半熟卵とメリーゴーランド

絵本

  赤ずきん。
  
  君に会う夢を見たいのに、私の夢に出てきたのはお伽噺の少女だった。

「また、あなたですか」

  有名人だからといって、どこにでも分け行ってよいわけではない。ましてや、私の夢には踏み込んでくれるな、私は、私の時間は、他の目的があるというのに。

「えん」
   「があ     から」
「仕方ない」

  知らない通行人の声が混ざりあって、繋ぎあわせるとそんな言葉に感じられた。

  縁。

  何度か演じれば、それは縁なのだろうか。
  この世にあまねく数多の役柄、それならば回が重なれば縁。一度でも縁。
  お伽噺の姫君に扮したい姫たちが、姿にも心にも似合わず扮したがらない私をどうしてやろうかと算段する。頭巾をとれば、狼の耳。

  ぶくぶくと、口許で泡立てる。

  お湯の記憶。

  ねぇ、似合わないのがわかっててなんでやらせるのさ。

「あんた人間似合ってないけど、辞めないでしょ？死にはしないでしょ？」

わけがわからない、女の子の言語についていけない。

「似合うからいいじゃない」

わけがわからない。何を言ってるんだ。私は三匹の小豚のでき損ない、家を壊す。

「それは、出来のいいオオカミってこと」

わけがわからないよ。

「いいのよ、出来のいいオオカミは人の母親に成り済ますし、バレたって相手を飲み込めるじゃない」

そうだね、七匹の子やぎのオオカミも、しまいには腹に石を詰められたよ。

「赤ずきんと同じね」

  口伝の物語は、パーツの組み合わせみたいなものだね。

「くでん？あぁ、いいや、ぐぐった。てか七匹は多いなー昼ドラみたいだわ」

  昼ドラ？
  そうだなぁ、七匹も生んだ女が、お前が私に化けようなんてとバカにして、胎をさいて石を詰める。オオカミは愛人女だったのかな。それとも…

「昼ドラだわ」

七匹いる方が愛人、正妻は旦那のせいで不妊に苦しんでいるのに嫁ぎ先では産め産めと針の筵。時計が立派なのは、それに釣り合う立派な旦那さんの生活が、時間をよほど意識しないといけない二重生活だったのかな、なんて。

「……かわいくない」

ごめん。

「やっぱりあんたは、赤ずきんでいてよ」

赤いマフラーの仮面ライダーでよければ。

「だめ！」