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子羊少年と王様少年
54.芽生える想い
しおりを挟むボクはいきなり抱き付いてしまったというのに、それでもフウマはそんなボクを優しく受け止めて抱き締め返してくれた。
「うぇっ…ボクはあのときはーくんを…っ…だいすきなヒーローみたい…たすけたかった…それだけで…。
ひっく…でもそのせいではーくんをきずつけて…はーくんにもみんなにもきらわれて…ひ、ひとりぼっちになって…。
でもぜんぶボクがわるものなせいだから…どうしようもなくて…!
うぅっ…だから…ふつうになんなきゃって…でもぜんぜんうまくいかなくって…。
ボ、ボク…すべてのことが…こわくて…!
…ひとりがすごくさびしかったぁ…。
…だけどみんなとであえて…ひっく…ちからで…ひとをたすけるみんなが…ヒーローみたいにまぶしくて…。
ボクもみんなみたいに…って思ったけど…やっぱり…うまくはいかなくて…それでもみんなはやさしいくて…。
みんなのことがどんどんだいすきになっていって…。」
心の底から溢れ出した嗚咽の声はまだまだ収ってはくれない。
「うわぁっ…だけどボクが…ざいにんだったこと…おもいだして…ボクはみんなといっしょじゃいけないっておもって…。
なのにみんなは…それでもやさしすぎてっ…それでこわくなっちゃって…またにげちゃってぇ…。
ひっく…ボ、ボクみんなのこと…だいすきなはずなのに…ひどいこといったぁ…!
っ…それで…ボクにはもういいんちょたちしかいなくて…でもボクはいいんちょをだましてて…。
うぇっ…いいんちょが…めのまえでおそわれて…でもバレたらっておもったら…こわくてうごけなくて…。
でもそれよりこれいじょうたいせつなひとがきづづくのをみてるのが…いやで…もっとこわくて…。
こわくてこわくて…たまらなかったけど…がんばってみたけど…やっぱダメで…。
うぅ…それでもあんなひどぃこと…いったのに…またたすけてくれて…ぜんぶ…ゅるしてくれて…。」
多分どんどん込み上げてきてしまって、静めようとしても止まってくれないこの言葉達こそ、ボクの紛れもない本音なのだろう。
「…ひっく…ボクたぶん…ほんとうは…ふつうとか…のうりょくしゃとか…どうでもよくってっ…。
ひとりなのも…きらわれるのも…イヤなんだ…さびしいの…ヤダよぉ…!
うぇ…ただ…だいすきな…ともだちと…ずっといしょにいたかった…。
いっしょに…いたいよぉ…!!」
そんなボクの最早支離滅裂な、泣き叫ぶ様に吐き出した言葉を、フウマは静かに暖かく受け止めて聞いてくれていた。
ボクの嗚咽の合間に優しく囁く様な声で、
「もう大丈夫だ…」「頑張ったな…」「偉い偉い…」「これからはオレが側にいるからな…」とボクを励ます様な言葉をずっと掛け続けてくれた。
ボクははーくんを傷付けて一人になってしまってからずっと、普通になりたいと、普通にならなくてはいけないと思って生きてきた。
フウマ達に出会ってからは、皆の様になりたいと、ならなくちゃ駄目だと、そう思った。
そうやって常に何かにならなくてはいけないって。
だけど…。
でも本当の心の奥の更に奥底では、そんな風に何かにならないといないと足掻いて、悩み続けた日々すら含めて、今までの自分の全てを受け入れて欲しかったのかも知れない。
偽りのないボクの丸ごと全てを受け止めて、評価して欲しかったのかも知れない。
【頑張ったね】って誰かに褒めて貰いたかったのかも知れない。
フウマがボクの全てを受け入れて、その優しさで包み込んでくれた。
フウマの言葉でボクが今まで生きてきた人生の中の全ての苦悩が報われた様な、そんな気持ちになった。
文字通りフウマはボクを心ごと優しく抱き締めてくれたんだ。
……あぁもう…!
…暖かさで胸が張り裂けそうな位いっぱいだ…!
