迷える子羊少年と自称王様少年

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子羊少年と王様少年

42.王の演説

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「ま、まぁそっちの奴が能力者かなんて事はもうこの際どうだっていい!
さっきのも含めて全部てめぇがやってたんだっていうなら、なおの事てめぇが気に喰わねぇ!
俺達の事散々に言ってやがるが、てめぇだって人に向けて力を使ってるなら俺達とやってる事変わんねぇじゃねぇか!!」
「先に手を出したのはお前達だろう?
それなら抵抗の為にそれをやり返すのはただの正当防衛というヤツだ。
とやかく言われる筋合いはない。
それにオレは救わなければならない民の為ならば力を使う事を迷わないと先程言ったはずだ。」

「くっ…この!!
丸腰で闘ってる俺達相手にそんな得体の知れねぇ能力ぶつけやがる卑怯者の癖に、減らず口叩きやがる…!」
「それをいうなら集団で一人をリンチする様な真似をするお前達の方こそ卑怯者だろう。
条件は同じだ。
卑怯者に卑怯者と罵られた所でオレの崇高な心には全く響かない。
それにオレは仮にそれが卑怯だとしても、そうする事で守るべき民を救えるのだとしたらそれで全く構わないしな。」
「クソっ!…この野郎!!」

 不良達の罵倒の言葉もフウマは全く異に介さず、凛とした力強い態度を一切崩さないまま即反論し相手の発言を切り捨てていく。
その様が本当に頼もしくて格好良かった。

 そんなフウマの態度に不良のヘッドの雰囲気は先程までとは変わってきていた。


「てめぇみてぇな…てめぇらみてぇな、その力だけで人を、世界をどうにかできる様なモンをなんの苦労もせず持ってる能力者なんかには、俺達の気持ちなんてわっかんねぇだろうな…!!

俺達には何もなかった…どうにかする力も…理解してくれる人も…認めてくれる人も…居場所だってなかった…!!
だからそんな弱い俺達は似たような奴らで集まって、俺達より弱い奴を狙う事でしか自分の居場所を作れなかったんだよ…!!
持ってる側の能力者様には俺達みてぇな持たざる者の気持ちなんて一生分かりっこないだろうがなぁ!!」

 そんな不良のヘッドの悲痛な叫びが辺り一帯に鳴り響いた。
そんな彼の言葉に周囲の不良集団の面子も、どこかしんみりとした顔をしている様にも見えた。

 そしてその言葉にボク自身も強く心を動かされていた。
さっき言っていた内容と大筋は同じ事を言ってるはずなのに、ボクの心は先程とは全く正反対な感傷的な方向へと動かされる。

 ボク達へ危害を加えた不良相手にこんな事を思うのは本当はおかしい事なのかも知れないけれど…。
だって居場所がなくて…本当は理解者や認めてくれる人が欲しくて…でもどうすることもできなくって…。
そんな気持ち…ボクにも痛い程分かる事だったから。


 そんな相手の言葉にもフウマは凛とした強い態度を全く崩さず、でも少しだけ普段の温かな優しい雰囲気も覗かせながら、堂々と言葉を返した。


「それは違うぞ。
お前達は間違っている。」
「なんだとっ!?」
「間違った事をしていると言ったんだ。
力の大小やあるなしなんて関係ない、一番大事なのは本人がどうあるか、どうありたいかと思う心の方だ!!」

「っ!!」

「確かにオレは生まれながらに強大な力を授かっている所謂持っている側の人間だ、お前達の気持ちを完全に理解する事はできないだろうな。
だが力を持つ強い者だから、それが故に恐れられたり自分の居場所で悩む事だってあるんだ。
でもだからこそはっきりと言える、お前達は間違っているんだと!!」

 フウマの力強い言葉が響き渡って行く。
その発言に、その姿に、ボクも一瞬足りともフウマから目を離す暇さえなかった。


「居場所や理解者は本人の向き合って行こうとする意志さえあればいくらでも作って、増やして行けるものだからだ!
認めてくれる者や理解してくれる者が欲しいのなら、まずは自分の事を知って貰って、理解して貰える様に努力をしていけばいい!!
その為の手段が例えばオレにとっては民を助けることだな。
最初は途方もなく見える歩みでも続けていけばいつの間にかそこが居場所になってる、そんなものなんだ!

だがお前達は例えそれが辛い事だとしても人や世界と向き合うという事をせず、人を傷付け貪る道を選んだ。
それはただの逃げでしかない!
だからオレは何度だって言うぞ、お前達のやり方は間違っているんだと!!」


 フウマの放つ言葉は本当にととも真っ直ぐで、力強い。
さっきボクが心の中で思い浮かんでも、口に出す事は出来なかった不良達への反論と通じる考えを、もっと完璧な形に昇華させた様なフウマの言葉の数々が、ボクの心にも熱を持って凄く染み渡った。

 それにボクもずっと、本当は一人が嫌で…誰かに自分の気持ちを理解して欲しくて…居場所が欲しくて…。
だけど人とも、世界とも…そして自分自身とも、向き合う事が怖くてずっと逃げてばかりいたから…。
だからフウマの言葉はまるで自分にも言われている事の様に感じて、同時にボクの心に深く突き刺さった。

 そしてだからこそ、そんな風に確固たる志しを持っていて、それをしっかり言葉にできるフウマはとっても凄い人なのだと改めて、そして以前よりも一層そう感じた。

あぁ本当にフウマは強くて…優しくて…そして気高くて…そう本当に正に、


「本物の…王様だ….。」

 そうさっきから何度も思ってしまう程、今の彼の放つ風格があまりにもその言葉に相応しすぎるから…。
思わず思った事が口からこぼれ落ちてしまっていた。



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