げ始めた。
「王の馬車が通るのか!」
ギャラガーはすかさず野次馬に混ざると、背伸びをする。
女はギャラガーの言葉を聞いてすぐさま隣で背伸びを始めた。
「き、君も新しい王が見たいわけ!?」
「興味ないわ!」
「じゃ、なんで野次馬をしている!?」
隣で互いに背伸びをしながら会話をする二人。
「王が来るってことは、ラルフが一緒にいるかもしれないじゃないの!」
「らるふ!?」
ギャラガーは訳が分からない。
「らるふって誰!?」
彼は、新聞記事の中にその名が記されていたことをすっかり見落としていたのだ。
背後で大声を出す二人の会話に、野次馬の一人が割って入ってきた。
「あんた何も知らないのか? ラルフ様は新しい王の宰相の一人だよ! 一番の実力者だって噂だぜ!」
「宰相???」
ギャラガーは再び女を見た。彼女はただひたすら王の馬車を見ようと懸命になっている。
「ちょっと来い!」
ギャラガーは女の腕をつかむと、野次馬の中を割って強引に列の一番前に出た。
ちょうど王の馬車が目の前を通過する。
「ラルフ……」
女を盗み見ると、その目に何かが光っているのが見える。目線の先には、王の左後ろに控える白い儀礼服を着た灰色の髪の男。
「あいつがラルフ……?」
無表情で通り過ぎるその男の横顔を見て、再び女を見る。
「あんた、あのラルフって男が好きなのか?」
「婚約、してるのよ一応……」
「はあ?」
彼女の声に自信は見えず、消え入りそうだった。婚約? 冗談にも程がある。釣り合わない。
しかし……通り過ぎるパレードの一群に沿って移動する彼女の頬はいつの間にか涙で濡れている。
ギャラガーはそんな彼女の顔を見て、嘘をついているようには思えなかった。
「ただいまー」
傭兵兵舎はいつもの空気を取り戻していた。
ギャラガーが戻ると、横のバーカウンターでは新しい王のパレードの話題で傭兵たちが雑談を繰り広げている。
受付にいたルマテスが立ち上がると、彼を出迎えた。
「お疲れ様。どうだった?」
「あ、宝冠見逃した!」
ルマテスの顔を見て自分の目的を今更ながら思い出したギャラガーは、悔しそうに額に手を当てた。
「おっちょこちょいね」
ルマテスは小さく微笑む。
ギャラガーは残念そうに肩をすくめると、急に神妙な顔をしてドアの外に目線をやった。彼の視線を追ってルマテスも同じ方向を見ると、そこには沈んだ表情のレイラが立っている。
その表情から何かを察したルマテスは、魂が抜けたようにただ立っている彼女を自分の寝所へ背中を押して連れて行った。
ギャラガーは、自室を出てスープを用意するためにキッチンへ行くルマテスの後をついて行った。
ルマテスは簡易的なかまどに薪をくべて水の入った鍋を置くと、籠に入った野菜を選別し始める。
「なにがあったんだ、あの女。宰相が婚約者だって言ってたけど本当?」
ギャラガーは壁に寄りかかりながらワインを瓶ごと持ち出して、ぐいっとあおる。
彼の質問に、ルマテスは沈んだ表情になった。
「あの子はレイラよ。覚えてね。婚約は本当。ラルフはもともとね、レイラの故郷で教師をしていた人なのよ」
「ふぅん?」
「私も彼が王室にいるって知ったのはここ最近。最も、あんな冷たそうな人じゃなかったんだけど……婚約してしばらくしてから急に失踪して、レイラは何年もずっと彼の消息を追っていたのよ」
「見つかったと思ったら宰相様だった……?」
ルマテスは頷いた。
「そういうことなんじゃないかな。あの子の憔悴ぶりを見ると、よほどショックだったのね」
「ちゃんと話し合ったのかな」
