半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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バレンタインデー

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バレンタインデーに、「私」は、彼と会えてしまった。
彼のほうが親しい、私にとっても友人の喫茶店。
お一人様をしていたところに、彼がやって来たのだ。

「バレンタインデーパック持ち帰りで2つ」

あぁ、彼女のためだよねと思う。

私が好きだといったときに、年下過ぎてよくわからないと言いながら、彼女は私と同級生。私が年齢のわりに世間知らずすぎたのね、と、社会的年齢の差なのね、と思って諦めたけれど、好きは好きなのだ。

「と、ひとつ」

追加でコーヒーを頼む。持ち帰り用のカップに出てくるのは友人のなせる技なのだと思うけれど、商品が来ても正面に座るのはずるい。好きなのに。

「送ろうか?」

と顔にかいてるくせに、タイミングをずらしてこちらがお願いしないと切り出さない。持ち帰りの品はきてるのに、座って、へんな間をあける。何度も、こちらが言えるタイミングを作ってくれてるのがわかるんだけど、やっぱり好きだと気づいてしまうと言い出せない。

「じゃぁ、がんばれよ?」

あぁ、好きだ。
このひとの声が好き。
セックスは感触的には物足りなかったけど、妙に気持ちが満ちてたのは覚えてる。興奮してたつもりはないけど、一種の興奮なのだとおもう。
声のせい?
声?

それから。
あるお店にランチをしに行く。
ここも、彼のほうが親しい、共通の友人のお店だ。

「最近どう?」
「あ!あの人にばったりあったんです」
「あ~あの店でしょ?」
「え?」

全部聞いてるよ、最近こうで、たしか…

え?
なんだろう。
ずっと、母にそれをされたら、友人にそれをされたら、嫌な気持ちだったはずなのに。
彼が共通の友人に、私の話をしたのか、あの日に知った私の近況を全部。なんでそんな話になったのか知らないけど、そんなこと知ったらドキッとしてしまう。

「個人情報だだもれちゃったね」
「先越されただけで、私もあの人のはなししようとしてたから」
「そうだね」

友人と笑う。
あぁ、やっぱりあの人。一緒になることはないとわかってても、わかってるから何歳になっても子供のような恋心をひとつ持っていられる、なんならあの人が逃した魚は大きかったと少しでも感じてくれたら嬉しい。

だって。

送ろうか?が顔にかいてあったときの目。
はじめて泊まった日の、まだ仕事の作業中なのに勃起して気まずそうにしてたときの目。

「私」の自意識過剰かもしれないけれど、この身の性別を決めて、恋愛を置き去りにした執着で愛でて。
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