迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

51.差し伸べられた手

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 フウマの言葉がボクにはとても他人事には思えなくて、胸をとても強く抉られた。
能力者である事に絶望し普通を願う、昔のボクの様なそんな気持ち。
あの強くて優しいフウマにもそんな風に思った時があったなんて…。

 それに、ボクが能力者である事で一人ぼっちになってしまった時もボクには、お母さんがいてくれた。
ボクが悲しさで俯いてしまう時はいつもお母さんが優しく寄り添ってくれた。
だからボクは本当の意味で一人ぼっちにはならなかった。
だけどフウマは子供の絶対の味方でいてくれると思っていたはずの、両親から拒絶されてしまった。
そんなの事って…。

 そんなの…あまりにも悲し過ぎて…。


 ボクはやっぱり自分をダメな奴と言いながら本当は自分が一番可愛かったのだと改めて思った。
ボクが能力者である事で散々悩んだように、他の能力者だって苦悩を抱えているって頭で分かったつもりでいても、心のどこかで自分が一番可哀想だと思っていたんだ。
だけど、あんなに気高い王様のフウマにもそんな壮絶な過去があった。
それなのにこんなボクを引っ張り上げて助けてくれる程、今の彼は強い人だというのに…。




「だけどそれで終わりじゃなかったんだ。
そんな絶望から手を差し伸べて、救い上げてくれた人がいた。
だからこそ今のオレがあるんだ!」

 フウマはそこから更に言葉を続けた。
そんな風に言葉を紡ぐフウマの表情はさっきまでとはうって変わって、嬉しそうに大切な思い出を懐かしむかのような、そんな顔をしていた。


「その人はそんな心身共に弱りきったオレを山奥から連れ出して、助け出してくれた。
そしてオレに元気が戻るまで、ずっと看病をしてくれた。
後から聞くとオレはかなり危ない状態だったらしくて、少しでも見つけるのが遅かったら間に合わなかったかも知れなかったそうだ。
だから今こうしてオレが生きているのも彼のおかげなんだ!

そしてそれだけじゃない。
彼はオレを救ってくれただけじゃなくて、オレの歩むべき道も示してくれた!
当時のオレは身体の方は回復しても、心の方は最初は中々立ち直ってはくれなかったんだ。
能力者は人に拒絶されてしまうと、普通の人間じゃなければ受け入れて貰えるはずがないと、両親によってもたらされたその絶望はとても深かった。
だからオレが能力者だって知ったら、助けてくれたその人だってきっとオレを忌み嫌うのだと、そう思っていた。
だけど違った!
オレが能力者だってバレても、オレのそんな心情を打ち明けても、彼は否定したりせずオレを受け止めてくれた。
オレの力を素晴らしいと言ってくれたんだ!
オレの持つ力はきっと使い方次第で多くの人の役に立つ事ができる、人に迷惑をかける為のものじゃなく、人を救う為の、天から授かり物ではないかと、そう教えてくれた。
そしてオレの両親のようにその力を拒絶してしまう人もいるかも知れないけれど、それならば、その力を誰かの為に使って自分の事を人々に知って貰っていけばいいと。
大きな力を持つオレにならきっと、そうやって人導ける様な存在に絶対になれるとそう言ってくれた。

今のオレが人々の為に力を使う事が出来ているのも、その言葉があったからなんだ!!」


 そうしてその人とその人の家族がオレの新しい家族にもなった、とフウマは言葉を続けた。

 そっか…。
ボクにとってのフウマ達みたいに、フウマにも俯いてしまっていた時に、差し伸べてくれて引っ張り上げてくれた手があったんだ。
そんな人がいたからこそ"今"のフウマがあるんだ…とボクの胸も熱くなった。


「そしてオレはその言葉達によって同時に気付いていった。
オレはとても素晴らしい存在だったのだと!!
そんな普通の人間では持ち得ない、天からの授かり物の様な力を当たり前の様に持ってるオレって、もしかして神に選ばれたとても神聖な存在なのではないか!!?
その上ただでさえ素晴らしい力を持っているというのに、これからはその力を人々を救う為に使おうと誓った、そんな崇高な献身の志を持ち初めていて、もしかしてオレは心まで素晴らしいのかと!!
その上によく考えたらオレは幼いながらにその当時の時点でも、周囲からもまるで天使の様だと称された事も一度や二度じゃない、とても整った端正な顔立ちをしていた。
オレはその見た目すら素晴らしかったんだ!!

そうやってオレは自身が心技体の、その全てが素晴らしい、至高の存在だったって事に気が付いたんだ!!
そしてそんな素晴らしい人が人々の為に尽力するだなんて、まるでその当時オレが大好きでよく読んでいた、絵本の中に出てくる魔法の国の王様のようではないか!!
そうかオレは王に相応しいのか、王になるべくして生まれた人間だったのか!
それならばこれからはオレが素晴らしき王として、下々の民を助け、どんな人でも幸せに生きられる様なそんな国を作って見せるとそう思ったんだ!
その思いはずっと変わっていく事はなく、今やオレは正真正銘素晴らしき王となった!!

なぁ子羊くんもそう思うだろう!?」

「え!?あ、いや、い、きなり自分褒めモードに入らないで!!」


 あ…あれ!?
おかしいな…?
さっきまでは真面目な顔で真剣な話をしていたはずなのに、いつの間にかフウマはいつものテンションで、いつもしている様な自分褒め話しに入っている…?

 さっきからずっと思っているし、それはフウマの良さでもあるとは思うのだけれど、本当にフウマはテンションはジェットコースターの様に乱高下が激しすぎる。
なんだか別の意味で話を聞いていて疲れてしまうな。
それもあってフウマが話している最中は、口を挟まず静かに聞こうと思っていたはずだったのに、思わず声を上げてしまった。
本当フウマの言動って自分の予測の中なんかには、まるっきり収まってくれない。

 それでもそんな相変わらずのぶっ飛んだノリの中で、今やボクも大好きになっていたフウマの何時もの王様節のルーツの様なものが垣間見る事ができて、それがとても嬉しくもあった。

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