「もうそういう次元の話じゃないんだと思う。だって何の相談もなく消えて、いきなり王様の側近よ? 結婚の話は……」
「そっか」
「ひどい侮辱よね、女として馬鹿にされてる。なのにあの子は……」
「……」
ギャラガーはレイラの涙を再び思い出していた。彼女はもしかしたら、まだ諦めていないのかも……そう思えるのだ。
「ルマならこういうとき、どうするんだ?」
ギャラガーの素朴な質問に、彼女は野菜を刻む手を止めた。
「それでもやっぱり話をするわね」
「話?」
「なぜこんなことをしたのか、私を嫌いになったのか、はっきりさせる。そうすれば堂々と諦められるでしょ」
「嫌いじゃなかったら?」
「どういうこと?」
「つまり、嫌いじゃないけど、他に理由があって、仕方なく失踪して、結果今の状況になってるとか」
ギャラガーがルマテスの作業を後ろからのぞき見していると、ルマテスはぐつぐつと沸く鍋の中に野菜を入れて振り向いた。
「でも……あっ」
彼女は目の前にあるギャラガーの顔に驚いて手に持っていたお玉を取り落としてしまった。
「あっ、ご、ごめん」
「……いいのよ」
驚かせたと慌てたギャラガーをよそに、ルマテスは頬を染めながら微笑した。彼女は奥手な面があるのか、あまりそういった感情を表に出さない。
「……どんな事情だろうと、私はあの男が許せないわ。レイラが一途なだけに余計……」
「そうかぁ……」
「……ねぇギャラガー」
「あん?」
「私たちどうしてこんな話をしているの? 双子の石はどうなったの?」
「あっ……」
ギャラガーは、ルマテスに指摘されるまで気づいていなかった。
(なんだろ俺、なんであの女のことこんなに真剣に考えてんだ)
レイラの真剣で真っ直ぐな瞳は、どうも強烈に彼の印象に残ったようだった。
(俺、馬鹿みてえ)
野菜の入った鍋はぐつぐつと煮えたぎっている。
二人の間に数分の時間が流れたあと、ギャラガーはワインの瓶を土間のレンガの上に置いた。
「……ちょっと今思いついたんだけど」
ギャラガーは顎に手を当てた。
この祭りはディオス王国第十四代目の王フランツが急逝し、それに伴って急遽十五代目の王になった息子・セシルの即位を盛大にお祝いするためのものだったのだ。
今日はその最後を飾るパレードが行われる。
ここしばらくの新聞は王室のニュースで持ち切りで、と言うのも、セシルの即位は陰謀に満ち満ちていたからである。
フランツが崩御したのは一ヶ月ほど前。公には病死ということになっているが、実際は暗殺であったという噂もちらほらと静かに囁かれているのだ。新聞にはまだ十三歳のセシルの似顔絵と、セシルに代わって政務を取り仕切るという四人の宰相の名前がある。
ギャラガーは新聞の新たな王の似顔絵をじっと見つめた。
少年王はブルーのマントをまとい、額には代々受け継がれている宝冠を戴いている。なんでも、マントは新しい王になるとその都度その王に合ったデザインで仕立て直すという。しかし王室の色であるブルーは変わらない。宝冠も同じで、王室色のブルーの大きな宝石がはめこまれていた。
おそらくその宝石こそが、ウエストレイクとグリーシュマが言っていた双子の石の片割れなのだろうと思われる。しかし確証はない。
一応パレードを見届けて、現物をこの目で実際に確認してみようとは思うが……見届けたところで、さてどうしたものか。
今まで何人もの研究者たちが王室に掛け合って宝冠の貸与を申し出たが、その都度断られ続けているのだ。どうせ真っ正面から話をしても無駄だろう。
いや、とりあえずは赤の宝石が手に入ったことをまず成果として持ち帰るべきではないだろうか?
