2 / 44
なんかヒロインが可愛いらしい
しおりを挟む
『カオスソード』。
全世界で5千万本の売り上げを誇る大ヒットアクションRPG。
雑魚敵も強く、ちょっとしたミスで主人公が死ぬこともざらなほどの難易度をしている。
舞台はイシュヴァという世界だ。
簡単に言えば、中世の西洋のような世界観である。
剣と魔術、魔物などが存在するファンタジー世界だ。
新人冒険者である主人公カーマインには、世界を滅ぼさんとする【災厄】と戦うという宿命が待っている。
非常にダークなファンタジーで、人が簡単に死んでいく凄惨なシナリオは、独特な魅力があり、多くのゲーマーを虜にした。
俺もその一人だ。
こんな魅力的で難しそうなゲームは他になかった。
俺はすぐにどっぷりとはまり、ゲームプレイに勤しんだものだ。
クリア回数は数百を超えるほど。
俺にかかれば『カオスソード』をクリアするなんて赤子の手をひねるより簡単だ。
ふっ、と笑う俺に向かい罵倒が飛んできた。
「失せろ! このクソガキがッッ! くっせぇんだよ! 俺の家に馬のクソ投げやがってよぉ!」
「食い逃げした代金を、いい加減返しやがれってんだよ!」
「ぺっ! 気持ち悪いガキが! おまえは村の恥だよ、恥! 馬に蹴られて死んじまいな!」
なんという罵詈雑言。
大人たちが一斉に俺を非難していた。
おお、なんということだ。
ただロゼと一緒に村に来ただけなのに、この仕打ちとは。
おい、リッド。おまえマジで何やってんだよ。
嫌われて当然だということはわかっている。
十歳までの記憶を掘り起こすだけで、村人への悪行は数え切れなかった。
窃盗、傷害、偽計業務妨害、器物破損、わいせつ罪と罪状は数え切れない。
もちろん所詮は十歳の子供なので、ギリギリ子供だからと許せる範囲内ではある。
だが人の家に馬の糞を投げたり、食い逃げしたり、女の子を追いかけまわしたり、スカートめくりをしたり、洗濯物を全部汚したり、嘘を吐いて困らせたり、落書きしたりともうやりたい放題だったようだ。
おお、神よ。なんでこんな奴に転生させたのですか。
せめてもっとまっとうな村人にしてくれればよかったのに。
「とにかく二度と近づくんじゃねぇぞ、クソガキが!」
クソという単語で、俺は何かを閃いてしまった。
いやいやまさかね。そんなはずはないよね。
「ロゼちゃん、こんな奴と付き合ったらダメだって」
「ほら、さっさと家に帰んな。君みたいないい子がこんなクソに付き合っちゃダメだよ」
「おまえマジで許さねぇからな。代金払えよ! じゃねぇと、二度と店に入れねぇからな!」
言うだけ言ったら少しは溜飲が下がったのか、村人たちは立ち去っていった。
俺から少し離れた場所から動向を見守っていたロゼが、おどおどしながらも近づいてくる。
「あ、あのリッドちゃん……大丈夫?」
散々、やりたい放題されているというのに心配するとはなんと良い娘なのだろうか。
俺は感涙する自分を何とか抑えつけた。
「ああ、大丈夫。まあ、自業自得だからな」
「そ、そう……」
肯定も否定もできないロゼは、俺の様子をちらちらと窺っていた。
まあ、以前の俺とは別人のように見えるだろうからな。
さっきも母親を連れてきて、俺のことを「頭がおかしい」「どうかしちゃった」と言い続けていたし。
結局、俺のことはどうでもいいと思ったロゼの母親が、忙しいからと言って家に帰ってしまったが。
最後に、あんな子と付き合うのはやめなさいって言ったでしょ、と言い放って。
うーん、しかしあそこまで言われているのに、ロゼが俺に付き合ってくれているのはなぜだろうか。
「な、なに?」
「いや、なんで俺に付き合ってくれてるのかなと思って。俺のこと嫌いじゃないのか?」
困惑しつつもロゼは小ぶりな唇を動かした。
「え……? き、嫌い……だけど……だってリッドちゃんいじわるなんだもん」
嫌いなんだ。
そしてそれを言うんだ。
意外に素直に気持ちを言う性格なのだろうか。
ゲームだとあんまりロゼの描写がなかったからな。
可愛かったのは覚えているけど。
十歳のロゼも可愛い。
さすがに俺はロリコンじゃないから、この可愛いは子供に対しての可愛いだが。
しかし、嫌いと言われても俺はあまりショックじゃなかった。
リッドは俺だが、別人のようにも思えるからだろうか。
「あ、ご、ごご、ごめんなさい。お、怒った……?」
「ああ、いや。別に怒ってないし、謝らなくてもいい。そう思って当然だろうからな」
「……や、やっぱりリッドちゃん、変。いつもと違うもん」
おどおどしているが、明確に俺を訝しんでいるロゼ。
だが俺に動揺はない。
やましいことは何もないし、仮に俺がリッドと別人だと気づかれても大した問題はない。
だが敢えてリッドではないと言う必要もない。色々と面倒だしな。
とにかく堂々としていればいいのだ。
「言ったろ、俺は変わったんだ。そう、生まれ変わったのさ」
当然、ロゼは怪訝そうにしているが仕方がない。
「で、なんで付き合ってくれてるんだ?」
「……だ、だって」
ロゼは言いにくそうにしている。
「だって?」
「だって……ひ、一人でかわいそうだし。お、お父さんも、お母さんもいなくて寂しいと思って」
「だから嫌いでも一緒にいてくれたのか?」
「う、うん」
なにこの天使。
嫌いなのに、かわいそうだから、寂しそうだから一緒にいてくれたのか?
十歳の子がそこまで考えて優しくできるとは。
いや、大人でもこんな優しい人はいない。
自分を優先し、関わる人を選び、同情心から優しくするなんてこともしない。
大人の世界は子供の世界とは違い、利己的な社会であることを俺は知っている。
ロゼは子供だ。だから純粋に優しいのかもしれない。
しかし子供だから誰もが優しいわけではないし、誰かを慮ることができるわけでもない。
彼女は心から優しいのだろう。
少なくとも俺の記憶にある通りのことをロゼにしていたとしたら、嫌われるどころか、憎まれても仕方がない。
それなのに、傍にいてくれている。
彼女はリッドにとって、唯一の救いだったのかもしれない。
だったらもっと優しくしろと思うのだが、リッドくんは素直になれない性格だったらしい。
ならば少しでもリッドの気持ちを伝えてやろうじゃないか。
俺も同じ思いだからな。
「ロゼ」
「な、なに……?」
びくっと怯えるロゼに、俺は苦笑しながら近づいた。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
「え? あ、え?」
ロゼは驚き、目を白黒させて俺を見ていた。
白い肌が僅かに朱色に染まる。
「ロゼがいてくれたから俺はさびしくなかった。感謝してるんだ。俺はロゼを大切に思ってる。今までいじわるして悪かった」
「え? え? な、なに? リッドちゃん? ど、どうしちゃったの?」
戸惑いとは違う感情がロゼに生まれていく。
それは動揺なのか、はたまた別のものなのか。
俺には判然としない。
だがロゼの顔は徐々に紅潮していく。
「ずっと俺を助けてくれていたんだな。これからは俺が頑張るから。だから見ていてくれ。何があっても俺がロゼを守るから」
「リ、リリリ、リッドちゃん?」
俺はロゼに近づき、細く小さい彼女の手をそっと握った。
まっすぐ見つめ、ロゼへ真剣な思いを伝えようとする。
ロゼは過剰なほどに狼狽し、目を泳がせ、そして顔を真っ赤にした。
俺はただただ信じて欲しい一心でロゼの宝石のような瞳を見続けた。
「ロゼ、俺は」
「あ、ああ、あ、あた、あた、あたし……きゅぅっ」
「お、おい!?」
ロゼはどもりにどもった後、後ろに倒れそうになる。
俺は慌ててロゼの身体を抱きとめた。
ぐいっと顔を引き寄せ、覗き込むと視線が絡む。
「あ、危ないな。大丈夫か、ロゼ!」
「あ、あたし、ちょ、ちょっと用事を思い出しちゃったッッ!」
ロゼは勢いよく俺から顔を逸らすと、走り去ってしまった。
一体、どうしてしまったというのだろうか。
「うーん、やっぱり嫌いな相手からの言葉にしては、距離が近すぎたか……もっと慎重にすべきだったか? いや、ロゼは俺がクソガキだと思っているはず。だったら、もっと誠意をもって、真剣に伝え続ける方がいいな」
うんうんと頷きながら俺は自分の行動が正しいと信じていた。
さっきのはロゼが驚いただけだろう。
今後は、もっと態度と言葉で示していこう。
大切な幼馴染であり友達なのだ。
今までのぞんざいな扱いを考えれば、大事な人なのだと伝えていくことが肝要だ。
そして再び、俺の脳裏によぎった言葉があった。
さっきもそうだったが、このクソという言葉に俺は違和感を覚えたのだ。
うーむ、正直かなり聞き心地の悪い言葉だ。
だがスルーするべきではないと俺の本能が言っていた。
もやもやとした気持ちのまま、俺は村の通りを歩いた。
シース村は数十の家屋があるだけで、店は宿屋と酒場と雑貨屋と食材屋が数件あるだけだ。
かなり寂れた村と言っていいだろう。
冒険者ギルドもなく、旅人もほとんど訪れない僻地の村。
ちなみに冒険者とは魔物を倒したり、危険な場所へ代わりに行って素材を採取してきてくれたり、護衛してくれたりする、いわば荒事などを担う何でも屋だ。
ギルドは、冒険者へのバックアップや依頼斡旋等を行う互助会だ。
まあ、大抵のゲームや小説であるから、大抵の人は知っているだろうけど。
通りを歩きながら思考していた俺の視界に、ふと何かが映った。
雑貨屋の窓だった。
窓が外の風景を映し出していることに気づき、ふと自分の顔を見ていないことを思い出した。
記憶には自分の顔はなかった。
リッドには鏡を見る習慣がなかったせいだろうか。
俺は雑貨屋の窓に近づくと自分の顔を見た。
そこにいたのは。
「ク、クソモブ!?」
そう、間違いなく『カオスソード』のシース村のクソモブだった。
かなり幼いが間違いない。
茶色のくせっ毛に卑屈そうな顔に、似合わない泣きぼくろがある。
こんな顔立ちはあいつしかいない。
そう、クソモブだ。
シース村に到着したカーマインに一々突っかかってくる、十五歳くらいの少年がいた。
そいつは初対面でカーマインを侮辱し、馬鹿にし、何かにつけて邪魔をしてくる最低なクソ野郎だった。
今、思えばロゼのことが好きだったリッドが、カーマインに難癖をつけていたのだろうと想像はできる。
しかも名前はなく『少年』という扱いだった。
こいつはシナリオにあまり絡んで来ず、登場シーンは数分程度だった。
だがその所業があまりにウザすぎて、クソモブと呼ばれることになったのだ。
俺もこいつに腹を立てたことを覚えている。
村が滅んだ時、こいつが死んだことは喜ばしいことだと思ったくらいだ。
ロゼは助けたかったけども。
よりにもよってクソモブに転生するとは。
ああ、なんてこった。
そりゃあのウザさだ、村人たちにも嫌われるだろうよ。
俺は嘆息した。それはそれは長い嘆息だった。
前途多難だな、という思いを吐き出すしかなかったのだ。
全世界で5千万本の売り上げを誇る大ヒットアクションRPG。
雑魚敵も強く、ちょっとしたミスで主人公が死ぬこともざらなほどの難易度をしている。
舞台はイシュヴァという世界だ。
簡単に言えば、中世の西洋のような世界観である。
剣と魔術、魔物などが存在するファンタジー世界だ。
新人冒険者である主人公カーマインには、世界を滅ぼさんとする【災厄】と戦うという宿命が待っている。
非常にダークなファンタジーで、人が簡単に死んでいく凄惨なシナリオは、独特な魅力があり、多くのゲーマーを虜にした。
俺もその一人だ。
こんな魅力的で難しそうなゲームは他になかった。
俺はすぐにどっぷりとはまり、ゲームプレイに勤しんだものだ。
クリア回数は数百を超えるほど。
俺にかかれば『カオスソード』をクリアするなんて赤子の手をひねるより簡単だ。
ふっ、と笑う俺に向かい罵倒が飛んできた。
「失せろ! このクソガキがッッ! くっせぇんだよ! 俺の家に馬のクソ投げやがってよぉ!」
「食い逃げした代金を、いい加減返しやがれってんだよ!」
「ぺっ! 気持ち悪いガキが! おまえは村の恥だよ、恥! 馬に蹴られて死んじまいな!」
なんという罵詈雑言。
大人たちが一斉に俺を非難していた。
おお、なんということだ。
ただロゼと一緒に村に来ただけなのに、この仕打ちとは。
おい、リッド。おまえマジで何やってんだよ。
嫌われて当然だということはわかっている。
十歳までの記憶を掘り起こすだけで、村人への悪行は数え切れなかった。
窃盗、傷害、偽計業務妨害、器物破損、わいせつ罪と罪状は数え切れない。
もちろん所詮は十歳の子供なので、ギリギリ子供だからと許せる範囲内ではある。
だが人の家に馬の糞を投げたり、食い逃げしたり、女の子を追いかけまわしたり、スカートめくりをしたり、洗濯物を全部汚したり、嘘を吐いて困らせたり、落書きしたりともうやりたい放題だったようだ。
おお、神よ。なんでこんな奴に転生させたのですか。
せめてもっとまっとうな村人にしてくれればよかったのに。
「とにかく二度と近づくんじゃねぇぞ、クソガキが!」
クソという単語で、俺は何かを閃いてしまった。
いやいやまさかね。そんなはずはないよね。
「ロゼちゃん、こんな奴と付き合ったらダメだって」
「ほら、さっさと家に帰んな。君みたいないい子がこんなクソに付き合っちゃダメだよ」
「おまえマジで許さねぇからな。代金払えよ! じゃねぇと、二度と店に入れねぇからな!」
言うだけ言ったら少しは溜飲が下がったのか、村人たちは立ち去っていった。
俺から少し離れた場所から動向を見守っていたロゼが、おどおどしながらも近づいてくる。
「あ、あのリッドちゃん……大丈夫?」
散々、やりたい放題されているというのに心配するとはなんと良い娘なのだろうか。
俺は感涙する自分を何とか抑えつけた。
「ああ、大丈夫。まあ、自業自得だからな」
「そ、そう……」
肯定も否定もできないロゼは、俺の様子をちらちらと窺っていた。
まあ、以前の俺とは別人のように見えるだろうからな。
さっきも母親を連れてきて、俺のことを「頭がおかしい」「どうかしちゃった」と言い続けていたし。
結局、俺のことはどうでもいいと思ったロゼの母親が、忙しいからと言って家に帰ってしまったが。
最後に、あんな子と付き合うのはやめなさいって言ったでしょ、と言い放って。
うーん、しかしあそこまで言われているのに、ロゼが俺に付き合ってくれているのはなぜだろうか。
「な、なに?」
「いや、なんで俺に付き合ってくれてるのかなと思って。俺のこと嫌いじゃないのか?」
困惑しつつもロゼは小ぶりな唇を動かした。
「え……? き、嫌い……だけど……だってリッドちゃんいじわるなんだもん」
嫌いなんだ。
そしてそれを言うんだ。
意外に素直に気持ちを言う性格なのだろうか。
ゲームだとあんまりロゼの描写がなかったからな。
可愛かったのは覚えているけど。
十歳のロゼも可愛い。
さすがに俺はロリコンじゃないから、この可愛いは子供に対しての可愛いだが。
しかし、嫌いと言われても俺はあまりショックじゃなかった。
リッドは俺だが、別人のようにも思えるからだろうか。
「あ、ご、ごご、ごめんなさい。お、怒った……?」
「ああ、いや。別に怒ってないし、謝らなくてもいい。そう思って当然だろうからな」
「……や、やっぱりリッドちゃん、変。いつもと違うもん」
おどおどしているが、明確に俺を訝しんでいるロゼ。
だが俺に動揺はない。
やましいことは何もないし、仮に俺がリッドと別人だと気づかれても大した問題はない。
