96 / 301
迷宮、幼虫回廊の恋人。
しおりを挟む
抱えるサイズの幼虫。
カブトムシのような、ミカンの缶詰のような。
温泉の影響のあるエリアの背景で、かならず一枚の葉っぱを布団にしたした状態でえがかれている。
そこにはいなかったはずの、どこにもいなかったはずのもの。
持ち出して死ぬかもしれないので、連れていってといわれても連れていくのが躊躇われる。ただ、連れ帰らなくてはならないということが頭の隅にあり、しかし誰に言われたのかを思い出せず「ダメなはずなのに」となんとなく認識している。近頃突然現れた者で、異次元だかなんだかのせいといわれている。近頃のものだから、規制されてもないから気にするなと皆がいう。いまのうちにと。
もやもやする。
記憶がまだらで、まるで所々が抜け落ちたビデオテープ映画のようだった。それは記憶だけなのか空間までもかというかんがえがスッとよぎり、早く出ていかなければこの時間の流れに閉じ込められるような気がした。
それから、水芭蕉のある公園にいた。
風景は続いていたが、もう硫黄の匂いはしない。あれは物語でよくいう地獄か奈落が近づいてきていたのだと思う。もう日常の普通の生活に戻りたいし、明後日は会社の仲間と夕食の支度をしているのだ。私は宿に帰った。…宿に?家ではなく?ここは、どこ?どこの街??
家庭用のような水槽がある、ホテルともペンションともつかないゲストハウスなのだと思う。視線を動かすたびに背景が切り替わってしまうので、ここの本当の間取りがわからない。ものの配置も把握できない。歩くときは、テーブルなり壁なりに手をついたまま歩く。そうすると、風景は固定されている。
「あぁ、夢の中にしてもこれは重たい、頭がつかれる」
と、完全にその世界の生き物である人たちの前では言えなかった。ここが夢とわかっているということに気付かれた時、自由でいさせてくれるかわからない。排除されるかもしれない。
「うん、でも、大丈夫だよ」
声がする。ふりかえる。立っていたはずの自分の体は、折れて斜めの柱の上に寝ていた。
「もう大丈夫だから、迎えに来たから」
それは君だった。布団を退けるために体より前にでた腕を、君はつかんで自分の体にかけさせた。
「ほら、ほっぺがあったかい?わかる?」
遭難していたのだろうか、私は夢を見ていた、そして覚めたのだ。が、わかっている。この世界も不安定だ。別の夢か現実のどちらかにつれていかれる、狭間の世界の独特の匂いがしている。
現実ならできない、頬をあてられて温もりを感じること。でも、この君はこの空間にだけいつもあらわれてくれる、同じ君だ。その日限りの夢ではなく、ずっと繋がってる君だとわかる。涙が込み上げてくるが流れない。
「まってたよ、あいたかった、ずっとあいたかった」
「分かってる、大丈夫だよ」
「分かってくれてるって知ってるもん」
「そうだね、知ってることも分かってたよ」
「そこまで分かってくれるって、知ってるから」
私は思わず吹き出した。その両腕を君がつかんで体を起こす。
「ほら、起きて」
いやだ、それはまたひとりになるの?
「起きて、一緒にいこうよ」
本当に?本当に?いつもと違う。
起き上がる反動で、もういちどしっかりと抱擁する。溶け込むようなあたたかさ、とけていく、ほどけていく、世界の匂いがすっと遠退いていく…
あぁ、まただ。
別の夢の中、でも君と離れたのではなく、君が溶け込んでくれた優しさでそのまどろみの世界がさめて、次の夢の世界におちこんでいく。
もう、なにも怖くない、この迷宮を抜けなくてはならない。
カブトムシのような、ミカンの缶詰のような。
温泉の影響のあるエリアの背景で、かならず一枚の葉っぱを布団にしたした状態でえがかれている。
そこにはいなかったはずの、どこにもいなかったはずのもの。
持ち出して死ぬかもしれないので、連れていってといわれても連れていくのが躊躇われる。ただ、連れ帰らなくてはならないということが頭の隅にあり、しかし誰に言われたのかを思い出せず「ダメなはずなのに」となんとなく認識している。近頃突然現れた者で、異次元だかなんだかのせいといわれている。近頃のものだから、規制されてもないから気にするなと皆がいう。いまのうちにと。
もやもやする。
記憶がまだらで、まるで所々が抜け落ちたビデオテープ映画のようだった。それは記憶だけなのか空間までもかというかんがえがスッとよぎり、早く出ていかなければこの時間の流れに閉じ込められるような気がした。
それから、水芭蕉のある公園にいた。
風景は続いていたが、もう硫黄の匂いはしない。あれは物語でよくいう地獄か奈落が近づいてきていたのだと思う。もう日常の普通の生活に戻りたいし、明後日は会社の仲間と夕食の支度をしているのだ。私は宿に帰った。…宿に?家ではなく?ここは、どこ?どこの街??
家庭用のような水槽がある、ホテルともペンションともつかないゲストハウスなのだと思う。視線を動かすたびに背景が切り替わってしまうので、ここの本当の間取りがわからない。ものの配置も把握できない。歩くときは、テーブルなり壁なりに手をついたまま歩く。そうすると、風景は固定されている。
「あぁ、夢の中にしてもこれは重たい、頭がつかれる」
と、完全にその世界の生き物である人たちの前では言えなかった。ここが夢とわかっているということに気付かれた時、自由でいさせてくれるかわからない。排除されるかもしれない。
「うん、でも、大丈夫だよ」
声がする。ふりかえる。立っていたはずの自分の体は、折れて斜めの柱の上に寝ていた。
「もう大丈夫だから、迎えに来たから」
それは君だった。布団を退けるために体より前にでた腕を、君はつかんで自分の体にかけさせた。
「ほら、ほっぺがあったかい?わかる?」
遭難していたのだろうか、私は夢を見ていた、そして覚めたのだ。が、わかっている。この世界も不安定だ。別の夢か現実のどちらかにつれていかれる、狭間の世界の独特の匂いがしている。
現実ならできない、頬をあてられて温もりを感じること。でも、この君はこの空間にだけいつもあらわれてくれる、同じ君だ。その日限りの夢ではなく、ずっと繋がってる君だとわかる。涙が込み上げてくるが流れない。
「まってたよ、あいたかった、ずっとあいたかった」
「分かってる、大丈夫だよ」
「分かってくれてるって知ってるもん」
「そうだね、知ってることも分かってたよ」
「そこまで分かってくれるって、知ってるから」
私は思わず吹き出した。その両腕を君がつかんで体を起こす。
「ほら、起きて」
いやだ、それはまたひとりになるの?
「起きて、一緒にいこうよ」
本当に?本当に?いつもと違う。
起き上がる反動で、もういちどしっかりと抱擁する。溶け込むようなあたたかさ、とけていく、ほどけていく、世界の匂いがすっと遠退いていく…
あぁ、まただ。
別の夢の中、でも君と離れたのではなく、君が溶け込んでくれた優しさでそのまどろみの世界がさめて、次の夢の世界におちこんでいく。
もう、なにも怖くない、この迷宮を抜けなくてはならない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる