半熟卵とメリーゴーランド

ゲル純水

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あやしい女と、ある飲み会。

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非公開のゲイ男。
非公開のバイセクシャル女。
ただしオタクなので、公然と同性にいちゃつく。
兄弟のような会社員。
管理者の男は彼らより若く、おそらくは一般的な男性らしくキレイで若い女の子が好きなのだが、キワモノと騒ぐ時間ももちろん大事にしている。

女。
酒は好きだが、とにかく弱い。
赤ん坊のようにふわふわしながら、ヒトが話すのを見てにこにこしている。

管理者の男は野心家だ。
どんなときも、従業員からどんなヒントがとびだしてものがさない。
手柄はたつ、従業員も重宝されたと喜ぶ、いいことだ。
そんなひとであるから、やけに熱心な視線が、管理者としてのものなのか、男と女としてのものなのかはかりがたい。
はかりがたいからこそ、期待のない期待をするのかもしれない。
自惚れてはいけない気のせいだ、と首を降りながらも、従業員はこの管理者の速度から振り落とされない。
一定の距離の甘酸っぱさが彼と部下との糊になっているのだろうか。

と、素面の時に言っていた女が、同僚たちとおしぼりでアヒルをつくって遊ぶのにまざり、不器用なおしぼり玉を作っている。その姿を、そこはかとない性的興奮を目の奥に宿して見ている管理者。その下半身にほのかにともる熱量に気がついて、ゴシップ趣味の興奮をあらわす男。

「おまえホントに、それはあんまりだ」

不器用なおしぼりにクスクス笑いながら、管理者はずいっと体を乗り出す。女に近い。

「一人一芸、あれば、いいのですよ、てんはにぶつをあたえないホワイト配送なのです」

女はVサインをして、へらりと笑う。あざといぶりッ子と言いたいところだが、普段こそ無理して大人であろうとしている、この幼さが本来の姿だった。

「一芸?二本たってるじゃん」

管理者が、Vサインの指を上から包み込むように手を被せて、二本の指の付け根をつまんでひとつにまとめる。しめたまま、つつんだ手を抜く。性別が逆転したセックスのように。

「んー、にほんでした?いっぽんのー、にぶつ!間違いない」

「はいはい」
  
と、言ってるところに、一口サイズのドルチェが運ばれてくる。

「はいはい、姫様たちが食べなさい」
 
管理者が、自撮りに夢中の従業員にも声を懸ける。女がにこにこ食べているのを見のがさず、指についたチョコをチュッと吸う様、そのときに口のすみに指のチョコがついてしまったのも見逃せなかった。ぶりっこでなければ知的障害だ、と毒づくヒトもいるだろう。しかしこの女、不器用さと幼さは確かに年齢不相応だが、一種の天才なので「一人一芸(だから苦手なこともある)」という主張もあながちおかしくはない。

「下品、ふけよ誘ってンの?」

と、恥ずかしげもなく悪びれもなく、男は女におしぼりをなげつける。拭かせるためではなく、わざと注目させて他のヒトの反応を見たがってるのだ。この男、他者が誰かにふと性的興奮を感じてしまった瞬間を、第三者として見るのが好きなのだ。いわく少女マンガの『胸キュン』なのだという。

「うぇ、食べるの下手すぎかー。ありがと投げるなバカ貴族」

女はふわふわしながらも、ものを投げつけられるという状況で意識を、いつもの様子を少しとりもどして、少年マンガのヒーローが血を拭うようにして、親指の腹で口角を脱ぐって、その指をおしぼりでふいた。

「ぺろぺろ」

男のとなりで新人がポツリと言ったので、男は思わず新人の股間の膨らみを確認した。無意識に舌をぺろぺろし、脳内では女と舌を絡ませているのがとなりからでもわかる。

綺麗な若い女性従業員は、それこそ山ほどいる。このバイセクシャル、典型的な「ちんちくりん」だが、ふとしたときに異様なまでに性欲を駆り立てる。それについては、どんな美人の女性従業員より強い。

なにも言わずに口を何度かちいさくパクパクした管理者も、新人とおなじだ。彼の心はもう、女の薄くて厚い唇に自分の陰茎をねじこんでいた。彼女の顎に、陰嚢がぺちぺちあたる音まで脳内には届いていた。

「ほら、俺食べないから食えくえ」

と、女に差し出しかけた手で、男の口にひょいと入れる。女はたぶん酔いに任せて受け入れるだろうし、そしたらわざと指を押し込んで舐めさせたくなる。我慢できる自信がまったくない。受け入れられたら、どこかに連れていってしまう。ドミノ倒しを前にして、ギリギリの自制心だった。

女は、この管理者が求めれば、求められるまま微笑んで受け入れるだろう。一度受け入れられれば、この管理者はずるずるとはまっていくだろう。もっと若いときに卒業したはずの、闘争心に近い欲望をたたきこみつづけるだろう。

男は。
これが好きなのだ。ほとんどの集団に、明らかに可愛く異性の同性間の繋がりを壊すサークルクラッシャーがいる。取り合いを引き起こす姫だ。
それとは別に、見劣りが逆に安心感となり、癒しのレクレーションのようにみなと肉体関係を持つものもいた。平たく言えば、チョイブスビッチ。
ただ、まれにいる、このバイセクシャル女のような妖怪。セックスアピールゼロのようで、その期間のエネルギーを一気に放出するように、ふとした瞬間に性欲を駆り立てる女。これのいちばん近くにたち、まわりの男を観察することの楽しさ。逸材。自分のウォッチングしたいシーンを誘発するエサ。

管理者も、いままでの人生でずいぶんと、サークルクラッシャーとも、チョイブスビッチともずいぶん楽しんできた。騙されてるわけではなく、そういうヒトだと見破った上で遊んだので、クラッシュされることも、癒しを感じることもなかった。
目の前のこの女はなんなのか、恋とも違うが、不思議な興奮を感じる。初めての間隔にそわついている。が、上司なので、本当に相思相愛すぐ結婚とうまくすすめることができなければ、単なるセクハラでゲームオーバーだ。

「このあとどうすんの?おまえら」

「かえって寝ます「オレんちで」

「つきあってんの?」

「逆です、ありえないから、帰るまもおしんでねむるの、明日も早いのです」

「でしゅになってるよ」

管理者は、この女が普段演じてきたカタイ姿しか知らなかったので、幼い様に動揺した。
そして、ほっとした。

「安全に連れて帰れよ!」

「こいつが襲われたら、撮影してメールしますね!レイプされちまえー」

「冗談でもほんとクソだなおまえ、上司のまえでまーなんつうか」

といいつつ。
自分の酔った勢いと、女の独特の幼さで、まるめこむような強引なセクハラを妄想してしまう管理者。撮影か、それもいい、せめて音声だけでも。
男はヒトの気持ちを察することに極端に鈍感だが、性的妄想をしているひとの心の声はしっかり聞こえる。

とある企業の飲み会。

【あやしい女シリーズ】
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