だが敢えてリッドではないと言う必要もない。色々と面倒だしな。
とにかく堂々としていればいいのだ。
「言ったろ、俺は変わったんだ。そう、生まれ変わったのさ」
当然、ロゼは怪訝そうにしているが仕方がない。
「で、なんで付き合ってくれてるんだ?」
「……だ、だって」
ロゼは言いにくそうにしている。
「だって?」
「だって……ひ、一人でかわいそうだし。お、お父さんも、お母さんもいなくて寂しいと思って」
「だから嫌いでも一緒にいてくれたのか?」
「う、うん」
なにこの天使。
嫌いなのに、かわいそうだから、寂しそうだから一緒にいてくれたのか?
十歳の子がそこまで考えて優しくできるとは。
いや、大人でもこんな優しい人はいない。
自分を優先し、関わる人を選び、同情心から優しくするなんてこともしない。
大人の世界は子供の世界とは違い、利己的な社会であることを俺は知っている。
ロゼは子供だ。だから純粋に優しいのかもしれない。
しかし子供だから誰もが優しいわけではないし、誰かを慮ることができるわけでもない。
彼女は心から優しいのだろう。
少なくとも俺の記憶にある通りのことをロゼにしていたとしたら、嫌われるどころか、憎まれても仕方がない。
それなのに、傍にいてくれている。
彼女はリッドにとって、唯一の救いだったのかもしれない。
だったらもっと優しくしろと思うのだが、リッドくんは素直になれない性格だったらしい。
ならば少しでもリッドの気持ちを伝えてやろうじゃないか。
俺も同じ思いだからな。
「ロゼ」
「な、なに……?」
びくっと怯えるロゼに、俺は苦笑しながら近づいた。
「ありがとう。一緒にいてくれて」
「え? あ、え?」
ロゼは驚き、目を白黒させて俺を見ていた。
白い肌が僅かに朱色に染まる。
「ロゼがいてくれたから俺はさびしくなかった。感謝してるんだ。俺はロゼを大切に思ってる。今までいじわるして悪かった」
「え? え? な、なに? リッドちゃん? ど、どうしちゃったの?」
戸惑いとは違う感情がロゼに生まれていく。
それは動揺なのか、はたまた別のものなのか。
俺には判然としない。
だがロゼの顔は徐々に紅潮していく。
「ずっと俺を助けてくれていたんだな。これからは俺が頑張るから。だから見ていてくれ。何があっても俺がロゼを守るから」
「リ、リリリ、リッドちゃん?」
俺はロゼに近づき、細く小さい彼女の手をそっと握った。
まっすぐ見つめ、ロゼへ真剣な思いを伝えようとする。
ロゼは過剰なほどに狼狽し、目を泳がせ、そして顔を真っ赤にした。
俺はただただ信じて欲しい一心でロゼの宝石のような瞳を見続けた。
「ロゼ、俺は」
「あ、ああ、あ、あた、あた、あたし……きゅぅっ」
「お、おい!?」
ロゼはどもりにどもった後、後ろに倒れそうになる。
俺は慌ててロゼの身体を抱きとめた。
ぐいっと顔を引き寄せ、覗き込むと視線が絡む。
「あ、危ないな。大丈夫か、ロゼ!」
「あ、あたし、ちょ、ちょっと用事を思い出しちゃったッッ!」
ロゼは勢いよく俺から顔を逸らすと、走り去ってしまった。
一体、どうしてしまったというのだろうか。
「うーん、やっぱり嫌いな相手からの言葉にしては、距離が近すぎたか……もっと慎重にすべきだったか? いや、ロゼは俺がクソガキだと思っているはず。だったら、もっと誠意をもって、真剣に伝え続ける方がいいな」
うんうんと頷きながら俺は自分の行動が正しいと信じていた。
さっきのはロゼが驚いただけだろう。
今後は、もっと態度と言葉で示していこう。
大切な幼馴染であり友達なのだ。
今までのぞんざいな扱いを考えれば、大事な人なのだと伝えていくことが肝要だ。
そして再び、俺の脳裏によぎった言葉があった。
さっきもそうだったが、このクソという言葉に俺は違和感を覚えたのだ。
うーむ、正直かなり聞き心地の悪い言葉だ。
