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ゲームの醍醐味はこれ!
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俺は全速力で走っていた。
普段のトレーニングではある程度舗装されている道を走っているが、森の獣道となれば話は別だ。
かなり体力を持っていかれる。
その上。
俺は気配を感じて横っ飛びした。
俺がいた場所を、石礫が猛スピードで通り過ぎていく。
「油断は禁物ですよ」
とか言いながら手に持った石を、ぽんぽんと手のひら上で弄んでいるのはオリヴィアさんだ。
俺は頬が引きつるのを感じた。
滅茶苦茶だ。
視界の悪い上にいつ敵が現れるかわからない森の中を全速力で走らせながら、時折、飛んでくる石を避けるために意識を集中しなければならない。
しかも両手両足に重りをつけている。
オリヴィアさん曰く、これは初級レベルの鍛練らしい。
おい、嘘だろおい。「懐かしいですね。私も昔やりました」とか言っていたけど、マジかこの人。
ゲームではクールで色々あった系のミステリアスなお姉さんキャラだったのに、彼女のイメージがどんどん崩れていく。
印象が悪いわけではないんだが。
と、霊気兵が二体現れた。
俺は咄嗟に剣を構え、意識を集中する。
飛び掛かってくる霊気兵をいなし、剣を振るうと同時に殺気を感じて、深く身をかがめる。
石礫が頭に直撃するところだった。
「避けないと死にますよ」
俺は霊気兵よりも、オリヴィアさんが怖い。
彼女は本気で俺を殺すつもりだ。
いや未必の故意だ。逆に考えるんだ。死んでもいいと考えるんだとか思っていそうだ。
死んだら終わりなんだよ!
これはゲームじゃないんだからな!
俺は必死に霊気兵と戦いながら、石礫を避けた。
ギリッギリだ。もう何度死んだと思ったことか。
霊気兵を倒した後も、俺は気を抜かなかった。
最早、俺の敵は霊気兵ではない。オリヴィアさんだ。
すでに倒した霊気兵の数は百近くになっている。
たった一日でここまでやらされるとは。
鬼である。
オリヴィアさんは鬼教官である。
でも好きだ。
なぜなら美人で胸が大きくていい匂いがするからである。
卑怯だと思う。こんな色んな属性を備えたキャラを嫌いになるのは難しい。
というか普段は優しいしな。
「っと!」
考え事をしていると、また石礫が飛んできた。
まるで俺の隙を縫うように飛んでくる。
本当に俺の考えを読んでいるんじゃないだろうか。
「休む時間はありませんよ。前に進んでください」
言われて俺は再び足を動かす。
ボスへの道は知っている。
そして道中、何があるかも。
走っている最中、足元に何かを見つけた。
ピンと張られたロープだ。
俺はそれを見ずに軽快に飛び越えた。
ちなみにさっきのは罠である。
ロープに触れるとどこからともなく矢が飛んでくるという典型的なものだ。
当然、罠の場所はすべて把握済みだ。
そして、石礫が飛んできたので避けた。
全速力で走りつつ、石礫を避けつつ、罠を避けつつ、霊気兵を倒しつつ俺は進み続けた。
もはや大道芸人の域である。
むしろよく全部クリアできているなと感心するくらいだ。
これも鍛錬とプレイ時間のおかげだろう。
「すばらしい。やはりリッドさん、あなたは天才です」
嬉々とした声と共に、無数の石礫が飛んでくる。
どうやらオリヴィアさんはテンションが上がると殺意も上がるらしい。
もう頼むから手加減してほしいと思いながら、俺は身をよじり、すべてを躱した。
完全回避とはいかず、たまに掠っているが構ってはいられない。
恐らく、主を倒さない限りオリヴィアさんは止まらないし、俺は止まることを許されないだろう。
走れ。走るのだ。
必死に地を蹴り、最短距離でボス部屋へ向かった。
足を止めるな!
死ぬぞ!
「っと、忘れてた」
俺は足を止めた。
全速力から全力の停止。
遥か前方の茂みが激しく揺れたのは気のせいではないだろう。
オリヴィアさんの綺麗な白髪がちょっとだけ見えた。
俺は獣道から横道に逸れる。
そして目的のものを見つけた。
「あったあった」
宝箱である。
これこれ! これが醍醐味なんだよ、カオスソードは!
所詮はチュートリアルで手に入る宝箱。
しかも木製でボロボロだ。
はっきり言って中身に期待はできない見た目をしている。
だが宝箱だ。
目の前に、何かが入った箱がある。それだけでロマンを感じるものなのだ。
まあ、中身は知っているんだけどさ。
ただ、万が一ってこともある。
ここはあれをやるか。
「待ってください! 宝を開ける際には慎重に――」
追いついてきたオリヴィアさんが叫んだ。
切迫した声を無視して俺は宝箱にゆっくりと近づき、そして――。
殴った。
宝箱を思いっきり殴ったのだ。
背後でオリヴィアさんが足を止める気配がした。
シーンと周囲が静まり返る。
なぜかその瞬間だけは、獣の声も風音も何もしなかった。
無音の中、手に残った痺れだけが俺の意識を奪った。
「……リッドさん?」
後ろからオリヴィアさんの戸惑った声が聞こえた。
まるで、あなた頭大丈夫と言わんばかりだった。
だが俺の頭は平常である。
俺は大仰に頷き、そして満面の笑みを浮かべた。
「ふー、やっぱり普通の宝箱か。念のためね、念のため」
「あ、あの。なぜ殴ったのです?」
「え? だってミミックかもしれないじゃないですか」
「ご、ご存じだったのですね。で、ですがなぜ殴ったので?」
「ん? 殴って確認するのが基本では?」
オリヴィアさんは何言ってんだこいつとばかりに戸惑っている。
おい、マジか。
宝箱はまず殴るのが基本じゃないのか?
だってミミックかもしれないじゃないの。
殴って確認するのが当たり前でしょう?
そう思う俺だったが、オリヴィアさんは奇人変人でも見るかのように俺を見ている。
どうやらこの世界では、宝箱をまず殴るのは常識ではなかったらしい。
ふむ、よくよく考えると、宝箱を殴るのは主人公のカーマインだけだったような。
他のキャラが宝箱を殴るところを俺は見たことがない。
客観的に見ればヤバい奴だろう。
「……ですが、言われてみればミミックの可能性を考えれば、最初にダメージを与えてみるという手もありますね……中身が壊れるかもしれませんが」
「そこはほら、俺なりに手加減してますから。端っこの方を狙えば箱だけ攻撃できますし」
「……まあいいでしょう。ミミックの可能性を考えて行動しているのであれば、私から言うことはありません」
オリヴィアさんは無理やり自分を納得させたようだった。
後ろに下がりながら、宝箱を開けるように促してくる。
俺は厚意に甘えて、宝箱をゆっくりと開けた。
中に入っていたのはダガーだ。
短剣の中でも最弱の武器だ。
しかし始めたばかりのプレイヤーにとっては心強い相棒でもある。
ゲームだと攻撃にしか使えないが、現実では料理や動物の解体、ちょっとした際にも使える便利な武器となるのだ。
「初宝箱ゲットォ!」
「おめでとうございます」
可愛らしくパチパチと拍手してくれるオリヴィアさん。
この人、こんな一面もあったんだな。
本当にこの世界に来てから、登場キャラクターの意外な一面ばかり見ている気がする。
カオスソードの世界そのものに関してもそうだ。
宝箱を開ける時の高揚感はすさまじいものがあった。
楽しい。これは楽しいぞ!
