半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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山盛りクローバーサラダ2

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サツキの後ろに、高身長の男がたっている。電車のなかなのでなにもおかしくはない。感染症予防のご時世ではないので、マスクをしているのは花粉症だとか妊婦だとか、顔を出したくないだとか、そういう『ご事情マスク』だ。その男も、サツキも、マスクをしている。

「……(とはいえ」

それでも、顔の識別はできる。サツキはその男をよく知っている気がする。知り合いではないのになと窓にうつるその男の姿を見ながら、窓越しでも気づかれるかなと視線をはずした。

それから、目的地の駅に降りるサツキのうしろから、その男も降りる。駅前にもバス停はあるが、どの路線も近所の路線が駅前にとまるわけではなかった。駅から8分ほど歩いたところにも、「駅前」というバス停がある…この路線にとって駅に一番近いのがここなのだ。

「一時間に…一本とな…」

思わず口にするサツキの後ろを、あの男が駅の売店の袋をもって追い抜いた。足が早く、買い物をしている時間だけのハンデを追い抜いた。サツキは自分の脚の遅さを自覚しているが、少し落ち込むものだ。

が、そんな時間はない。会場にいかなくてはならない。歩いているうちにバスに追い付かれるかもしれないけれど、ただ待ち続けるのはストレスだ。と、サツキは考える。

歩いていると、先程の男がスタスタと同じ方向を進んでいるのがみえる。同じ目的地で、なにかの研修を受ける人かもしれない。

と、思ったときにサツキはハッとした。

「(あの顔は、いや、まさか)」

そんなことを考えている場合じゃない、ただ時間までに会場にいかなけれればならない。大きなチャンスなのに、自分の趣味の中の邪念にとらわれてはいけない。

憧れのスターの一番新しい姿は一年前の取材の写真だから、最近の顔に自信はないけれど似ているのだ…が、色めきだって歩きスマホをしてる場合じゃない。

とおもってる。
このときのサツキの顔はきっとニタニタしているし、猫背になってしまっている。妄想に頭を乗っ取られて、きっと気色悪い姿になっていると、自覚してる。自覚してるし、事実オタクではない人が頭に思い描く、よくないオタクの姿になっていた。

直線コースや信号待ちのときだけはるか前方に見える、スタスタと歩くマスクの男が、サツキのスターかどうかはさておき、追い付きたいサツキはいつもより少し足が早くなっていた。
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