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子羊少年と王様少年
50.王様の昔話
しおりを挟む「生まれながらに能力を持って生まれたオレにとって能力とは物心が付く前から当たり前に持っている、そんな身近な物だった。
そんな当たり前に自分が他と違う存在なのだと証明してくれる能力をオレは幼い頃も好きだったな。
だが幼い頃は当然今程素晴らしく能力をコントロールする術を知らなかったし、それに能力は心と密接に関係するのは子羊くんも知ってるよな?
精神が未発達な幼い子供はそれだけ力を暴走させてしまいやすいんだ。
だからオレは生まれた頃からずっと、赤ん坊の夜泣きだとか 、幼子の癇癪だとか、そんな成長期に当たり前に通りすぎる出来事と同時に同じだけ、力を暴走させて風を引き起こしてしまっていて、両親には凄く迷惑を掛けてしまっていたと思う。
それにさっきも言ったようにオレは昔から自分の力が好きで、それに小さい頃って親に構って欲しくて壁に落書きしたりだとか、悪戯をする事ってあるだろ?
オレにとってそれは、能力を使う事だったんだ。
両親に構って欲しくて、オレは何度も能力を使った悪戯をして、能力の暴走だけじゃなくその事でもオレは二人を困らせてしまっていた。
でもそんなオレを母も父も最後には笑って許してくれていたし、受け止めてくれていた。
だからオレは他の子供と違っても両親に愛されていると思っていたし、能力者である事も含めてオレの存在を受け入れてくれていると思っていた。
そう、ずっと思っていたんだが、でも違ったんだ。」
そうやって自身の過去を語るフウマの顔付きや声色は、普段の明るさからはとても想像もできないような、ボクが初めて見る、悲しいそうとも 、つらそうとも一言で形容出来ないようなとても複雑な表層を浮かべていて 。
そんな何時もとまるで違うフウマに、ボクは一時足りとも目を離す事は出来なかった。
「そんなある日 、オレ達は家族3人で車で田舎の山奥まで出掛ける事があった。
オレは家族でキャンプをすると聞かされていたし、それを楽しみにしていたんだが、でも本当はそうじゃなかった。
山奥の山頂付近まで付くとオレは車から下ろされた。
そして両親から真実を告げられた。
……父と母はずっとオレの事を疎ましく思っていたと。
お前が能力者である事でどれだけ迷惑を掛けられ、私達が苦労したと思っているんだと、今までそれでも我が子だからと我慢してきたが、それにも限界がきたと、そう告げられたんだ。
そう言われてオレは初めて気付いた。
両親は自分を受け入れてくれていると思っていたけど、違った。
…ただ頑張って我慢をしてくれていただけだったんだと。
…もうお前はいらないと 、能力者のような普通の人間とは違う世界の異物は私達の息子なんかじゃないと、そんな能力者を産み落としてしまった事が私達の一番の間違いだったと…。
だからもうここでさよならだと、そう別れを告げて両親はオレを置き去りにしたまま、車に乗って全速力のスピードでその場から走り去ってしまった。
残されたオレは絶望にうちひしがれていたっけな。」
フウマの話す内容にボクは衝撃と共に、とても胸が締め付けられた。
いつも明るく元気で、自他共に溢れんばかりの好意を存分に振り撒いているフウマにそんな…そんな悲しい過去が…?
根っからの明るい人間に見えるフウマがそんな重たい物を抱えていた事にとても驚いたし、だからこそとても胸が痛かった。
「最初は衝撃で上手く現実が受け止められなかった。
意識が少しずつ戻ってくると、とにかく置いて行かれたくないと思って離れて行く車を必死で追いかけた。
でも能力者とはいえ幼子が全速力で走る車に追い付けるはずも、なくみるみる内に距離を離されていき、やがて見なくなってしまった。
そして本当に置き去りにされてしまったんだと理解し、オレは子供ながらに現実が見えてきた。
オレはこの山がどこなのかも知らない、帰り道もわからない、それにオレは何も持たされず手ぶらで下ろされたから食料すらも持っていない。
場所すらわからない山奥に身一つの子供が置き去りにされて生きていけるはずがない。
オレはこのまま死ぬのだと、オレは両親に見殺しにされたのだと、そう理解した。
そこからもオレは何とかしようと最初は頑張った。
少しでも山を下ろうとか、食料を見つけようとか、寝床にできる場所を探して見ようとか、そうする上でオレの風の力も少しは役に経ったっけな。
でも能力者とはいえ所謂は子供、出来る事には限界があって全然上手くはいかなかったし、後当然野生動物とかもいてそれに襲われたのも怖かったな。
やがて、オレは疲れと空腹から一歩も動く事が出来なくなって、倒れ伏してしまった。
オレはこのまま死んでいくのだと悟った。
そしてオレはそんな中自身を、自身の能力を呪うようになっていた。
オレが能力者でさえなければ、父や母に苦労を掛ける事もなく、こんな風に置き去りにされる事もなかったのに…。
オレが能力者でさえなかったら、家族3人ずっと一緒に平和に過ごす事ができたのに…。
オレは自分の能力は、オレだけの個性だと思えて好きだったけれど、そのせいでこんな事になるんならこんな力いらない…。
能力なんて嫌いだ…。
やっぱり普通が良かった…。
…オレが普通の人間だったら…父さんと母さんに愛して貰えたのに…。
だから普通になりたい…。
能力者でさえ、能力者でさえなければ…。
意識すらも朧気になっていく中、自身の能力にただただ絶望をしながら時間がだけが過ぎていった。
そうやって山で過ごした期間は正確には覚えていないけれど多分精々数日程度だったと思うが、その時のオレにとっては永遠の様に長い、そんな絶望の時間だった…。」
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