俺はダガーを腰の後ろに装備した。
と。
「では、休憩は終わりですね。行きますよ」
いや、今の休憩だったんかい。
俺は嘆息しながら再び走り出した。
ただ、嫌な気分は微塵もなかった。
普段のトレーニングではある程度舗装されている道を走っているが、森の獣道となれば話は別だ。
かなり体力を持っていかれる。
その上。
俺は気配を感じて横っ飛びした。
俺がいた場所を、石礫が猛スピードで通り過ぎていく。
「油断は禁物ですよ」
とか言いながら手に持った石を、ぽんぽんと手のひら上で弄んでいるのはオリヴィアさんだ。
俺は頬が引きつるのを感じた。
滅茶苦茶だ。
視界の悪い上にいつ敵が現れるかわからない森の中を全速力で走らせながら、時折、飛んでくる石を避けるために意識を集中しなければならない。
しかも両手両足に重りをつけている。
オリヴィアさん曰く、これは初級レベルの鍛練らしい。
おい、嘘だろおい。「懐かしいですね。私も昔やりました」とか言っていたけど、マジかこの人。
ゲームではクールで色々あった系のミステリアスなお姉さんキャラだったのに、彼女のイメージがどんどん崩れていく。
印象が悪いわけではないんだが。
と、霊気兵が二体現れた。
俺は咄嗟に剣を構え、意識を集中する。
飛び掛かってくる霊気兵をいなし、剣を振るうと同時に殺気を感じて、深く身をかがめる。
石礫が頭に直撃するところだった。
「避けないと死にますよ」
俺は霊気兵よりも、オリヴィアさんが怖い。
彼女は本気で俺を殺すつもりだ。
いや未必の故意だ。逆に考えるんだ。死んでもいいと考えるんだとか思っていそうだ。
死んだら終わりなんだよ!
これはゲームじゃないんだからな!
俺は必死に霊気兵と戦いながら、石礫を避けた。
ギリッギリだ。もう何度死んだと思ったことか。
霊気兵を倒した後も、俺は気を抜かなかった。
最早、俺の敵は霊気兵ではない。オリヴィアさんだ。
すでに倒した霊気兵の数は百近くになっている。
たった一日でここまでやらされるとは。
鬼である。
オリヴィアさんは鬼教官である。
でも好きだ。
なぜなら美人で胸が大きくていい匂いがするからである。
卑怯だと思う。こんな色んな属性を備えたキャラを嫌いになるのは難しい。
というか普段は優しいしな。
「っと!」
考え事をしていると、また石礫が飛んできた。
まるで俺の隙を縫うように飛んでくる。
本当に俺の考えを読んでいるんじゃないだろうか。
「休む時間はありませんよ。前に進んでください」
言われて俺は再び足を動かす。
ボスへの道は知っている。
そして道中、何があるかも。
走っている最中、足元に何かを見つけた。
ピンと張られたロープだ。
俺はそれを見ずに軽快に飛び越えた。
ちなみにさっきのは罠である。
ロープに触れるとどこからともなく矢が飛んでくるという典型的なものだ。
当然、罠の場所はすべて把握済みだ。
そして、石礫が飛んできたので避けた。
全速力で走りつつ、石礫を避けつつ、罠を避けつつ、霊気兵を倒しつつ俺は進み続けた。
もはや大道芸人の域である。
むしろよく全部クリアできているなと感心するくらいだ。
これも鍛錬とプレイ時間のおかげだろう。
「すばらしい。やはりリッドさん、あなたは天才です」
嬉々とした声と共に、無数の石礫が飛んでくる。
どうやらオリヴィアさんはテンションが上がると殺意も上がるらしい。
もう頼むから手加減してほしいと思いながら、俺は身をよじり、すべてを躱した。
完全回避とはいかず、たまに掠っているが構ってはいられない。
恐らく、主を倒さない限りオリヴィアさんは止まらないし、俺は止まることを許されないだろう。
走れ。走るのだ。
必死に地を蹴り、最短距離でボス部屋へ向かった。
足を止めるな!
死ぬぞ!