ギャラガーはパレードを待ちわびる人混みの中、思案に暮れていた。
(うーんここは、やっぱルマテスに頼むしかないかな……でもちょっと頼りすぎかなぁ……)
彼女は何かとギャラガーに協力的である。しかし彼女はネルジュブレイの研究者ではないただの傭兵なのだ。これ以上の協力で傭兵組合に悪い噂がたつのも申し訳ない。
「うーん……」
悩んでいるうちにラッパの音がだんだんと近くなり、少年王が乗った馬車が多くの騎士や衛兵・女官などに囲まれてゆっくりとやってきた。
「お、来た!」
辺りの野次馬たちが途端にガヤガヤと騒ぎ出す。我も我もと新たな王を拝もうと一斉に背伸びをしたり頭を横にふらふらさせたりと落ち着きがない。ギャラガーも例に漏れず、なんとか宝冠をこの目に焼き付けようとつま先立ちを始めた。
そのとき、よたよたとアンバランスな状態で首を伸ばす彼の手首を、誰かがつかんだ。
すかさず自分の手首を見るギャラガー。
彼の手首には明らかに女性と分かる細い指が絡んでいる。そこから伸びるしなやかな腕の先に華奢な肩があり、白く長い首の上には冷たい眼差しの美人がこちらをじっと見つめていた。
「えっ……??」
「あなたがギャラガー?」
美女は彼の名前を知っている。名を呼ばれて更に混乱した。
「き、君誰?」
「間違いないようね。ちょっとこっちに来て!」
彼女はギャラガーを強引に野次馬の中から引っ張り出すと、軽く息を整えて言った。
「あたしのネックレスを持っているでしょう? 返してちょうだい!」
その言葉で、彼はすべてを理解した。
つまり、彼女の持ち物をドガが盗って、それをギャラガーが持っているから直々に取り返しに来た、と。
「……傭兵組合に立ち寄った?」
ギャラガーは落ち着き払って美女に向き直った。
「ええ。あたしは傭兵だもの」
その言葉で彼はハッとした。そうなのだ。美女ではあるが、その服装はハッキリ言って男装。
粗末なカットソーの上に革の胸当てを装着し、腰には長剣を下げ、腰回りを同じく革の鎧で保護し、薄手のパンツの上に細身の革のブーツを履いている。そして短めの紺色のマントをマフラーのように雑に巻いていた。
この姿は、まさしくグリーシュマの話や数々の目撃情報に出てきた噂の女に違いなかった。
(この女がそうだったのか……。しかし顔は綺麗だけど……粗野な女だな)
「ってことは、ルマテスのことも知ってるのか」
「彼女は10年来の傭兵仲間で友だちよ」
「そうか……」
「さ、あれはあたしの物なのよ。返して」
差し出される手。
自分の話を長々と聞かせても、理解してもらえにくいタイプだ。どうやって彼女を説得するべきか。
ギャラガーが頭を悩ませたちょうどそのとき、背後の野次馬たちが歓声を上げ始めた。
「王の馬車が通るのか!」
ギャラガーはすかさず野次馬に混ざると、背伸びをする。
女はギャラガーの言葉を聞いてすぐさま隣で背伸びを始めた。
「き、君も新しい王が見たいわけ!?」
「興味ないわ!」
「じゃ、なんで野次馬をしている!?」
隣で互いに背伸びをしながら会話をする二人。
「王が来るってことは、ラルフが一緒にいるかもしれないじゃないの!」
「らるふ!?」
ギャラガーは訳が分からない。
「らるふって誰!?」
彼は、新聞記事の中にその名が記されていたことをすっかり見落としていたのだ。
背後で大声を出す二人の会話に、野次馬の一人が割って入ってきた。
「あんた何も知らないのか? ラルフ様は新しい王の宰相の一人だよ! 一番の実力者だって噂だぜ!」
「宰相???」
ギャラガーは再び女を見た。彼女はただひたすら王の馬車を見ようと懸命になっている。
「ちょっと来い!」
ギャラガーは女の腕をつかむと、野次馬の中を割って強引に列の一番前に出た。
ちょうど王の馬車が目の前を通過する。
「ラルフ……」
女を盗み見ると、その目に何かが光っているのが見える。目線の先には、王の左後ろに控える白い儀礼服を着た灰色の髪の男。
「あいつがラルフ……?」
無表情で通り過ぎるその男の横顔を見て、再び女を見る。
「あんた、あのラルフって男が好きなのか?」
「婚約、してるのよ一応……」
「はあ?」
彼女の声に自信は見えず、消え入りそうだった。婚約? 冗談にも程がある。釣り合わない。
