半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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迷宮、幼虫回廊の恋人。

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抱えるサイズの幼虫。
カブトムシのような、ミカンの缶詰のような。
温泉の影響のあるエリアの背景で、かならず一枚の葉っぱを布団にしたした状態でえがかれている。

そこにはいなかったはずの、どこにもいなかったはずのもの。
持ち出して死ぬかもしれないので、連れていってといわれても連れていくのが躊躇われる。ただ、連れ帰らなくてはならないということが頭の隅にあり、しかし誰に言われたのかを思い出せず「ダメなはずなのに」となんとなく認識している。近頃突然現れた者で、異次元だかなんだかのせいといわれている。近頃のものだから、規制されてもないから気にするなと皆がいう。いまのうちにと。

もやもやする。

記憶がまだらで、まるで所々が抜け落ちたビデオテープ映画のようだった。それは記憶だけなのか空間までもかというかんがえがスッとよぎり、早く出ていかなければこの時間の流れに閉じ込められるような気がした。

それから、水芭蕉のある公園にいた。

風景は続いていたが、もう硫黄の匂いはしない。あれは物語でよくいう地獄か奈落が近づいてきていたのだと思う。もう日常の普通の生活に戻りたいし、明後日は会社の仲間と夕食の支度をしているのだ。私は宿に帰った。…宿に?家ではなく?ここは、どこ?どこの街?? 

家庭用のような水槽がある、ホテルともペンションともつかないゲストハウスなのだと思う。視線を動かすたびに背景が切り替わってしまうので、ここの本当の間取りがわからない。ものの配置も把握できない。歩くときは、テーブルなり壁なりに手をついたまま歩く。そうすると、風景は固定されている。

「あぁ、夢の中にしてもこれは重たい、頭がつかれる」 

と、完全にその世界の生き物である人たちの前では言えなかった。ここが夢とわかっているということに気付かれた時、自由でいさせてくれるかわからない。排除されるかもしれない。

「うん、でも、大丈夫だよ」

声がする。ふりかえる。立っていたはずの自分の体は、折れて斜めの柱の上に寝ていた。

「もう大丈夫だから、迎えに来たから」

それは君だった。布団を退けるために体より前にでた腕を、君はつかんで自分の体にかけさせた。

「ほら、ほっぺがあったかい?わかる?」

遭難していたのだろうか、私は夢を見ていた、そして覚めたのだ。が、わかっている。この世界も不安定だ。別の夢か現実のどちらかにつれていかれる、狭間の世界の独特の匂いがしている。

現実ならできない、頬をあてられて温もりを感じること。でも、この君はこの空間にだけいつもあらわれてくれる、同じ君だ。その日限りの夢ではなく、ずっと繋がってる君だとわかる。涙が込み上げてくるが流れない。

「まってたよ、あいたかった、ずっとあいたかった」
「分かってる、大丈夫だよ」
「分かってくれてるって知ってるもん」
「そうだね、知ってることも分かってたよ」
「そこまで分かってくれるって、知ってるから」

私は思わず吹き出した。その両腕を君がつかんで体を起こす。

「ほら、起きて」

いやだ、それはまたひとりになるの?

「起きて、一緒にいこうよ」

本当に?本当に?いつもと違う。

起き上がる反動で、もういちどしっかりと抱擁する。溶け込むようなあたたかさ、とけていく、ほどけていく、世界の匂いがすっと遠退いていく…

あぁ、まただ。

別の夢の中、でも君と離れたのではなく、君が溶け込んでくれた優しさでそのまどろみの世界がさめて、次の夢の世界におちこんでいく。

もう、なにも怖くない、この迷宮を抜けなくてはならない。

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