半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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回想の階層(2016.08.xx)

君の瞳はナウマン、ボルドー

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   一言で言えば、この感情をドキドキと呼ぶのだ。
    バイセクシャルという時点で、異性よりも同性への贔屓が大きいことも、自分を異性だと思いたい逃げたい思春期のような思考回路をしていることもわかっている。だから、これは不思議なことではなくこれこそ自然なことなのだろう。

    私が女児であったころ、近所にすむ二人の男児といつも一緒にいた。何をして遊んでいたかの記憶はなく、また何をして遊べばいいのかについては私はいまだに不器用だ。二人とも私のひとつ年下で、片方は家の数件先のお店の息子で住まいは知らない。もう片方は祖父同士が同業者という縁がある。まさか私のために、遊んでやれとつかわされていたわけではないよなと大人になってからふと思い出すことはあったが、当時のことはあまり思い出せないのでもうそのことは考えないようにしよう。なによりお互い祖父は他界しているのだから。
    いきなり何故そんな話を持ち出したかと言うと、そう、ドキドキなのだ。幼い頃、彼らはありきたりだがどちらが私を花嫁にするかという話をしたあと、三人で暮らせば良いと笑っていた。全員、5人なり8人なり人数のいる家庭に育ったので「3人家族」という響きは自然なのだ。事実婚なら重婚でもないだろう。子供の世界は自由だ。とくに祖父同士が同業者のほうの小僧は、ある年齢まで独身なら結婚するのだと幼いながらに言っていた。そのあと引っ越した時の年齢から考えると、当時は3歳と4歳、先の長い婚約をしたものだ。
   幼稚園も小学校も、それならば当然のように中学校も同じところへ通ったが、小学校の半ばで私がよくもわるくも目立つようになってからは、自然と離れていった。最後に話したのはおそらく中学校だ。
    夏期講習で知り合った女子は「親戚の家に滞在中のヨソモノ」で、浮いていて寂しいのだとなついてきた。ある日どうしても遊びたいと家に招かれると、そこには彼がいた。親戚というのは彼だ。彼女が浮いているのはヨソモノだからではなく、その個性であるのはわかっていた。学力に深刻な問題はないが思考としての頭脳になんらかの特徴を持っている…危ないとか、おかしいとか、そういう言葉で片付けられたり、子供ならショウガイシャと意味もわからずに言うこもいたろう。私になつく彼女をみたときの、彼の絶望的な表情は目に焼き付いた。肌は黄土色、三白眼で、えらがはりながらも整った顔立ちの、魅力のある少年だった。
    好かれていないとか興味が失せたとか、そういう距離感のうちは良かった。会いたくない関わりたくない人として振り分けられたようで、つらかった覚えがある。
    
    などということも、記憶のすみに追いやって、まれに結婚の話になると思い出して笑いが浮かぶ程度のアラサーの今に話を戻す。

    いたのだ。
    いたのだよ。


    職場の先輩、ほのかに出世しているので上長なのだろうか。同姓同顔。声も子供と大人の違いこそあるが、同じ種類だ。なぜ同姓同名かまでふれないかといえば、下の名前を覚えていないだけだ。気になる。気になる。私の親は彼の名前を知っているだろうか?同一人物だったからといって、明かすつもりもどうかなろうという意思もみじんもない。ただ、この世には再会の縁があるのだと喜べるではないか。過去の後悔に光が指すかもしれない、未来も楽しくなるかもしれない。

   あぁ、なんだ、やっぱりそうか。
   男として、幼馴染みかもしれない先輩にときめいてるのではなく、私が再会の縁をもっているかどうかにドキドキしているのか。なるほど。

    それでもやはり、気になる。
    これはドキドキ。
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