しかし……通り過ぎるパレードの一群に沿って移動する彼女の頬はいつの間にか涙で濡れている。
ギャラガーはそんな彼女の顔を見て、嘘をついているようには思えなかった。
「ただいまー」
傭兵兵舎はいつもの空気を取り戻していた。
ギャラガーが戻ると、横のバーカウンターでは新しい王のパレードの話題で傭兵たちが雑談を繰り広げている。
受付にいたルマテスが立ち上がると、彼を出迎えた。
「お疲れ様。どうだった?」
「あ、宝冠見逃した!」
ルマテスの顔を見て自分の目的を今更ながら思い出したギャラガーは、悔しそうに額に手を当てた。
「おっちょこちょいね」
ルマテスは小さく微笑む。
ギャラガーは残念そうに肩をすくめると、急に神妙な顔をしてドアの外に目線をやった。彼の視線を追ってルマテスも同じ方向を見ると、そこには沈んだ表情のレイラが立っている。
その表情から何かを察したルマテスは、魂が抜けたようにただ立っている彼女を自分の寝所へ背中を押して連れて行った。
ギャラガーは、自室を出てスープを用意するためにキッチンへ行くルマテスの後をついて行った。
ルマテスは簡易的なかまどに薪をくべて水の入った鍋を置くと、籠に入った野菜を選別し始める。
「なにがあったんだ、あの女。宰相が婚約者だって言ってたけど本当?」
ギャラガーは壁に寄りかかりながらワインを瓶ごと持ち出して、ぐいっとあおる。
彼の質問に、ルマテスは沈んだ表情になった。
「あの子はレイラよ。覚えてね。婚約は本当。ラルフはもともとね、レイラの故郷で教師をしていた人なのよ」
「ふぅん?」
「私も彼が王室にいるって知ったのはここ最近。最も、あんな冷たそうな人じゃなかったんだけど……婚約してしばらくしてから急に失踪して、レイラは何年もずっと彼の消息を追っていたのよ」
「見つかったと思ったら宰相様だった……?」
ルマテスは頷いた。
「そういうことなんじゃないかな。あの子の憔悴ぶりを見ると、よほどショックだったのね」
「ちゃんと話し合ったのかな」
「もうそういう次元の話じゃないんだと思う。だって何の相談もなく消えて、いきなり王様の側近よ? 結婚の話は……」
「そっか」
「ひどい侮辱よね、女として馬鹿にされてる。なのにあの子は……」
「……」
ギャラガーはレイラの涙を再び思い出していた。彼女はもしかしたら、まだ諦めていないのかも……そう思えるのだ。
「ルマならこういうとき、どうするんだ?」
ギャラガーの素朴な質問に、彼女は野菜を刻む手を止めた。
「それでもやっぱり話をするわね」
「話?」
「なぜこんなことをしたのか、私を嫌いになったのか、はっきりさせる。そうすれば堂々と諦められるでしょ」
「嫌いじゃなかったら?」
「どういうこと?」
「つまり、嫌いじゃないけど、他に理由があって、仕方なく失踪して、結果今の状況になってるとか」
ギャラガーがルマテスの作業を後ろからのぞき見していると、ルマテスはぐつぐつと沸く鍋の中に野菜を入れて振り向いた。
「でも……あっ」
彼女は目の前にあるギャラガーの顔に驚いて手に持っていたお玉を取り落としてしまった。
「あっ、ご、ごめん」
「……いいのよ」
驚かせたと慌てたギャラガーをよそに、ルマテスは頬を染めながら微笑した。彼女は奥手な面があるのか、あまりそういった感情を表に出さない。
「……どんな事情だろうと、私はあの男が許せないわ。レイラが一途なだけに余計……」
「そうかぁ……」
「……ねぇギャラガー」
「あん?」
「私たちどうしてこんな話をしているの? 双子の石はどうなったの?」
「あっ……」
ギャラガーは、ルマテスに指摘されるまで気づいていなかった。
(なんだろ俺、なんであの女のことこんなに真剣に考えてんだ)
レイラの真剣で真っ直ぐな瞳は、どうも強烈に彼の印象に残ったようだった。
(俺、馬鹿みてえ)
野菜の入った鍋はぐつぐつと煮えたぎっている。
二人の間に数分の時間が流れたあと、ギャラガーはワインの瓶を土間のレンガの上に置いた。
「……ちょっと今思いついたんだけど」
ギャラガーは顎に手を当てた。
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