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第3話
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ガララと勢いよく開けられた扉の向こう。
そこで彼女は、驚愕していた。
それはそうだろう。今しがた口にした男が、目の前に立っているのだ。
驚かない方が無理ってものだ。
「ど、どうしてあなたが、ここにいるのかしら……?」
先輩の口をついて出た言葉は、当然の疑問。
いるはずのない人間を目の当たりにして、どうやらパニックを起こしているらしい。
「どうも。奇遇ですね」
俺は白々しい嘘で誤魔化そうとした。
正直どんな反応をしていいのか、自分でもわかっていない。
「そうね。でも、私が聞きたいのは、こんな時間に学校で、何をしているのかって事よ」
「それは先輩にも言えるんじゃないですか? いくら生徒会の仕事だからって、普通こんな時間まで、作業しませんよね?」
「それは……急ぎの案件があったのよ。あなたには、関係のない事だわ」
「じゃあ、俺の事も関係ないですよね?」
「くっ……。あなたって、どうしてそう減らず口なのかしら」
「それはお互い様でしょ、先輩。それでは、俺は自分の用事があるので、失礼します」
軽く会釈をすると、何食わぬ顔でやり過ごそうとした。
しかし──。
後ろから制服の襟を、思いっきり引っ張られ、慣性の法則にしたがい加わった力により、首が閉まる。
ぐぇっと情けない声を上げると、抗議の視線を先輩へと向ける。
「な、何するんですか! 死ぬかと思いましたよ!」
「あなた、普通にスルーしようとしたでしょ? 恐ろしい子ね」
「それはそうでしょ。だって、先輩のあんな姿を見たら、誰だって……」
「やっぱり聞いていたんじゃない! あなたをこのまま見過ごす訳には、いかないわね」
「しまった! 違うんです先輩! 俺は何も見てないし、聞いていません。本当なんです! 信じてください!」
「今更そんな言い訳が通じるとでも? それより、観念した方が身のためだと思うのだけど」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「それを私の口から、聞きたい?」
凄みのある笑みで見つめられた俺は、首を横に振った。
ここで反抗するのは、得策ではない。
俺は観念する事を決め、先輩の後に続いて、生徒会室の扉を潜るのだった。
◆
中には誰もおらず、先輩と二人きり。
しかも、先輩は椅子に座った足を、無意味に組み替えたりして、こちらを挑発してきている。
スカートから覗く、絶対領域が見え隠れして、正直気が気ではない。
静かに吐息を吐き出すと、先輩は言葉を紡いだ。
「それで。あなたはどこから聞いていたのかしら?」
「どこからと言うと……。それは、その……。先輩が、俺の名前を呼んでいた辺りから……」
「そう……。つまり、ほとんど最初の方から聞いていた。という事になるわね」
「そうですね。そうなりますね」
「あら? 存外冷静なのね。もっと取り乱したり、するかと思っていたわ」
「これでも内心では焦ってるんですよ?」
「本当かしら。とてもそうは見えないけれど」
「本当ですって。とにかく、俺はこの事を他言しません。絶対に。誓って約束します」
「私にそれを信じろと? さすがに私も、そこまでお人好しではないわよ」
「では、どうすれば信じてもらえるんですか?」
「そうね……。あなたが、生徒会に入る。というのはどうかしら?」
「はい?」
「何か問題でも?」
「問題だらけですよ! いきなり生徒会に入ったら、他の生徒から不審がられます! それに、他の生徒会の人達だって、認めないでしょう」
「それは問題ないわ。皆いい人ばかりだし、私の言う事にケチをつける人はいないから」
「いや、でも……。それでも問題は残ると思いますけど」
「それはどんな?」
「例えば、俺の意志はどうなります? 俺が拒否する事もできますよね?」
「あなたに拒否権があると、思っているの?」
俺に拒否権は存在しないらしい。
むしろ人権すら否定されそうで、怖い。
「え? 俺に拒否権はないんですか?」
「当たり前でしょう? 私のあんな姿を見たのよ。生かして帰すわけないじゃない」
物凄くいい笑顔で言い切られてしまった。
俺がここを無事に切り抜けられるという、都合の良い案はないみたいだ。
「それで、あなたは生徒会に入ってくれるのかしら? それとも、満に一つもないとは思うけど、拒否……するのかしら?」
ぐぃっと音が聞こえそうな程、勢いよく顔を近づけた先輩は、俺の目をじっと見て答えを求めてきた。
俺は、額から汗を流し、その鋭い眼光から逃れる様にして、視線を逸らす。
しかし、逸らした先に先輩は先周りして、俺の退路を封鎖しようとしてくる。
俺は、はーっと長く息を吐いてから、観念した様に両手を上げて、降参の意を示した。
「わかりました。俺の負けですよ先輩。先輩の言う通り、生徒会に入ります」
「あら。話の理解が早くて助かるわ。それでは、これからよろしくね。志熊君」
先輩からすっと差し出された手を軽く握り、俺は先輩との契約を交わす。
これは一方的に交わされた密約。
