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子羊少年と王様少年
39.それでもいい!!
しおりを挟む能力を使って皆を助ける、そう決意したボクはまず路地裏の地面に投げ捨てられていた空き缶に狙いを定めた。
そしてその空き缶に念動力の力を込めて動かし、まずはボクと副委員長を拘束している不良二人へ目掛けて、思い切りぶつけた。
「「ぐはっ!!」」
よし!
なんとか成功した。
ぶつけられた衝撃で腕が緩みボク達は拘束から逃れる事が出来た。
これでとりあえず自由に動く事ができる。
「え?急に不良が倒れて…なにが…?」
「何だ!?一体何が起こってんだ!?」
その出来事に何が起きているのか分からず委員長達や不良集団から困惑の声が上がっていた。
とりあえず最初は成功したけど、不意討ちの奇襲が通じるのは最初だけだろう。
ここからはそうもいかない。
ボクはもちろん喧嘩なんてした事もなければ、故意に人に向けて能力を使った経験なんてない。
だからここから先どうなるか、どうすれば上手くいくかなんて当然全くわからないけど。
だけど、ボクは二人を絶対助けるって決めたのだから。
もう後はただその為に全力を尽くす、それに集中する、それだけだ…!
そんな想いを乗せて再び念動力の力を送っていく。
ボクは勝つ為の戦法なんてどうせ分からないから、ただガムシャラに能力をぶつける事にした。
道にポイ捨てされた空き缶などのゴミや、落ちている小石、それに砂なんかのとにかく周囲の目に付くもの全てを、サイコキネシスで操作して不良集団全員にひたすらぶつけ続けていく。
そうしたボクの様子は流石に奇襲だった最初と違って、ボクが何かしているという事は明白だろう。
目の前の事に必死でしっかりとは確認できないけれど、委員長と副委員長はそんなボクの姿に衝撃からか声をあげる事すらできずただ呆然としてる様だった。
ああ二人に能力者だってバレてしまったかなぁ。
そしたらボクはやっぱり二人に嫌われてしまうのかな…?
覚悟はしていてもそれはやっぱり凄く嫌だなぁ…。
嫌われる怖さで胸がチクチクと痛むけれど、それでも嫌われてしまう事よりも二人が不良達に傷付けられてしまう事の方がよっぽど嫌だし怖かった。
だから今はそれをなんとか振り切ってただ能力を使う事に集中した。
ボクの能力を使った攻撃は最初は凄く上手くいっていたけれど、流石は喧嘩慣れしている不良集団。
少しずつ旗色が変わっていった。
ボクの念動力の動きに徐々に対応できる様になっていき、避けられたり物をはたかれたりで対処出来る者もで始めた。
遠距離から攻撃していたボクに少しずつ不良達が近付いてきている。
「人知れず宙を浮いて攻撃してくる物、そしてその中心に人間がいる。
間違いねぇてめぇ能力者だったんだな。
能力者に癖して今まで弱者を装って人を騙してやがったんだな。
そっちの方がよっぽど卑怯者じゃねぇか!」
…うるさい。
「その様子だとお友達二人もその事を知らなかったみてぇだなぁ。
仲間を欺くなんて最低野郎が。
能力者なんて存在その物が迷惑なゴミカスに俺達の事どうこうされる筋合いなんざねーんだよ!!
大体俺達は身一つ拳だけで闘ってるっつーのに、自分しか使えねぇ力なんざ使って恥ずかしくねぇのかよ卑怯者のゴミ虫能力者さんよぉ!!」
うるさい…!
わかってる…。
わかってるんだよ、そんな事…!!
さっきの委員長からの言葉の意趣返しかの様な不良のヘッドからボクへとぶつけられる罵声に、ボクは何の言葉も返さなかった。
能力を使うのにとにかく必死で口を動かすのに裂く余裕なんて無かったし、
それを抜きにしても反論の余地はないと感じたから。
分かってる。
その人の言葉は少なくともボクに関しての事だけは反論の余地もない事実だ。
ボクは人に迷惑をかける能力者で、人を欺く卑怯者だ。
でも。
もうそれでもいい!!
そうだとしても、今この力で目の前の二人を守る事ができるのなら、ボクがどんな人間かなんて、どう思われるかなんてどうでもいい事なんだ 。
それにそもそもボクが能力者じゃなかったら、もし同じ様な状況にあってもこんな選択肢を持つことすら出来ず、本当にただ立ち尽くすしか出来なかったんだろうから。
だったらボクが能力者である事は意味があったんだと、能力者になって良かったんだと少しは思えるから。
だからもうそれでいいんだ。
そうこう考えている間に不良達はボクへとどんどん迫ってきている。
ボクの攻撃は全然追い付いていないみたいだ。
だったらもっと今以上に手数を少しでも増やさなきゃ!
そう考えボクは周囲に何か攻撃に使える物が落ちていないか攻撃と同時に探しながら、そうして見つけた物へも力を込めていった。
よしこれならどうだ!
増えた新たな手数に不良達もまた再び対応に追われて上手く対処できなくなっている。
こうやってどんどん物を増やしていけばまだまだ勝算はある!
これならきっといける!
そうその時はボクは考えていたけど…。
終わりは唐突に訪れた。
ボクの動かす物体から急にボクが込めた力が消えさっていく様な感覚に襲われ、
そこから少し遅れてボク自身も、まるで全身から一気に力が抜け落ちる様に身体が上手く動かせなくなり、やがてその場に倒れ込んでしまった。
…え…あれ…?
身体が動かない…?
何…急に…何が起こって…。
……あっ…そっか。
ボクはいきなりの状況にパニックに陥った後、少し考えすぐに何が起こったか理解した。
考えて見れば当たり前の話だ。
ボク達の持つ能力は超能力といってもフィクションみたいに万能ではない。
その時の自身のコンディションに左右されるし、力の限界だってもちろんあるんだ。
今日はボクはただでさえフウマ達との活動で張り切って能力を目一杯使っていたし、それから間をあけず尋常じゃない様な能力の暴走のさせ方をしていた。
それから少しは時間が空いて回復したとはいえ、ガムシャラに能力を使う様な余裕がある訳がない。
ボクの気持ちなんて関係なく。
限界が来て当然なんだ。
そういった事をボクは人一倍よく知っていたはずだったのに、完全に頭から抜け落ちていた。
あぁ本当にボクって馬鹿だなぁ…。
「なんだ?よくわかんねぇが力切れか?
それなら今度はこっちが反撃する番って事だな!」
ボクからの攻撃が止んだことで、不良達もボクのすぐそこまで迫って来ていた。
「おめぇら最初の一発は俺にやらせろよ!
よくも俺達をここまでコケにしてくれたなぁゴミカス能力者くーん?
能力者の分際で人間様に楯突いてんじゃねぇ!
身の程を知れ!!」
不良集団のヘッドが振りかぶった拳がボクへと迫ってくる。
でもボクはもうそれを避けようと動けるような気力すら湧かない。
ボクは大切な人に嫌われる覚悟をしても…。
全てを失う覚悟をしても…。
また一人ぼっちになる覚悟をしても…。
目の前の困っている人達を助ける事すらできないんだな……。
ああボクって本当弱くて、ダメな奴だなぁ――。
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