「っと、忘れてた」
俺は足を止めた。
全速力から全力の停止。
遥か前方の茂みが激しく揺れたのは気のせいではないだろう。
オリヴィアさんの綺麗な白髪がちょっとだけ見えた。
俺は獣道から横道に逸れる。
そして目的のものを見つけた。
「あったあった」
宝箱である。
これこれ! これが醍醐味なんだよ、カオスソードは!
所詮はチュートリアルで手に入る宝箱。
しかも木製でボロボロだ。
はっきり言って中身に期待はできない見た目をしている。
だが宝箱だ。
目の前に、何かが入った箱がある。それだけでロマンを感じるものなのだ。
まあ、中身は知っているんだけどさ。
ただ、万が一ってこともある。
ここはあれをやるか。
「待ってください! 宝を開ける際には慎重に――」
追いついてきたオリヴィアさんが叫んだ。
切迫した声を無視して俺は宝箱にゆっくりと近づき、そして――。
殴った。
宝箱を思いっきり殴ったのだ。
背後でオリヴィアさんが足を止める気配がした。
シーンと周囲が静まり返る。
なぜかその瞬間だけは、獣の声も風音も何もしなかった。
無音の中、手に残った痺れだけが俺の意識を奪った。
「……リッドさん?」
後ろからオリヴィアさんの戸惑った声が聞こえた。
まるで、あなた頭大丈夫と言わんばかりだった。
だが俺の頭は平常である。
俺は大仰に頷き、そして満面の笑みを浮かべた。
「ふー、やっぱり普通の宝箱か。念のためね、念のため」
「あ、あの。なぜ殴ったのです?」
「え? だってミミックかもしれないじゃないですか」
「ご、ご存じだったのですね。で、ですがなぜ殴ったので?」
「ん? 殴って確認するのが基本では?」
オリヴィアさんは何言ってんだこいつとばかりに戸惑っている。
おい、マジか。
宝箱はまず殴るのが基本じゃないのか?
だってミミックかもしれないじゃないの。
殴って確認するのが当たり前でしょう?
そう思う俺だったが、オリヴィアさんは奇人変人でも見るかのように俺を見ている。
どうやらこの世界では、宝箱をまず殴るのは常識ではなかったらしい。
ふむ、よくよく考えると、宝箱を殴るのは主人公のカーマインだけだったような。
他のキャラが宝箱を殴るところを俺は見たことがない。
客観的に見ればヤバい奴だろう。
「……ですが、言われてみればミミックの可能性を考えれば、最初にダメージを与えてみるという手もありますね……中身が壊れるかもしれませんが」
「そこはほら、俺なりに手加減してますから。端っこの方を狙えば箱だけ攻撃できますし」
「……まあいいでしょう。ミミックの可能性を考えて行動しているのであれば、私から言うことはありません」
オリヴィアさんは無理やり自分を納得させたようだった。
後ろに下がりながら、宝箱を開けるように促してくる。
俺は厚意に甘えて、宝箱をゆっくりと開けた。
中に入っていたのはダガーだ。
短剣の中でも最弱の武器だ。
しかし始めたばかりのプレイヤーにとっては心強い相棒でもある。
ゲームだと攻撃にしか使えないが、現実では料理や動物の解体、ちょっとした際にも使える便利な武器となるのだ。
「初宝箱ゲットォ!」
「おめでとうございます」
可愛らしくパチパチと拍手してくれるオリヴィアさん。
この人、こんな一面もあったんだな。
本当にこの世界に来てから、登場キャラクターの意外な一面ばかり見ている気がする。
カオスソードの世界そのものに関してもそうだ。
宝箱を開ける時の高揚感はすさまじいものがあった。
楽しい。これは楽しいぞ!
俺はダガーを腰の後ろに装備した。
と。
「では、休憩は終わりですね。行きますよ」
いや、今の休憩だったんかい。
俺は嘆息しながら再び走り出した。
ただ、嫌な気分は微塵もなかった。
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