半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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回想の階層(2016.08.xx)

スピリチュアル魔法少女おばさん

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今日のこの日は特別な満月!
キラキラエナジーシャワー☆無限の可能性で夢をひきよせるよ!

    などという。

    などという。


    へきへきする。朝から、SNSではこのようなものが繰り返し投稿され、友人たちの正気を問おうとすれば自分が「物事を台無しにするボンクラ」になるのだろうなと諦める。目がいたい、頭がくらくらする。ひきよせの法則や、天体と人体の関係を否定はしない。それはスピリチュアルではなく、生物学や心理学や統計や…つまりは、不思議世界で「これは決定付けられてるの、不思議ではないわ☆」といっているわけではなく、学問の世界でいう不思議ではなくなってきた不思議なのだ。

「きらきらお月見女子会やろうよ!」
「ごめん仕事だわ」
「はー?休めばいいじゃん、その一晩の欠勤なんて覆す、大成功をつかむんだよ?そういうとこを我慢できないから、運命をつかみとれないんだよ!」

したり顔のまつげパーマの顔を膨らませ、量産型女子になろうとして規格外ではじかれたような顔の、しかし女の幸せと昭和で言われていたものをすべて手中に納めた『正しい女』は言うのだ。なぐるふりの仕草も、飽きた。その眉間に叩き込むように言いたかった。

「さよ(う)か、つまらん…行動しない夢を口実に休めるほど、甘い仕事はしてねぇんだわ」

言わないけど。言えないけど。正社員とはいえ業務が多く、時給制で残業代がもらえるわけでもない赤字気分のポジションについて三ヶ月。いわゆる短期バイトの1クールは終わるぐらいの長さと思えば、なれて当たり前が半分と、まだまだ経験が浅いよと半分。本当の意味で夢を叶えるための、試験やトレーニングに寛容な会社だが、そういった筋トレに近い実体のある投資ではない勉強会や交流会に至らないキラキラハッピーなミーティングもどき対しては、その価値にみあった対応と解釈しかしない。

    簡単に言えば、製品のトラブルシューティングやクレーム対応や犯罪被害の対応もするし…といった、お客様相談室に勤務している。対面の窓口にいる日もあれば、お電話窓口にいる日もあり、指導や資料作りもするのでやはりなんでもありなのだ。
    さて、エナジーシャワーの話だ。
    昨日は本当に酷かった。荒々しい電話がたえない。いつもお電話のない時間帯にもけたたましい怒号がそこかしこ。体内の7割を占める水分が月の引力に引かれているのだ…そして、興奮したり、万能感にとらわれたり、性欲や暴力衝動をおさえられなかったり、喧嘩をしたりする。体の中身が月に持っていかれて、狂ってしまう、それがルナシーというものなのだ。狼男の正体とも言われているし、満月の夜は事件が増えることは数字に出ており、カクテルのアルコールをあえて減らすバーも少なくはないそうだ。だから、彼女のいうエナジーシャワーが夢をつかむ力を生むというのはあながち間違いではない。しかしそんな月の魔力に引き出されるのは、美しいキラキラだけではない。
    自分は正しい、この思いは叶う、さまたげる悪はくじかなくてはならない…キラキラ、キラキラ、あぁキラキラ女子と満月クレーマーに同じエネルギーをかんじる。どちらも、月があたえた勇気、大潮に狂わされた血の胸騒ぎ。

    電話がなる、響き渡る怒声、キラキラ土星よ月になんとか言ってくれ。
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