半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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あぁ、そう。

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  いけないことだとわかっては、いた。

  業務中に、個人メールをのぞかない。そりゃそうさ、でも、お客様に操作方法を説明するためにフリーメールの画面を開いた。そして、ログインしないと表示できないメニュー画面のために、自分のアカウントにログインする。

      新着メール

なげこまれるチラシ以外に、通販の注文確定だの、クレジットカードの明細だの意外に、SNSのお友だちがなにを投稿してますだのという切ってもねじこまれる通知意外に、おやおやと、めずらしい。

きょうび、メールですか。

なんて。

  件名は、卑猥な言葉。普通なら、すぐに迷惑メールに登録されてゴミ箱に投げ込まれそうな、きたない言葉である。差出人は、大学時代の知人だ。

    仕事、枚数、多すぎ、ヘルプ。

どのような知人かはさておき、彼女はフリーライターらしからぬ、いつの時代の電報かといいたくなるようなメールを書く。

  副業はよろしくないが、そういわれるほどの枚数を手伝う余裕もない。お手伝い程度よ、と、釘を指してみながら、どちらにせよ断りきれない相手の言うことを受け入れる。私はたぶん甘いし、これは彼女のためにならないのだろうけれど、あまりそういう観点で話したくないのも事実だ。アナタノタメヲオモッテなんて、それはもっと狂ってから使えばいい。

  かといって。
  かといって、だ。労力のわりに対価のあるでなし、自己顕示欲もまぁまぁあるから自分も作家業のはしくれをしていた人間だ。メイキングでもアップロードしたいのに、ゴーストだからそれもできやしない、と。それはそれでいいはずなのに、心のどこかで、それは鉛を含んだレトロなガラス越しの風景ぐらいには景色をぬるりと歪ませた。いつからここまで心が狭くなったのか。

  で、原稿そのものは公開しちゃ駄目だけどさ、取材メモとか、その取材から発生した自分の原稿を公開するのはオッケーよ。並行して生まれた、別作品なんだから。

  メールとはさすがに違う口調で、彼女は笑った。勤務中に見たメールについて、どう聞き返そうか迷いながら寝ているところにかかってきた、彼女からの電話だった。


そのようなわけで、なにが生まれるかは知らないけれど、これは彼女のゴーストの副産物なので。

    えぇ、そんなかんじなのですよ。はい。
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