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子羊少年と王様少年
40.救世主
しおりを挟むボクは自分の身体へと拳が迫ってくる時間が、スローモーションの様にゆっくりに感じた。
やっぱり当たったら凄く痛いのかなぁ。
…痛いのはやっぱり嫌だなぁ…。
…はーくんはもっとずっと痛かったのかなぁ…。
そんな風に最早意識すら朧気になりながらぼんやりと思っていると、ボクの頬を何かが霞めるような感触がした。
これは……風に吹かれた…感触か…?
人は死に際とかに風に吹かれたような感覚に襲われる事があるって何かで聞いた事があったような、今がその時なのかな…?
そんな事を覚束無い頭で考えている途中でボクははっとなった。
……あれ?
…待って風…?
…風って…!?
そうボクが突然風を肌身に感じる様な出来事を何度も経験していた。
そういう時は決まってある人物が近くにいた。
そしてこの力強くも優しい風の感触を、ボクはよく知っていた。
――まさか…!?
そうボクが思考したのとほぼ同じ時、そのボクがよく知る大好きな風の流れがボクの近くを吹き抜けていった。
「は!?急に何が起きて!?
う、うわーーーーーーー!!」
気付くとボクに拳があと一歩で届くという所まで来ていた不良のヘッドが、その風によって突き飛ばされていた。
こんなピンポイントな現象が自然風なわけがない。
こんな芸当ができるなんてやっぱり”彼”しか…。
「なんとか間一髪間に合ったようだな!」
そんな大きな声と共に、また疾風が今度は人影と共にボクの近くに吹き付け去っていく。
そしてボクは風と共に通り抜けた人影に、気付けば横たわり倒れていた身体を抱き留められていた。
「少し助けるのが遅くなってしまったが、君の身体が傷付けられなくて本当に良かった。
今まで一人でよく頑張ったな。
だがここからは王たるオレが側にいるんだ。
もう安心して大丈夫だぞ!!」
そうだこの声は、この喋り方は間違いない。
ボクが大好きな”彼”を間違えるはずがない。
でもなんで……。
「なんで…なんでここにお前が…いるんだよ…!?」
ボクの目の前に現れたのは、ボクに前を見る力をくれた風の能力を持つ愛すべき自称王様、
そう言うまでもなく皇フウマその人だった。
なんでボクがいる場所がわかったかっていうのもそうだけど…。
ボクは彼に、彼らにあんな酷い言葉をぶつけて傷付けて、逃げてきてしまったのに。
なんでまたボクの前に現れて、助けてくれるんだ……?
「なぜオレがここにいるかなんてそんな事決まっている。
決まりきっている!
君と約束をしたからだ。」
「やく…そく…?」
「ああ!
君がもしこれから先困ったり失敗してしまいそうになる事があったら、直ぐにオレがそこへ駆け付けて、必ず助けて君を絶対に守ってみせると、そう君に誓いを立て約束をした。
だからオレはこうして君の側にいるんだ!!」
約束…。
確かにそんな話を彼は別れる前にボクにしていた。
でもボクは彼のそんな言葉を絶対なんてない、守れるわけがないと切り捨ててしまった。
王様ごっこだって馬鹿にした。
それなのに…。
そんなボクとした約束を、彼は守ろうとしてくれているのか…?
ボクが無理だと思った”絶対”を本当に絶対にしようとしてくれているんだ…。
本当に彼はどこまで……。
「王が為す盟約は絶対でなくてはならないと言っただろう?
だからけして違わない、違いたくない約束が絶対のものだと証明し信じて貰う為に、全てを尽くして行動し尽力するとオレは自身の心にも誓ったんだ!!
だから何も心配はいらないぞ。
オレは君を絶対に守って見せるからな!」
そういって彼はいつものボクが大好きな笑顔で笑った。
本当に彼は…フウマはどこまで、優しいのだろう……。
やっぱりこの王様にはボクは何一つ敵わないや。
「他にも折り入って話したい話はお互い山ほどあるだろうが、とりあえずは後回しだ。
子羊くん、立ち上がって歩く事ってできそうか?」
「う、うん。多分もう大丈夫…。」
「そうか、それならオレの後ろへと下がって欲しい。
オレとしてもこのまま君をずっと抱き締めて君の感触を確かめていたい事山々なのだが、
まずは目の前の問題を解決しなくてはならないからな!」
そうだ…!
フウマのペースに飲まれて半分忘れかけていたけど、今はボク達は不良集団に襲われている真っ最中なんだった。
フウマの能力とフウマの放つ圧倒的な雰囲気に対して様子を伺っていたらしい不良達も、気付けば再び臨戦体制の準備へと入っていて、風に吹き飛ばされたヘッドの男も起き上がっていた。
そんな不良集団と向き合ったフウマの纏う雰囲気は、なんだか上手く形容できないけどいつもと全然違っていた。
「オレは偉大なる王だ。
王とは民の為にあるもの、だからオレはオレの持つ素晴らしき力は、弱き民を助ける為に使うためのものだと思っている。
なので本来その力を人へ向けて使う事はあまり好ましい事ではない。
だが、お前達は違う…!!」
そう言って不良達を睨むフウマの目は、まるで彼らを目で射抜くような力強さだった。
「それはあくまでオレが守るべき弱き民に対しての話だ。
お前達は人を故意に力で傷付け踏みにじっている、オレが救わねばならない民にとっての脅威となる存在だ。
王は民の為にあるからこそ、そんな弱き民へと牙を向くお前達をオレは見過ごす事はできない!
強き力は弱者を救う為にあるこそ、なおさらお前達の様なそれを脅かす存在へ力を公使する事をオレは躊躇する事はしない!
しかもお前達が力を振るった相手はオレのとても大切な家来とその学友達だ。
益々見過ごす事はできない!
だからオレは王として今ここでお前達へと制裁を下す!!」
そうやって宣言したフウマの顔付きや言葉は、普段の力強くも優しい雰囲気とはまるで違う。
違うけれど。
敵と見なした相手へと、恐れすら感じてしまう程力強く凛として向き合う姿は、彼の自称する王様という言葉からくるイメージと、普段とはまた別ベクトルでとてもぴったり当てはまってもいて。
ボクは同時にその姿は本物の王様みたいで、凄く格好いいと、そう思った…。
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