半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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回想の階層(2016.09.xx)

匿名ナイトフィーバー

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    彼女の職場に、昔の漫画で「ホモ」と言われているキャラクターの見本のような男がいる。ゲイを差別するというよりは、エネルギッシュで情が深いユニークな人物属性としてのそれだ。絵でいってしまえば、うるうるの眼はなぜか鋭い眼光を宿し、ほんのり湿った肌は青髭。

    昭和で言う二枚目なのに、口を開けば女性にふられた話。

「おまえ、いつもふられてんな…」


彼女はその言葉を飲み込む。彼なりの事情があるのだ。その話を聞くときの僕の気持ちについて考える余裕はなぜないのだろう。なぜ飲み込んではくれないのだろうかと、常々思う。

    こういうタイプを、伝書鳩という。伝書鳩によると、彼は彼女を良き友人というらしく同時に恋愛感情はあり得ないと釘をさすらしい。それがどこか面倒くさいと彼女は言うが、それを伝えられる僕の面倒くさい気持ちについて考えたことはあるのだろうかと思う。いつもそうだ。彼が彼女をカノジョの対象外とするのも、この良くも悪くも秘密がない明るさ…本人なりに話す相手は絞っているのは分かるが聞きたくない話がなにかと流れてくる、この伝書鳩のせいだろうなとなんとなく思う。

    夜は長い。
    彼女は特別勤務が付与されがちな僕よりも、よほど僕の部屋に馴染んでいる。かといって、僕の隣でくつろぐわけでもなくずっとどこかで何かをしている。そのせわしなさも、どこか鳩のようでたびたび苛立たされる。彼も同じだろう、落ち着いた風貌に似合わない、落ち着きのなさ。決して精神的な病があるわけでもなく、性格というかもってうまれた性質なのだ。だからこそ、話し合ってどうこうなるものではないという諦めが交際に距離を作る。

    たのしい
    いっしょにいたい
    友人として

これにつきる。だからといって、うんざりして突き放せる程度の存在でもない。これもまた、彼と気のあうところである。おそらく僕が女だったなら、こんなにも気のあう彼とは最高の交際ができるはずなのだ。そして理解の深い穏やかな家庭を築くこともできる。ただ、悲しいことに彼は男には興味がない。能力至上主義で、男は数値化された能力の記載された板にしか見えていない。僕も男だというだけで、ただのデータなのだった。

「思うんだけどね」

    ひとしきり洗いものをおえた彼女が、いいかけてやめる。こんなときは、だいたい男友達の話だ。一応、気がついてやめるのだが、気がつくなら口にする前に気づくべきだと思う。

「いいよ、はなして」
「ごめんね、あの人さ、たぶん軽くアレなんだよね」

 何の話なのかしばらく間があいたが、別の人物を思い出して納得した。

「いろいろあのひとに似てるよ。だから、静かに審査してる。いつも。嫌われたくないと自信なさげに呟くけど、あれは優れた自分を嫌うことを許せない気持ちの方が強そうだしなぁ、それに」

ごくりとカノジョの喉をココアがとおった。たまに、こうして、本人の意図を無視してかたまりで喉に飛び込むのだ、飲み物は。

「それに?」
「…それに…なんだっけ、わかんなくなっちゃったよ」

    はにかんで手をパタパタふるう彼女は、きっと伝書鳩にもおえないなにかをそこに失ったのだ。掘り返すの早めよう。そもそも、思考の素材をどうひろったのかということが僕に小さな恐怖を与える。性格分析するほど接してるのか、多角的に捉えるために同僚として友人として以外の視点をもっているのか。

    寒気がした。おかゆが食べたい。
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