半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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アスタリスク

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  すぅ、と、息を。煙草の嗜みかたとして誤りであっても、私は空気を逃がしあとの鼻腔に重きをおいていて、肺のことはよくわからない。どこで楽しめばいいのか、正しいのかは知らない。その鼻の中は、ある日の完全なる綿菓子の出店だった。冷めやらぬアスファルトの臭いをほのかに残した、明るい夜で音をたてる、綿菓子の出店だった。

「また噛んだ」

と、あの人が笑っている。私が無意識にキャンディーを噛み砕くたびに、その中年女性はクスクスと美しく笑うのである。そして、また新しいものをあけて私の口許に運んでくる。

「あーーーん」
「…………」

若い燕というらしいけれど、そういうことは男性にすれば良いのにと、いまひとつ理解が追い付かずに口に含む。深く入れられたりしないなら、無理なものを入れられないなら、なんとなく差し出されれば、とくに問題ない。

「これは?」

煙草は吸わない主義という私の唇に、平気でそれをさしこむ婦人は何を考えているんだろうか?鼻腔からぬける煙は、あいかわらず、キャンディーの甘味とまざって綿菓子を思い出させた。

  私はその美しいひとのことをさして好きでもなく、世間的に美しいと言われていることは判るが美しさを感じはしていなかった。なぜ、ここにいるんだろう。

「なんでこんなことするの?」

私はやっと、気持ちを言葉にする。

「なんで、こんななんていうの?アタシと居るの嫌いなの?」
「そういうわけじゃないけどさ」

そういうわけだ。なぜ、かばうような変な嘘をつくのか、私は。なんで私が好まないことをするの?と、聞けなかった。
  
  好まないだけで嫌悪しているわけでもない程度のことは、相手が望むなら自分は受け入れるしかないのだと思う。逆は求めない、無理に合わせてくれなくていい。と、思っていた。

にゃぁと、猫が膝に乗る。助かったと息をつく。猫がを避けるように煙草を自分の手でとって消すと、猫は延び上がって私の顔を鼻を舐めはじめた。それは執拗に鼻の穴の縁にこすりつけられ、ざらついた舌の摩擦でくしゃみがでるのではないかと思うほどに。

綿菓子なのかな?

と、目を細める。
猫は何を悟ったのか、彼女が彼(猫)をかかえて自分が私の膝に乗ろうとしてきそうなタイミングで、ふいっと膝を離れて別の話題に切り替えてくれた。ありがたいことだ。

  あまり愉快ではない出来事に優しさを添えてくれた猫は、いまどうしているのか私は知らない。
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