迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

53.決壊

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「だからこれが君からの質問の回答という事になるな。
オレはかつての自分の面影を見た君を、王として側にいて支えたいとも思って、家来へと勧誘を始めたんだ。
…まぁだからといって些か必死になりすぎて、我ながらその時はかなり強引に迫ってしまっていたなと少しは反省しているぞ。

とはいえ君は最終的にはオレ達の勧誘に応じてくれたし、オレ達の活動を見て感銘を受けてくれたようだから結局は結果オーライだったけどな!
君はオレが最初に思った通り人や能力を怖がってるようだった。
だから最初は多分、そんな君に昔のオレを勝手に重ねて、君の手を取ってやる事で、あの頃悩んでいた幼いオレも同時にオレ自身が救ってやっている様な、そんな気になっていたんだと思う。
だけどそれは少しずつ変わっていった。」

 そうやってボクとの思い出を振り返りながら語るフウマの表情は、本当に優しく暖かい。

「君はオレが思っていた、勝手に重ねていたよりも、ずっと素晴らしくて強い心の持ち主だったんだ!
君は自分自身が苦悩や恐怖を抱えながらそれでも誰かを思い遣る事ができるとても優しい人で、その上その恐怖を自身の意思で乗り越えていける勇気を持っている勇敢な人だった!
オレを重ねるなんて失礼な位に、一歩一歩確実に先へと進んでいくそんな君の素晴らしい姿を間近で見ていって、オレは君のそんな人柄へどんどん惹かれていった。
もっともっと、そんな君の素晴らしさを一緒にいることで、知っていきたい気持ちがどんどん高まっていったんだ!

そんな中、君は自身の封じていた過去の記憶を思い出し、それをオレ達にも語ってくれた。
大切な友人を助けようとして誤って傷付けてしまった、それが原因で孤独になり、そんな痛みをとても長い間一人でずっと抱えてきた。
奇しくも昔のオレと通じる所もある話だったが、それでもオレの過去が可愛く見えるほど君の背負ってきた闇は深いものだった 。
そんな過去に苦悩する君にオレ達は上手く言葉を掛ける事が出来ず、君をまた一人にしてしまった。

それなのに君は友人のピンチを前に過去への苦悩も恐怖も乗り越えて、たった一人大切な者を救う為に自身の能力で持って立ち上がった!
君はオレ達の言葉があるから一人じゃなかったと言ってくれたが、例え過去に貰った言葉が力になったとしても、それを糧にして自身を奮い立たせる事が出来たのは確実に君自身の素晴らしさなんだよ!
そんな君の高潔な姿と意志を見て、オレは益々君の虜になっていってるのを肌に感じたんだ。」 

 フウマはこんなボクの事を、過去の自分と重ねて見てくれていて、それでボクに救いの手を差し伸べてくれていた…。
そして、フウマ達と一緒に活動をしていくボクに対してそんな風に思っていてくれていたんだ…。
弱くて拙いこんなボクを、ボクがフウマと触れ合う度にどんどん惹かれていったのと同じ様に、フウマの方もボクに惹かれていっていたなんて…。
今まで何度か少し話してくれたボクに対するフウマの気持ちが、その全貌をもって伝わって来た気がした。

 本当にフウマはどれだけボクの心へと明かりを灯し続ければ気が済むのだろう…。
本当にあったか過ぎるほど暖かい。
いやフウマの言葉はいつだってボクの心を暖かくしてくれるのだけれど、少しいつもと違う気もする。
なんだか胸の奥から何かが、込み上げてくる様な、何かが爆発しようとしているかの様な、そんな不思議な感覚もするんだ 。
フウマといると相変わらず自分自身の心のはずなのに、自分で自分が全然分からなくなってくる…。


 ボクがそんな感覚に陥ってる中、フウマはさらに言葉を続けていった 。

「オレが能力者である事に絶望し、自身を呪っていた期間は精々数日程度だ。
そのたった数日間ですらオレにとっては地獄の様に長い時間だったし、救いの手が差し伸べられる事が無かったら本当にどうなっていたか分からない。
そう今やこんなに偉大な王になれるような素質を持っていたオレですら、数日間しかとても耐えられない様な事だったんだ!

それなのに君はそんな苦悩や深い悲しみを、オレ何かよりもよっぽど長い間、何年も何年も、たった一人きりでずっと耐え続けて来た。
そしてそんな闇すらも君は乗り越えていった!
オレは人の道を照らさねばらない王だというのに、君は王たるオレなど目じゃない程に心が強い人で、少しその事で自分と比べてしまって情けない気持ちになって来てしまう位、君は素晴らしい人だ。
だから。」

 フウマはもう一度しっかりボクを見つめ直すと、そこからは言葉の一言一言に思いを込めるようにして慎重に告げていった。


「だから、オレはそんな風に自分の弱さと向き合い立ち向かって行ける強くて気高い心を持った君の事を、心の底から尊敬する。
これまでずっと長い間一人で本当によく頑張ったな…。
…一人で頑張り続けて来たんだよなぁ…。
本当に君は偉いって、心底そう思うんだ…。

だけど、これから先の未来はずっとオレが、オレ達が何があっても君の側にいるから…。

だからもう大丈夫だよ…。」 


 フウマはそう言いながら、その太陽の様な笑顔で優しく微笑んだ。





 その言葉に、その笑顔に、自分でもびっくりする位あっさりと、ボクの中の全てが破裂するかの様に弾け飛ぶのを感じた。

 ボクの心と、そして涙腺は呆気なく決壊していた。




「…うぁあああああああぁーーーーーん!!」



 気付くとボクは泣きながら、そんな風に大きな叫び声を上げてフウマの胸に飛び込んでいた。
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