だがスルーするべきではないと俺の本能が言っていた。
もやもやとした気持ちのまま、俺は村の通りを歩いた。
シース村は数十の家屋があるだけで、店は宿屋と酒場と雑貨屋と食材屋が数件あるだけだ。
かなり寂れた村と言っていいだろう。
冒険者ギルドもなく、旅人もほとんど訪れない僻地の村。
ちなみに冒険者とは魔物を倒したり、危険な場所へ代わりに行って素材を採取してきてくれたり、護衛してくれたりする、いわば荒事などを担う何でも屋だ。
ギルドは、冒険者へのバックアップや依頼斡旋等を行う互助会だ。
まあ、大抵のゲームや小説であるから、大抵の人は知っているだろうけど。
通りを歩きながら思考していた俺の視界に、ふと何かが映った。
雑貨屋の窓だった。
窓が外の風景を映し出していることに気づき、ふと自分の顔を見ていないことを思い出した。
記憶には自分の顔はなかった。
リッドには鏡を見る習慣がなかったせいだろうか。
俺は雑貨屋の窓に近づくと自分の顔を見た。
そこにいたのは。
「ク、クソモブ!?」
そう、間違いなく『カオスソード』のシース村のクソモブだった。
かなり幼いが間違いない。
茶色のくせっ毛に卑屈そうな顔に、似合わない泣きぼくろがある。
こんな顔立ちはあいつしかいない。
そう、クソモブだ。
シース村に到着したカーマインに一々突っかかってくる、十五歳くらいの少年がいた。
そいつは初対面でカーマインを侮辱し、馬鹿にし、何かにつけて邪魔をしてくる最低なクソ野郎だった。
今、思えばロゼのことが好きだったリッドが、カーマインに難癖をつけていたのだろうと想像はできる。
しかも名前はなく『少年』という扱いだった。
こいつはシナリオにあまり絡んで来ず、登場シーンは数分程度だった。
だがその所業があまりにウザすぎて、クソモブと呼ばれることになったのだ。
俺もこいつに腹を立てたことを覚えている。
村が滅んだ時、こいつが死んだことは喜ばしいことだと思ったくらいだ。
ロゼは助けたかったけども。
よりにもよってクソモブに転生するとは。
ああ、なんてこった。
そりゃあのウザさだ、村人たちにも嫌われるだろうよ。
俺は嘆息した。それはそれは長い嘆息だった。
前途多難だな、という思いを吐き出すしかなかったのだ。
0
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
投擲魔導士 ~杖より投げる方が強い~
カタナヅキ
ファンタジー
魔物に襲われた時に助けてくれた祖父に憧れ、魔術師になろうと決意した主人公の「レノ」祖父は自分の孫には魔術師になってほしくないために反対したが、彼の熱意に負けて魔法の技術を授ける。しかし、魔術師になれたのにレノは自分の杖をもっていなかった。そこで彼は自分が得意とする「投石」の技術を生かして魔法を投げる。
「あれ?投げる方が杖で撃つよりも早いし、威力も大きい気がする」
魔法学園に入学した後も主人公は魔法を投げ続け、いつしか彼は「投擲魔術師」という渾名を名付けられた――
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
王国冒険者の生活(修正版)
雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。
雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。
そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。
※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。
150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる