半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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古書店の記憶

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  十数年前、貴方は何歳だったんだろう。
  少なくとも、私が貴方の年齢のときは、働くという言葉とは程遠い。快楽主義を装ったところで振りきれない半端者は、罪悪感に苦しむというあまりよろしくない若者だった。
  年齢差は十もないので、もう少し遡る。
  その頃、私は舶来品の派手なブラウスにループタイをしめ、男物の下駄を鳴らす金髪の小僧だった。そして醜い顔ではずかしげもなく古書店に出入りして、それは中古ではなくアンティークなのだと知らしめるプレミア価格に唸りながら、それでも紙の書籍の魅力に日々震えていた。

   その風景が室内に満ちた。

  確実に言える、どこかのあの店、ではない。

  印象、記憶、混ざってる。この世にはない古書店か。

ともすれば、記憶ではないこれは夢だ幻だ、無限に拡がりゆく幽玄夢幻の古書店の匂いが満ち溢れ、脳がなにかを分泌した瞬間に細胞のひとつひとつが独自に心臓をもったかのようにざわめいては蠢いた。なんという快感、なんという恍惚、なんというなんというなんという!!!

  KOOL ESACPEからのFORTE。
  おもちゃのような、お菓子のような、レトロなパッケージ。
  それから、ほどよい案配の、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート。牛乳とホットレモン。

  空間には、ハッカ油とラベンダーオイルを無水エタノールに含ませたものに、ほのかなグリセリンの残り香。
  水分をとらずに飲み込んでしまったズボラの薬が喉をとおったあとの感触をいたわる、紙の感触。吸い付くそこに、蜂蜜のイメージを売りにした薬用リップと、端に残っていたらしいその前にぬっていた別の味。

  ありきたりの安価なすべてが混ざって、知っていたような知らなかったような、それは一つの快楽だった。あといくつか、その瞬間を作った要素が何だったか思い出せないまま、再現できずにいる。
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