半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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美声の理性

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  ありがたいことに。

 美声を聴き放題である、毎日。
 生きていようが死んでいようが、もしかしたら聴力がなかったとしても、雑音や騒音からは逃れられないかもしれない。それでも、何らかのメディアを再生させるわけではなく生の美声が聴き放題なのだから、今の生活は悪くはないのかもしれない。

  周囲の美声の人間の一人のことをメモしようと思った。

  どういうわけかわからないが、その人間の声は満腹中枢を刺激するので、帰り際に遭遇すると寄り道や買い食いがなくなる。
  空腹でもないのに何か食べたいといった欲求からも目が覚めるので、金銭的にも身体的にも健全である。なによりありがたいのは、食欲が萎えてそうなるというわけではなく、気持ちがお腹一杯だからということで、これもまた健全なことだなと何となく思った。

  声。
  今年に入ってすっかり調子のよくない喉だが、定期的に人が誉めてくれるのはありがたい。
  ネガティブな淵から言わせていただけば、とりたてて誉められることがある人間でもなし、何かしらの点で誉められてやっと呼吸ができる思いでもある。

  声。
  なりすませないもの、演じるのが難しいもの、思ってもない事を相手が勝手に真意だと汲み取ることもある。この世界に自分以外のなにかがいて、あるいはあって、接した瞬間コミュニケーションという柵が生まれ、事故を起こす。無の中にあったとしても、そこには己と他という空間の二極が観測される。なんだかとても、疲れる。

  良いことがあった。
  というか、いつものように誉められる日と、けなされる日があった。あきれた気持ちを隠しきれず演じられずに期限を損ねたというだけの話と、好意のあらわしかたを模索している人間がいたという二つの出来事。

  ぼくの声は、相手が変わっても同じことばをかけられるぼくの声は。
  それしか接し方がない面倒な人間なのかな、という悲しさ。
  誉め言葉を受け取れない気持ちは、待ってた出所ではないというただそれだけのワガママ。
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