やがてフウマはボクを片方の手は抱き止めたまま、同時にもう片方の手で、「よしよし…」と小さく囁きながらボクの頭をいつも活動の終わりにしている様に、優しく撫でてくれ出した 。
フウマが最初にボクの頭を撫でてくれた時からずっとそうだったけれど、本当に彼の掌の感触はとてもあったかくて心地が良い…。
だけど、これも何だかいつもと少し…いや大分感じ方が違う様な…?
気がするような…。
いや胸が暖かさで一杯になるのは同じなんだけど、それだけじゃなくて。
心臓がとても強く、そして速くバクバクと脈打っているような…?
それこそ痛いくらいに…。
でも胸が痛いはずなのに、その痛さが全然嫌じゃなく、寧ろ心地が良い位なんだ…。
それに、なんだかフウマが(いや何時も格好よくはあるのだけれど)、いつも以上に格好よく見えるような…?
そんな気もして。
本当にフウマからもたらされる感情って、ボクが生まれて初めて知る、自分の事なのに理解できない気持ちばっかりだなぁ。
ボクは不思議で理解ができない、けど嫌じゃない、自分でもまだ名前を付ける事が出来てないそんな気持ちの心地よさに浸りながら、フウマの胸に顔を押し付ける様にして、暫くその気持ちの意味を考えながら微睡んでいた…。
「君の安心しきってその溶けきったようなその様子、まさかオレに見惚れてしまったのか!?
ふふっ。無理はない!オレは同性にすら想われてもおかしくない程の美貌に、更に高潔な心も兼ね備えた素晴らしき王だからな!!
しかしオレは王、王とは民の為にある者、つまりオレは皆のものなんだ!
だから誰か一人のものになる事は残念ながら出来ない!
本当に申し訳ないけれど、でも君にそこまで想われているのは満更でもないなぁ…!!
ははははっ。まさか子羊くんがオレの事をそこまで愛していてくれたとは!
嬉しいなぁ、嬉しいなぁ!!
いやぁでも君がどうしてもと言うならその想いに答えるのも藪さかではな「…って違うから!!!!」
だけど暫く経ったらフウマが急にそんなとんでもない事を口走り出して、ボクも反射的に思わず叫んでしまっていた。
……せっかく心地の良い雰囲気に浸っていたのに、フウマの発言でそれが一気に覚めてしまった。
本当フウマってなんでもかんでも自分褒めに繋げるとこがなかったら、素直に格好いいというのに…。
自分で台無しにするんだから…!
さっきまでのまだ名前を付ける事が出来ていなかった気持ちも、どこかへ飛んで言ってしまった。
……あぁあ…せっかく格好よかったのになぁ…。
でもこういう所もフウマの凄く良い所でもあるんだよなぁと、同時に思ってもしまうんだ。
自身を飾らずに、常に自分の感情を裏表なく真っ直ぐに表現する、いつも他人へ怯えて人の顔色を伺って生きてきた、ボクなんかじゃとても真似出来ない。
だけど、そんなフウマだからこそ、ボクは彼の事が大好きなんだ。
「ふふっ。ふふふふふっ。」
「わっ!子羊くんも笑い出した!!
もしかしてオレのおかげか!?」
「ふふっ…そうかもね…ふふっ。」
「そうかそうか!!
君にこんなに早く笑顔を取り戻させる事が出来るとは流石は偉大なるオレだな!!
はっはっはっはっ!!」
気付くとボクの口からは、ほんのついさっきまで号泣していたのが嘘みたいに、笑い声がどんどん溢れていった。
そして今度はフウマと二人でずっと笑い合っていた。
本当ボク達のやり取りって客観的に見たらかなり異常だろうなぁと思って、そのおかしさに余計に笑みが溢れていく。
そしてボクの中に新しく、今度ははっきりとしたある思いが芽生えていた。
ボクもいつかフウマみたいに、自分を偽ったりせず、自分自身の気持ちを真っ直ぐに伝える事が出来ような、そんな素敵な人になりたいと。
ならなくてはいけないとか、ならなくちゃダメだとかそういう強迫観念じゃなくて、心から純粋にそう思ったんだ――。
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