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回想の階層(2016.07.xx)

彼女のことなど

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    彼女はレズビアンだった。だから男に好意をうちあけられるたというと笑い話にして「キミ以外の男に意味はないのに」と笑うのだった。ぼくは男だから、二人で仲むつまじく暮らすことは誰のめにも違和感はない。
    ぼくがなにも恐れる必要はないのはわかっている。ただ、彼女に好意をうちあけた男はもともと嫌いな相手だった。なのに今日は仕事中の十時間ほども隣の席になるという一種の拷問であった。

「山田さんって言う、優しい人がね?」

    彼女は大きな白目を輝かせる。ぼくの父が苦手な三白眼は漫画のようで、どちらかといえば魅力的に見える。眼を輝かせるのは話題の相手のせいではなく、この僕と話しているからだと思いたくて、動揺しながら息を飲む。みつめるのは恥ずかしくて、窓の外に視線を向けながら話を聞く。人の顔と名前を覚えるのが得意な彼女にとって、人よりそれがおとる僕との会話は少し難しいのかもしれない。賢い人だから、わざわざ相手の特徴を添えて話してくれる。それはありがたいのだけれど、時にはこんなダメージをくらうのだ。優しい人?優しい人?あいつが?僕はあいつの好戦的な毒気にあてられる。強烈なプライドに腹が痛む。同族嫌悪と劣等感だ。だから、僕を好きといってくれる彼女があいつに興味を持つことがいやなのかもしれない…言ってしまえば上位互換だから。幸い、最後の砦が、彼女が絶対に受け付けない系統の顔立ちと言うことか…などと、必死に、勝てるところを探す。みじめだ。

    みじめでみじめで、苦しい。
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