俺は生徒会に囚われの身となり、先輩に監視される。
この先の学校生活を考えると、溜息しか出なかった。
そこで彼女は、驚愕していた。
それはそうだろう。今しがた口にした男が、目の前に立っているのだ。
驚かない方が無理ってものだ。
「ど、どうしてあなたが、ここにいるのかしら……?」
先輩の口をついて出た言葉は、当然の疑問。
いるはずのない人間を目の当たりにして、どうやらパニックを起こしているらしい。
「どうも。奇遇ですね」
俺は白々しい嘘で誤魔化そうとした。
正直どんな反応をしていいのか、自分でもわかっていない。
「そうね。でも、私が聞きたいのは、こんな時間に学校で、何をしているのかって事よ」
「それは先輩にも言えるんじゃないですか? いくら生徒会の仕事だからって、普通こんな時間まで、作業しませんよね?」
「それは……急ぎの案件があったのよ。あなたには、関係のない事だわ」
「じゃあ、俺の事も関係ないですよね?」
「くっ……。あなたって、どうしてそう減らず口なのかしら」
「それはお互い様でしょ、先輩。それでは、俺は自分の用事があるので、失礼します」
軽く会釈をすると、何食わぬ顔でやり過ごそうとした。
しかし──。
後ろから制服の襟を、思いっきり引っ張られ、慣性の法則にしたがい加わった力により、首が閉まる。
ぐぇっと情けない声を上げると、抗議の視線を先輩へと向ける。
「な、何するんですか! 死ぬかと思いましたよ!」
「あなた、普通にスルーしようとしたでしょ? 恐ろしい子ね」
「それはそうでしょ。だって、先輩のあんな姿を見たら、誰だって……」
「やっぱり聞いていたんじゃない! あなたをこのまま見過ごす訳には、いかないわね」
「しまった! 違うんです先輩! 俺は何も見てないし、聞いていません。本当なんです! 信じてください!」
「今更そんな言い訳が通じるとでも? それより、観念した方が身のためだと思うのだけど」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「それを私の口から、聞きたい?」
凄みのある笑みで見つめられた俺は、首を横に振った。
ここで反抗するのは、得策ではない。
俺は観念する事を決め、先輩の後に続いて、生徒会室の扉を潜るのだった。
◆
中には誰もおらず、先輩と二人きり。
しかも、先輩は椅子に座った足を、無意味に組み替えたりして、こちらを挑発してきている。
スカートから覗く、絶対領域が見え隠れして、正直気が気ではない。
静かに吐息を吐き出すと、先輩は言葉を紡いだ。
「それで。あなたはどこから聞いていたのかしら?」
「どこからと言うと……。それは、その……。先輩が、俺の名前を呼んでいた辺りから……」
「そう……。つまり、ほとんど最初の方から聞いていた。という事になるわね」
「そうですね。そうなりますね」
「あら? 存外冷静なのね。もっと取り乱したり、するかと思っていたわ」
「これでも内心では焦ってるんですよ?」
「本当かしら。とてもそうは見えないけれど」
「本当ですって。とにかく、俺はこの事を他言しません。絶対に。誓って約束します」
「私にそれを信じろと? さすがに私も、そこまでお人好しではないわよ」
「では、どうすれば信じてもらえるんですか?」
「そうね……。あなたが、生徒会に入る。というのはどうかしら?」
「はい?」
「何か問題でも?」
「問題だらけですよ! いきなり生徒会に入ったら、他の生徒から不審がられます! それに、他の生徒会の人達だって、認めないでしょう」
「それは問題ないわ。皆いい人ばかりだし、私の言う事にケチをつける人はいないから」
「いや、でも……。それでも問題は残ると思いますけど」
「それはどんな?」
「例えば、俺の意志はどうなります? 俺が拒否する事もできますよね?」
「あなたに拒否権があると、思っているの?」
俺に拒否権は存在しないらしい。
むしろ人権すら否定されそうで、怖い。
「え? 俺に拒否権はないんですか?」
「当たり前でしょう? 私のあんな姿を見たのよ。生かして帰すわけないじゃない」
物凄くいい笑顔で言い切られてしまった。
俺がここを無事に切り抜けられるという、都合の良い案はないみたいだ。
「それで、あなたは生徒会に入ってくれるのかしら? それとも、満に一つもないとは思うけど、拒否……するのかしら?」
ぐぃっと音が聞こえそうな程、勢いよく顔を近づけた先輩は、俺の目をじっと見て答えを求めてきた。
俺は、額から汗を流し、その鋭い眼光から逃れる様にして、視線を逸らす。
しかし、逸らした先に先輩は先周りして、俺の退路を封鎖しようとしてくる。
俺は、はーっと長く息を吐いてから、観念した様に両手を上げて、降参の意を示した。
「わかりました。俺の負けですよ先輩。先輩の言う通り、生徒会に入ります」
「あら。話の理解が早くて助かるわ。それでは、これからよろしくね。志熊君」
先輩からすっと差し出された手を軽く握り、俺は先輩との契約を交わす。
これは一方的に交わされた密約。
俺は生徒会に囚われの身となり、先輩に監視される。
この先の学校生活を考えると、溜息しか出なかった。
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