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第2話
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あれはちょうど去年の夏だった。
俺がこの興南高校に入学して、半年程経った日の出来事だった。
「拓海ー。お前部活とか入んないの?」
「健吾だって入ってないじゃないか」
「俺は忙しいんだよ。放課後はいろいろとな」
「本当か? いつも気付いた時にはいないよな。いつもどこに行ってるんだ?」
「ふふーん。それは……秘密だ!」
「あっそ。それならそれでいいや」
「ちょ、ちょっと待てよ拓海! いくら何でもそれはひどくないか!?」
「だってそこまでして気になる事でもないし」
「俺達友達だよね? 友達だったら気になるのが普通だよな?」
「あっ。あそこにいるのって、生徒会長じゃないか?」
「俺の事は無視かよ……。どれどれ……って、あの人は生徒会長の棚町静乃先輩じゃないか!」
「だから、そうだって言っただろ。健吾詳しいのか?」
「詳しいとか以前に、あの人を知らない生徒は、この学校にはいないだろ!」
「そうなのか? 俺はそこまで詳しく知らないけど」
「お前正気か!? 棚町静乃先輩って言ったら、この学校で一、二を争う人気者だぞ?」
「そうなのか? 確かにあの人綺麗だもんな」
「それだけじゃないぞ。何と言っても、あの高校生離れしたプロポーション。神が作ったとしか言いようがない。
なぜ彼女の胸は、あんなにも大きいのか! きっと夢が詰まっているに違いない!」
「力説してる所悪いが、女子が引いているぞ」
「へ……?」
健吾を遠巻きに、女子の刺す様な視線が怖かった。
健吾は額から汗水垂らし、一目散にその場から逃げる。
残された俺は、なぜか生徒会長の姿を目で追ってしまっていた。
一瞬───彼女と目が合った気がした。
気がしただけだろう。
自分の勘違いだと捨て置いて、俺も教室に戻るべく踵を返した。
それが彼女と俺の初めての出会いだった。
それからわずかの間で、あんな事になるなんて、この時の俺には知る由もなかった。
◆
その日の放課後。
俺は教室に忘れた、教科書を取りに戻っていた。
時間は既に夜。
別段急ぐ用事でもないのだが、困った事に明日の小テストで使う教科書だった。
「俺も馬鹿だな。こんな時間に学校に行かなきゃいけないなんて」
一応学校には先に連絡をして、不法侵入と勘違いされないように、手は打ってある。
夜の学校というのは、いくつになっても怖いものだ。
校門を潜り抜け、事務所の人に挨拶をしてから教室へと向かう。
教室に向かう途中で、生徒会の部屋に光が灯っているのが見えた。
「こんな時間に、まだ生徒会の人は仕事をしてるのか。真面目なんだな」
俺は一人ごちると、生徒会室の前を素通りしようとした。
すると、部屋の中から女子の甘い声が聞こえて来る。
「ん……あっ、んっ、ぁっ」
俺は驚き、意味もなくきょろきょろと辺りを見回す。
何かイケない場面に出くわしてしまったみたいだ。
「これは……見て見ぬふりをした方がいいよな?」
誰にともなく呟いた言葉は虚空に吸い込まれた。
俺がそのまま素通りしようと、足を前に出したその時。
「拓海君……そ、そこはダメよ。あっ……ん!」
びくっと体が震えた。
なぜここで俺の名前が出て来るのか……。
「いや、たまたまだよな? 拓海何てどこにでもいる平凡な名前だ。俺の事じゃない」
自分で自分に言い聞かせると、俺は無心の境地でやり過ごす。
「志熊拓海君。私は……君の事が……」
やり過ごそうと思ったら、完全に俺の事だった。
もう誤魔化せないくらい俺の事だった。
「何で生徒会室から俺の名前が聞こえてくるんだー!」
「誰!?」
「やばっ。早く逃げないと」
走り去ろうとした俺の目の前で、無情にも扉が勢いよく開けられた。
