半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

文字の大きさ
上 下
111 / 301

大御所症候群

しおりを挟む
  友人のお店やさんごっこ。
  失礼、お店。
  で、知り合ったご老体の、セクハラがつらい。ご本人はユーモアのおつもり、それを受け流すのが良い女なのでしょうけれども、どっと疲れがでる。SNSでのたまのコメントも、あまりの的はずれに驚かされてしまう。この人は根っこから、我々の世界とは違うところの人なのだろう。

  つまるところ。

  我慢する疲れと、平気でいられない自分への悔しさと、友人への疑問とで、疲れてしまう。貴重な休みに何をしてるんだ自分は、という疑問もわく。

  さておき。

  新しい材料を買った。創作のインスピレーション、手の中の取材、やったぞやったぞかなり理想に近い。
  
  私の作品によく出る、今の煙草原稿にも求められていたらしい、石の話。私は地球ロマンとして鉱石が好きで、彼女はパワーストーンという意味合いで好きなのだそうだ。

  完全な理想通りのものではないという点までも、イメージしていたとおりのものだった。手にはいるものが完全であってはならない、理想の極みは手にはいらず追い続けたい、ならば外で出会って買える品は8割から9割程度の満足度をキッチリと満たすものが最高なのだ。自分にとって。かなしいかな、私は、画家としてひねくれている。

「てことはさー」
「はい」
「て、ことは、なのよ」
「どうされたんです?」
「好きなのに、プレゼントされてもうれしくない品ってことになる?」
「それはそれです、ちゃんと嬉しいですよ」
「そこは普通なのね」
「創作に役立つだろうと恩着せがましく押し付けられたら、すごくすごく不愉快ですけどね。お花やお菓子みたいに、好きものをあげようって感覚なら、嬉しいです」
「めんどくさいひと、だからひとりぼっちなのよね」
「と、二人でいるところで言われると複雑だなぁ。でも、まぁ、ぼっちなんでしょうね」

友達関係が希薄というか、踏み込めない壁があるというか、友達がいない。友達らしき人を、こちらから友達という勇気がない。そういう人に育ってしまった。堆積した地層に重みがなく、スカスカだが軽やかでもなく、ただ古い。古き善きなどという言葉もあてはまらない、老朽化した壊れていい場所。罵る言葉が思い付かない。

「欲しい石が、そこに居るのはわかってたのに」

ある日の売り場を思い出した。

「この中に居るから、みつけてねって、気配を感じたんだ」

それはまるで、花畑のなかのたった一輪が前世の恋人であったかのように。

「あの子がとなりにきて、これいいよ、こっちはどうオススメだよ、面白いねって。煩くて声がかきけされて、すすめる石はどれも真逆のものばかりでさ」

それでね

「合わないんだなって話だけならいいんだけど、たぶんぼくの興味に合わせようと無理に踏み込んできたんだろうね。それでもともと宝飾だのスピリチュアルだのが好きな人だから、その場で見る気はなくて無理矢理なのに、興味がゼロでもないから、すごく変な磁場を出してるんだ。あの人はよく、へんな電波を出してる。ぼくの持ち物もよく故障するんだ、あの人のそばにいると。なんなんだろうね、とことん無理なんかなぁ」

一応、友達だと思ってるのに。お互いなんとなく、人にはそういってるのに、変な気のつかいかたをしあっているから、二人の間には二枚の城壁がある。

むこうは姫君なのだろう、私は土地を任される将なのだ。どこまでいっても、接してるようで別物で交わることはない。心のなかでカラコロと石が音をたてる、私の中の「ぼく」に響いて買った石たちはならずに静かに眠りに沈んでいく。あんなに煩くない、あの煩い石達は誰を呼んであんなに騒いでいたのだろう。

望まぬ主達の物色の手をまぬがれることがいいことなのか、いつか本当の主にたどり着くための一時的な宿主として望まない相手にも求められることが正しいのか。そもそも、声は掘り出されたことへの不満だったのだろうか。石達の本懐はわからない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...