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火遊び

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  いくつかの記憶。

「だめじゃないサ、煙草なんて」
「比率が美しくないからね、とても不格好、うん、ごめんね」

  煙草をけした。
  椅子の背もたれに首を預ければ、背板ごしに彼女が立っているのがわかる。肉体が触れていることぐらいは、目を閉じていてもわかる。

「そういうことじゃない。形は問題ない、いつもの大好きなあんたよ」

顔面に近いところに、なにかの熱源がある。

「あんたは赤ちゃんみたいに、すぐに匂いがうつるから」

  そうか、昔はそういえばそうだったろうか?
  記憶の中の会話に、今の自分の体臭に思考を向ければ、まったく信憑性を感じられないよ。

  けれど、彼女にとっては、それが事実なのだ。

「あたしのにおいがすることが、あんたの価値のひとつだから」

  そうか、君はそういう人だった。

「タバコのにおいなんて、誰か男の影響みたいで許せないわ」

  君の影響以外の何者でもない移り香はよくて、いもしない男の存在感は許せない。君はとっても人間らしくて、大好きだ。実害がない限り愛していられる。
  嫉妬よ意思よそれもまた美しく輝きえるもの。

「ぼくのこと好き?」
「当たり前でしょ!」
「ぼくの声は好き?」
「当たり前でしょ!ふざけてるの?」
「ぼくの温度は好き?」
「好きよ?だからどうしたの?」
「べつに?たんなるコーキシンです。それもね」

  消した煙草を指差して、目を開ける。
  ねえ、だったらなんで、匂いは移り香じゃなきゃだめなんだろうね。と言うと、たぶんこの美しい人は似つかわしくない表情をする、から、言えない。ぼくは、私は、彼女の望む彼女に似合った者でいなくてはならない。

  理由は忘れた。

  たぶん、なにかしらの欲望の対価だったんだろう。

  年を取ると感傷的になるという人もいれば、老いは面倒なことを忘れるための切符であるとか、人は言う。なるほど。

  黒っぽいピース、甘いはずのそれが記憶のなで苦いなら、たぶん私は歯軋りに近いなにかをしたのだと思う。
  束縛に苛立ったのではなくて、たぶんもっと好戦的な理由で。たとえば、椅子の背もたれが邪魔だったとか、彼女の肌の感触だとか。

  それももう、記憶の彼方。  

  女同士でシアワセサガシは、なんだかんだであれなのだ。それ。

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