扉を開けた人物は───まさかの棚町静乃先輩だった。
そう、誰あろう生徒会長その人だったのだ。
俺がこの興南高校に入学して、半年程経った日の出来事だった。
「拓海ー。お前部活とか入んないの?」
「健吾だって入ってないじゃないか」
「俺は忙しいんだよ。放課後はいろいろとな」
「本当か? いつも気付いた時にはいないよな。いつもどこに行ってるんだ?」
「ふふーん。それは……秘密だ!」
「あっそ。それならそれでいいや」
「ちょ、ちょっと待てよ拓海! いくら何でもそれはひどくないか!?」
「だってそこまでして気になる事でもないし」
「俺達友達だよね? 友達だったら気になるのが普通だよな?」
「あっ。あそこにいるのって、生徒会長じゃないか?」
「俺の事は無視かよ……。どれどれ……って、あの人は生徒会長の棚町静乃先輩じゃないか!」
「だから、そうだって言っただろ。健吾詳しいのか?」
「詳しいとか以前に、あの人を知らない生徒は、この学校にはいないだろ!」
「そうなのか? 俺はそこまで詳しく知らないけど」
「お前正気か!? 棚町静乃先輩って言ったら、この学校で一、二を争う人気者だぞ?」
「そうなのか? 確かにあの人綺麗だもんな」
「それだけじゃないぞ。何と言っても、あの高校生離れしたプロポーション。神が作ったとしか言いようがない。
なぜ彼女の胸は、あんなにも大きいのか! きっと夢が詰まっているに違いない!」
「力説してる所悪いが、女子が引いているぞ」
「へ……?」
健吾を遠巻きに、女子の刺す様な視線が怖かった。
健吾は額から汗水垂らし、一目散にその場から逃げる。
残された俺は、なぜか生徒会長の姿を目で追ってしまっていた。
一瞬───彼女と目が合った気がした。
気がしただけだろう。
自分の勘違いだと捨て置いて、俺も教室に戻るべく踵を返した。
それが彼女と俺の初めての出会いだった。
それからわずかの間で、あんな事になるなんて、この時の俺には知る由もなかった。
◆
その日の放課後。
俺は教室に忘れた、教科書を取りに戻っていた。
時間は既に夜。
別段急ぐ用事でもないのだが、困った事に明日の小テストで使う教科書だった。
「俺も馬鹿だな。こんな時間に学校に行かなきゃいけないなんて」
一応学校には先に連絡をして、不法侵入と勘違いされないように、手は打ってある。
夜の学校というのは、いくつになっても怖いものだ。
校門を潜り抜け、事務所の人に挨拶をしてから教室へと向かう。
教室に向かう途中で、生徒会の部屋に光が灯っているのが見えた。
「こんな時間に、まだ生徒会の人は仕事をしてるのか。真面目なんだな」
俺は一人ごちると、生徒会室の前を素通りしようとした。
すると、部屋の中から女子の甘い声が聞こえて来る。
「ん……あっ、んっ、ぁっ」
俺は驚き、意味もなくきょろきょろと辺りを見回す。
何かイケない場面に出くわしてしまったみたいだ。
「これは……見て見ぬふりをした方がいいよな?」
誰にともなく呟いた言葉は虚空に吸い込まれた。
俺がそのまま素通りしようと、足を前に出したその時。
「拓海君……そ、そこはダメよ。あっ……ん!」
びくっと体が震えた。
なぜここで俺の名前が出て来るのか……。
「いや、たまたまだよな? 拓海何てどこにでもいる平凡な名前だ。俺の事じゃない」
自分で自分に言い聞かせると、俺は無心の境地でやり過ごす。
「志熊拓海君。私は……君の事が……」
やり過ごそうと思ったら、完全に俺の事だった。
もう誤魔化せないくらい俺の事だった。
「何で生徒会室から俺の名前が聞こえてくるんだー!」
「誰!?」
「やばっ。早く逃げないと」
走り去ろうとした俺の目の前で、無情にも扉が勢いよく開けられた。
扉を開けた人物は───まさかの棚町静乃先輩だった。
そう、誰あろう生徒会長その人だったのだ。
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